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総選挙2016 ご褒美ストーリー 石神

【個別教官室】

サトコ

「あとはこの資料をまとめて‥」

資料の確認をしながら、チラリと時計を見る。

(もうこんな時間なんだ)

(でも、キリのいいところまでやっておきたいし‥)

石神

‥まだ残っていたのか

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サトコ

「あっ、石神さん。お疲れさまです」

石神さんは個別教官室に戻ってくるなり、デスクの書類に目を通し始める。

石神

‥‥‥

(相変わらず、忙しそうだな)

(今日も講義が終わるなり、どこかに出かけていたみたいだけど‥)

つい最近大きな仕事を終えたばかりなのに、石神さんは精力的に働いていた。

(私にできることは限られているけど、頑張って石神さんをサポートしよう!)

密かに意気込んでいると、石神さんが書類を見ながら口を開く。

石神

‥サトコ

サトコ

「はい!」

石神

何か欲しいものはあるか?

サトコ

「へ‥?」

予想外の質問に、変な声が出てしまう。

サトコ

「どうしたんですか、突然‥」

石神

先日、授賞式があっただろう?

サトコ

「授賞式‥」

(そういえば‥)

最近ふたりで参加した映画祭での9位という成果が称えられ、

石神さんは受賞パーティーに参加したのだ。

石神

あれで賞金が入ったんだ

サトコ

「そうだったんですね。でも、石神さんご自身で使った方が‥」

石神

お前のサポートのおかげで出せた成果だろう?

それに俺には使う暇がないからな。お前に譲ろうと思ったんだ

(確かに、石神さんって普段からお金を使う暇がないくらいに忙しそうだもんね‥)

石神さんは書類に判を押すと、出掛ける支度を始める。

サトコ

「また出るんですか?」

石神

ああ。お前もキリがいいところで上がれ

それと賞金だが、後程お前の口座に振り込んでおく

サトコ

「わ、私だけで使えないですよ!お気持ちだけで充分です」

石神

別に無理して使わなくていい。俺には不要なだけだ

サトコ

「あっ、ちょっと!石神さん~!」

制止の声もむなしく、石神さんは急いだように部屋を出て行った。

(そ、そんな‥!)

(いきなり賞金って言われても困るのに‥)

私はただただ、石神さんの発言に困惑するしかなかった。

【学校 廊下】

数日後。

廊下を歩きながら、昨日のことを思い返す。

(まさか、本当に振り込まれてたなんて‥)

お金を降ろした際に残高を確認したら、石神さんから10万円振り込まれていたのだ。

(返そうにも、石神さんは出張でしばらく戻らないし)

(どうしよう‥)

鳴子

「なーに悩んでるの?」

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サトコ

「あっ、鳴子‥」

鳴子

「そんなに肩を落としちゃって‥何かあったんじゃない?」

「悩み事があるなら、遠慮なく言ってよ」

鳴子は心配そうに顔を覗き込んでくる。

(せっかくだし、相談してみようかな)

(でも、石神さんの名前は出さない方がいいから‥)

サトコ

「実は‥宝くじが当たったんだ」

鳴子

「えっ、そうなの!?いいなぁ、羨ましい~!」

サトコ

「でも、使い道が全然なくてどうしようかなって」

鳴子

「そんなの、パーッと使っちゃえばいいじゃん」

「欲しいものとか食べたいものとか買ったら、あっという間になくなると思うけどなぁ」

サトコ

「あはは‥」

(鳴子らしいな)

サトコ

「でも、私ひとりで買ったわけじゃないんだ」

「一緒に買った人は『使い道がないから好きにしていい』って言ってて」

鳴子

「えー、せっかく買ったのにもったいなさすぎ!」

「でもでも、それならありがたく好きに使っちゃえば?」

「‥って、それが出来てたら悩んでないか」

サトコ

「うん‥」

鳴子

「ふふっ、サトコらしいね」

鳴子は優しい笑みを浮かべ、私の肩をポンッと叩く。

鳴子

「悩むのも分かるけどさ、別に今すぐ使わなきゃいけないわけじゃないんでしょ?」

「だったら、ゆっくり考えればいいんじゃない?」

サトコ

「そうだね‥」

10万円という大金を前にして、少し焦っていたのかもしれない。

サトコ

「ありがとう、鳴子」

鳴子

「どういたしまして」

「でも、もし本当に使い道がないなら」

「私に超高級レストランのディナーを奢ってくれてもいいんだからね?」

サトコ

「もう、鳴子ったら!」

鳴子に話をして、少しだけ心が軽くなるのを感じた。

【資料室】

サトコ

「えっと、これで全部かな?」

講義が終わり、後藤教官に頼まれていた資料を棚から探していた。

(‥賞金、どうしようかな)

(あれから色々考えたけど、やっぱり石神さんのために使いたいし‥)

ふとした時にお金の使い道を考えているものの、なかなか思いつかない。

(石神さんが欲しいものを買うとか?)

