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ヒミツの恋敵 加賀8話

【病室】

奥野

「あの人は誰よりも記事を愛していて、記者の仕事に誇りを持ってるって言ってた」

サトコ

「奥野さん‥まさか」

奥野

「‥あの電話の声は、山下さんだ」

その名前に、血の気が引いた。

(山下さんって‥山下部長だよね?奥野さんをあの新聞社に引き入れた‥!?)

(まさか‥奥野さんが尊敬してる人が、そんな‥)

奥野

「保管室で聞いた電話の声は、山下さんだ」

「前にテロ予告の号外を出したのも、山下さんの部下だった」

(そうだ‥そういえば、前の奥野さんに聞いたことがある)

奥野

「あの時から、少し引っかかってはいたんだ。何かおかしいって」

「でも‥あの人が、会社を裏切るようなことをするわけがねぇ」

奥野さんは、どうしても山下さんを信じたいようだった。

その姿に、胸が痛む。

(でも‥そうは言っていられない)

サトコ

「奥野さん‥山下さんが普段よく行く場所はないですか?」

「あの保管室以外で、犯人たちと連絡を取るような場所は」

奥野

「さあな‥さすがにそこまでは」

「だいたいお前、まだ退院もしてないのに」

サトコ

「大丈夫です。外出の許可はとってありますから!」

さっき医者からもらった『外出許可書』を見せると、奥野さんが驚いた顔をする。

奥野

「お前‥本当に、普通の女と違うな」

サトコ

「奥野さんのおかげで、ターゲットを山下さんに絞れます」

「ありがとうございました‥嫌なことを聞いてしまって、すみませんでした」

深々と頭を下げると、奥野さんが苦笑した。

奥野

「‥お前には、負けたよ」

「俺も行ってやる。お前一人じゃ、面倒が起きるかもしれないだろ」

サトコ

「ありがとうございます!」

奥野さんと一緒に、病室を飛び出した。

【新聞社】

室長が根回ししてくれていたのか、長期欠勤について誰からも責められることはなかった。

奥野

「で?どこ行くつもりだ?」

サトコ

「本当は、山下さんのデスクを調べたいんですけど‥」

「さすがに無理なので、とりあえず保管室に行ってみます」

奥野

「そうだな‥始まりは、あそこだ」

奥野さんと一緒に、保管室を目指した。

【保管室】

保管室には、誰もいなかった。

サトコ

「ここって普段、使われてないんですか?」

奥野

「かなり古い記事ばかりが保管されてるから、そんなに人の出入りはないな」

(じゃあ、この前みたいに誰にも聞かれたくない電話をするにはもってこいなんだ‥)

(とすると、山下部長がここを頻繁に使ってた可能性は大きい‥)

以前、山下部長が電話していた辺りを歩いてみる。

しかし、手掛かりになるようなモノはなにもない。

(みんなに見つかってしまうようなデスクには置かないだろうし‥)

(あるとしたら、やっぱりココだよね‥?)

暫く、部屋の中をいろいろ探り、再び電話していた辺りに戻ってみる。

ふと、棚に綺麗に保管されているファイルが目に入った。

サトコ

「奥野さん、ここの棚のファイルって使われているんですか?」

奥野

「いや、この棚のはずいぶん古いからな‥」

「書類は別に、新しいファイルで保管されているはずだから、使われていない」

サトコ

「‥‥‥」

(もしかしたら、ファイルの中に隠されている可能性も‥)

サトコ

「!!!」

奥野

「どうかしたのか‥?」

サトコ

「このファイルだけ、色が違いませんか‥?」

奥野

「‥確かにそうだな」

綺麗に色も形も揃えられたファイルの中に、1つだけ色が揃っていないファイルを発見する。

まさかと思い、ファイルを手に取ってみると、小さく折りたたんだ紙が落ちているのを見つけた。

サトコ

「これ‥」

奥野

「どうした?」

サトコ

「メモです。なんだろう、よく分からない記号の羅列‥」

奥野

「‥‥‥」

私の横からメモを覗いた奥野さんが、何かに気付いたようにつぶやいた。

奥野

「‥山下さんの筆跡だな」

サトコ

「えっ?」

一瞬、奥野さんと顔を見合わせる。

すぐに携帯を取り出すと、記号の写真を東雲教官に送信した。

(東雲教官なら、きっと解読してくれるはず!)

