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総選挙2016② 石神 1話

【映画館】

サトコ

「石神さんは何が観たいですか?」

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久しぶりに休日が重なり、私たちは映画館にやってきた。

石神

お前が観たいものでいい

サトコ

「ふふっ、ありがとうございます」

(何にしようかな‥)

(恋愛映画に、青春映画‥あっ、動物の映画もある)

上映一覧を見て、とある映画に目を留める。

(そういえば、この映画って‥)

サトコ

「石神さん、これが観たいです!」

石神

SF映画か‥

サトコ

「今話題の映画らしいですよ。よくテレビで特集が組まれてるんです」

石神

じゃあ、これにするか

サトコ

「はい!」

私たちはチケットを買い、劇場に入った。

サトコ

「うぅ‥」

映画はクライマックスを迎え、先ほどから涙が止まらない。

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(ハンカチは‥)

鞄から取り出そうとすると、スッと隣から差し出される。

石神

‥‥‥

(ありがとうございます‥)

口パクでお礼を言うと、石神さんは薄く微笑む。

サトコ

「っ‥」

その微笑みが映画のヒーローと重なって、ドキッと胸が跳ねた。

サトコ

「ハンカチ、ありがとうございました。洗って返しますね」

石神

このままでいい

石神さんは私からハンカチを受け取ると、ポケットにしまう。

石神

ずっと泣いていたな

サトコ

「だ、だって‥すごく感動したから‥」

「伯父さんの前からヒロインが連れ出されるシーンが、特に良かったです!」

「理不尽な環境からヒーローが救ってくれる‥女の子の永遠の憧れですよ」

石神

そうなのか‥?

サトコ

「はい!」

力説する私に、石神さんは苦笑いする。

石神

まあ、話題作というだけあったな

ストーリーも作り込まれていて、予想以上に良かった

それに‥

サトコ

「それに?」

石神

あの弁当屋のプリンが美味そうだった

サトコ

「ふふっ、石神さんらしいですね」

(確かにあのプリンは美味しそうだったからなぁ)

サトコ

「あ、そういえば‥あのプリンって実際に売ってるそうですよ」

石神

何‥?

私の言葉に、石神さんのメガネがキラリと光る。

サトコ

「この前、テレビで見たんです」

「あのお弁当屋さんは、映画のロケ地の近くにあるお店をモチーフにしているって」

「映画の影響で、連日売り切れだそうですよ」

石神

そうだったのか‥。弁当屋のプリンがそこまで美味いとは、盲点だったな‥

石神さんはチラリと腕時計を見て、口を開く。

石神

‥行ってみるか

(えっ‥)

サトコ

「行くって‥これからですか?」

石神

ああ

明日、訓練生は確か午後からの講義だったと思うが‥お前は嫌か?

サトコ

「私は大丈夫です!でも、石神さんは講義の準備とかあるんじゃ‥」

石神

何も問題はない

(石神さんって、プリンに対する熱意がすごいよね)

(それに‥)

石神さんの影響か、私もあのプリンがものすごく気になってきた。

サトコ

「それじゃあ、行きましょう!」

【街】

サトコ

「えっと‥」

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映画館を出ると、ロケ地を携帯で検索する。

サトコ

「ロケ地はここから少し離れたところにありますね」

「この場所だと、電車の方がいいかもしれません」

石神

なら、駅に向かうか

私たち手を繋ぎ、駅へ向かう。

(ふふっ、こうして手を繋ぐのも久しぶりだな)

石神

なにかいいことでもあったのか?

サトコ

「はい!石神さんと手を繋げるのが嬉しくって」

(学校では恋人らしいこと出来ないから、余計にそう感じるのかも‥)

石神

‥そうか

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そう呟く石神さんの頬は、うっすらと赤く染まっていた。

【電車】

サトコ

「私、映画のロケ地に行くのなんて初めてです」

電車に乗り、石神さんと並んで座る。

サトコ

「映画に出てきた景色や世界観も素敵だったし、楽しみだなぁ」

石神

そうだな。もちろん、プリンも楽しみだが‥

俺も以前から、映画に出てくる場所を見てみたいと思っていた

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サトコ

「ロケ地に行ってから、もう一度映画を観るもの楽しそうですよね」

石神

ああ

他愛の話をしていると、段々会話が少なくなっていく。

石神

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

やがて、私たちの間に沈黙が訪れたけど‥

無言の時間も、私にとっては優しい時間だった。

しばらくして、窓の外の景色が都会の賑やかな雰囲気から落ち着いたものへと変わっていく。

(そろそろ近づいてきたかな?)

