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公安密着24時 難波2話

室長に手招きされて近づくと、なぜかそっと耳打ちされた。

難波

今週の土曜日は、うちでいいか?

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サトコ

「え!?」

難波

ん?何か用事があったか

サトコ

「な、ないです!」

(今のって、もしかしておうちデートのお誘い‥!?)

(またごはん作ってほしい、って言ってたのは、そういう意味‥!?)

室長の家に行けると思うと、嬉しくて顔がニヤけてしまう。

私の様子に、室長が納得したようにうなずいた。

難波

お前も、俺に用があるみたいだしな

サトコ

「え?」

難波

とにかく、土曜日は好きな時間にうちに来い。俺はずっと部屋にいるからな

サトコ

「は、はい‥」

お弁当箱を持って、室長が校舎に入っていく。

それを見送りながら、さっきの言葉を思い出していた。

(『お前も俺に用があるみたいだしな』‥)

(まさか、取材のことバレてる‥?いや、でも)

教官たちは絶対に口を滑らせないはずだし、室長が知ってる可能性は低い‥はずだ。

(でも室長、鋭いから‥私の態度で気づいたとか?)

(土曜日は、慎重に行動しよう‥!何がなんでもバレないようにしないと!)

【難波 マンション】

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土曜日の夕方、室長の家を訪ねた。

(いつ来てもいい、って言われたから、朝からお邪魔しようかと思ったけど)

(さすがにそれは迷惑だろうし、よくぞ夕方まで耐えた、私‥!)

インターホンを鳴らすと、エントランスのドアが開き、室長が下まで迎えに来てくれた。

難波

遅かったな

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サトコ

「!?」

難波

もっと早く来ると思ってたぞ。とりあえず上がれ

サトコ

「は、はい‥失礼します」

(室長のエプロン姿‥新鮮!)

(妄想通り‥じゃない、想像通り、かっこいい‥シャツをまくった逞しい腕‥)

(なのにエプロンが意外にもピンク‥かわいいな‥)

【リビング】

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エプロン姿に思わず見惚れる私を、室長が振り返る。

難波

どうした?

サトコ

「あ‥い、いえ‥お邪魔します」

難波

明日の朝食はお前に任せるからな

サトコ

「えっ?は、はい‥分かりました」

(それって、お泊りってことだよね‥)

(もしかしてそうかと思って準備してきたけど、こうして誘われるのはやっぱり嬉しい‥!)

難波

そのかわり、晩飯は俺に任せとけ

サトコ

「室長が作ってくれるんですか?」

難波

ああ。大したもんはできないけどな

おっと、焦げちまうな。適当にくつろいでくれ

慌てた様子で、室長がキッチンに消える。

(もしかして、もう作り始めてるのかな)

(室長の手料理かあ‥何を作ってくれるんだろう?)

今まで、簡単な料理はすると聞いたことはあったけど、実際に作っているところは見たことがない。

(私の妄想の中では、“男の料理” しててすごくかっこよかったけど‥本当に妄想だし)

(楽しみだな。とりあえず、大人しく待っていよう)

リビングで待っていると、いい香りがしてきて室長がお皿を運んできた。

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サトコ

「あっ、手伝います!」

難波

じゃあ、これを運んでくれ

室長に渡されたのは‥こんがり焼けた、焼き豚だった。

サトコ

「わあ‥!焼き豚って、手作りできるんですね!」

難波

焼くのに時間がかかるのと、焼き加減がちょっと難しくて面倒だけどな

あとは簡単になっちまったが、許してくれ

目玉焼きやキャベツの千切りなどが盛りつけられたお皿を並べて、室長が苦笑する。

サトコ

「簡単だなんて‥私、最近はこんなにちゃんと料理してないです」

難波

一人だと面倒だよなあ

まだあるから、帰りにこの焼き豚持って行け。サンドイッチとかチャーハンに使えるぞ

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サトコ

「ありがとうございます!」

(アレンジまで考えて料理してるなんて、すごいな‥)

(室長、実はかなり料理ができるんじゃ?)

