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マリアージュ 東雲1話

(妄想)

サトコ

「はぁぁ‥」

(夢みたい‥)

(本当にこんな日が来るなんて)

サトコ

「『東雲歩・サトコ』‥」

(東雲‥サトコ‥)

サトコ

「!!!!!」

(転がりたい!)

(このまま廊下をゴロゴロ転がって、世界一周したい!)

(それか、いっそ宇宙まで‥)

東雲

なにやってんの

早く入れば

サトコ

「は、はいっ!おじゃま‥」

(‥じゃなかった!)

サトコ

「ただいま‥」

【東雲家】

東雲

‥おかえり

(「おかえり」‥)

(おかえり‥おかえり‥)

(お・か・え・り‥)

サトコ

「‥っ!!」

東雲

キモ。顔緩み過ぎ

サトコ

「だって今、『おかえり』って‥」

東雲

ただの挨拶じゃん。こんなの

それより夕飯

お腹空いてるんだけど‥

サトコ

「任せてください!」

「今から美味しいエビフライを作りますね、歩さん」

【キッチン】

歩さんと出会って、早〇年‥

私たちは紆余曲折ありながらも、ようやく婚約・同棲まで漕ぎつけた。

(ここに引っ越すときも大変だったよね)

(歩さんってば、家具のこだわりがすごいから‥)

そう、家の家具は歩さんが自分で選んだものばかり。

そんななかで1ヶ所だけ、私が譲らなかったところがある。

それは‥

サトコ

「♪ふふーん‥ふーん‥」

(やっぱり『カウンターキッチン』って最高!)

(いろいろ便利で使い勝手がいいし‥なにより‥)

(これこれ!)

(ここからだと、料理をしながらでも歩さんがよく見えるんだよね)

(今は‥新聞を読んでるんだ‥)

(はぁぁ‥あの後ろ姿‥今日も素敵‥)

東雲

電波妨害

サトコ

「えっ‥」

東雲

キミの視線。さっきからうるさすぎ

(な‥っ!)

サトコ

「これは愛情です!愛の波動です!」

東雲

ウザ

(もう‥相変わらず口が悪いんだから)

(でも、これくらいじゃめげないもんね)

(そうじゃなきゃ、歩さんの婚約者なんてつとまらないし)

(なにより、今の歩さんの首筋‥真っ赤だもん)

サトコ

「ふふ‥ふふふ‥」

(もうどうしよう‥顔がにやけて‥)

ガツッ!

サトコ

「痛っ!」

(うう、足ぶつけた‥)

(この『ピーチネクター専用冷蔵庫』、かなり邪魔なんだよね)

(でも、これだけは歩さんも折れてくれなかったし)

サトコ

「ま、いいか」

(おかげで、カウンターキッチンにしてもらえて、歩さんを眺め放題だもん)

(‥あ、今度はタブレット端末を取り出した!)

(仕事かな‥仕事してる歩さんも、ほんと素敵‥)

サトコ

「はぁぁ‥」

(ダメだ、我慢できない!)

【リビング】

サトコ

「歩さー‥」

(ええっ!?)

サトコ

「なんで避けるんですか!せっかくハグしたかったのに‥」

東雲

濡れたくないから。オレもタブレットも

サトコ

「ひどっ!手くらいちゃんと拭いてきましたよ!」

東雲

だとしても湿っぽいし

ていうか何?いきなりキッチンから飛び出してきて

サトコ

「それは‥」

<選択してください>

A: 嬉しくて‥

サトコ

「だって嬉しくて‥」

「歩さんのこと、これからは眺め放題なんだなぁって思ったら‥」

東雲

38回

サトコ

「はい?」

東雲

キミが今日『嬉しい』って言った数

ちなみにこの1時間だけで18回

(‥本当に?)

(で、でも、確かにそれからは言ってるかも‥)

(だって、なんかもう『嬉しい』以外の言葉が出て来なくて‥)

B: 夢みたいで‥

サトコ

「だって夢みたいで‥」

東雲

まだそんなこと言ってるの?

いい加減、受け入れなよ。現実だって

これからは、これが当たり前になるんだから

(歩さん‥)

C: ムラッときて‥

サトコ

「だって、その‥ムラッときて‥」

東雲

‥は?

