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ヒミツの恋敵 加賀3話

【室長室】

新聞社からまっすぐ、加賀さんと一緒に公安学校に戻ってきた。

そのまま、室長室へと駆け込む。

サトコ

「室長!お疲れ様です!」

難波

来たか

だいたいは加賀と歩から聞いた

室長室には、難波室長の他に石神教官、東雲教官がいた。

サトコ

「テロ予告が入ったのはいつですか?」

東雲

夕方だよ

サトコ

「さっき‥保管室で聞いたのは、『もうすぐ予告が出るらしい』って声だったんです」

加賀

俺たちは聞いてねぇ

サトコ

「その声が聞こえてから、イヤモニの電源を入れたので」

東雲

オレたちが聞き取れたのは、場所はイーストロイヤルホテル、ってところからだけど

その前にも、会話があったってこと?

サトコ

「はい。テロ予告とはハッキリ言っていませんでしたが、『演説会がある』って言ってました‥」

難波

なるほどな‥このテロ予告と関係あるかもしれないな

サトコ

「そういえば、号外の準備をしておけって指示もしていました」

石神

今のところ、お前が潜入している新聞社から、号外は出ていない

石神教官の報告に、みんなが考え込む。

(号外が出るなら、たぶんオフィスが騒がしくなるよね‥)

(でも今日は昨日と変わらなかったし、号外が出るような雰囲気でもなかった‥)

難波

結局、声の主はわからずじまいか

サトコ

「はい‥奥野さんっていう先輩もその場にいたんですけど、声は聞いてないみたいで」

難波

とにかく、お前は電話の男を探し出すのを最優先に考えろ

見つけ次第報告して、マークしとけ

サトコ

「はい!」

気を引き締め直したとき、石神教官の携帯が鳴った。

石神

颯馬と後藤からの報告です

サトコ

「そういえば、後藤教官と颯馬教官は‥」

加賀

例の代議士の演説会の捜査だ

石神教官が、携帯の通話ボタンを押す。

石神

そっちの状況はどうなってる?

後藤

それが‥何も

悪戯目的でテロ予告をした可能性が高そうです

サトコ

「悪戯‥?」

颯馬

でも、また先ほど、演説会場にテロ犯から連絡が入ったそうです

難波

なんだぁ?拍子抜けだな

石神

その音声は?

後藤

今、そっちに送ります

難波

おい、歩‥

室長が声を掛けた時、すでに東雲教官はいなかった。

サトコ

「あれ?さっきまで、そこに‥」

加賀

モニタールームだろ

サトコ

「えっ?」

石神

後藤が音声データをこっちに送ったはずだ

加賀

あいつが解析して追えば、すぐ特定できる

(相変わらず、すごい連携‥)

サトコ

「でも、悪戯って‥なんだか納得できないですね」

難波

テロ予告があって、号外の指示も出てるのに‥『悪戯』のひと言で終わるとはな

<選択してください>

A: 本当に悪戯?

サトコ

「本当に、悪戯なんでしょうか‥それにしては、ちょっと出来過ぎてるような」

加賀

だろうな

サトコ

「え?」

加賀

保管室でお前に話を聞かれたから、辞めたんだろ

難波

その可能性が高いな。思ったよりも用心深い犯人ってわけか

B: 私のせいかも

サトコ

「私のせいかもしれません‥」

加賀

‥‥‥

難波

なんでそう思う?

サトコ

「私が、保管室で話を聞いた時、犯人に気付かれなければ‥」

石神

そうだな。誰かに聞かれたと思って、用心して今回は退いたんだろう

加賀

だが、テメェのせいじゃねぇ

サトコ

「え?」

加賀

情報を持って帰ってきただけで、上出来だ

(ほ、褒められた‥!奇跡!?)

C: どうすればいいですか?