予想通り、すぐに東雲教官から連絡が来た。

東雲

この暗号、どこで見つけたの?

サトコ

「新聞社の保管室です!山下部長の筆跡です!」

東雲

なるほどね‥この暗号、テログループとの密会場所を書いたものだよ

サトコ

「え‥っ!?」

東雲

この記号には全部意味があってね。最初の文字は‥

‥まあいいや。説明してもわからないだろうし

サトコ

「東雲教官!そこに、加賀教官はいますか!?」

加賀

‥なんだ

電話をかわったのか、加賀さんの低い声が聞こえた。

久しぶりに聞いた愛おしい声に思わず泣きそうになるが、今はそれどころじゃない。

サトコ

「密会場所を教えてください!私も行きます!」

加賀

‥クズが

テメェは、そいつと一緒にいろ

奥野

「‥‥‥」

サトコ

「お願いします‥!私は、加賀さんの補佐官です!」

「最後までやり遂げます!‥やらせてください!」

加賀

‥‥‥

‥駄犬が

いつもの加賀さんの声が、耳に心地いい。

加賀

生意気に主人に歯向かってんじゃねぇ

サトコ

「飼い慣らされた犬だって、ご主人が間違ってたら怒ります!」

「犬にとって‥ご主人は、一人だけなんです!」

加賀

‥少しはマシになったらしいな

今から言うところに、1時間以内に来い

サトコ

「はい!」

加賀さんに指定された場所を覚えて、急いで新聞社を出た。

【倉庫】

現場で加賀さんと落ち合うと、銃の準備をして中に乗り込む。

そこでは、複数の男たちと一緒にいる山下部長の姿があった。

山下部長は、テログループの首謀者と話し込んでいる様子だ。

サトコ

「ここで間違いなかったですね‥突撃しますか?」

加賀

‥俺の傍を離れんな

加賀さんの命令通り、ぴったりと加賀さんについて山下部長たちの方へと向かう。

犯人たちの背後に回り込んだ加賀さんが、テログループの首謀者に銃口を向けた!

(まさか‥撃つつもり!?)

加賀さんの銃から放たれた弾は、首謀者と山下部長の間をすり抜ける!

首謀者

「!?」

山下

「!!!」

加賀

ずいぶん好き勝手やってくれたじゃねぇか

サトコ

「か、加賀さん‥!」

首謀者

「サツか!」

山下

「まさか‥長野くん!?」

加賀

テメェは雑魚をやれ

何かあったら俺に任せろ

サトコ

「‥はい!」

加賀さんは山下部長や首謀者の手を狙い、

彼らが構える前に、銃をその手から次々と地面にたたき落とした。

(私だって‥!)

加賀さんのようにはいかないが、テロリストたちを捻りあげて、地面に突っ伏させる。

全員から銃を奪った時には、加賀さんは首謀者の頭に銃口を向けていた。

加賀

‥テメェだけは許せねぇ

俺の飼い犬を傷つけたら、どうなるか知ってるか?

首謀者

「っ‥‥」

石神

加賀!

急に倉庫の中が騒がしくなり、刑事たちが駆け込んでくる。

その中には、教官たちの姿もあった。

石神

落ち着け!これ以上は‥

加賀

百も承知だ

(あ‥このやり取り、久しぶりだな‥)

振り返ると、教官たちに同行してきたらしい奥野さんの姿が見えた。

山下

「離せ!俺は‥俺は、世の中のためを思って!」

颯馬

テロで変えられる世界に、平和なんてありませんよ

石神

後藤‥連れて行け

後藤

はい

奥野

「‥山下さん」

(最後まで信じていた上司が、テロリストと繋がってたなんて‥)

