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誕生日 颯馬1話

サトコ

「そ、颯馬さん‥もう、無理です‥」

颯馬

何を言っているんです?これで私が許すとでも‥?

サトコ

「‥だって、これ以上はもう‥」

颯馬

瞳に涙をためて‥そんな表情を見せられても、煽られているとか思えませんよ

サトコ

「ち、ちがいますっ‥!」

【剣道場】

颯馬

フフ、相変わらず貴女の反応は可愛いですね

ほら、試合はもうすぐです。手は抜けませんよ

サトコ

「はい‥」

颯馬さんの優しい声音に促され、私はよろよろと身体を起こす。

目の前に迫った警察剣道大会のため、私はほぼ毎日のように颯馬さんの訓練を受けていた。

(颯馬さんが、いつもより厳しい鬼教官に見える‥)

(でも、大会当日は颯馬さんの誕生日だし‥勝って勝利をプレゼントしなきゃ‥!)

サトコ

「颯馬さん、もう一度相手をお願いします!」

颯馬

フフ、その意気です。さぁ、行きますよ

サトコ

「はい!」

【学校前】

スパルタ訓練が終わり、着替え終わった私を颯馬さんが寮まで送ってくれる。

サトコ

「そういえば、今日鳴子と欲しい物について語り合ったんですけど‥」

颯馬

佐々木さんなら、現実的なことを言いそうですね

サトコ

「はい、時間と彼氏が欲しいって言ってました」

颯馬

フフ、佐々木さんらしい

で、そういうサトコさんはどうなんですか?

サトコ

「‥うーん、思いつかなかったんです」

「多分、今の状況に満足しているから欲しいものなんて見つからないんだと思います」

颯馬

なるほど‥貴女らしいですね

サトコ

「颯馬さんはどうですか?何か欲しいものがあったりなんて‥」

私はドキドキしながら、颯馬さんの言葉を待つ。

もうすぐ颯馬さんの誕生日だし、彼の欲しいものをリサーチしようと、この話を振ってみる。

しかし‥

颯馬

貴女が試合で頑張ってくれれば充分ですよ

今、一番欲しいものは‥貴女が剣道大会で勝利することです

サトコ

「そう、ですか‥」

なんだか、上手くはぐらかされてしまったような気分だ。

(マフラーはクリスマスにプレゼントしたしな‥)

(初めて過ごす誕生日だし、心に残るような素敵なお祝いをしたい‥)

(もう少し考えてみよう)

【本屋】

翌日の放課後。

剣道のトレーニングまで時間があるため、颯馬さんのプレゼントを探しに街へと来ていた。

サトコ

「彼氏と過ごす初めての誕生日かぁ‥」

途中、本屋に寄って参考になりそうな雑誌を手に取り、それをぱらぱらと捲る。

サトコ

「あ、ここ素敵なお店‥」

「颯馬さんが連れて行ってくれるような雰囲気のお店だし、ここ、いいかも!」

(うっ‥やっぱり素敵なお店は結構いい値段するんだな‥)

(でも、せっかくの誕生日だし、奮発しちゃおう!)

【帰り道】

サトコ

「‥う~ん、食事はここにして、あとは‥プレゼント、かぁ」

「何にしよ‥‥」

ドンッ!

サトコ

「わあっ!」

子どもA

「お兄ちゃん、待ってよー!」

子どもB

「早く来いってば!」

颯馬さんへのプレゼントを考えていると、後ろから走ってきた男の子たちがぶつかってきた。

子どもたちは周りの大人の迷惑も考えず走り回っている。

(ここは車通りも激しいのに‥ちょっと注意した方がいいかな?)

子どもB

「ほらっ、行くぞー!」

子どもA

「ちょっと待ってよ!」

サトコ

「あっ!」

注意しようとした時、子どもが道路に飛び出してしまい、私は無意識のうちに身体が動いていた。

子どもA

「うっ、わああああんっ!」

サトコ

「大丈夫?」

子どもA

「う、うん、だいじょうぶ‥」

サトコ

「よかった‥ここは車も多いから気を付けないとダメだよ?」

子どもA

「はい‥ごめんなさい」

私の言葉に男の子は何度も頷き、そのままもう一人の子と一緒に帰って行った。

サトコ

「よし、そろそろトレーニングの時間だし、戻らなきゃ」

そう呟いて、立ち上がろうとした時‥

サトコ

「いっ‥!」

足首に痛みが走った。

どうやら、あの子を助けた時に足を挫いてしまったみたいだ。

(これぐらいの痛みなら、湿布でも貼っておけば治るよね‥!)

