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ふたりで融けて 颯馬1話

【遊園地】

サトコ

「颯馬さんって、どんな時でも優雅なんですね‥すごい‥」

真っ青な夏空の下、遊園地のアトラクション前で呟く。

私が手にしているのは、購入したばかりのジェットコースター写真。

颯馬

すごいですか?

写真の中の颯馬さんは、絶叫マシンに乗っているとは思えないほど優雅に微笑んでいる。

サトコ

「隣の私はこんな変顔になってるのに‥」

颯馬

どれどれ?

サトコ

「恥ずかしいです」

写真を覗き込まれ、思わず隠そうとする。

と、颯馬さんはパッと私を見て微笑んだ。

颯馬

可愛いですよ

サトコ

「えっ‥」

(いやいや!こんなムンクの叫びみたいな顔が可愛いなんて、あり得ない)

素で言われてつい照れてしまうも、真に受けることはできない。

(颯馬さんは優しいから、無理やり褒めてくれてるんだよね)

颯馬

いえいえ、本当に可愛いと思ってますよ

(なっ‥また心を読まれた!?)

相変わらず優雅に微笑んでいる颯馬さんに、ドキドキしっぱなしの私だった。

サトコ

そろそろランチにしましょうか」

颯馬

そうですね

園内のカフェへと移動中、颯馬さんがふと改めて私に視線を向ける。

颯馬

今日の恰好は動きやすそうでいいですね

サトコ

「‥!ありがとうございます!!」

遊園地デートだからと、カジュアルなショートパンツにした私。

褒められて嬉しくなり、思わず舞い上がる。

颯馬

ジェットコースターの時は少々心配になりましたけど

サトコ

「え?」

聞き返すも、颯馬さんはただ微笑んで教えてくれない。

颯馬

そういえば、ここの観覧車のジンクスって知ってます?

サトコ

「なんですか、それ?」

あっさりと話題を変えられ、見事にその話題に乗ってしまった。

颯馬

カップルで乗ると幸せになれるそうです

サトコ

「へぇ‥」

<選択してください>

A: そうなんだぁ

サトコ

「そうなんだぁ」

(ベタなジンクスなんだけど、正直ちょっと憧れちゃうな)

颯馬

よくあるタイプの話ではありますけどね

サトコ

「確かにそうですけど‥」

B: 素敵なジンクスですね

サトコ

「素敵なジンクスですね!」

颯馬

夢がありますよね

サトコ

「はい。ロマンチックで素敵です、そういうのって」

颯馬

少々ベタではありますが

(確かに‥。でも、憧れもあるかも‥)

C: ありがちですね

サトコ

「ありがちですね‥」

颯馬

フッ、確かにそうですね

サトコ

「でも、そういうの、嫌いじゃないです‥」

颯馬

そうですか?

(実はちょっと憧れてたりして‥)

サトコ

「ちょっと乗ってみたいです‥」

(うわ、言っちゃった‥!)

やっぱり恥ずかしくて、その場で俯いてしまう。

(ここは冗談で誤魔化すしか‥)

『なんちゃって!』とでも言おうかと思ったその時‥

颯馬

では、今日の一番の楽しみにとっておきましょう

(え‥)

サトコ

「‥はい!」

(やった!憧れのジンクス体験ができちゃう!)

思わぬ返事をもらい、私は心の中でグッと拳を握った。

【カフェ】

夜の素敵な約束をした後は、カフェのテラスでランチを楽しんだ。

(午後は何に乗ろうかなぁ)

強い日差しに手をかざしながら、賑やかな園内を見渡す。

(それにしても暑い‥)

その時、突然目の前にアイスが差し出された。

颯馬

デザートにどうですか?

サトコ

「わぁ‥ありがとうございます!」

最高のタイミングで出されたアイスに、歓喜の声を上げてしまう。

颯馬

この暑さですし、休みたくなったら無理せず言ってくださいね

サトコ

「はい‥」

(颯馬さん、優しいな‥)

(でも、ちょっと気を遣わせ過ぎちゃってないかな?)

