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総選挙2016② 石神 2話

【商店街】

石神

この辺りだと思うんだが‥

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石神さんは携帯の地図を確認しながら、辺りを見回す。

私たちは電車を乗り継ぎ、ロケ地の近くまでやってきた。

(ここまで来るのに、結構かかっちゃったな)

電車の接続が悪く、駅に着くころには空が夕焼け色に染まっていた。

(早くお弁当屋さんを見つけないと、日が暮れちゃう‥)

サトコ

「‥あっ!石神さん、あそこ!」

石神

ん?

サトコ

「あのお弁当屋さんじゃないですか?」

見覚えのあるお弁当屋さんに、たくさんの人が集まっている。

石神

‥ああ、間違いない

私たちは顔を見合わせ微笑むと、お弁当屋さんに足を向けた。

【弁当屋】

サトコ

「ふふっ、楽しみですね」

石神

ああ

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最後尾に並び、順番を待つ。

石神

映画の影響もあるだろうが‥ここまで並んでいるんだ。さぞかし美味いプリンなんだろう

(石神さんがソワソワしてる‥)

無表情ながらもどこか嬉しそうな石神さんに、顔がほころぶ。

店員

「お待たせしました」

石神

プリンを2つお願いします

店員

「申し訳ありません。プリンは先ほどのお客様で完売してしまいまして‥」

石神

何‥?

石神さんの眉がピクリと跳ね、心なしか残念そうに視線を落とす。

石神

そうですか‥

(あっ‥)

映画で見たヒーローの反応と、石神さんの姿が重なる。

(可愛いな‥)

笑みが漏れそうになるも、ぐっと堪える。

(そもそもプリンが買えなかったのは、私が道に迷っちゃったせいなんだから‥)

石神

‥このお店は、何時から営業していますか?

店員

「朝の5時からになります」

石神

そうですか、ありがとうございます

‥行くぞ。サトコ

石神さんは私の手を引き、お店を出た。

【店外】

サトコ

「私のせいで、すみません‥」

来た道を戻りながら、石神さんに謝る。

石神

終わったことはもういい。過去を振り返ってもいいことはないからな

石神さんは薄く微笑みながら、私の頭を撫でた。

石神さんの優しさに、胸が温かくなる。

石神

それに、あの弁当屋は朝早くからやってる

朝イチで買って戻れば、仕事には間に合うだろう

サトコ

「へ‥?」

(それじゃあ‥)

石神

せっかくここまで来たんだ。今日は泊りだな

【旅館】

(まさか、お泊りになるなんて‥!)

先にお風呂に入った私は、部屋で石神さんを待っていた。

(石神さんには申し訳ないけど‥久しぶりのお泊り、ドキドキするな)

石神

何かいいことでもあったのか?

サトコ

「あ、おかえりなさ‥」

(石神さんの浴衣姿‥!)

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久しぶりに見る石神さんの浴衣姿に、ほのかに頬が熱くなる。

石神

‥笑ってたり赤くなったり、忙しい奴だな

石神さんは苦笑しながら、私の隣に座った。

サトコ

「そ、その‥無事に泊まれるところが見つかって良かったなって思ったんです」

映画の影響か、この辺りにある宿はどこも満室だったのだ。

石神

そうだな。これであのプリンを買うことが出来る

サトコ

「ふふっ、そうですね」

石神さんの言葉に微笑みかけるも、ふとあることが過る。

石神

明日、訓練生は確か午後からの講義だったと思うが‥お前は嫌か?

サトコ

『私は大丈夫です!でも、石神さんは講義の準備とかあるんじゃ‥』

石神

何も問題はない

(問題ないって言っても、それでも最低限の準備とかはあるだろうし‥)

サトコ

「明日のお仕事、大丈夫ですか?」

石神

仕事なら‥

石神さんはふいに言葉を切り、ゆっくりと私に視線を向ける。

石神

‥いや、大丈夫ではないな

サトコ

「えっ‥」

(石神さんの雰囲気が‥もしかして、怒ってる!?)