【剣道場】

数日後。

颯馬

なんだか、今日のサトコさんは元気がないようですけど‥どうかしましたか?

サトコ

「い、いえ‥」

(どうしよう‥捻挫のこと気付かれてないよね?)

最初は痛みも気にならず、トレーニングも続けられたのだが、

日に日に足の痛みが増してきていた。

(歩くだけでも痛いし、明日の試合は大丈夫かな‥)

(颯馬さんに色々指導してもらったのに、負けるようなことになったら‥)

颯馬

‥‥‥

明日の試合が不安なのですか?

サトコ

「え?」

颯馬

ここ数日、貴女の様子が変だということには気づいていました

‥試合に勝ってくれれば充分、という言葉がプレッシャーになってしまいましたか?

サトコ

「い、いえ!そういうわけじゃないんです!」

(‥よかった、足を捻挫していることには気づいてないみたい)

(颯馬さんに気付かれたら、きっと試合に出ないように言われそうだし‥)

(‥明日の試合が終わるまで、どうにか持ち堪えてくれるといいけど)

颯馬

‥‥‥

サトコ

「あの、本当に何でもないんです」

「‥緊張はしてますけど、プレッシャーというほどじゃないですし」

颯馬

‥‥‥

颯馬さんは無言のまま、ゆっくりと私に近づいてくる。

そして、颯馬さんは私の頬を両手で挟み、お互いのおでこをぴたっとくっつけた。

サトコ

「‥颯馬、さん?」

颯馬

久々におまじないをしてあげます

サトコ

「‥っ」

優しい声がした後、おでこに颯馬さんの唇が触れる感覚がした。

サトコ

「‥ありがとうございます」

「颯馬さんからパワーをもらったので、明日は大丈夫です!」

颯馬

フフ、貴女自身も頑張っていますから絶対に大丈夫ですよ

自信とは日々の積み重ね、厳しい練習を乗り越えた者にのみ自信がつくんです

サトコは私の厳しいトレーニングにも耐えました

‥きっと、その積み重ね明日の貴女を支えてくれますよ

そう呟いた後、颯馬さんはもう一度私のおでこにキスを落とした。

(颯馬さんのためにも、明日は必ず勝ちます‥!)

おまじないをもらったことで、さらに私のやる気に火がついた気がする。

サトコ

「あの、明日は‥颯馬さんも見に来てくれるんですか?」

颯馬

もちろんです。結果を聞くだけではなく、貴女の頑張りをこの目で見たいので

サトコ

「ありがとうございます」

「私、明日はいつも以上に頑張ります!」

颯馬

楽しみにしています

そうだ。少しそこに座ってもらえますか?

サトコ

「‥はい?」

颯馬

連日のトレーニングで疲れているでしょう?

私がマッサージしてあげますよ

サトコ

「えっ、でも颯馬さんも疲れて‥」

颯馬

私は大丈夫です。それともこの程度で根をあげるような教官に見えますか?

サトコ

「そんなことは‥」

颯馬

でしょう?だったら、私の言うことを聞いてください

その場に座らされ、颯馬さんが私の肩を揉んでくれる。

最初は軽く、そして次第に強さが増してきて、凝り固まった肩がほぐれていく。

(颯馬さんって、マッサージも上手なんだ‥)

颯馬

サトコさん

サトコ

「は、はい!」

颯馬

私以外ににマッサージなんてさせてはいけませんよ、危険ですからね

サトコ

「え‥?危険、ですか?」

颯馬

はい。こんな、理性を焼き切るような表情を見せられたら‥ね?

サトコ

「‥っ!?」

人差し指で、私の唇をつつきながら颯馬さんは悪戯っぽく笑う。

颯馬

クスッ、冗談ですよ

さぁ、もう少しマッサージをしますから力を抜いてください

貴女が全力で試合に挑めるようにするのも、指導者としての役割ですからね

(全力で‥)

ふと、自分の足を見つめながら不安に駆られる。

(‥ううん、勝って勝利を颯馬さんにプレゼントするんだから!)

(ちょっとの痛みくらい、どうってことない!)

to  be  continued

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