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続編 難波 シークレット2

シークレット2 カレ目線

【学校 廊下】

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後藤の負傷に関する報告を受けて、室長室を出た。

難波

さて、と‥

(サトコのヤツ、きっとショックを受けてるんだろうな)

こういう時、必ずヤツはあそこにいる。

そう確信して、俺は屋上庭園へと向かった。

【屋上】

(やっぱり‥)

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屋上へと赴くと、途方に暮れたようなサトコの後ろ姿が目に飛び込んできた。

サトコは何か考え事でもしているのか、俺が来たことにも全然気付いていないようだ。

(あれだけ言ったから、さすがにこたえたか‥)

難波

なんで段取りもなく1人で神野に近付いた?

ひよっこのお前1人で何とかなるとでも思ったのか?

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サトコ

『それは‥』

サトコは辛そうに俯いた。

きっともう、こいつも分かっている。

自分のしでかしたしまったことの大きさを。

それでも俺はこいつの上司として、言うべきことは言わねばならなかった。

(結果として犯人を逮捕できたからよかったようなものの)

(一歩間違えばこれまでの捜査が全て水の泡になる可能性もあった)

(お前が命を落とす可能性だって‥)

最近、時々サトコが妙に焦っているように感じられる時がある。

詳しい理由は分からないが、俺たちのような仕事に焦りは禁物だ。

難波

一番厄介なのは、自分のことを分かっていないヤツだ

これだけの訓練と場数を踏んで、自分にできることとできないことも分からないのか!

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サトコ

『‥‥‥』

サトコはそのまま何も言い返さず、じっと俺の言葉を噛み締めるように立ちすくんでいた。

難波

‥‥‥

難波

なんだ、こんなとこにいたのか

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さり気ないふりを装い、煙草をくわえて隣に立つと、サトコはハッとしたように俺を見た。

サトコ

「室長‥」

難波

いい風だな。疲れが吹き飛ぶ

仕事は仕事、プライベートはプライベート。

俺は完全にプライベートな顔に戻って話しかけた。

でも、その切り替えぶりに戸惑ったのか、サトコは曖昧に視線を外して黙り込んだ。

難波

今日は疲れただろ。お前はそろそろ帰れ

自分で怒った後だけに、何と声をかけたらいいか分からない。

でも今のサトコに必要なのは休養。

それだけは間違いなかった。

(ちゃんと休んで気持ちを切り替えれば、お前なら立ち直れるはず‥)

でもサトコから返ってきたのは、思いがけない言葉だった。

サトコ

「室長‥」

難波

ん?

サトコ

「私‥しばらく室長と距離を置かせて欲しいんです」

難波

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一瞬、呼吸が止まった。

口にくわえたままの煙草を落としそうになって、慌ててギュッと噛み締める。

何とも言えない苦い味が、口の中いっぱいに広がった。

(一体‥急に何を言い出すんだよ、サトコ?)

サトコ

「仕事に、集中したいので」

難波

‥‥‥

(距離を置くって‥別れるのとほぼ同義じゃねぇのか?)

(そんなことして元に戻ったことなんて、今まで一度もねぇぞ‥)

でも、サトコの表情はあくまでも頑なだった。

(仕事のために恋を我慢するって、お前がただの部下だったら手放しでほめてやるところだが‥)

もはやサトコは、俺の生活の、いや、人生の一部だ。

そのサトコが傍にいない毎日なんて、本音を言えば考えたくもない。

でも、サトコのしたいようにやらせてやることが、俺の喜びでもあったはずだった。

(‥それがお前にとっての最良の選択だって言うなら、俺には止める理由はねぇな)

ため息を飲み込み、笑顔でサトコの頭に手を乗せた。

難波

‥分かった。そいうことなら、しっかり励めよ

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鼻の奥が、心なしかツンとする。

(ダメだな、俺も‥これだけ年上なんだから、黙って見守ってやらねぇと)

サトコの望むことがあれば、なんでも笑顔で受け入れてやる。

それが年上の恋人としての、俺の役割だ。

【レストラン】

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サトコと距離を置くようになって数日後。

俺は、しつこく見合いを勧めていた課長から呼び出された。

(課長との食事にしては、随分ともっともらしい店だな‥)

不思議に思いながら、入り口で名前を告げる。

案内された席には、あの写真の女性が座っていた。

難波

あんた‥三上さんか?

三上

「はい、難波さん。初めてお目にかかります」

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難波

なんで、あんたが‥

(あの課長、卑怯な真似をしやがって‥)

三上

「どうやら私たち、まんまとはめられたみたいですね」

三上は軽くため息をつきながらも、茶目っ気のある笑みを浮かべた。

三上

「どうせご飯は食べなきゃいけないんだし、お支払いはそちらの課長さんです」

「しゃくだから、ちゃんと食べるだけ食べて帰りませんか?」

そう言うなり、三上はメニューを広げだした。

難波

‥‥‥

あれからてきぱきと注文を済ませた三上は、自分の仕事について楽しそうに語りだした。

(心から今の仕事が好きだって感じだな)

(確かに、仕事もできそうだ‥)

俺は三上の話に頷きながら、さり気なく三上を観察した。

みんなが口をそろえて言うように、間違いなく美人。

そして年齢的にも俺といいバランスなのかもしれない。

でも、それだけだ。

(こんなに何の非の打ちどころもないっていうのに、なんでだろうな‥ちっとも惹かれねぇ)

(俺は不感症にでもなっちまったのか?)

