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総選挙2016① 俺が君を見つけた日:石神1話

【弁当屋】

サトコ
「予約の時間まであと少し‥急がなくちゃ」
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軽く冷やした唐揚げを、お弁当箱に詰めていく。

(あとでもう一度ご飯を炊いて‥)

サトコ
「あっ‥!」

慌てていたせいか、唐揚げを落としてしまう。

伯父
「何やってんだ!」

サトコ
「す、すみません‥」

伯父
「ったく、本当使えないやつだな。お前、何年この弁当屋を手伝ってんだよ?」
「まだまだやることはあるんだからな!」

サトコ
「‥‥‥」

唐揚げを拾いながら、きゅっと唇を噛む。

(言い返したいけど‥私はここに置いてもらってるんだ)
(何を言われても、我慢しなきゃ)

‥そう、私は家族を失くして伯父さんにお世話になっている身。

(それだけで本当にありがたいんだから!)

???
「すみません」

伯父
「客が来てるぞ、早く動け!」

サトコ
「は、はい!」

サッと手を洗い、厨房を出る。

サトコ
「いらっしゃいませ~!」

石神
‥‥‥
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レジに行くと、メガネをかけた男性がお弁当とプリンを手にしていた。

サトコ
「幕の内弁当とプリンですね」

レジを打ち品物を袋に入れながら、チラリと男性を見る。

石神
‥‥‥

(無表情だし、見た目は怖そうだけど‥)

プリンを買っている姿が印象に残る。

サトコ
「ポイントカードはお作りになりますか?」

石神
お願いします

サトコ
「かしこまりました」

スタンプを一つ押し、男性にポイントカードとボールペンを渡す。

サトコ
「こちらにお名前をお願いします」

男性はボールペンを受け取ると、名前の欄に『石神』と書いた。

サトコ
「ポイントカードに期限はないので、いつでもお使いになれます」
「こちら、お品物です。ありがとうございました!」

笑顔で品物を渡すと、石神さんは小さく会釈してお店を後にする。

(あの人、石神さんっていうんだ‥)

伯父
「サトコ!客が帰ったんならさっさと戻ってこい!」

サトコ
「は、はい!」

厨房に戻る途中、そっと胸に手を当てる。

(石神さん、か‥また来るかな?)

これが私と石神さんの出会いだった‥

サトコ
「いらっしゃいませ」

石神
‥どうも
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サトコ
「あ、石神さん。こんにちは」
「お仕事帰りですよね?お疲れさまです」

石神
ええ。ありがとうございます
貴女もお疲れさまです

フッと微笑む石神さんに、心が和らぐ。
あの日から、石神さんは毎日のようにうちに通っていた。

石神
今日は日替わり弁当と‥プリンはありますか?

サトコ
「すみません。プリンは品切れしちゃいまして」

石神
そうですか‥

表情は変わらないものの、心なしかシュンとしている石神さんに笑みが漏れる。

(なんだか、可愛いかも‥)

サトコ
「明日もいらっしゃるなら、取っておいて‥」

伯父
「おい、何ペラペラ話してんだ」

伯父さんが、厨房から顔を覗かせる。

伯父
「こっちの作業も残ってんだ。急げよ」

サトコ
「はい!」

石神
‥あの方は?

石神さんは伯父さんが戻ったことを確認すると、小声で問いかけてくる。

サトコ
「私の伯父さんです」

石神
伯父、ですか?

サトコ
「はい。実は私、身寄りがなくて‥ここでお世話になっているんです」

石神
そうでしたか‥

サトコ
「?」

僅かに瞳を伏せる石神さんに、首を傾げる。

サトコ
「あの‥」

石神
明日も来るので、プリンよろしくお願いしますね

サトコ
「あ、はい。ちゃんと取っておきますね」

ニッコリ微笑むと、石神さんも笑顔を返してくれた。

(石神さん、まだかな‥)

お弁当を作りながら、ついつい時間を確認してしまう。

(‥あ!石神さんかな)

入口の扉が開く音がし、レジへと急ぐ。

サトコ
「いらっしゃいま‥」

伯父
「おう」

サトコ
「伯父さん‥おかえりなさい」

伯父
「頼んだことはちゃんと終わらせたんだろうな?」

サトコ
「はい、もちろんです」

伯父
「ならいい」

伯父さんは鼻歌まじりに、厨房へと入っていく。

(最近、出掛けることが多いけど‥どこ行ってるんだろ?)
(それに、妙に機嫌が良いような‥)

石神
‥こんばんは

サトコ
「石神さん!いらっしゃいませ」

石神さんの来店に、満面の笑みで出迎える。

石神
‥‥‥

(‥あれ?)
(なんとなく表情が暗いような‥)

サトコ
「今日は何になさいますか?」

石神
唐揚げ弁当と‥プリンをお願いします

サトコ
「ふふっ、石神さんって本当にプリンが好きなんですね」
「いつも買ってくれるので、今日は1個オマケです」

差し出されたプリンを見て、石神さんはどこか寂しそうに微笑む。

石神
もうすぐここのプリンが食べれなくなるので、ありがたいです

サトコ
「えっ‥?」

(もうすぐ食べられなくなるって‥どこかに行ってしまうの?)