早速ふたりで食卓を囲み、一緒に焼き豚をいただく。

しっかり味が染みてて、びっくりするほど美味しかった。

サトコ

「室長!絶品です!」

難波

そうかそうか。そりゃよかった

サトコ

「こんな手の込んだ料理を作るなんて、すごいです」

難波

いや、手が込んでいるように見えるけどな

焼くのに時間がかかるだけで、あとはタレに漬け込んでおくだけだから、そうでもない

【キッチン】

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室長の手料理を美味しくいただいたあと、後片付けは私がやらせてもらった。

食器を洗っていると、室長がキッチンに来て隣に立つ。

難波

洗った皿、拭いておくぞ

サトコ

「すみません。結局手伝ってもらって」

難波

こっちこそ、うちの食器なのに、お前にやらせてすまんな

えーと、この皿は‥

まあ、どこでもいいか

適当に食器棚にお皿をしまって、室長が戻ってくる。

サトコ

「室長って、普段から料理するんですか?」

難波

そうだな‥時間がある時は、ボチボチやることもある

本当に暇なときだけだけどな。あとはおばちゃんたちの惣菜頼みだ

(そうなんだ‥全然料理しないのかと思ってたから、意外かも)

(今日は、今まで知らなかった室長が見られて嬉しいな)

難波

それで?

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サトコ

「え?」

難波

他に聞きたいことはないのか?

サトコ

「えーと、そうですね‥休みの日は、何を‥」

「‥‥‥」

「!?」

思わず、洗っている最中のお皿を落としそうになった。

咄嗟に返事が出来ず、震えながら室長を振り向く。

サトコ

「あ、あああ、あの‥どっ、どうして」

難波

なんだ?取材じゃなかったのか

サトコ

「え!?」

難波

知りたいことがあるなら、なんでも遠慮なく聞いていいんだぞ

機関紙のために、俺と加賀のインタビューが必要なんだろ

(バレてる‥!)

(いつから?もしかして最初から?室長、鋭すぎる‥!)

難波

それにしても、こんなおっさんの情報を載せて、何が楽しいんだかなあ

がっくりとうなだれる私を、室長が不思議そうに眺める。

難波

なんでも聞いていいって言ってんのに、ヘンなヤツだな

サトコ

「ううう‥その優しい言葉が胸に突き刺さります‥」

難波

なんだあ?要するに、もう俺に聞きたいことはないのか?

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サトコ

「いえ、大量にあります‥」

(でも、こんなにあっさりバレるなんて‥きっと私が隙だらけだったんだろうな)

(これじゃ、一人前の公安刑事には程遠い‥)

【リビング】

ひとまず食器をすべて洗い終えると、室長と並んでソファに座った。

サトコ

「それじゃ‥質問、いいですか?」

難波

ああ、いいぞ。なんでも答えてやる

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サトコ

「えーと‥昔のあだ名とかありますか?」

難波

うーん、昔からよく『仁ちゃん』って呼ばれてるな

あと、多かったのは『ジンジン』か

サトコ

「ジンジン‥!」

(か、かわいい‥!私もいつか呼んでみたい‥!)

サトコ

「じゃあ、次は‥寝るときの体勢を教えてください」

難波

体勢?妙なことを聞いてくるもんだな

朝起きたら、毛布抱きしめて寝てることが多いぞ

サトコ

「なるほど‥」

難波

何かを抱きしめてると、安心するんだろうな

その点、お前は合格だ

サトコ

「へ?」

(そ、そういえば‥室長と一緒に過ごした次の日は、抱きしめられてることが多い気が‥)

(って‥お、思い出したら恥ずかしくなってきた!)

難波

ん?このくらいで照れたのか?

サトコ

「室長‥!今の、カットです!絶対書けませんよ!」

難波

だろうな

まあ、お前の抱き心地の良さは、俺だけが知っていればいい

(からかってるの!?本気なの!?どっち‥!?)