思わず苦笑が漏れて、三上が話しを止めた。

難波

あ、失礼。どうぞ、続けて

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三上

「その前に、難波さんから私に、何か言うことがあるんじゃありません?」

聡明そうな瞳でいたずらっぽく見つめられて、俺は最初からすべて見透かされていたのだと気づく。

これ以上時間と労力を無駄に使わせるのは、彼女に対して失礼だ。

俺は腹を決めた。

難波

実は俺は‥見合いには興味がないんだ

もちろん、あんたに、というわけじゃなく、見合いそのものに‥

三上

「私もです」

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難波

ん?

思わずポカンとなってしまうほどあっさりと、三上は同意した。

三上

「今は仕事が面白いし、結婚するなら相手は自分で選びたいと思っています」

難波

そ、そうか‥

(やっぱり賢い女だな。気を遣うだけ無駄だった‥)

ホッとすると同時に、素直な気持ちがこぼれた。

難波

俺も今は、部下の世話で手いっぱいで

三上

「へえ、どんな方なんですか?」

難波

それは‥

頑張るサトコ、落ち込むサトコ、

笑顔のサトコ‥様々なサトコの表情が、次々と俺の脳裏を過った。

(結局俺は、どんなに離れててもお前のことしか考えられねぇみたいだな)

難波

それはもう、がむしゃらで真っ直ぐすぎるヤツで‥

ほっとけないというか‥

とにかく手が焼けて仕方がない

(でもまたそこがかわいくて‥何とかしてやりたいって思っちまうんだよな)

ここに来て初めて、笑みが浮かんだのが自分でもわかった。

三上もそれに気付いたのか、小さく微笑む。

三上

「ふふっ‥幸せですね、その部下の女性」

難波

さあ、どうだか‥

言ってしまってから、ハッとなった。

(今、『女性』って言わなかったか?)

女の勘はやっぱり鋭い。

もしくは、サトコのことに関する限り、俺の心のガードが緩すぎるだけなのかもしれない。

【屋上】

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久しぶりにサトコのことを思い出しすぎたからなのか、

学校に戻っても気持ちが落ち着かなかった。

気分転換でもしようと、屋上に煙草を吸いに行く。

もしかしたら‥と思ったサトコの姿は、そこにはなかった。

(距離を置くって言ってから、もうずいぶん経ったよな‥)

(あれからすっかり顔を合わせる機会も減っちまったし、当然のことながら連絡もない)

(本当に、このままダメになるパターンか?)

思わずため息が漏れた。

(アイツは若くて将来もある‥)

(この先、こんなおっさんより、よっぽどいい出会いがあるかもしれねぇ‥)

(もしもの時はやっぱり、無理に引き留めちゃいけねぇよな)

(アイツのことを本当に大切だと思うなら‥)

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すべてはサトコのため。でも俺にとっては、間違いなく辛すぎる結論だ。

♪~

不意に鳴り出した携帯を見ると、着信は後藤からだった。

難波

後藤か。どうだ、その後

後藤

お陰様で順調です。今日は、神野から押収した麻薬の分析結果が出たので、その後報告を

怪我で入院中にもかかわらず、後藤は一切仕事の手を抜かない。

俺は後藤の報告を聞きながら、

後藤とサトコをくっつけようとしていた頃のことを懐かしく思い出していた。

(本当にオススメだよ、お前は‥)

後藤

そういえば最近、氷川の成績がうなぎ上りらしいですね

難波

ん?そ、そうなのか‥?

後藤

ええ、本人がついさっき病院に顔を出して、そんなことを言ってました

落ち込んでいるんじゃないかと思っていましたが‥よかったです

難波

そうだな‥

(そうか‥あいつ、頑張ってるんだな)

これが俺と離れた結果なら、大したものだ。

でも今までならこんな時、サトコは真っ先に俺に報告をしてくれるはずだった。

はちきれんばかりの満面の笑顔で。

(こんなことを、後藤から聞くようになるとはな‥)

寂しいやら、羨ましいやら‥‥

俺は後藤を労って早々に電話を切ると、自嘲気味な笑みを浮かべた。

(いい歳して何を嫉妬してんだよ、俺‥)

(少し前までは2人をくっつけようとしてたくせに、俺も勝手だよな‥)

【パーティー会場】

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それから少しして、サトコと一緒に潜入捜査をする機会が訪れた。

プライベートでは色々あっても、やはりこういう時のパートナーはサトコしかいない。

それは、公安課室長としての俺の冷静な判断だった。

サトコ

「私、何か食べ物を取ってきますね」

「私たちも、何か食べた方が‥」

会場で参加者に目を光らせている俺に、不意にサトコが囁いてきた。

難波

ああ、そうだな。頼んだ

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サトコ

「仁さんは何がいいですか?」

難波

‥何でもいいよ

そう答えた瞬間、サトコの顔にわずかな呆れた浮かんだ気がした。

難波

サトコ

「仁さんて、それ、多いですよね」

難波

ん?

言われてみて初めて、これまでの自分の言動をしみじみと思い返す。

(そう言われてみれば‥)

難波

ああ、そうだな‥

(サトコの好きなものなら何でもいいという意味だったんだが‥)

(サトコにとっては不満な答えだったってことか‥)

難波

あれは‥

思わず言い訳をしてしまいそうになり、思い直して言葉を飲んだ。

今はこんなことより、捜査が優先だ。

それでも、俺はちょっと嬉しかった。

いつも気ばかり遣っていたサトコが、初めて素直に不満をぶつけてくれたことが。

(そうだよな‥こうやって徐々に距離を縮めていくもんなんだよな、恋愛って‥)

(それなのに、俺は‥)

歳の差もあるし、気持ちを受け入れてやることがサトコのためだとばかり思っていたけれど、

サトコが望んでいたのは、そういうことではなかったのかもしれない。

(言いたいことは全部言えなんて言っておきながら)

(言いにくい雰囲気を作ってたのは俺だったのかもな‥)

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