(すぐに思いつくのはプリンだけど‥)

どんな高級なプリンとはいえ、せいぜい数千円くらいだろう。

(うーん、さすがに10万円分のプリンは現実的じゃないし‥)

黒澤

サトコさーん

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サトコ

「ひゃっ!?」

突然、黒澤さんが後ろからひょっこり顔を覗き込んでくる。

サトコ

「び、ビックリした‥」

黒澤

ははっ、驚かせちゃいましたね。後ろ姿でも尻尾が垂れてましたよ~

何か悩み事があるなら、どうぞこの黒澤透にご相談ください!

今日の晩御飯から勝負服のコーディネートまで、なんでも相談に乗りますよ!

サトコ

「あ、ありがとうございます」

(っていうか、そんなに悩んでいるように見えたのかな)

(鳴子にも言われたし、気を引き締めないと‥)

サトコ

「でも、私なら大丈夫ですので」

黒澤

えー、オレってそんなに頼りないですか?

確かに、この前も石神さんからどやされてしまいましたが‥

サトコ

「‥‥‥」

『石神さん』という言葉に、つい反応してしまう。

(‥そうだ!)

(黒澤さんは、石神さんとも付き合いが長いし‥)

サトコ

「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが‥」

黒澤

はい!なんですか?

サトコ

「石神さんの好きなものとか‥欲しいものって分かりますか?」

黒澤

石神さんの欲しいもの、ですか‥?

(直球すぎたかな?)

ドキドキしながら、黒澤さんの返答を待つ。

黒澤

そうですね~。オレよりサトコさんの方が詳しいと思いますけど‥

ま、あげたいってことなら休息をあげたいところですね

サトコ

「休息‥?」

黒澤

石神さんって仕事人間じゃないですか

今も出張に行ってますし、戻ってきたら戻ってきたでずっと仕事ばかりですし

休んでるところなんてほとんど見たことないので

本当にサイボーグかもって思っちゃいますよね

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(休息、か‥)

黒澤さんの言葉に、あることを思いつく。

サトコ

「黒澤さん、ありがとうございます!」

私は黒澤さんにお礼を言って、足早に資料室を後にした。

【旅館】

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一週間後。

サトコ

「わぁ‥石神さん、見てください!」

客室に案内されて窓を開くと、絶景が広がっていた。

夕焼け色に染まった海の向こうで、日が段々と沈んでいく。

石神

ああ、綺麗だな

石神さんは窓辺に腰を掛け、目を細めた。

(‥心なしか表情が柔らかい気がする)

(石神さん、喜んでくれたかな?)

そんな石神さんを見て、先日のことを思い返す。

【個別教官室】

(そろそろ戻ってくるかな?)

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私は補佐官の仕事をしながら、石神さんの帰りを待っていた。

石神

‥ん?サトコか

サトコ

「石神さん、お疲れさまです!」

教官室の扉が開かれ、笑顔でお出迎えをする。

石神

どうした?やけに楽しそうだが‥何かあったのか?

サトコ

「はい!10万円の使い道が決まりました」

石神

そうか

石神さんはいつものように無表情のまま、ですくにカバンを置く。

(興味なさそう‥)

(まあ、お金に執着しない辺りが石神さんらしいけど)

石神

それで、なんだ?

私はニッコリと笑みを浮かべたまま、口を開く。

サトコ

「石神さんを癒しましょうツアーです!」

石神

は‥?

私の言葉に、石神さんは珍しくポカンとしていた。

【旅館】

(ふふっ、石神さんがあんな顔するなんて)

石神

どうした?

サトコ

「石神さんにお金の使い道を話したときを思い出してたんです」

「あの時の石神さん、本当に驚いてたなって」

石神

‥まさか、あんなこと言うとは思わなかったからな

石神さんは苦笑しながら、再び窓の外に視線を向けた。

日が沈み、夜へと移り変わっていく。

サトコ

「ここの露天風呂は貸切だそうですよ」

「評判がいいみたいなので、期待しててくださいね!」

石神

露天風呂か‥

ポツリとつぶやき、石神さんは私に顔を向ける。

石神

もちろん、一緒に入るだろ?