(奥野さん‥今、どんな思いで‥)

加賀

金に目がくらんだのか、クズが

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

テロ組織は、過激な政治思想があり、与党を敵対視していたらしい

目的達成のため、与党の議員の情報を山下から買って、襲撃を計画していたそうだ

‥山下は、地位と金欲しさに道を外したんだろ

サトコ

「そうだったんですね‥」

連行される山下さんを見つめる奥野さんの表情は、苦渋に満ちていた。

(尊敬してた上司が、こんなことになって‥奥野さん、つらいだろうな)

奥野さんは私たちに頭を下げると、颯馬教官たちに連れられて倉庫を出て行った。

他の警官たちが忙しなく出入りする倉庫で、しばらく加賀さんと見つめ合う。

加賀

‥クズが

サトコ

「!」

加賀

勝手に、外出許可なんざ出しやがって

サトコ

「どうしても、捜査に戻りたかったんです」

「まだ自分にできることがあるのに、逃げてたら‥刑事になんてなれませんよね」

加賀

お前は向いてねぇ

サトコ

「それ、前にも言われました」

ゆっくりと、加賀さんが私の方へ歩いてくる。

加賀

‥それでも、続けるのか

サトコ

「はい。加賀さんに鍛えられて、前よりもずっと強くなりましたから」

「‥たぶん」

最後にそう付け加えると、ようやく加賀さんが少しだけ笑ってくれた。

でもそれは、どこか心配するような、悲しそうな微笑だった。

加賀

身体は、もう大丈夫なのか

サトコ

「はい。腕の怪我だけですから」

加賀

‥そうか

ぽん、と加賀さんの大きな手が頭に乗せられる。

それは今まで感じたどんな手よりも、優しいものに思えた。

【新聞社】

テロの首謀者、そして山下部長の身柄を確保すると、ようやく事件も収束に向かい始めた。

落ち着いた頃、新聞社を訪れて奥野さんを呼び出した。

奥野

「調子はどうだ?」

サトコ

「テロの首謀者も、山下部長も‥少しずつ、取り調べに応じ始めてます」

「ご協力、ありがとうございました」

頭を下げると、奥野さんが苦笑する。

奥野

「それだけじゃないんだろ?」

その言葉に、顔を上げる。そして、もう一度頭を下げた。

サトコ

「この間の話ですけど‥ごめんなさい」

「奥野さんの気持ちにお応えすることはできません」

「奥野さんは、守ってやるって言ってくれましたけど‥私は、守られてるだけじゃ嫌なんです」

奥野

「‥‥‥」

サトコ

「どんな危険があっても、私より仕事を優先されても‥」

「それでも、加賀さんについていきたいんです‥支えたいんです」

奥野

「‥そうか」

ぽつりと、奥野さんがこぼす。

奥野

「正直‥ふたりを見て敵わねぇと思った」

「見えない絆ってのが、お前らの間にはあるんだな」

サトコ

「ある‥と、いいな‥って思います」

フッと笑うと、奥野さんが不意に私を抱き寄せた。

サトコ

「え!?」

奥野

「ったく‥ほんとに隙だらけだな」

「ちゃんと、彼氏に守ってもらえよ」

ぽんぽんと頭を撫でると、奥野さんが私を解放してくれる。

慌てて頭を下げると、今度は突然、後ろからぐいっと引き寄せられた。

加賀

何やってやがる

サトコ

「!!!」

(い、今の‥見られた!?)

サトコ

「加賀さん!いっ、今のは‥」

奥野

「もうちょっと、自由にしてやった方がいいんじゃないか?」

サトコ

「ヒッ!?おおお、奥野さん!?」

加賀

ああ゛?

他人に口出しされる筋合いはねぇ

奥野

「フッ、そうか」

加賀

二度と、人の犬に手出すんじゃねぇぞ

サトコ

「人前で『犬』って言わないでください‥!」

加賀

喚くな

無理やり腕を引っ張られて連行される私を、奥野さんはクスクスと笑っていた。

Happy  End

Good  End

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