映画の街並みを思い出し、石神さんに声を掛ける。

サトコ

「石神さん、見てくださ‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さん‥?」

ふと肩に重みを感じて、隣に顔を向ける。

(寝ちゃってる‥)

石神さんは瞼を閉じて、静かな寝息を立てていた。

(昨日も遅くまで仕事だったって言ってたし、疲れちゃったのかな?)

サトコ

「‥お疲れさまです」

小さく声を掛けて、石神さんの手に自分の手を重ねる。

石神

‥‥‥

それに反応したのか、石神さんは僅かに頬を摺り寄せた。

(無意識、なんだよね‥)

石神さんの反応が可愛くて、頬が緩む。

(石神さんの顔がこんなに近くにあって、ドキドキするけど‥)

思い切って、石神さんの肩に寄り掛かってみる。

愛しい人の温もりを感じ、その心地よさに小さく欠伸をする。

(ロケ地に着くまで、もう少しかかりそうだし‥)

私はゆっくり瞼を閉じ、まどろみに身を任せた。

サトコ

「‥ん」

ウトウトしながら目を開けると、目的地まであと少しのところまで来ていた。

サトコ

「石神さん‥」

隣を見ると、石神さんは瞼を閉じたままだった。

(出来ることなら、このまま寝かせてあげたいけど‥)

サトコ

「石神さん、起きてください。そろそろ着きますよ」

石神

‥‥‥ん

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石神さんは目を覚ますと、ぼんやりと窓の外を眺める。

それから間もなくして駅に着き、私たちは電車を降りた。

【駅】

サトコ

「う~ん‥!」

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改札を出て、大きく伸びをする。

サトコ

「さて、張り切ってロケ地に向かいましょうか!」

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さん‥?どうかしましたか?」

石神

‥すまない。気付いたら眠ってしまっていた

サトコ

「ふふっ、気にしないでください」

申し訳なさそうにする石神さんに、先ほどのことを思い出す。

(石神さん、気持ちよさそうに眠ってたな)

無防備に眠る石神さんを想い出し、頬が緩む。

(他の人は、石神さんのあんな姿見られないんだよね‥)

石神

どうした、ニヤニヤして。何か言いたいことでもあるのか?

(そっか、石神さんは私の肩で寝てたこと覚えてないんだ‥)

(‥言わないでおこうかな?)

サトコ

「いえ、なんでもありませんよ」

石神

‥?

石神さんは首を傾げながら、私の手をそっと握る。

石神

じゃあ、さっそく行くか

サトコ

「はい!」

私たちは指を絡め、目的地に向かって歩き出した。

【商店街】

サトコ

「おかしいな‥」

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駅を出て、しばらく経った頃。

(地図の通り歩いているはずなんだけど‥)

いくら歩いても、一向に目的地が見つからなかった。

携帯の地図を見ながら、辺りを確認する。

サトコ

「ここにコンビニがあって、あそこに本屋があるから‥」

石神

待て、サトコ

石神さんは私を呼び止めると、携帯を取り出し調べ始める。

石神

‥同じ市の名前だが、ここではないみたいだ

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サトコ

「えっ!?」

石神さんの携帯を見ると、ここからかなり離れた場所が表示されていた。

サトコ

「本当だ。すみません‥」

(私がちゃんと調べなかったから‥こんな単純なミスをするなんて、石神さんも呆れてるよね)

石神

サトコ

石神さんはフッと微笑むと、私の頭をポンッと撫でる。

石神

そう落ち込むな。きちんとチェックしなかった俺にも責任はある

サトコ

「石神さん‥」

石神

せっかくここまで来たんだ。行こう

サトコ

「‥はい!」

勢いよく返事すると、石神さんは優しい笑みを返してくれた。

to be continued

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