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総選挙2016① 俺が君を見つけた日:石神カレ目線

【商店街】

(そろそろ捜査も一段落しそうだな)

仕事を終え、通い慣れた道を歩く。
本来なら調査のため派遣されたのは、1世紀ほど前の時代だった。

(100年であそこまで技術が進歩するとは、この時代の人間は夢にも思わないだろう)

とある弁当屋の前に着き、足を止める。

(ここの店は弁当ももちろん、プリンが美味い)
(それに‥)

【弁当屋】

サトコ
「石神さん!いらっしゃいませ」

彼女の笑顔を見ただけで、今日一日の疲れを忘れそうだった。

サトコ
「今日は何になさいますか?」

石神
唐揚げ弁当と‥プリンをお願いします

サトコ
「ふふっ、石神さんって本当にプリンが好きなんですね」

(彼女の笑顔を声を聞くたびに、元気づけられる)
(プリンのためと言いながら、彼女に会いに来ているのかもしれないな)

サトコ
「いつも買ってくれるので、今日は1個おまけです」

(いつも、か‥)

石神
もうすぐここのプリンが食べられなくなるので、ありがたいです

サトコ
「えっ‥」

俺の言葉に、彼女の顔が僅かに陰る。

サトコ
「あの‥」

伯父
「サトコ!」

サトコ
「!」

(またあの男か‥)

怒鳴り声を聞き強張る彼女に、以前話したことを思い返す。

(俺と彼女は似ている‥)

サトコ
『実は私、身寄りがなくて‥ここでお世話になっているんです』

(どうにかして、彼女を助けたい‥)

そう思うものの、その気持ちはどこからきているのかわからなかった。

(俺は近いうちに未来に戻ることになる)
(中途半端に手を出したら、逆に彼女を苦しめるだけだ)

サトコ
「石神さん、ごめんなさい。私、行かないと‥」

申し訳なさそうに謝る彼女に、胸がひどく痛んだ。

【商店街】

数日後。

石神
少し早いが‥今日はこの辺りで引き上げるか

仕事が終わり、弁当屋への道を歩く。

(この時間に弁当屋に行くのは、初めてかもな)

驚く彼女の顔を想像していると‥

(ん?あそこにいるのは‥サトコさんか?)

サトコ
「‥‥‥」

(フラついているな。体調が悪いのか‥)

サトコ
「っ‥」

石神
サトコさん!

サトコさんの身体が大きく揺れ、とっさに駆け寄り抱きかかえる。

サトコ
「石神さん‥」

石神
大丈夫‥じゃなさそうですね
急いで病院に行きましょう

サトコ
「きゃっ」

俺は彼女を抱きかかえると、病院へ急いだ。

【病院】

伯父
「倒れたって聞いたが、大丈夫そうじゃねぇか」

サトコ
「伯父さん‥」

容体が落ち着いた彼女を待ち受けていたのは、衝撃的な言葉だった。

伯父
「もうすぐお前の嫁ぎ先に挨拶に行かねぇといけねぇんだから、体調には気を付けろ」
「せっかくあんな金持ちの息子が結婚してくれるって言ってんだからよ」

サトコ
「えっ!?」

(サトコさんが‥結婚?)
(まさか、そんな‥)

サトコさんとは弁当屋の娘と客の関係で、そう長い付き合いではない。
なのに、サトコさが『結婚』するという事実に酷くショックを受けていた。

(俺は‥サトコさんのことが好きだったのか)

サトコさんへの気持ちを自覚し『愛しい』という想いが増していく。

(‥ダメだ。俺は彼女を好きになってはいけない)

俺たち未来人は、現代人との恋は固く禁じられている。

(彼女の悲しむ顔は見たくないが‥規則を破ることは出来ない)

石神
‥では、私はこれで

サトコ
「あっ‥」

これ以上この場にいることが出来ず、逃げるように病室を後にした。

【商店街】

石神
まだ報告してなかったな‥

今日の分の報告をしようと、通信機に手を伸ばす。

石神
‥ん?

ポケットに手を入れるも、そこに入っているはずの通信機がなかった。
他の場所を探すも、通信機はどこにもない。

石神
どこかで落としたのか‥

(あんなに大切なものを失くしてしまうとは‥)

ふと、病室を出る前に見た彼女の顔を思い出す。

(いつもなら絶対にしないミスだ)

それほどまでに、俺の心は彼女でいっぱいだった。

【車】

サトコ
「‥石神さん。何故、ここまでしてくれるんですか?」

サトコさんは不安そうに俺の顔を見る。

(何故、か‥)

最後にと弁当屋に行ったものの、気付いたら彼女を連れだしていた。

(こんなに感情を突き動かされたのは初めてだ)
(俺はそれだけ‥彼女のことが好きなんだろう)

クラクションが鳴り、後ろを確認する。

サトコ
「伯父さん!?」

石神
ここまで追いかけてくるとは‥しっかり掴まってろ

ハンドルを切ると、車が大きく揺れた。

(未来では車の運転は自動だからな。手動で運転するのは久しぶりだ)
(勘は鈍っているが、なんとか振り切れるか‥)

俺は考えることを一度やめ、運転に集中した。

【村】

石神
俺は未来から来た、未来人だ

サトコ
「えっ!?」

伯父の車を振り切り田舎町までやってきた俺は、サトコに全てを打ち明ける。

(普通ならいきなり『未来人』と言われても信じられないだろうが‥)

サトコは俺の言葉を真剣になって聞いてくれていた。

石神
調査期間が終わり、本来なら元の時代に戻らなければならなかったが‥
どうしても、サトコのことが気がかりだったんだ

サトコ
「私、ですか‥?」

石神
ああ
俺は‥いつの日からか、サトコに恋をしていたんだ

サトコ
「!」

サトコの目が、大きく見開かれる。
そしてだんだんと赤くなっていく頬に、笑みを漏らさずにはいられない。

サトコ
「‥石神さん」

石神

全ての想いを伝えきると、サトコから口づけが贈られる。

サトコ
「これが‥私の気持ちです」

石神
サトコ‥

サトコへの想いが溢れ出し、彼女の唇にキスを落とす。

(規則を破った者は、未来に帰ることが出来ない)
(だが‥俺にはこの先、サトコと共に生きる未来がある)

彼女と共に過ごす未来‥それは俺にとって、他の何にも代えがたい幸福だと思った。

あれから数年後。

サトコ
「石神さん、蒸し器を温めてもらっていいですか?」

石神
ああ

小さな田舎の家に移り住んだ俺たちは、肩を並べてキッチンに立っていた。

サトコ
「あとは弱火にして、しばらく待てば完成です」

ニコニコと微笑むサトコにつられて、顔がほころぶ。

そして‥

石神
美味い‥

出来たばかりのプリンを食べると、濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がった。

石神
このプリンは‥あの時食べたプリンとどこか似ているな

サトコ
「ふふっ、それならよかったです」

微笑むサトコの肩をそっと抱き寄せる。

サトコ
「石神さん‥?」

不思議そうに見上げてくるサトコの唇にキスを落とす。

(あの時はどうなるかと思ったが‥)

サトコが隣で笑ってくれるだけで、未練はない。

(サトコに会えて‥本当に良かった)

サトコ
「ん‥」

幸せそうに目を閉じるサトコの背中に腕を回す。
未来を捨てても悔いがないほどの、“今”に幸福を感じて‥
俺はサトコへ『愛してる』と伝えるように、何度も口づけをした。

Happy  End

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