怖‥

サトコ

「あ、歩さんはそう言いますけど!」

「最近忙しくてずーっとご無沙汰だったじゃないですか!」

「だから、その‥なんていうか‥」

東雲

‥バカ

東雲

とにかく早く作って

全部終わったら‥好きにしていいから

(「好きに」‥?)

(それって‥)

(それって、つまり‥)

東雲

はい、ゴー!

サトコ

「は、はいっ!」

(よーしっ!)

【キッチン】

(がんばれ、私!)

(負けるな、私!)

(これが終わったら‥)

(全部作り終わったら‥)

【リビング】

サトコ

「お待たせしました!今日の夕食です!」

東雲

‥ふーん

きれいなキツネ色だね、エビフライ

サトコ

「任せてください!『YDY』です」

東雲

‥は?

サトコ

「YDY‥『やれば・できる・嫁』です!」

東雲

‥キモ

透みたいなこと言わないでよ。萎えるから

そう言いながらも、歩さんは真っ先にエビフライを口にしてくれた。

東雲

‥‥‥

サトコ

「‥どうですか?」

東雲

98点

サトコ

「!!!」

(出たーっ、最高得点!)

サトコ

「ちなみに満点まで2点足りないのは‥」

東雲

時間かかりすぎ

あと、料理中のキミの顔がキモい

サトコ

「うっ‥今後気を付けます‥」

でも、そう言うそばから顔がニヤけるのが止まらない。

サトコ

「あの‥こっちのサラダも食べてくださいね」

「ドレッシングは手作りですから」

東雲

ハイハイ

サトコ

「あと、スープはばあやさん直伝のもので‥」

「食後のデザートは石神教官と加賀教官おすすめの大福プリンで‥」

「それから‥」

(え‥)

サトコ

「ああっ!」

(私のエビフライが‥!)

サトコ

「どうして私の分まで食べちゃうんですか!」

東雲

え、これ、お約束じゃん

サトコ

「勝手にお約束にしないでください!」

「バカバカ!歩さんのバ‥」

東雲

バカ。察しろ

それだけ美味しかったってことじゃん

今日のエビフライが

サトコ

「!!!」

(歩さんが‥)

(パンケーキ以外はあまり褒めてくれない、あの歩さんが‥)

(ここまで褒めてくれる日がくるなんて‥)

サトコ

「生きててよかったーっ!」

(ああ、もう幸せ!)

(こうなったら明日もエビフライにしよう!)

(ついでに、明後日もその次もその次も‥)

(毎日エビフライを作りますからーっ!)

さて、1時間後。

(はぁぁ‥お腹いっぱい‥)

東雲

ごちそうさま

サトコ

「ごちそうさまでした!」

(さてと、後片付け‥)

すると、歩さんが私の袖をきゅっと引っ張ってきた。

サトコ

「どうかしましたか?」

東雲

‥いらないわけ?

サトコ

「えっ、何が‥」

東雲

『好きにしていい』って言ったはずだけど

全部終わったら

(あ‥ああああ‥)

(歩さん‥っ!?)

サトコ

「いいんですか?まだ後片付けが残って‥」

東雲

それはオレがやるから

言って。早く

サトコ

「じゃ‥じゃあ‥」

「まずは記念のキッスを‥」

東雲

記念?

サトコ

「ええと‥同棲記念と‥」

「エビフライがうまくできた記念の‥」

東雲

屈んで

言われるがままに屈み込むと、顎を優しく取られた。

サトコ

「ん‥」

(あ‥)

軽めのキスかと思いきや、歩さんは意外と本気で‥

サトコ

「ふ‥ん‥」

「ん‥」

(うわ、声洩れた‥!)

(で、でもいいのかな‥こんな濃厚なの‥)

(まだやること‥いっぱい残ってるのに‥)

東雲

‥集中

サトコ

「は、はい‥」

何度も何度も繰り返される甘いキス。

そのせいか、次第に身体中の力が抜けてきて‥

(どうしよう‥)

(ずっと屈んでるの‥さすがに辛い‥)

東雲

座って‥

サトコ

「え‥」

東雲

オレの膝。ほら‥

サトコ

「は、はい‥」

(あ‥すごく楽‥)

(それならぴったりくっつけるし‥)

(でも、やっぱりこれ‥「記念」の域を超えてる気が‥)

東雲

やば‥

食べたくなってきた‥

サトコ

「え、なにを‥」

東雲

キミ

サトコ

「‥っ」

東雲

キミを食べたい、サトコ‥

<選択してください>

A: 喜んで!