サトコ

「す、すみません!」

「それなら私が朝イチでプリンを買いに行くので、石神さんは先に戻って‥」

石神

サトコ

サトコ

「!」

気付いたら、石神さんの腕に抱かれていた。

サトコ

「石神、さん‥?」

石神

この失敗の借りは、きっちり償って貰う

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サトコ

「んっ‥」

唇が重なった瞬間、いつもより乱暴に愛情を注ぎこまれる。

呼吸をすることすら許されないキスに、眩暈を覚えた。

サトコ

「っ‥」

あまりの熱情に、石神さんの浴衣にしがみつく。

サトコ

「‥はぁ」

唇が離れ、大きく息を吸う。

石神さんの熱い視線が、私を射抜いていた。

石神

これで終わりだと思うなよ?

サトコ

「あっ‥‥」

布団の上に押し倒され、浴衣の隙間から石神さんの手が滑り込む。

こそばゆくて身をよじると、再び唇が塞がれた。

(石神、さん‥)

心の中で名前を呼ぶと、それに応えるように与えらえる熱量が増していく。

戸惑いを覚えながら身を預けると、熱い夜が更けていった。

【弁当屋】

翌日。

サトコ

「わぁ、これが噂のプリン‥!」

朝イチでお弁当屋さんに並び、私たちはついにプリンとご対面した。

石神

‥‥‥

石神さんはスプーンを手に取り、静かにプリンを口に運ぶ。

石神

これは‥!

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もう一度プリンを口にすると、石神さんは真剣な表情でつぶやく。

石神

この今までに味わったことのない香ばしさ‥

この香ばしさは、まさか隠し味に醤油を使っているのか‥?

店主

「よくぞ、お分かりになりましたね」

私たちの様子を見ていた店主が、ニッコリと微笑む。

石神

やはりそうでしたか。弁当屋ならではの発想だと思います

プリンが香ばしく、普通のプリンとは一線を画すものになっています

満足そうにプリンを食べる石神さんの隣で、私もぱくりとプリンを食べる。

サトコ

「ん~、本当に美味しいです!」

石神

だろう?土産にいくつか買ってくか‥

真剣に悩み始める石神さんに、私は笑みを零した。

【帰り道】

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サトコ

「プリン美味しかったですね」

お弁当屋さんを後にして、最寄の駅に向かう。

石神

ああ。結局、土産用に買ってしまったな

(ふふっ、石神さん嬉しそう。本当にあそこのプリンが気に入ったんだな)

石神

放課後食べるか。お前も一緒に食べるだろ?

サトコ

「はい!」

返事をしながら辺りを見ると、見覚えのある風景が目に入る。

サトコ

「石神さん、この風景って‥」

記憶を辿りながら、足を止める。

『ここは‥』

『ここまでくれば、さすがに追ってこないだろう』

サトコ

「あの映画のラストシーンの風景に似てませんか?」

石神

そうだな

古民家が立ち並ぶ自然いっぱいの風景に、思わず見惚れる。

サトコ

「素敵な場所ですね」

石神

ああ

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サトコ

「ふふっ、こうして歩いているとまるで映画の登場人物になったみたいです」

石神

となると‥お前がヒロインか?

サトコ

「それなら石神さんは、ヒーローですね!」

満面の笑みで返すと、石神さんはフッと笑みを浮かべる。

石神

そうか‥

石神さんは微笑みを携えたまま、自然いっぱいの風景を眺める。

(ヒロインたちは、この場所で結ばれたけど‥)

サトコ

「あの映画の2人は、あの後どうなったんでしょうか?」

石神

あの後、か‥

あの2人は家族も戻る場所も、何もかもを捨てた

そのせいで、数えきれないほどの苦労をすることになるだろう

だが‥

石神さんは一度言葉を切り、私に視線を向ける。

石神

愛し合うあの2人なら、どんな困難も乗り越えられるだろう

そして私の手をそっと握り、身を屈める。

サトコ

「ん‥」

唇にキスが落とされ、繋がれた手に力が込められた。

石神

俺はこれからサトコと一緒に、物語を作っていくんだな

サトコ

「はい!」

元気よく返事をする私に、石神さんは目を細めた。

石神

‥そろそろ行くか

私たちは手を繋いだまま、歩き始めた。

愛しい人と肩を並べながら、あの映画に想いを馳せる。

(私も石神さんと一緒に、素敵な物語を描いていけたらいいな)

Happy  End

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