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総選挙2016② 難波 カレ目線

【映画館】

ある休日、サトコを誘って話題の映画『プラネット☆LOVERS』を観た。

(あの鳥、似てるよなぁ、アイツに‥)

上映中、映画に登場する鳥人間が気になって仕方がない。

以前預かった鳥に、やたらと似ている気がした。

(まあ、他鳥の空似‥?ってやつか)

(ああいう鳥なら、どこにだって‥いや、いないか)

映画が終わると、サトコが開口一番、俺に告げる。

サトコ

「似てませんでしたか!?あの鳥!」

どうやら同じことを考えていたらしく、サトコはまだ興奮気味だ。

難波

ああ‥似てたな

サトコ

「ですよね!そっくりでしたよね」

難波

ほんとになぁ。たまげたたまげた

(やっぱり、お前もそう思ってたのか)

(なんだろうな、同じことを考えてたってだけで、こんなに嬉しいなんて)

そのあと、サトコが鳥の種類を尋ねてきた。

だが、言われてみれば飼い主にそれを聞いた覚えもない。

(今日はこの後、特に予定もなかったな‥)

(よし、ちょっと行ってみるか)

ネムちゃんがなんという種類の鳥だったのかを調べるべく、動物園へと向かった。

【動物園】

行き先を告げなかったせいか、動物園の入口をくぐると、サトコが目を輝かせる。

サトコ

「動物園なんて久しぶりです!いつ以来だろう‥!」

「高校生の頃に来たから、10年ぶりくらいかな」

(10年前は、まだ高校生か‥俺なんて10年前ですでに加賀くらいの歳だったってのに)

(そんな若い娘が、こんなおっさんの何がいいのか‥)

そう思うのに、動物園を前にするサトコと同じようにわくわくしている自分がいる。

(動物園なんて、数年前に捜査で来た時以来か‥)

(あの時は、動物見てる余裕もなかったしなあ)

周りを見回すと、家族連れが目立った。

サトコ

「休みの日だから、子ども連れが多いですね」

難波

そうだなぁ‥

だが、中には高校生や大学生のカップルもいる。

その中に入ると、なんとなく妙な居心地の悪さを覚えた。

(こんなおっさんが、中学生のデートみたいなことして大丈夫か?)

(いくら、鳥のことを調べるためとはいえ‥)

サトコ

「室長!向こうにお土産ショップがありますよ」

「帰りに寄っていきましょうか」

難波

ああ、そうだな

サトコの笑顔を見ると、迷いや心配などあっさり消えてしまう。

(どんな場所でも、こいつが楽しいならそれでいいか)

柄にもなくそんなことを考えて、サトコの手を取り歩き出した。

鳥類コーナーへ向かう途中の坂を登り切ると、サトコが俺を振り返った。

サトコ

「室長!やりましたね!」

難波

ああ、途中で諦めそうになったけどな

サトコ

「見てください、良い景色!」

達成感に満ちた笑顔を浮かべて、サトコが俺の袖を掴む。

(たかが坂を登ったくらいで、そんな顔しちゃって)

(この笑顔がいいんだよな、ひよっこは)

その笑顔に引き寄せられるように、唇をついばむ。

近くに人がいたせいもあってか、サトコが途端に慌てだした。

サトコ

「だ、誰かに見られたら‥!」

難波

別にいいだろ

俺の言葉に、照れ隠しなのかサトコが先に歩き出した。

(こんな態度も、かわいくて仕方ないなんて)

(俺もずいぶんと、惚れこんじまったな)

微笑ましく思いながら、サトコを追いかけた。

実はロープウエイがあったことを知って、サトコが少し落ち込む。

どうにかして励まそうと考えていると、ポケットに入っていた飴に気付いた。

(人間、甘いものを食べてりゃ落ち着くもんだ)

サトコの口に入れると、ようやくその表情に笑顔が戻る。

サトコ

「美味しいです。室長のポケットには、いつもお菓子が入ってますね」

難波

まあ‥たまたまな

(そういや‥『プラネット☆LOVERS』の主人公も飴を持ってたな)

そこで、ちょっとした悪戯を思いついた。

サトコの耳に顔を寄せて、『これは特別な宝石だ』とささやいてやる。

サトコ

「ふふっ、じゃあ鳥人間に見つかったらまずいですね」

難波

ああ、取られちまうからな

(くだらない、なんて笑われるかと思ったが)

(こんなことすら一緒に楽しんでくれるんだな、お前は)

だがきっと、サトコより自分の方が楽しんでいる。

それは新鮮な発見で、妙にくすぐったかった。

結局、ネムちゃんがなんという種類の鳥なのかわからなかったものの‥

鳥類コーナーから他のゾーンへと下りつつ、他の動物たちを満喫した。

サトコ

「すっごく楽しかったです!動物たちもかわいかったし」

難波

昔と比べると、ずいぶんいろんな動物がいるもんだな

サトコ

「そうですね。広すぎて、ゆっくり見られなかったのが残念なくらいです」

(結局、動物好きなのか?それとも単に物珍しさか‥)

今日一日、動物たちを見て子どものように驚いたり笑ったりしていたサトコを思い出す。

今は、店で買った土産を持ってほくほく顔だ。

(ほんと、見てて飽きないねぇ)

俺の様子に気付いたサトコが、こっちを振り返る。

サトコ

「室長?どうしたんですか?」

難波

いや‥

(この気持ちを、言葉で表すなら‥そうだな)

難波

‥幸せだなと思っただけだ

正直、こんなことを伝えるのも柄ではない。

だがサトコは俺以上の幸せそうな笑みを浮かべて、繋いだ手に力を込めた。

サトコ

「私も、すごく幸せです!」

難波

‥そうか

(こういう平和な日も、いいもんだな)

(‥こんな日が、これからもずっと続けばいい)

サトコと手を繋いだまま、動物園の外へと歩き出した。

【難波のマンション】

その夜。

結局、風呂の湯が溢れるのもおかまいなしに、サトコとソファで愛し合った。

(‥無理させすぎたな)

疲れて眠っているサトコを起こさないようにベッドを抜け出し、キッチンへとやってくる。

タバコに火を点けると、そこから見えるソファの上でサトコと絡み合ったことを思い出した。

(年甲斐もなく、何やってんだかねぇ)

(アイツと一緒にいると、自分まで若返ったような気になってくるな)

もう、若い頃の情熱は消えたと思っていた。

なのに、動物園デートをたのしんだり、歯止めもきかずに抱いたり、やっていることは中学生並みだ。

(もういい大人なんだし、あの映画の俳優みたいに、スマートでいた方がいいのかもしれん)

(でもなぁ‥)

フッと煙を吐くと、寝室の方を振り返る。

(サトコといると、抑えられなくなる‥)

(‥すっかり参っちまってるな、ひよっこに)

諦めかけていた平凡な幸せが、サトコと一緒に舞い込んできた。

いや、サトコ自身が、俺の中の“幸せ”に他ならない。

(‥映画みたいじゃなくたって、いいよな)

(ただ、隣にアイツがいるだけの“普通の日”が、一日でも長く続けば)

サトコの顔を思い出すと、さっきまで抱きしめていた温もりが恋しくなる。

(‥戻るか)

(はぁ‥おっさんをこんなに夢中にせるなんて、悪いひよっこだな)

まだベッドで無邪気に眠っているサトコを思い出して、笑みが零れる。

タバコを灰皿に押し付けて、愛する女が眠る寝室へと戻った。

End

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