サトコ

「よ、喜んで‥!」

東雲

バカ

ムードぶち壊し

サトコ

「だ、だって‥」

東雲

「知ってる」

「恥ずかしかっただけでしょ」

サトコ

「‥っ」

(うう、バレてる‥)

東雲

じゃあ、いただくから

サトコ

「はい‥」

B: 今はちょっと‥

サトコ

「い、今はちょっと‥」

東雲

本当に?

サトコ

「!」

東雲

『どうしても』って言っても?

サトコ

「!!」

(そ、そこまで言われたら‥)

サトコ

「好きに‥してください‥」

東雲

わかった

サトコ

「ん‥」

C: 優しくしてくれますか?

サトコ

「優しく‥してくれますか?」

東雲

‥さあ、自信ない

久しぶりだし

ちゅう、と誘うように唇を吸われて‥

東雲

努力はする

でも、ごめん。がっついたら

(あ‥歩さん‥)

サトコ

「ん‥」

予定外だった「幸せタイム」は、心も身体も満たしてくれた。

(ほんと‥夢みたい‥)

(歩さんがずっとそばにいて‥)

(こんな日々がこれからずっと続くなんて‥)

(はぁぁ‥幸せ‥)

(背中がちょっと痛いけど‥)

(あっ、そういえば‥)

サトコ

「歩さん、ベッドどうしますか?」

そう、この家には実はまだベッドがない。

歩さんが「他の家具を入れてからベッドのサイズを決めたい」と言ったからだ。

東雲

ああ、そうだね

シングルでいいかな、オレは

(‥ん?)

サトコ

「あの‥さすがにシングルは窮屈じゃないですか?」

「お互い、遠慮して寝返りとかうてなそうですし‥」

東雲

は?『お互い』?

今度は、歩さんが目を丸くした。

東雲

まさかオレと一緒に寝るつもりなの、キミ?

(ええっ!?)

サトコ

「そのつもりですよ!当然じゃないですか!」

東雲

無理。毎日一緒とかありえない

(ちょ‥えっ、なんで‥?)

サトコ

「相手は私ですよ?奥さんですよ?」

「『病める時も健やかなる時も一緒』って誓った‥」

東雲

いや、まだ誓ってないし

サトコ

「そのうち誓うじゃないですか!たぶんそう遠くない未来に‥」

東雲

‥あっそう

だったら婚約破棄で

(はぁぁっ!?)

サトコ

「ちょ‥待ってください!歩さん!」

「約束してくれたじゃないですか!『一生幸せにする』って‥」

「『キミがカッパでもスッポンでも愛してる』って!」

東雲

‥‥‥

サトコ

「もう‥ひどいっ!」

「歩さぁぁん‥っ!」

【東雲マンション リビング】(現実)

サトコ

「‥というわけで、まさかの大波乱が起きるわけです」

「で、その後、黒澤さんや加賀教官を巻き込んだ愛憎劇が繰り広げられて‥」

「でも、いつもの屋台のおじさんが、仲直りのキッカケを作ってくれて‥」

「結局、最後は教官が『やっぱりキミのことが忘れられない』と言ってくれて‥」

「2人でダブルベッドを買って、そこから燃えるような熱い夜が‥」

(って、いない!?)

(うそ、いつの間に?)

【寝室】

サトコ

「教官!」

勢いよくドアを開けると、教官は気怠そうに振り返った。

東雲

あ、終わった?

サトコ

「終わってません!むしろこれからがいいところで‥」

東雲

じゃあ、終わったら呼んで

(ちょ‥ひど‥っ!)

サトコ

「もう!ちゃんとマジメに聞いてくださいよ!」

東雲

無理。くだらない妄想なんて付き合いきれないし‥

サトコ

「妄想じゃありません」

「『想像』です!イメージトレーニングです!」

「その、た、例えばですけど‥」

「将来、教官と一緒に暮らすことがあるかもしれないと仮定しての‥」

東雲

それがさっきの『アレ』?

教官は深々とため息をつくと、低い声でぼそりと呟いた。

東雲

だとしたら、なおさら無理

そもそも他人と一緒に暮らすとか、あり得ないし

(‥え?)

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