そんな心配が頭を過って颯馬さんを見ると、目が合った。

颯馬

こっちの味も気になりますか?

サトコ

「え、あ‥」

<選択してください>

A: そうじゃなくて‥!

サトコ

「そうじゃなくて‥!」

颯馬

おや、違いましたか。てっきりこの巨峰アイスも食べたいのかと

サトコ

「巨峰味なんですね‥って、私そんなに食いしん坊じゃ‥!」

颯馬

ない、とは言えないと思いますが

(うぅ‥反論できない‥)

B: ちょっと食べてみたい

サトコ

「‥ちょっと食べてみたいです」

(あれ?そういうことじゃなかったんだけど‥)

颯馬

フッ、やはり

サトコ

「それ、何味ですか?」

颯馬

巨峰味です

(美味しそう!)

C: 気を遣わないでください

サトコ

「‥あまり気を遣わないでください」

颯馬

気など遣ってませんよ?

サトコ

「そうですか?」

颯馬

この巨峰アイスがあんまりおいしいので、ぜひ貴女にも食べさせてあげたくて

(そ、そうなんだ‥)

颯馬

さあ、遠慮なく

サトコ

「でも‥」

颯馬

早くしないと溶けちゃいますよ?

(それって、「あーん」ってこと‥?)

近くにいる家族連れの人たちが、チラチラとこちらを見ている。

颯馬

さあ‥

颯馬さんは、どこか意地悪な笑みを浮かべている。

(うぅ‥これはもう、やるしかない‥!)

覚悟を決め、あーんと口を開ける。

すると、ひんやりと冷たい巨峰味が口の中に広がった。

(おいしい‥けど、やっぱり恥ずかしい‥!)

颯馬

いかがですか?

サトコ

「お、おいしかったです‥」

颯馬

それはよかった

颯馬さんは満足そうに、そしてとても楽しそうに微笑んだ。

(颯馬さんも‥このデートを楽しんでくれてるみたい)

そう思えて、なんだかホッとする。

(気を遣わせ過ぎなんて、思わなくてもいいのかな)

颯馬

次はどのアトラクションを楽しみますか?

サトコ

「私、挑戦してみたいのがあるんです!」

二人でアイスを食べながら、笑顔で頷き合った。

【アトラクション前】

(うわ、すごい並んでる‥)

私が挑戦したいアトラクション前に来ると、かなりの行列ができていた。

サトコ

「混んでますし、やっぱりやめましょうか‥」

颯馬

構わないですよ。並びましょう

涼しい顔で言ってくれる颯馬さんに甘え、並んでみることに。

しかし、思った以上の行列で、長い闘いになりそうな気配を感じる。

どうやら周りのカップルたちもイライラが募っている様子だった。

カップルの女

「もう、なんでこんなの選ぶのよ!」

カップルの男

「お前も賛成しただろ?」

カップルの女

「暑いし、足疲れたし、もうヤダ」

カップルの男

「はあ!?」

そんな言い争いが聞こえ、私も不安になる。

(もしかして颯馬さんもちょっと後悔してるかな?選ぶの間違えたかも‥)

サトコ

「すみません、まさかこんなに並んでるなんて思わなくて‥」

颯馬

謝ることはありませんよ。ゆっくり話せる時間ができたんですから

(え‥)

優しく微笑まれ、ホッとするよりもドキッと胸が高鳴った。

颯馬

これは徒歩で巡るアトラクションですよね?

サトコ

「はい、そうです」

颯馬

そうしますと、殆どの客がカップルであることを考えると‥

颯馬さんは何やらブツブツ言いながら、改めて行列の様子を見ている。

颯馬

残り約50メートルに二人ずつとカウントすると、あと30分もすれば入れるでしょう

(ど、どういう計算なのかよく分からないけど、そうなんだ!)