サトコ
「あの‥」

伯父
「サトコ!」

サトコ
「!」

伯父さんの怒鳴り声が、厨房から聞こえてくる。

伯父
「お前、予約の商品忘れてんだろ!?さっさと戻ってこい!」

サトコ
「す、すみません!」
「石神さん、ごめんなさい。私、行かないと‥」

石神
‥‥‥

サトコ
「石神、さん‥?」

石神さんは鋭い視線を厨房に向けている。

石神
‥なんでもありません
それでは‥プリン、ありがとうございました

去っていく石神さんの背中を見送る。

(あんな石神さん、初めて見た‥)

伯父
「サトコ!」

サトコ
「は、はい!すぐ行きます!」

私は慌てて厨房に戻った。

【商店街】
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数日後

(あれから何度か石神さんに会ったけど)

あの時気になった言葉を、なかなか聞けずにいた。
買い出しの荷物を持ちながら、重い足取りで帰路につく。

サトコ
「はぁ‥」

(今日は朝から体調が悪いな‥)

石神さんの件もあり、何度もため息を漏らしてしまう。

(お店に着いたら、少し休んで‥)

サトコ
「っ‥」

眩暈がしたかと思うと、急に意識が遠のいていく。

???
「サトコさん!」

サトコ
「あっ‥」

倒れそうになる瞬間、誰かに抱きかかえられた。

サトコ
「石神さん‥」
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石神
大丈夫‥じゃなさそうですね
急いで病院に行きましょう

サトコ
「きゃっ」

石神さんは私を優しく抱きかかえ、病院へ足を向ける。

石神
‥‥‥

真剣な表情の石神さん‥そして初めて触れる石神さんの身体に、心臓が跳ねる。

(私、なんでこんなにドキドキしてるんだろう‥)

【病院】

サトコ
「本当にありがとうございます」

点滴が終わり、石神さんにお礼を言う。

石神
いえ。お気になさらないでください

柔らかい笑みを浮かべる石神さんに、心が温かくなる。

(もっと石神さんのこと、知りたいな‥)

サトコ
「すぐにお店に出られると思うので、またプリン買いに来てくださいね」

石神
‥‥‥

サトコ
「石神さん‥?」

石神さんは一度視線を逸らし、迷ったように口を開く。

石神
数日後には、ここを離れないといけないので

サトコ
「えっ‥」

(なんで‥)

キュッと胸が締め付けられる感覚に戸惑う。

(なんでこんなに胸が苦しいの‥?)

サトコ
「どうして、ですか?」

石神
私は、本当は‥

伯父
「‥ああ?」

サトコ
「!」

石神さんの言葉を遮るように、伯父さんが病室に入ってくる。

伯父
「倒れたって聞いたが、大丈夫そうじゃねぇか」

サトコ
「伯父さん‥」

伯父さんはニヤリと笑みを浮かべる。

伯父
「もうすぐお前の嫁ぎ先に挨拶に行かねぇといけねぇんだから、体調には気を付けろ」
「せっかくあんな金持ちの息子が結婚してくれるって言ってんだからよ」

サトコ
「えっ!?」

石神
!!
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(結婚‥?)

サトコ
「そんなの聞いてません!」

伯父
「初めて言ったからな」
「お前の意思なんて関係ねぇ。これは決定事項だ」

サトコ
「そんな‥」

伯父
「挨拶にはお前も行くんだ。それまでに治しとけよ」

伯父さんは上機嫌に鼻を鳴らし、病室を出て行く。

(いきなり、結婚だなんて‥)

思い返せば、最近の伯父は出かけることが多く、機嫌もよかった。

(私の知らないところで、話を進めてたんだ‥)

石神
‥では、私はこれで

サトコ
「あっ‥」

パッと石神さんを見上げるも、顔を逸らされてしまう。

サトコ
「い、石神さん‥」

石神
‥‥‥

病室の扉が閉められる直前、石神さんのポケットから何かが落ちる。

サトコ
「あの‥!」

しかし石神さんは、気付かずに行ってしまった。

(今から追えば、間に合うかな?)
(でも‥)

『結婚』と『石神さんがいなくなる』ことがショックで、足が動かない。

(今度会えたら‥そのとき、渡せばいいよね)

石神さんの落とし物を拾い上げると‥

サトコ
「なんだろ。これ、小型の機械‥?」
「‥わわっ!」

どこかのボタンを押した拍子に、空気中に映像が浮かび上がる。

サトコ
「な、何これ‥!?」

慌てて機械をいじると、すぐに映像が消えた。

サトコ
「ビックリした‥」

(こんな機械、初めて見た。テレビでも見たことないし‥)

石神さんとの数少ない思い出が、脳裏を過る。

(お店に来る時間がいつも一緒で、プリンが好きで、怖そうに見えるけど実は話しやすくて‥)
(‥それくらいしか、彼のこと知らないんだ)

私は手のひらに収まる小型の機械を、まじまじ見る。

(石神さんって何者なの‥?)

to be continued

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