サトコ

「それで‥私はどうすればいいでしょう?」

加賀

さっきの難波さんの言葉、忘れたのか

難波

お前の最優先事項は、電話の男を見つけ出すことだ

(そうだった‥今は、それだけが手掛かりなんだから)

ひとまず、私は引き続き潜入捜査を行うことになった。

【新聞社】

翌日から、新聞社にいる人たちの声を用心深く聞いて回る。

(男の人だったのは確かだけど、特定するのはさすがに難しいな)

(イヤモニに残った録音データを東雲教官にもらって、毎日聞き比べてるんだけど)

奥野

「おい、バイト。社会部に行って書類もらって来い。話はつけてある」

サトコ

「わかりました。誰宛てですか?」

奥野

「宮城って男だ。行けばわかる」

山下

「奥野、ちょっといいか?午後からの会議の前に、打ち合わせしておきたいんだが」

奥野

「分かりました」

宮城

「奥野ー。近くまで来たから、ついでに持ってきたぞ、あの書類」

奥野

「ああ、助かる。そこのバイトに渡しといてくれ」

宮城

「あ、キミが新しく入ったバイトさん?はいこれ、よろしくね」

サトコ

「ありがとうございます」

(奥野さん、山下さん、それにここのオフィスにも何人か、似たような声の人がいる‥)

(さっきの宮城さんって人は、少し声が高いから対象からは外れるかな)

あの声に似た人を少しずつ絞り、対象者の行動をそれとなくチェックする。

でもあまりにもやりすぎて怪しまれないようにするのは、少し大変だった。

(それに、そうそう怪しい行動なんて取らないよね‥)

(保管室で情報の受け渡しの電話をしてるとしても、バイトはあの部屋に入れないし)

奥野

「おいバイト」

サトコ

「は、はい!」

奥野

「ちょっと来い。面倒な資料を探さなきゃならなくなった」

サトコ

「分かりました」

立ち上がって奥野さんを追いかけようとすると、近くのデスクに座っていた先輩が顔を上げた。

先輩

「長野、よくへこたれないな」

サトコ

「えっ?」

先輩

「あいつ、すげー厳しいだろ?仕事にストイックすぎて誰もついていけないんだよ」

「みんな組みたがらないから、いつも一人なんだよな」

サトコ

「そうなんですか‥」

先輩

「だから、あいつが誰かと一緒にいるところなんて、久しぶりに見たよ」

先輩のその言葉に送り出されながら、奥野さんを追いかける。

奥野

「遅ぇ。何話してた?」

サトコ

「えっと、ちょっと世間話を‥」

「ところで、資料探しに行くんですよね?資料室ですか?」

奥野

「いや、保管室だ」

サトコ

「えっ?」

(ほ、保管室って‥)

【保管室】

奥野さんと一緒に保管室にやってくると、思わず辺りを見回す。

サトコ

「あの‥ここ、バイトは入っちゃいけないんじゃ」

奥野

「表向きはな」

「規則ってのは、破るためにあるだろ」

サトコ

「はあ‥」

奥野

「山下さんに、過去の記事を探せって言われたんだよ」

「だいぶ昔にさかのぼって発掘しなきゃならねぇ。いいから黙って手伝え」

(なんか、こういうところも、ちょいちょい加賀さんとかぶるんだよな‥)

(奥野さんも、ちょっとだけあの男の声と似てる気はするけど)

でも奥野さんはあのとき私の傍にいたので、同一人物でないことは明らかだった。

奥野

「なあ‥」

サトコ

「あ、過去の記事、見つかりましたか?」

奥野

「そうじゃねぇよ」

「お前はなんで、ここにバイトで来たんだ?」

サトコ

「えっ?」

奥野

「とっくに就職していい歳だろ」

「わざわざ、バイトでここに入る意味、あんのか?」

(新聞社に入った意味‥!?)