颯馬

あと少しですね

サトコ

「はい‥!」

炎天下でも相変わらずの涼しい笑顔。

その微笑みに励まされ、行列も苦じゃなくなる。

(私たちはケンカにならずに済みそうでよかった‥)

(というか、颯馬さんが私にもったいないくらい優しいおかげだよね)

颯馬さんの微笑みに見惚れ、浮かれ気分だった私だけど‥

颯馬

入り口が見えてきましたね

サトコ

「あ、本当‥!」

【お化け屋敷 入口】

(ん?何あの、おどろおどろしい雰囲気は‥)

見えてきたゲートの様子は、やけにホラーチックな作り。

(ここって、クリスタル巨大迷路なはずじゃ‥)

颯馬

いつの時代もお化け屋敷というのは人気なのですね

(なっ、お化け屋敷!?)

慌ててもう一度ゲートの方を見る。

そこには、黒塗りのボードに真っ赤な血のりで『呪いの館』と書かれている。

どうやら目当てのアトラクションと間違えて並んでしまったらしい。

(どうしよう、あんまり得意じゃないのに‥)

できることなら今すぐここを離れ、巨大迷路に行きたい。

(涼しげなクリスタル迷路で、仲良くお散歩気分を味わおうと思ってたのにな‥)

颯馬

大丈夫ですか?顔色が‥

サトコ

「だ、大丈夫です!」

(こんなに長く並ばせておいて、今さら入りたくないなんて言えない!)

さっきまでは早く進んでほしいと思っていた行列。

でも今は、勝手なことに少しでもゆっくり進んでほしいと願ってしまう。

しかし、あっという間に時は過ぎ、入り口にたどり着いてしまった。

颯馬

いよいよですね

サトコ

「はい‥」

颯馬

恐怖を感じてひんやりするのも良さそうです

サトコ

「‥そうですよね」

(そうだよ、涼むつもりで楽しもう!‥ここまで来たら入るしかないよね!)

覚悟を決め、おどろおどろしい『呪いの館』へと足を踏み入れた。

【お化け屋敷 中】

(うぅ‥やっぱり怖いよ‥)

少しひんやりとして、薄暗い館内。

私は下を向いたまま、ビクビクしながら慎重に足を進める。

颯馬

暗いので気を付けてください

俯く私の前に、颯馬さんの手が差し伸べられた。

(颯馬さんと手を繋いでいれば怖くないかも‥!)

その手を取ろうとした瞬間、私はハッとする。

(あっ、手汗‥!!)

恐怖でぎゅっと握りしめた手には、ぐっしょりと汗が滲んでいる。

(こんな手じゃ、颯馬さんと手なんて繋げない‥)

颯馬

さあ‥

念を押すように再度手を差し伸べてくれる颯馬さん。

でも、やっぱり繋ぐ勇気が出ない。

サトコ

「大丈夫ですよ。一人で歩けますから」

颯馬

‥そうですか?

サトコ

「はい。そんなに怖くないですし!」

明らかに強がりだとバレるような声で言い、笑顔を作る。

颯馬

‥‥‥

颯馬さんは、何か言いたげな顔をしている。

しかし、暗がりの中、私は気付かないふりをして歩き始めた。

(颯馬さん‥ごめんなさい)

(でも、こんなすごい手汗をかいてるなんて、恥ずかしくて知られたくないよ‥!)

とはいえ、やはり怖いものは怖い。

(うぅ‥手、繋ぎたいな‥)

自分で招いてしまった恐怖と闘いながら、奥へと進む。

ギィィィ~‥

(な、何なの‥もう‥)

恐怖を煽るような音楽や効果音に、身が縮まる。

バタンッ!!

サトコ

「キャーーーーーーッ!!!」

自分でも驚くほどの悲鳴を上げ、またドッと汗が噴き出した。

(もうやだ‥この先どうなっちゃうの‥?)

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