満足そうに笑って、室長が次の質問を促してくる。

サトコ

「あ、煙草の銘柄を教えてください」

難波

んー、特に決まってないな

サトコ

「そうなんですか?でもそういえば、いつも違う箱ですね」

難波

ああ。適当に買ってこさせるからな

若い頃はこだわってたけど、なんでもいいんだ、俺は

(それって、すごく室長らしい‥)

(でも、煙草にこだわってた頃の室長も見てみたかったかも)

黒澤さんから与えられた質問を終えると、ひと息つく。

室長は隣で、お茶を啜っていた。

(こうして改めて聞いてみると、知らないことが多いんだな‥)

(でも、やっぱり室長が大好き‥それは変わらない)

難波

なんか取材って言われると、芸能人になった気分だよな

サトコ

「インタビューされる機会なんて、めったにないですもんね」

難波

そうだ、芸能人気分ついでに、サインもしてやろうか?

近くにあった紙を手に取り、私の返事を聞く前に室長がサラサラとサインをしてくれる。

難波

ほい

サトコ

「あ、ありがとうございます!」

(室長の字‥ものすごく自由かも)

(それすら室長らしく感じるって‥ふふ、なんだか嬉しいな)

サインを大切にバッグにしまったところで、室長が大きく伸びをした。

難波

はー、ひと仕事終えたな。お前も

サトコ

「本当は、室長にバレないように取材しろってお達しだったんですけど‥」

「結局、完全にバレてましたね」

難波

まあ、その辺は言わなきゃわからんだろ

さて‥今日はそろそろ寝るか

時計を見ると、もう日付が変わりそうな時間だった。

室長の眠そうな顔を見て、急に睡魔が襲ってくる。

サトコ

「遅くまですみません。室長、疲れてるのに」

難波

いや、俺よりもお前の方が大変だな。こんなの押し付けられて

サトコ

「いいんです。室長のことがたくさんわかって、嬉しかったですから」

思わず本音を漏らすと、室長がハッとなった。

サトコ

「室長‥?」

難波

‥大事なことを言い忘れてた

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伸びをするために一度立った室長だけど、再びストンと私の隣に座った。

難波

俺の好きなものについて、だ

サトコ

「室長の好きなもの‥?」

真剣な室長の顔に、なんとなく居住まいを正す。

(室長の好物は、ブリの照り焼きだと思ってたけど)

(もしかして、好きなものが増えたのかな?)

難波

俺が、何よりも好きなのは‥お前のその笑顔、だな

サトコ

「!!!」

室長のストレートな言葉に、一気に頬が火照った。

さっきまで感じていた眠気が、今の一言ですべて吹き飛ぶ。

(そんなことをこんな笑顔で言うの、ずるい‥!)

(私だって、一番好きなのは室長の笑顔なのに)

難波

あー、しまったな

サトコ

「え?」

難波

明日の朝は、お前が作ってくれる朝飯のために早起きするつもりだったんだが

私との距離を詰めて、室長が顔を覗き込んでくる。

唇が重なり、最初は優しかったキスが、次第に熱を帯び始める‥

サトコ

「っ‥‥室長‥‥!」

難波

こりゃ、寝不足確定だな

そんな顔見せられたら、我慢するのは無理だ

押し倒されて、さらに甘く攻め立てられた。

恥ずかしさよりも、求められる嬉しさの方が大きい。

サトコ

「室長のためなら、寝不足でも早起きして頑張ります‥」

難波

‥‥‥

サトコ

「だから‥明日の朝ごはん、食べてくださいね」

難波

お前な‥

はあ‥いつの間に、ひよっこにこんなにやられたんだろうなあ

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キスだけでは足りず、抱き合って室長と求め合う。

(今回の取材で、一番はっきりしたのは‥)

(‥どんな室長を知っても、全部好き、ってことかも)

室長の温もりに満たされながら、その逞しい腕に身を任せた‥

Happy  End

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