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総選挙2016① プラネット☆LOVERS:難波2話

サトコ
「室長!今、向こうで何かが動きました!」
「あっちに、誰かいます‥!もしかしたら助けてもらえるかも!」

歓声を上げる私とは正反対に、室長は用心深く私が指した方を窺った。
砂以外に何もないそこに、確かに人影が見える。

難波
幻覚‥じゃ、なさそうだな

サトコ
「とにかく、声を掛けてみましょう!近くに街があるのかも‥」

(それに、話を聞けばここがどこなのか、いつの時代なのかもきっとはっきりする‥!)
(そうすれば、元の時代に帰る方法が見つかるかもしれない!)

人影に向かって駆け出す私の背中を、室長の声が追いかけてくる。

難波
サトコ、待て!

サトコ
「え‥」

振り返った直後、頭上から轟音が聞こえてきた。
見上げる暇もなく、大きな檻に室長と共に閉じ込められた。
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(え‥!?な、何!?)

難波
‥やっぱりか

サトコ
「し、室長‥これは‥」

難波
‥罠だ

室長の言葉に応えるように、前方からさっきの人影が近づいてくる。
その人の顔がはっきり見えた時、室長と共に息を飲んだ。

鳥人間
「お前らは、何者だ」
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サトコ
「‥‥‥!?」

難波
‥‥‥

鳥人間
「なんのために、ここに踏み入った」

(とっ‥ととと、鳥人間!?)
(身体は人間だけど‥あ、頭が鳥っ‥)

難波
‥言葉は通じるらしいな

私を守るようにして寄り添いながら、室長がつぶやく。

(確かに‥だけど、この檻は?だいたい、頭が鳥で身体が人間なんて生き物、聞いたことない‥!)

難波
私たちは、日本から来ました

慎重に、室長が鳥人間に答える。

難波
少々理由があって、迷い込んでしまったんです
ここがどこなのか、教えて頂けますか?

鳥人間
「ここは我々の領地だ」

サトコ
「領地‥?」

鳥人間
「お前たちは、不法侵入という大罪を犯した」

(砂漠が領地‥?そこに入ったから不法侵入、なんて‥)

難波
勝手にここへ来たことは謝ります。ですが我々も、突如‥

鳥人間
「罪人と話すことは何もない。連れて行け」

鳥人間が手を挙げて合図をすると、どこからともなく他の鳥人間たちがゾロゾロと現れた。
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(ぶ、不気味‥!だけど、過去にこんな生き物がいたなんて文献は残ってない)
(とすれば、ここは未来‥?)

不安に押しつぶされそうになりながら室長を仰ぎ見ると、力強く手を繋いでくれた。

難波
ここは大人しくしておこう

サトコ
「で、でも‥」

難波
逃げたところで、どうしようもない
こいつらが、元の世界に戻る手がかりを知ってる可能性もあるからな

小さく頷く私の頭を、室長がいつものように優しく撫でてくれる。

難波
大丈夫だ。俺がついてる
お前には、指一本触れさせないからな

(室長‥また、私を励まそうとしてくれてる)
(室長がいてくれて本当に良かった‥絶対に、ふたりで一緒に帰りたい‥!)

その時、檻の扉がゆっくりと開いた。
中に鳥人間たちが入って来て、私たちの腕を掴む。
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サトコ
「きゃっ」

鳥人間
「出ろ」

難波
いてててっ。もっと丁重に扱ってくれよ

私のあとから引きずり出された室長が、砂に足を取られて転びそうになる。
なんとか踏みとどまったものの、ポケットに入っていたキャンディが転がり落ちた。

(あっ‥貴重な食糧が!)

慌てて拾い上げようとすると、近くにいた鳥人間にその手を振り払われた。

サトコ
「な‥!?」

鳥人間1
「なんだ、あれは‥」

鳥人間2
「見たこともない‥危険なものか?」

鳥人間3
「だが、そうは見えないぞ」

透明な包装紙に包まれたキラキラ輝くキャンディ。
それを見た鳥人間たちが、一斉にざわつき始めた。

(な、何‥!?)

鳥人間
「女」

サトコ
「は、はい!」

鳥人間
「そこに転がっているそれは、なんだ?」

サトコ
「これは、私たちの国のキャン‥」

難波
私たちの国でしか手に入らない、とても貴重で特別な宝石です
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私を制して、代わりに室長が答えた。
驚く私に目配せをして、さらに室長が鳥人間たちに向き直る。

難波
私たちの国の者以外には、決して渡してはならないとされています

鳥人間
「なるほど‥それほど美しいものなら、うなずけるな」

難波
ええ。ただ‥もし我々を解放してくれるのなら、特別に分けて差し上げましょう

鳥人間
「何‥?」

難波
この国では、決して手に入らないものです。悪い話ではないと思いますが?

