カテゴリー

総選挙2016② 難波 2話

心臓破りの坂を登り切った私たちが見たものは‥

なんと、ロープウェイ乗り場だった。

難波

これがある。ってことは‥

サトコ

「今の坂‥ロープウェイで登ってくればよかったんですかね‥?」

呆然と尋ねると、室長が力なく笑う。

難波

そうらしいなぁ

サトコ

「す、すみません‥きっと坂の下にも乗り場があったはずなのに」

「全然気付かなくて‥注意が足りませんでした」

さっきの厳しい坂を思い出して、がっくりと肩の力が抜ける。

しょんぼりする私を見て、室長が軽く私の背中を叩いた。

難波

いや、俺も気づかかなかった。案内図も分かりにくかったしな

それより、大丈夫か?相当きつかっただろ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-073

サトコ

「私は、室長に引っ張ってもらったので‥」

「私よりも、室長の方が」

難波

まぁ、いい運動になったし、たまにはいいだろ

おっさんも適度に運動しろ、ってことだろうな

気にした様子もなく、室長が笑いながら歩き出す。

(時間もかかっちゃったし、疲れたのに‥なのに、笑って許してくれる‥)

(室長って本当に優しい‥こういう時は特に、大人の男の人だなって思うな‥)

難波

それより、ちょっと口開けてみろ

サトコ

「え?」

突然の言葉に不思議に思いながら、軽く口を開ける。

すると、室長が私の口の中に何かを入れた。

サトコ

「!」

難波

甘いもんを食べれば、疲れも取れるだろ?

(これ‥キャンディ?)

口の中に、優しい甘さが広がっていく。

難波

何味なのかイマイチわからんが、美味いだろ

やっぱり、お菓子は常にポケットに入れとくもんだな

(もしかして、慰めてくれてる‥?)

(室長のこういうさりげない優しさ、嬉しいな‥)

サトコ

「ふふ‥美味しいです」

難波

ああ‥でもな

ほっこりする私に、室長が不意に真剣な顔になった。

難波

これは、お前と俺だけの秘密なんだが

サトコ

「え‥?」

難波

実は、この飴はな‥

耳元で、室長が慎重に囁く‥

難波

この国でしか採れない、貴重な宝石なんだ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-075

サトコ

「!」

思わず室長を見上げると、真面目な中にもどこか茶目っ気がある笑顔を浮かべている。

(それって、さっき観た『プラネット☆LOVERS』の‥)

気付いた瞬間、つい吹き出してしまった。

サトコ

「それじゃ、鳥人間たちに見つかったらマズイですね」

難波

ああ、取られちまう

サトコ

「貴重な食糧なのに」

難波

そうだ、これが俺たちの生死を分けるんだからな

笑いながら、室長がキャンディを口に入れる。

サトコ

「室長のは、何味ですか?」

難波

ん?石味だな

映画と同じやりとりに、室長と顔を見合わせて笑う。

こんな些細なことを共有できるのが、とても嬉しかった。

【鳥類コーナー】

そのあともしばらく歩き、やっとの思いで鳥類コーナーに辿り着いた。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-076

サトコ

「遠かったですね‥」

難波

この動物園、一日じゃ回り切れないんじゃないか?

とりあえず、檻の向こうの鳥たちを見てみる。

ネムちゃんと同じ種類の鳥は、パッと見たところいなかった。

サトコ

「うーん、いませんね」

難波

似たようなのならいるんだけどな

大きな檻の向こうの鳥が気になるのか、室長がうろうろしている。

そちらに近づいた瞬間、同じ檻の奥に、もう一羽の鳥がいることに気付いた。

サトコ

「室長!あの子、似てませんか?」

難波

ん?どれだ?

サトコ

「檻の奥にいる子です!ほら、あの目つきといい‥」

難波

おお‥似てるな

私に頬を寄せるようにして、室長が檻の奥を覗き込む。

肩が触れ合って、室長の体温がそこから伝わってくる気がした。

(なんか今日は、室長と密着することが多い‥)

(恥ずかしいけど、学校ではこういうことがないし、嬉しいな)

難波

んー、似てる気はするが、あいつはもっと尾が長かった気がするんだよな

サトコ

「言われてみれば‥よく見ると、あの鳥は短いですね」

難波

もしかして、ルーツは一緒かもしれないな

あのふてぶてしい顔は、確かにアイツによく似てる

でも結局、ネムちゃんと同じ鳥は見つけることが出来なかった。

【難波 マンション】

動物園を満喫して、その夜は室長の部屋にお邪魔した。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-077

難波

いやあ、今日はよく歩いたなぁ

こんなに頑張ったのは、いつ以来か‥

こんな日は、ゆっくり風呂にでも浸かるか

腰を叩きながら、室長がバスルームの方へ消えていった。

(結局、ネムちゃんがなんていう種類の鳥なのかは分からないままだったな)

(でも、室長と始めて行った動物園‥すごく楽しかった)

心臓破りの坂を登ったり、不意に身体が触れ合ったりと、いろんなことがあった。

でも振り返ってみると、どれもいい思い出だ。

難波

今お湯溜めてるから、ちょっと待ってろ

サトコ

「ありがとうございます」

バスルームから戻ってきた室長が、ソファに座っていた私の隣に腰を下ろす。

難波

いやぁ、疲れたけど結構楽しかったな

サトコ

「そうですね。なんだか新鮮でした」

難波

たまにはこういうデートもいいもんだ

いつも、部屋で過ごしたり、飯食って終わりなことが多いもんな

サトコ

「はい!すごく楽しかったです!」

室長に笑顔を向けると、大きな手で優しく肩を抱き寄せられた。

難波

砂漠よりはよかっただろ、動物園

サトコ

「うーん、砂漠に行ったことがないから、分からないですけど」

「でも、たとえ砂漠だとしても‥室長と一緒なら大丈夫です」

難波

‥‥‥

サトコ

「砂漠でも動物園でも研究所でも、室長といられるならどこでもいいですよ」

私の肩から手を離して、室長が頬に手を添える。

唇が重なり、至近距離で目が合った。

難波

鳥人間には先に撃たれちまうかもしれんが‥

それでも、お前のことは最後まで守ってやる

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-079

サトコ

「射撃で室長に敵う人なんていませんよ」

笑い合い、何度もキスを繰り返す。

ついばむような軽いキスは、次第に深くなっていき‥室長が私に体重をかけて、押し倒した。

サトコ

「室長‥お風呂‥お湯が‥」

難波

ああ、溜まったら一緒に入るぞ

サトコ

「はい‥」

「‥え!?」

(い、一緒に‥!?さすがにそれは、心の準備がっ‥)

サトコ

「でっ、でも‥」

難波

悪いが、今は離れられそうにない

いや‥今、じゃないな。今日は無理だ

真剣な、どこか余裕のない表情で室長が私の頬を両手で包み込む。

(そんな顔されたら、恥ずかしいから無理です、なんて言えない‥)

(室長、ずるい‥)

恐る恐る、室長の背中に腕を回す。

それに応えてくれるように、ソファの上で室長がきつく私を抱きしめた。

(『プラネット☆LOVERS』のふたりは、最後にスマートなキスをしてたけど)

(どんなに素敵な映画のキスよりも、室長とのキスが一番‥)

少しずつ、お互いの吐息が荒くなっていく。

キスだけでは終わらない予感に、肌を隠すように室長の胸に顔を埋めた‥‥

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする