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ふたりで融けて 石神2話

【車内】

石神

ゲリラ豪雨だな

石神さんはメガネを外しながら、ぽつりと漏らす。

サトコ

「ですね‥」

(しばらく止みそうにないな‥)

サトコ

「わっ!」

窓の外を見ていると、頭にタオルを掛けられる。

サトコ

「ありがとうございます」

石神

ああ

お礼を言いながら隣を見ると、あることに気付く。

サトコ

「あの、石神さんのタオルは?」

石神

それ1枚しかない。お前が使え

サトコ

「そんな‥私なら大丈夫なので、先に拭いてください」

タオルを渡そうとするも、手で制された。

石神

早く拭け。風邪をひくぞ

サトコ

「石神さんだって、風邪ひいちゃいますよ?」

石神

‥‥‥

石神さんはため息をつくと、私の手からタオルを受け取る。

サトコ

「わわっ!」

そしてそのタオルで、私の頭をワシャワシャ拭き始めた。

サトコ

「い、石神さん‥」

優しく拭かれ、押し黙ってしまう。

石神

‥これでいいだろう

石神さんは私の髪に触れ、ある程度乾いたことを確認する。

<選択してください>

A: もう少し拭いてください

離れていく石神さんの指に、少しだけ寂しさを覚えた。

サトコ

「あの‥もう少しだけ、拭いてもらえませんか?」

石神

は?

驚いたように声を漏らす石神さんに、ハッとなる。

(へ、変なこと言っちゃったかな‥)

サトコ

「すみません、今のは忘れてください」

石神

‥‥‥

石神さんは私をジッと見つめ、口元に笑みを浮かべる。

石神

サトコ

サトコ

「!」

そして私の髪の毛にキスをすると、タオルで自分の髪を拭き始めた。

心臓がバクバクと鳴り、顔が熱くなる。

(い、今のは不意打ちすぎるよ‥)

B: お礼を言う

サトコ

「ありがとうございました」

石神

ああ

石神さんは自分の頭にタオルを乗せ、髪の毛を拭き始める。

その仕事が妙に色っぽくて、思わず目を奪われた。

石神

どうした?

サトコ

「い、いえ‥」

逸る鼓動を抑えながら、サッと目を逸らす。

(うぅ、つい顔を逸らしちゃった。あからさまだったかな‥)

石神

サトコ、何かあるならちゃんと言え

サトコ

「それは‥」

石神

俺に言えないことか?

サトコ

「そ、そんなことは‥」

「ただ、その‥石神さんが色っぽいなって‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「って、そこで黙らないでください!」

抗議の声を上げながら隣を見ると、石神さんの頬が赤く染まっている。

石神

‥悪い。反応に困ったんだ

石神さんは照れ隠しをするように、髪の毛を拭き始めた。

C: 石神の髪を拭く

サトコ

「それじゃあ、今度は私が石神さんの髪を拭きますね」

タオルを石神さんの頭に乗せようとすると、手を取られた。

サトコ

「石神さん‥?」

石神

自分で拭く

石神さんは私からタオルを取ると、髪の毛を拭き始めた。

サトコ

「私もお返しに拭いてあげたいです‥!」

石神

‥‥‥

不満そうに漏らすと、石神さんはピタリと手を止める。

石神

‥少しだけだ

そう言って、私にタオルを差し出してきた。

わずかに頬を染める石神さんが、なんだか可愛く見える。

サトコ

「ふふっ、ありがとうございます」

私はお礼を言って、石神さんの髪の毛を拭いた。

サトコ

「‥‥‥」

髪の毛が拭き終わり、窓の外を見る。

(せっかくここまで来たのにな‥)

サトコ

「すみません。ここまで付き合ってもらったのに‥」

石神

お前のせいじゃないだろう

サトコ

「でも、私の我儘で‥‥、っ」

ふいに頭を引き寄せられ、唇に温かいものがあてがわれる。

(キス、されてる‥?)

そう気づく頃には、冷えた唇が温かくなり始めていた。

石神

‥まだ謝るか?

しばらくすると唇が離れ、石神さんの真っ直ぐな視線に射抜かれる。

サトコ

「い、いえ‥」

石神

そうか

サトコ

「んっ」

そしてもう一度唇が触れ合うと、石神さんは席に座り直した。

石神

なんでホタルを見たかったんだ?

サトコ

「よく家族で地元のホタルを見に行ってたんです」

石神

そういえば、そんなことも言ってたな

サトコ

「はい。すごく綺麗なので、石神さんとも見られたらって思ったんですが‥」

降り注ぐ雨の音が、車内に響き渡る。

(これじゃ、ホタルは無理かな‥)

サトコ

「石神さん、せっかくここまで来てもらいましたが‥明日も早いでしょうし、帰りませんか?」

石神

このまま待てば済む雨だ。しばらく待とう

俺もお前と見たいんだ

柔らかい笑みを浮かべる石神さんに、胸が温かくなる。

サトコ

「‥はい!」

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

それからしばらく経つも、雨が止む気配はなかった。

(本当に止むのかな‥?)

自分から誘っただけに、一抹の不安を覚える。

そのせいか普段は気にならない沈黙も、妙に気になってしまう。

(何か話すことは‥)

(そうだ!)

サトコ

「石神さん。このまま待ち続けるのもあれですし、しりとりでもしませんか?」

石神

断る

サトコ

「即答ですか!?」

(このままじゃ会話が終わっちゃう‥!)

