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アナタの誕生日 石神

【工房】

私の誕生日は、石神さんと一緒にシルバーアクセサリー作りの体験ができる工房にやって来た。

サトコ

「自分だけのピンキーリングが作れるなんて、素敵ですね!」

石神

買えば済むものを、わざわざ手作りする意味がわからないがな

(石神さんらしいお言葉‥でも、なんだかんだ言って付き合ってくれるんだよね)

しかも、石神さんの作ったピンキーリングはまるで売り物のような出来だ。

サトコ

「石神さん‥器用ですね」

石神

頭の中で考えたものを形にするには、どういう工程が必要か

順序立てて考え、実行するまでだ

そういうお前は、もう完成したのか?

石神さんの視線が、私の手元に落ちる。

その直後、まるで残念なものを見るような顔になった。

サトコ

「うっ‥あまり、手先は器用じゃなくて」

石神

器用じゃない、というレベルじゃないだろう

お前は、自分の指のサイズもわからないのか

石神さんが言うように、私が作ったピンキーリングは、もはや “ピンキー” ではない。

(作ってるうちに、なぜかだんだんサイズが大きくなっていっちゃったんだよね‥)

(微妙な大きさだから、自分のどの指にも合わない‥)

サトコ

「でもデザインは気に入っているので、ネックレスチェーンにでも通せば‥」

石神

‥まあいい

眼鏡を押し上げると、石神さんが自分の作ったピンキーリングを持って私の手を引っ張る。

そしてそれを、小指に嵌めてくれた。

石神

俺の目に狂いはなかったな

サトコ

「も、もしかして‥私のために作ってくれたんですか?」

石神

指輪などしないのに、自分用に作っても仕方ないだろう

(それでも、嬉しい‥最初から、私のために作ってくれてたんだ)

(‥ん?そういえば、もしかして)

自分が作った指輪を手に取ると、恐る恐る石神さんの小指に嵌めてみる。

なんと、それは驚くほど石神さんの指にピッタリ嵌った。

サトコ

「すごい!私、天才でしょうか!?」

石神

‥‥‥

サトコ

「すみません‥」

「でも、確か‥男性がピンキーリングをつけると、願いが叶うって言われてるんですよ」

石神

くだらないな

一蹴したあと、石神さんが指輪を外そうとする。

サトコ

「あ‥」

石神

普段つけないと、違和感がある

サトコ

「あ、あの‥」

咄嗟に、その手に手を重ねて石神さんを止めていた。

石神

なんだ

サトコ

「つけていて欲しいです‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「せめて今日だけでも‥」

でも、石神さんはいつものように私を一瞥するだけで、表情を変えない。

(やっぱり、ダメかな‥)

諦めて石神さんの手を離すと、小さなため息が聞こえてきた。

石神

願いが叶う、か‥

サトコ

「え?」

石神

一年に一度くらいは、お前の願いを叶えてやるのも、悪くはない

微かに微笑み、石神さんが指輪を嵌め直す。

サトコ

「い、いいんですか!?」

石神

必要ないなら、外すが

サトコ

「あります!嬉しいです‥ありがとうございます!」

石神

お前はいつも、大げさすぎる

喜ぶ私に、石神さんは苦笑をくれたのだった。

【車内】

シルバーアクセサリー作りを終えた後‥

石神さんの運転で、夜景を見に小高い丘までやってきた。

サトコ

「今日は、ありがとうございました」

「ピンキーリングも嬉しかったし、さっきのディナーもすごく美味しかったです」

石神

ああ‥

サトコ

「この間まで、大きな事件を追ってたから」

「今日、一緒に過ごすのは無理かと思ってたんですけど」

石神

‥‥‥

フロントガラス越しに見える夜景を眺めながら、石神さんが何か考え込んでいる。

思わず、その顔を覗き込んだ。

サトコ

「石神さん‥お疲れですか?」

石神

何?

サトコ

「あの‥なんとなく」

(最近、ずっと忙しかったのに‥今日一日空けるために、仕事を前倒ししてくれたんだよね)

(石神さんは何も言わないけど、ずっと見てたから分かる‥)

心配する私の顔をじっと見つめていた石神さんだけど、ふっと柔らかく笑った。

石神

いや‥違う。そうじゃない

サトコ

「え?」

石神

切り出す言葉に迷っていただけだ

サトコ

「切り出す言葉‥?」

意味が分からず首を傾げる私に、石神さんがまた笑った。

石神

誕生日、おめでとう

サトコ

「!」

石神

まだ言っていなかった

サトコ

「あ‥」

(そ、そういえば‥)

(石神さんと一緒に過ごせるだけで嬉しくて、忘れてた)

助手席のダッシュボードを開けて、石神さんが何かを取り出す。

それは、少し大きな箱だった。

石神

開けてみろ

サトコ

「え‥は、はい」

箱の中から出てきたのは、見るからに高級そうな時計。

でもとても素敵なデザインで、私には少し大人っぽいような気がする。

サトコ

「こ、これ‥」

石神

訓練の時には、つけられないだろうがな

(私への、誕生日プレゼント‥!?こんなに高そうな時計‥!?)

(でもこれ、どこかで見たことがあるような)

すぐに、石神さんと同じデザインの女性物だということに気付いた。

サトコ

「お、おそろい‥!?」

石神

そういうことを、いちいち言葉にするな

サトコ

「だって、石神さん、こういうの好きじゃないんじゃ」

よく見ると、時計には今日の日付‥私の誕生日が刻印されていた。

石神

‥確かに、おそろいのものも指輪も苦手だ

柄にもなく、気恥ずかしいだろう

サトコ

「だったらなんで‥」

石神

お前が喜ぶなら、また別だ

これからも、同じ時間を歩んでいこう

額にキスが落ちてきて、至近距離で見つめ合う。

ごく自然に唇が触れ合い、笑いあった。

サトコ

「同じ時計を持っていたら、いつも一緒にいるような気分になれます」

「ありがとうございます‥今までで一番嬉しいプレゼントです!」

石神

だから、お前は大げさだと言ってるんだ

石神さんが、いつものように呆れた笑みを浮かべる。

でもその表情は、普段以上に優しいものだった。

Happy  End

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