(しまった‥そんなの、何も考えてなかった)

でも正直に答えられるはずもなく、必死に考えを巡らせる。

サトコ

「その‥し、真実を知りたかったからです」

奥野

「真実?」

サトコ

「‥世の中、嘘や犯罪であふれかえってるじゃないですか」

「それが悲しくて‥困ってる誰かを助けたくて」

「真実を突き止めれば‥きっと、助かる人もいると思うんです」

奥野

「‥‥‥」

それは、私が刑事を目指した理由と似ていた。

だから、自然と言葉が溢れてくる‥

サトコ

「社会の役に、立ちたいんです」

「そのためには、犯罪をなくすのが一番だから」

奥野

「‥新聞や雑誌に、そんな力はねぇよ」

サトコ

「あ‥!」

(危ない‥!思わず、“刑事” として話すところだった)

サトコ

「で、でも新聞にだって、人を動かす力はあるじゃないですか」

「そういうのを見て、少しでも何かが変えられたらなって」

奥野

「‥‥‥」

奥野さんは、ファイルを探す手を止めて私の話を聞いている。

(うう‥なんか嘘ついてるみたいでちょっと心苦しい‥)

(でも、本当のことを言うわけにはいかないし)

奥野

「‥俺も」

サトコ

「え?」

奥野

「‥お前と同じだ」

そう言って、奥野さんがファイルを手に私を振り返る。

その表情は、今まで見たことがないほど穏やかな表情だった。

(え‥)

奥野

「真実を伝えたくて‥この世界に入った」

「何も知らない世の中に、一石を投じる‥その役割ができればと思ったんだ」

「でも‥そのせいで前の出版社はクビになったけどな」

サトコ

「え‥?」

奥野

「上司は、波風立たねぇ記事を載せて、部数を稼いでりゃよかった」

「それに、世間が知らない真実なんていらなかったんだ」

どこか悔しそうに、奥野さんが持っていたファイルを睨みつける。

でもすぐに、フッと表情が緩んだ。

奥野

「まあ、だからこそこの新聞社での仕事は楽しいけどな」

「山下さんのもとで仕事できて、幸せだ」

始めてみるその笑顔に、胸が痛む。

(私‥この人のこと、騙してるんだ)

(仕事とはいえ、なんだかちょっと複雑だな‥)

でも同時に、仕事のことを話す奥野さんの優しい笑顔に胸が温かくなるのを感じる。

(きちんと仕事をする人だとは思ってたけど、思ってた以上に仕事に情熱がある人なのかも)

サトコ

「‥奥野さんって、仕事の時は誰とも組まないんですよね」

奥野

「なんだ、急に」

サトコ

「いえ‥さっき、先輩に言われたんです。奥野さんが誰かと組むのは珍しいって」

奥野

「まあな。別に一人がいいわけじゃねぇが、他の奴らが俺と組むのを嫌うだけだ」

「最近じゃ一人の方が自由に動けるし、気楽だけどな」

淡々と語る奥野さんは、いかにも『一匹狼』という印象だった。

(クールだし、言葉も悪いし、最初の印象は最悪だったけど‥悪い人じゃないんだ)

(だって、自分の仕事にこんなに誇りを持ってるんだから)

仕事への情熱という共通点を見つけたせいか、急に奥野さんとの距離が近づいた気がする。

奥野

「おい、手、止まってるぞ」

サトコ

「あっ、すみません。えーと、この事件のもっと過去の記事ですよね」

奥野さんに渡されたファイルを参考に、昔の記事を探していく。

すると、だいぶ離れた書棚の上の方に、それらしきファイルを見つけた。

サトコ

「奥野さん、ありました。たぶんあれです」

奥野

「どれだ?」

サトコ

「あの、上の‥ちょっと待ってください、今取りますから」

背伸びしてみたものの、ギリギリのところでファイルに手が届かない。

サトコ

「あとちょっと‥!い、イケる‥!?」

奥野

「バカか。無理だろ」

すぐ後ろで奥野さんの笑う声が聞こえて、驚いた弾みにバランスを崩した。

サトコ

「あっ!?」

奥野

「おいっ」

咄嗟に奥野さんが私を支えようとしてくれたけど、一緒に床に倒れ込んでしまう。

奥野

「っ‥‥」

サトコ

「す、すみません!大丈夫ですか!?」

奥野

「‥早くどけ」

サトコ

「あ、はい!」

勢い余って、奥野さんを下敷きにしてしまっていた。

慌ててよけると、奥野さんが服に着いた埃を払いながら立ち上がる。

(‥あれ?)

