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放課後 石神1話

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【射撃場】

放課後、私は訓練のために射撃場へとやってきた。

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(あれ?先客?)

射撃場の奥から銃声が聞こえてくる。

(誰だろう?)

気になって入退出記録を見てみると、そこに書かれている名前は “石神秀樹” 。

(えっ、石神さん?)

(石神さんが射撃場にいるなんて、珍しい‥)

訓練の時に指導で入ることはよくあるけれど、石神さんがひとりで射撃場にいることはあまりない。

(石神さんも訓練なのかな)

そっと射撃場の方を覗くと。

石神

‥‥‥

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(わっ!)

真剣な顔で銃を構える石神さんの姿。

現場で銃を構える姿は見たことあるけれど、

こんなにじっくりと銃を構える石神さんを見るのは初めてだ。

パンッ!

石神さんの身体の軸がぶれることはない。

発砲された弾は的のど真ん中に命中した。

(さすが石神さん!)

石神

‥何か用か?

サトコ

「!」

命中した的から目を逸らさないまま問われ、私はびくっと肩を揺らす。

(気づかれてたんだ‥!)

サトコ

「い、いえ‥石神さんがいたので‥つい」

石神

つい、か‥

石神さんはイヤーマフを外すと、こちらを振り返った。

サトコ

「石神さんが授業以外で射撃場にいるなんて、珍しいですね」

石神

たまには訓練しないと腕がなまるからな

(石神さんクラスになっても訓練を怠らないなんて‥)

(本当に真面目なんだな。私も見習わないと)

サトコ

「私も頑張ります!」

石神

頑張れと言いたいところだが‥今日はもう終わりだ

サトコ

「え?」

石神

俺もそろそろ出ようと思っていたところだ。お前も出ないと‥

石神さんが射撃場にある時計を見上げると、ピーッという電子音が鳴り響く。

サトコ

「えっ!?」

(この音って‥)

驚いて射撃場内を見回しているうちに、照明が落ちて真っ暗になってしまった。

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サトコ

「停電ですか!?」

石神

いや‥

暗闇の中で石神さんのため息が聞こえる。

石神

今日は18:00から射撃場の電気系統のメンテナンスが入る

だから早く出ないと閉じ込められるぞ、と言おうとしたんだが‥

一足遅かったな

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サトコ

「すみません!私が話しかけたせいで‥」

石神

お前のせいじゃない

暗闇の中で何かがピカッと光った。

光る液晶に、それが石神さんの取り出した携帯だとわかる。

石神

今は17:55‥5分早く始まったようだ

サトコ

「どうしましょう‥メンテナンスが終わるまで、ここで‥」

石神

心配するな

石神さんは取り出した携帯で、どこかに電話を掛ける。

石神

石神だ。今、射撃場にいるんだが‥ああ、すまない。頼む

今、メンテナンス担当に連絡した。すぐに開くはずだ

サトコ

「よかった‥私ひとりだったら、開くまでただ待っていたと思います」

石神

お前は、その臨機応変のなさが弱点だ

どんなトラブルにも冷静に対応し、解決策を見出せるようにしろ

サトコ

「‥はい」

(こんな状況でも、やっぱり厳しい!)

石神

すぐに開くと言っても、5分10分はかかるだろう

座ったらどうだ?

サトコ

「はい」

(といっても、こう暗いとどこに座ればいいのか‥)

(石神さんは見えてるのかな?)

明るい時の射撃場を思い出しながら、適当に座ろうとすると。

サトコ

「わっ!」

心配していた通り、何かにつまずいてバランスを崩してしまう。

けれど、私が派手に転ぶことはなかった。

石神

‥まったく

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力強く抱き留めてくれる腕と、近くで聞こえるため息。

(もしかして、石神さんに抱き留められてる?)

石神

お前は‥もう少し気をつけろ

サトコ

「す、すみません‥」

顔を上げると暗闇に目が慣れたのか、ぼんやりと石神さんの顔が見えた。

(こんなに近くに!?)

石神

‥‥‥

無言で見つめられると、その唇を意識してしまう。

暗いせいでよく分からないけど、身体が密着しているのは確かだ。

(石神さんの鼓動が伝わってくる‥)

石神

サトコ‥

囁くような声で呼ばれ、腰に回っていた腕に力が入った瞬間。

『すみませーん!いま開けますね!』

サトコ

「!」

石神

‥‥‥

声と同時にパッと電気が点く。

私の目の前には石神さんの顔があり、頬に一気に血が上る。

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サトコ

「あ、あの‥っ」

石神

開いたようだな。立てるか?

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サトコ

「は、はい」

先に立った石神さんが私に手を差し出す。

その顔を見られないまま、私は石神さんの手を取って立ち上がった。

(キス、しちゃうかと思った‥)

(いやいや、そんなこと石神さんに限ってあり得ないよね!)

(ここは学校なんだから‥)

ひとり勝手に意識していたのだと思うと、ますます恥ずかしくなる。

石神

つい抑えきれなくなりそうになるが‥校内だからな

(え!?)

ぼそっとした呟きが耳に入り、私は思わず顔を上げる。

すると、そこにはいつもの平然とした顔の石神さんが立っている。

(私の聞き違い‥?)

石神

‥その分、あとで覚えておくように

サトコ

「!」

(や、やっぱり聞き間違いじゃない!?)

ふっと笑って背を向ける石神さんに、私は真っ赤な顔で口をパクパクとさせるしかなかった。

to  be  continued

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