砂の上に落ちたキャンディを拾いあげて、室長がどこか鋭く笑った。

(この顔‥研究に没頭している時と同じ顔だ)

鳥人間たちは慌てた様子で集まり、私たちをチラチラ見ながら相談を始めた。

(どうか、交渉が成功しますように‥!)

でも、その祈りは届かなかった。
鳥人間たちが、私たちに冷酷な笑みをよこす。

鳥人間
「交渉は決裂だ」

難波

鳥人間
「お前たちを捕まえて、宝石もいただく」

サトコ
「そんな‥!」

慌てる私の前で、鳥人間たちが一斉に懐から何かを取り出す。
それは‥冷たく光る、銃だった。

(ウソっ‥どうしてそんなもの)

鳥人間
「まずは、お前からだ」

銃口が、一斉に私に向けられる。

難波
サトコ!
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咄嗟に、室長が私を庇うように立ちはだかった。
その瞬間、鳥人間たちの銃が火を噴く‥‥‥‥

サトコ
「‥室長!!!」

【研究室】

ラジオ
『まもなく、午前3時をお知らせします』
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どこかで聞いたその時報に、意識が覚醒した。
身体を起こすとそこは砂漠ではなく、見慣れたいつもの研究所。

(あれ‥?私、寝ちゃってた‥?)
(でも、そんな‥じゃあ、さっきのは‥)

サトコ
「そうだ‥室長!」

慌てて部屋を見回すと、すぐ近くに室長が突っ伏していた。
ゆっくりと目を開けて、驚いたように目を見張る。

難波
‥サトコ?

サトコ
「私たち‥寝ちゃってたんですかね‥?」

難波
ああ‥

(だけど、今‥すごく変な夢を見てた気がするんだけど)
(‥夢?あれは本当に、夢だったの‥?匂いも音も感触も、あんなにリアルだったのに)

考え込む私に、室長が困ったように切り出す。

難波
笑われるかもしれないんだけどな

サトコ
「え?」

難波
今‥タイムマシンが完成したと思ったら、光に包まれて
砂漠の変なところに飛んで、鳥人間たちに捕まった‥っていう夢を

サトコ
「し、室長!」

思わず、室長の言葉を止める。

サトコ
「それ、私も見ました!」

難波
なんだって?
じゃあ‥結局、夢だったのか?夢じゃなかったのか?

サトコ
「わかりません‥でも、さっきの時報を聞いたのは二度目なんです」
「もしかして、私たち‥」

顔を見合わせて、室長と一緒にタイムマシンに駆け寄る。
でも完成したはずの試作機は、なぜかうんともすんとも言わなかった。

(マシンの完成自体が夢だったってこと‥?でも、ふたり同時に同じ夢を見るなんて)

まるで、狐につままれたような気持ちでマシンを眺めていると、ひらりと何かが落ちた。
室長の背中についていたそれは‥鳥の羽根だった。

サトコ
「こ、これ‥」

難波
なんだ?

サトコ
「室長‥!この色、覚えてませんか!?」

茶色い羽根を見せると、室長がハッとなる。
もう一度私と顔を見合わせると、まだ半分信じられないような表情で口を開いた。

難波
‥夢じゃなかったのかもしれないな

サトコ
「そうですね‥」
「‥無事に帰って来られて、よかったです」

羽根を持ったまま、身体の力が抜けてその場に座り込んだ。

サトコ
「あの時‥室長が死んじゃうかと思ったんです」
「私を庇って‥室長が撃たれるかも、って」

私と同じ目線までしゃがみこむと、室長がきつく抱きしめてくれる。

難波
守るって言っただろ?

サトコ

「え?」

難波

安心しろ。何があっても、お前のことは俺が守る

だから、ふたりで一緒に帰ろう。な?

(そうだ‥あの時室長は、そう言ってくれた)
(砂漠で不安になった時も、ずっと励ましてくれた‥)

ギュッと、自分から室長に抱きつく。
頭を撫でてくれながらも、室長のどこか困ったような声が聞こえてきた。

難波
しかし、タイムマシンは作り直しだな

サトコ
「あ‥」

難波
次完成するのは、いつになるか‥

落ちこんだ様子の室長に、今度は私が顔を上げる。

サトコ
「大丈夫です!またふたりで頑張りましょう!」

難波
‥‥‥

(あれ‥?私、変なこと言った‥?)

難波
お前ってやつは‥
あんな目に遭ったあとだってのに

サトコ

「だって、せっかく完成したのに、悔しいじゃないですか」
「次のが完成したら、試作2号機ですね!」

難波
‥そうだな

ゆっくりと、室長の顔が近づく‥

難波
本当に、お前は最高のパートナーだよ
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いつも以上に優しいキスは、私たちが“今”を生きていることを実感させるものだった。

End

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