心なしか、その耳が赤い。

(奥野さん、もしかして‥)

奥野

「‥どのファイルだった?」

サトコ

「え?あ、その上の、ピンクのです」

奥野

「これか」

何事もなかったかのようにファイルに腕を伸ばしているけど、その頬が明らかに赤い。

思わず笑ってしまいそうになるのを、必死に堪える。

(私のキスマークをからかったりしたのに、こういうのには弱いんだ)

(もし加賀さんなら)

(さっきみたいなことになったら『発情してんじゃねぇ』とか言いそうだけど‥)

奥野

「このファイルで間違いねぇな。行くぞ」

サトコ

「あ、はい!」

さっき保管室に入った時とは少し違う気持ちで、奥野さんを追いかけた。

【居酒屋】

その夜、私の仕事が滞ったせいで残業になってしまった。

奥野さんを手伝うために、一緒に残ろうとしたけど‥

奥野

『詫びのつもりなら、手伝いなんていらねぇ。飲みに行くぞ』

そう言われ、奥野さんについて居酒屋にやってきた。

奥野

「悪いな。無理に誘って」

サトコ

「えっ?」

奥野

「予定も聞かずに突き合せちまったから‥」

<選択してください>

A: 何もないです

サトコ

「いえ、予定なんて何もないですよ」

奥野

「けど、彼氏いるんだろ」

サトコ

「あ、は、はい‥そうですね」

(キスマークのことをからかわれたから、こういう話になるとちょっと気まずい‥)

B: 許可は得ましたから

サトコ

「大丈夫です。ちゃんと許可は得ましたから」

奥野

「許可?」

サトコ

「先輩と飲みに行くって。その‥彼氏に」

奥野

「ああ‥相変わらず飼い慣らされてんな」

(その言い方、やめてほしい‥)

C: 奥野さんでも謝るんですね

サトコ

「‥奥野さんでも、謝ったりするんですね」

奥野

「なんだそりゃ」

サトコ

「いえ、自分が悪くても絶対謝らないタイプかと思ってました」

奥野

「言うようになったな」

ひとまず、加賀さんに連絡を入れて奥野さんと飲みに行くことは伝えておいた。

(もしかして、何かテロ組織の情報が聞けるかもしれないし)

(奥野さんは犯人じゃないけど、偶然、何か見聞きしてる可能性もある‥)

サトコ

「そういえば、この前‥うちの新聞社だけが、テロの予告の情報を手に入れてましたよね‥?」

奥野

「ああ、政治家の会食を狙ったヤツだろ」

「俺は関わってないが、どこから情報を仕入れたんだろうな」

「偶然だとしても、そういうのは運だ。この世界で生きていくには必要だからな」

サトコ

「運、ですか‥」

(でも、今回のは運じゃない‥テロを企ててる犯人たちとつながってる人がいる)

(奥野さんには、それを話すわけにはいかないけど)

奥野

「俺も、そういう記事が書けるようになればいいんだけどな」

「とりあえず今のところは、堅実に自分ができる仕事をするしかねぇ」

サトコ

「奥野さんは、真実を伝えるために新聞記者になったんですよね?」

奥野

「ああ。前の会社ではそのせいでクビになったけどな」

「腐ってたところを、山下さんに拾ってもらった。あの人は、俺の恩人だ」

(山下さん‥って、部長のことか)

奥野

「そういえば、この間のテロの記事を書いたのは山下さんの前の部下だったな」

「‥‥‥」

サトコ

「‥奥野さん?」

奥野

「ああ、いや‥なんでもねぇ」

そのあと、奥野さんとしばらく話したけど‥残念ながら、捜査につながる情報は得られなかった。

to  be  continued

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