サトコ

「時間を潰すためだと思って、お願いします!」

石神

‥‥‥

石神さんは呆れたように、ため息をつく。

石神

少しだけだぞ

サトコ

「ありがとうございます」

「それじゃあ、しりとりの『り』からで‥リス!」

石神

スピード

サトコ

「ドーナツ」

石神

通話コード

サトコ

「ど、ドミノ‥?」

石神

ノビ

サトコ

「‥‥‥」

(『スピード』に『通話コード』、それに『ノビ』って‥)

サトコ

「石神さん、警察用語縛りでしりとりするのは止めてください‥」

石神

降参か?

サトコ

「‥そんなに早く終わらせたいんですか?」

恨めしそうな目を向けると、石神さんは口元に笑みを浮かべる。

石神

俺は別に気まずくないからな

サトコ

「!」

(バレてたんだ‥)

石神

サトコとなら、沈黙も心地いいくらいだ

お前は違うのか?

(そんな言い方するなんて、ズルい‥)

サトコ

「‥私も、石神さんと一緒です」

石神

そうか

石神さんは微笑を携えたまま、窓の外に視線を向ける。

(まだ雨は止みそうにないけど‥)

先ほどまで気になっていた雨の音は、もうすっかり気にならなくなっていた。

【外】

石神

道がぬかるんでいるから、気を付けろよ

雨が止み、私たちは手を繋ぎながら川辺へと向かっていた。

サトコ

「ホタル、いるかな‥」

石神

必ずいるとは限らないが‥ホタルは湿度が高いと飛翔しやすい

サトコ

「そうなんですか?」

石神

ああ

(石神さんって、本当に物知りだよね)

(ふふっ、楽しみだな)

【川辺】

サトコ

「ホタルは‥」

川辺に着き、辺りを見回す。

(どこにもいない。テレビでは、たくさん飛んでいたのに‥)

小さくため息をつき、肩を落とす。

石神

サトコ、上を見てみろ

サトコ

「上、ですか?」

石神さんの言葉に、顔を上げる。

サトコ

「わぁ‥!」

見上げた先には、満天の星が広がっていた。

サトコ

「綺麗‥」

都会とは違い光がないせいか、星がひとつひとつハッキリと見える。

サトコ

「来てよかったですね」

石神

ああ。お前の笑顔が見られたしな

サトコ

「っ‥」

<選択してください>

A: そういうこと言わないでください‥

サトコ

「そういうこと言わないでください‥」

石神

本心だ

それに、好きな女の笑顔を好きじゃない奴なんていないだろう?

サトコ

「ま、また‥!」

石神

フッ‥

石神さんは楽しそうに肩を震わせている。

(からかわれたのかな‥)

そう思うものの、それは全然嫌じゃなくて‥

(こう思うのも、石神さんだからなんだろうな)

B: 私も石神さんの笑顔が見たい

サトコ

「私も石神さんの笑顔が見たいです」

「石神さんの笑顔が、大好きですから!」

石神

‥‥‥

私の言葉に、石神さんは眉をひそめる。

石神

そんなこと、初めて言われたな

サトコ

「ふふっ、好きな人の笑顔は見たいって思うのが普通じゃないですか?」

石神

それは男から言う言葉だろう

サトコ

「!」

石神さんはフッと笑み、私の頬にキスをする。

サトコ

「なっ‥」

石神

今度は赤くなったな

笑顔ももちろん好きだが‥照れた顔も好きだ

サトコ

「っ‥」

(石神さんには、一生勝てない気がする‥)

C: 繋いでいる手に力を込める

私は思わず、繋いでいる手に力を込めた。

石神

どうした?

サトコ

「ど、どうもしません‥」

私の反応に、石神さんは楽しげな視線を向けてくる。

石神

これくらいで照れるとはな

サトコ

「石神さんが不意打ちすぎるんです」

石神

予告するものでもないだろう

サトコ

「そ、そうですけど‥」

(だからって、いきなりだと心臓に悪いよ‥)

サトコ

「!」

石神さんは一度手を離すと、今度は指を絡めるように手を握る。

(また‥)

言葉で返すのは悔しいので、再び手に力を込めた。

それから私たちはしばらくの間、星空を眺める。

石神

そろそろ帰るか

サトコ

「はい」

顔を見合わせ一歩踏み出そうとした、その時‥

サトコ

「あっ‥!」

スッと、小さな光が視界に入った。

サトコ

「石神さん‥」

石神

ああ

小さな光は増えていき、チラチラと輝いている。

光の正体であるホタルは、川辺にどんどん集まっていく。

石神

‥すごいな

サトコ

「そうですね‥」

(ホタル、見られてよかったな)

私たちは、楽しそうに飛んでいるホタルを眺める。

サトコ

「せっかくなので、願い事しましょう!」

石神

七夕や流れ星と混ざっているんじゃないか?

サトコ

「いいじゃないですか。こういうのはノリが大事なんです」

石神

まったく‥

私が手を合わせると、石神さんも呆れながら手を合わせた。

私は微笑みながら、目を瞑る。

(来年も再来年も、石神さんとホタルを見られますように‥)

心を込めて、念じていると‥‥

石神

‥叶えてやる

サトコ

「え‥?」

目を開けると、石神さんが優しい眼差しを私に向けていた。

サトコ

「私、口に出していましたか?」

石神

いや。だが、お前のことならわかる

そう言いながら、石神さんは私の頬に触れる。

石神

サトコの願いを叶えるのは、ホタルじゃなくて俺だろう?

サトコ

「ん‥」

石神さんの唇が、私の唇に落ちた。

優しいキスは次第に深くなり、甘さを増していく。

サトコ

「っ、はぁ‥」

一瞬唇が離れたかと思うと、またすぐに繋がった。

私たちはホタルに囲まれながら、何度もキスを交わす。

(これから先、ホタルを見たら‥このキスを思い出すんだろうな)

石神さんの温もりが、唇だけじゃなく心にも広がっていく。

それから私たちは、時を忘れるように甘い時間を過ごした。

Happy  End

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