カテゴリー

潜入捜査は蜜の味 後藤2話

【後藤マンション】

潜入捜査から、数週間後‥

サトコ

「あっ、ここは‥」

後藤さんの家で夕食を済ませた私たちは、ソファに並んで座っていた。

何気なく流していたテレビから、私たちが捜査していた事件が流れている。

(潜入捜査していた劇団の、稽古場だ‥)

テレビに映っている稽古場を観ながら、先日のことを思い返す。

【教官室】

サトコ

「犯人たちが捕まったんですか?」

石神

ああ

課題を出しに教官室へやってきた私は、石神教官から事件のことについて知らされる。

石神

お前たちの報告を受けて、あの団体は過激派左翼団体の隠れ蓑と確信がついた

颯馬

二人が報告した窃盗や暴行の容疑で関係者を逮捕し、調査を進めた結果

劇団の幹部たちがテロ行為を企てていた証拠を掴むことが出来ました

また、芋づる式で引っ張り上げたそれらの犯罪が表沙汰になり

劇団は空中分解したそうです

石神

マスコミが報道しているのはそれらの一部の犯罪のみ

テロ計画は漏れることなく、防ぐことが出来た

颯馬

お手柄ですね

サトコ

「っ、はい!」

(少しでも役に立てたんだ‥)

ニッコリ微笑む颯馬教官に、嬉しさが込み上げた。

【後藤マンション】

サトコ

「無事に犯人たちは捕まりましたが、事後処理が大変でしたね」

後藤

事件の規模が規模だったからな

サトコ

「そうですね」

(さすがに劇団員の幹部たちが左翼だってことは、伏せられているけど‥)

知名度のある劇団だったせいか、ある程度時間が経った今でも大々的に報道されていた。

アナウンサー

『‥このように、日常的に窃盗や暴行が行われていたようです』

『ここでゲストコメンテーターの小杉ヨネさんに、話を聞いてみましょう』

テレビに視線を戻すと、特徴的な眉毛の女性が映った。

後藤

この眉毛‥何だか見たことある気がする

サトコ

「あっ、ヨネさんだ」

後藤

サトコ、知ってるのか?

サトコ

「もちろんです。ヨネさんは別の劇団出身の大女優さんなんですよ」

「ヨネさんが出演する舞台のチケットなんて、1分も持たずに完売してしまいますし‥」

「私も1度でいいから、ヨネさんの演技を生で見てみたいなぁ」

【テレビ】

小杉

『‥‥‥』

テレビの中のヨネさんは、瞳に怒りをにじませている。

小杉

『わたくしも、以前からこの劇団のことは知っていましたが‥』

『この方々がした行いは、許されるべきではありません!』

『今回の事件を受けて、何の関係もない劇団が‥‥‥』

サトコ

「‥‥‥」

(今回は無事に、犯人逮捕に結びついたけど‥)

(改めて概要を見ると、かなり悪質な事件だよね)

【後藤マンション】

サトコ

「あっ‥」

テレビ画面が、スタジオから逮捕された男たちの映像へと切り替わる。

(この人は‥)

私に薬物が入ったお酒を飲ませようとした男が映っていた。

サトコ

「‥主犯格の1人、だったんですよね」

後藤

ああ。この男が幹部たちをまとめていた

入ったばかりの団員を見極めて、声を掛けていたそうだ

後藤さんは言葉を切ると、テレビから私に視線を移す。

後藤

‥知らない男の酒は、今後も飲むなよ

サトコ

「はい」

後藤

知ってる男の酒も、なるべく飲むな

サトコ

「‥え?」

後藤

‥‥‥

(もしかして‥)

真剣な眼差しの後藤さんに、頬が緩みそうになる。

サトコ

「はい!」

返事をしていると、ふいに悪戯心が顔を覗かせる。

サトコ

「でも‥石神教官から勧められた場合はどうすればいいですか?」

後藤

それは‥

後藤さんは困ったように視線を漂わせ、小さく唇を開く。

後藤

‥‥‥それはいい

サトコ

「ふふっ、分かりました」

微笑む私に、後藤さんはバツが悪そうに顔を逸らす。

その横顔からは、疲れの色が見えた。

(最近ずっと、この案件で忙しそうだったもんね)

サトコ

「後藤さん‥本当に、お疲れさまでした」

「ゆっくり休んでくださいね」

後藤

ゆっくり、か‥

後藤さんはフッと笑みを浮かべ、私の肩にぽすりと頭を乗せる。

後藤

なら、癒してくれ

サトコ

「へっ!?」

(あ、あの後藤さんが‥甘えてきてる!)

まさかの返しに、大きく目を見開く。

サトコ

「え、えっと‥」

(癒すってどうすればいいんだろう‥)

私は正解を探るように、後藤さんの頭をそっと撫でる。

サトコ

「よしよし‥」

すると、後藤さんが喉の奥で押し殺すように笑った。

サトコ

「な、なんで笑うんですか」

後藤

手つきが恐る恐るだな

サトコ

「!」

(も、もう!せっかく頑張ったのに‥!)

パッと手を離すと後藤さんの頭がわずかに動き、至近距離で視線が合う。

後藤

やめるのか?

サトコ

「うっ‥」

どこか甘えるような声音に、小さく息を呑む。

(そんな言い方、ずるすぎる‥!)

どうしても逆らうことが出来ず、私は再び後藤さんの頭に手を乗せた。

後藤

‥‥‥

優しく頭を撫でると、後藤さんは気持ちよさそうに目を細める。

(ちょっとだけ恥ずかしいけど‥)

たまにはこういうのもいいかもしれない‥‥頭の片隅で、そんなことを考えていた。

(きっとすぐに、新しい事件が回ってくる)

公安に属する以上、それは避けて通れないだろう。

(だけど、少しの間だけでもいいから‥)

後藤さんと一緒に、穏やかな時間を過ごしていたい‥‥‥

私はそんな願いを込めるように、後藤さんの髪に唇を落とした。

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする