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アナタの誕生日 難波

【港】

今日は私の誕生日。

訓練のあと、私が約束している相手は難波室長。

難波

オシャレして来いよ

(なんて言われたから、私としては目いっぱいオシャレしてきたんだけど)

参考にしたのは、以前に室長と潜入捜査でドレスアップしたときの服装。

(これで大丈夫かな?)

(でも、わざわざオシャレして来いって言うなんて‥どこに連れて行ってくれるんだろう?)

ソワソワしながら待っていると、コツ‥と後ろに響く足音。

???

「おひとりですか?」

サトコ

「え、いえ、待ち合わせで‥」

(こんなところでナンパ?)

(ん?でも、この声って‥)

難波

フラれちまったな

サトコ

「室長!」

振り返ると、そこにはびしっとフォーマルにスーツを着こなした難波室長。

いつもは曇ってる靴もピカピカに磨かれている。

(いつものくたびれた感じが嘘みたい!)

難波

ん?‥やっぱり、おっさんなのに気張りすぎたか?

自分の恰好を見下ろし、室長は軽くその片眉をあげた。

難波

今時の若いヤツは、もっと細身のスーツか~

となると、もっとサイズダウンの必要が‥

サトコ

「ち、違うんです!嬉しいんです!」

「とっても‥素敵です」

そう答えると、室長の顔に笑みが浮かぶ。

そして、いつものように、私の頭の上にポンッと手が置かれた。

難波

ならよかった。こういうのも、たまにはいいだろ

サトコ

「こういうのって‥」

難波

あの船でクルージングだ

室長が指差す先にあるのは、夜の海に輝く豪華客船。

(クルージング!室長の誕生日の時、私が最初に計画していて‥)

(あの時キャンセルした時の声、聞こえてたんだろうな)

それを踏まえてのセッティングなのだと思うと、嬉しさもひとしおだった。

難波

ほれ

腕を差し出され、そっと手を掛ける。

(捜査でもないのにエスコートされるなんて‥)

早くなり始めた鼓動に室長を見上げると、目が合った。

じっと見つめられていて、頬が熱くなる。

難波

今日は、こんなおっさんと並んでいるのがもったいないくらい、イイ女だよ

サトコ

「ありがとうございます。“今日は” ってところが、ちょっと気になりますが」

難波

はは。目地に躓くなよ

サトコ

「室長の腕があるから、大丈夫です」

そのままタラップを登り客船に乗り込むと、室長がこちらを振り向く。

難波

今日は1泊だからな

サトコ

「えっ!?」

(まさか1泊だったなんて‥私の計画してたクルージングとは全然レベルが違う!)

難波

飯食っただけじゃ帰さないから、覚悟しとけ

サトコ

「は、はい‥」

どこまで冗談で、どこからが本気なのか‥‥

(どんな誕生日になるんだろう)

にやりと笑う室長に、私の胸は期待とドキドキでいっぱいになっていった。

【客船 デッキ】

室長にエスコートされて向かった先は豪華客船のクルージング。

フルコースのディナーのあとはラウンジでお酒を楽しむという大人の夜だった。

サトコ

「ふぅ‥」

(夢みたいに素敵な夜‥)

難波

酔ったか?

サトコ

「大丈夫です。ふわふわと気持ちいいくらいで‥」

酔い覚ましに甲板に出ると、火照った頬を撫でる夜風が心地いい。

サトコ

「わ‥!」

目の前に広がる光景に、私は目を瞬かせた。

東京タワーやビル街のネオン‥東京中の夜景が一望できるようだった。

サトコ

「すごい景色ですね!」

難波

こういうの好きなのか?

サトコ

「好きです、すごく素敵‥」

海面に映り込む夜景に目を奪われていると、ふっと室長が笑う気配がする。

さりげなく腰に回った手に軽く抱き寄せられた。

(今夜はこうしててもいいかな‥)

ほろ酔いも手伝って、そのまま甘えるように身を寄せると。

難波

ん?

顔を覗き込まれ、その距離の近さを実感してしまう。

(いくらお酒が入ってるからって大胆だった!?)

サトコ

「い、いえ‥!」

恥ずかしくなって慌ててそっぽを向くと、腰に回された手に力が入った。

難波

なに照れてんだ

サトコ

「別に照れてなんかは‥」

難波

目を逸らしていると見逃しちまうぞ?

サトコ

「え?」

(見逃すって、なにをだろう?)

室長を見上げると、不意打ちで額に触れる唇。

サトコ

「し、室長‥!」

難波

いいか、目を逸らさないで、ちゃんと見てろよ

室長が指差す先にあるのは東京タワー。

言われるがまま、じっと見つめていると。

難波

3、2、1‥

室長は東京タワーを指差したままカウントダウンを始める。

(なんだろう?)

難波

‥0

そう言うと同時に、室長は東京タワーをつかみ取るように拳を握った。

サトコ

「わっ!東京タワーが消えた!」

室長の動きに合わせ、消灯した東京タワーが私の視界から消える。

それはまるで、室長の手の中に東京タワーが閉じ込められたかのようだった。

難波

キラキラしたもんが好きなんだろ?

東京タワーをつかみ取った拳を室長は突き出してくる。

難波

誕生日おめでとう

サトコ

「え‥」

ぱっと開いた手にはキラキラと光る豪華なイヤリング。

難波

プレゼントだ

私の髪をスッと後ろに流し、室長はイヤリングをつけてくれる。

サトコ

「室長‥」

(こんなの‥素敵すぎる‥)

嬉しさで胸がいっぱいになり、言葉が出てこない。

私の耳にイヤリングをつけてくれた室長が、その手を自分の首筋に持っていった。

難波

‥ちょっと恥ずかしいことしちまったな

照れた顔を見せる室長に、私は笑顔を向ける。

サトコ

「ありがとうございます!」

嬉しい気持ちを伝えたくて抱きつくと、室長が驚く気配が伝わってきた。

サトコ

「私‥こんな嬉しい誕生日を過ごしたの初めてです‥」

難波

毎日こんなだと疲れちまうが‥年に1回ならいいだろ?

サトコ

「はい!室長‥大好きです‥」

難波

俺もだよ

私の頭をぽんぽんっとする室長の手。

その大きな手も大好きだった。

難波

いや‥多分、お前が思ってるより、きっともっとだな

サトコ

「室長‥」

笑いながら、そっと頬に手が添えられ顔を上げる。

近づく彼の顔に、ゆっくりと目を閉じて‥‥

サトコ

「ん‥」

難波

そろそろ夜景じゃなくて、俺の時間だ

優しいキスは、これからの甘い時間を予感させるようで。

私は幸せな気持ちで、その温もりに身を寄せた。

Happy  End

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