サトコ

「えっ!?」

石神

なんだ、その反応は

サトコ

「だ、だって‥」

(まさか、こんな直球で誘われると思わなかったから‥)

顔が赤くなるのを感じて、思わず視線を逸らす。

石神

嫌、なのか?

サトコ

「そ、そんな!嫌なわけ‥」

慌てて顔を上げると、石神さんは薄く微笑んでいる。

石神

嫌なわけ‥?

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サトコ

「石神さん‥」

(分かってて、言わせようとしてるんだ)

ズルいと思いながらも、逆らうことが出来ない。

(好きになった方が負けって言うけど‥)

(確かに、その通りかも)

サトコ

「‥嫌じゃない、です」

石神

そうか

観念したように答えると、石神さんはフッと口元に笑みを浮かべた。

【脱衣場】

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石神

サトコ?

湯船に浸かっている石神さんが、不思議そうに私の名前を呼ぶ。

石神

どうした、入らないのか?

サトコ

「は、はい‥」

返事をするものの、足が前に進まない。

(タオルを巻いてるけど‥)

(久しぶりの一緒にお風呂って、恥ずかしい‥!)

脱衣所を出る勇気が出ない私は、湯船に浸かってすらいないのに顔が紅潮するのが分かった。

石神

‥‥‥

私の気持ちを察してくれたのか、石神さんは優しい声を掛けてくれる。

石神

俺しか見ていないから、大丈夫だ

サトコ

「うっ‥」

(だから恥ずかしいんだけど‥)

こんなに優しく声をかけられた手前、これ以上待たせるわけにはいかない。

サトコ

「じ、じゃあ‥」

【湯船】

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私は意を決したように湯船に向かい、石神さんから1人分空けたところに座った。

石神

‥そんなに恥ずかしいのか?初めてといわけでもないだろう

サトコ

「そ、そうですけど‥」

しどろもどろになる私に、石神さんはどこか楽しそうな瞳を向けている。

(うぅ、今日の石神さんはなんだか意地悪だ‥)

サトコ

「あっ‥」

石神さんは私のすぐ隣に座り直すと、そっと頬を撫でてくる。

石神

顔、赤くなってるぞ

サトコ

「っ‥」

石神

フッ‥お前らしいな

石神さんは微笑みながら、空へと視線を向ける。

(わぁ‥)

釣られるように空に視線を向けると、満天の星が広がっていた。

サトコ

「綺麗ですね‥」

石神

ああ

しばらくの間空を眺めていると、石神さんがふと言葉を漏らす。

石神

お前から温泉旅行をプレゼントされたときは驚いたが‥

こんなにゆっくりとした時間を過ごせたのは、久しぶりだな

リラックスしているような声音に、ホッと胸を撫で下ろす。

(鳴子、黒澤さん、ありがとうございます‥)

(10万円の使い道、じっくり悩んで、思い切って誘ってみてよかったな)

サトコ

「ここ最近、ずっと忙しかったですもんね」

「本当にお疲れさまでした」

石神

お前もな

サトコ

「え?」

石神

俺のこと、ずっとサポートしてくれただろう?

‥ありがとう

サトコ

「あっ‥」

石神さんはざぶんっと水音を立てて、私を後ろから抱きしめた。

サトコ

「い、石神さん‥」

石神さんの素肌を直に感じ、鼓動が逸る。

石神

‥お前がいるだけで、俺はどこまででも頑張れる

サトコ

「私も、です‥」

私を抱きしめている腕に、そっと手を重ねる。

サトコ

「石神さんがいるから、どんなに辛いことがあっても頑張れるんです」

石神

そうか‥

サトコ

「!」

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耳元で笑う気配がしたかと思うと、首筋に小さな痛みが走った。

サトコ

「石神さん‥?」

(もしかして‥)

石神

‥可愛いことを言うからだ

サトコ

「っ‥」

小さな痛みが走った箇所に、石神さんの唇が触れる。

慈しむようにキスをされ、心臓が大きな音を立てていた。

石神

サトコ

サトコ

「ん‥」

石神さんは私の身体を反転させると、触れるだけのキスをする。

そして額を重ね、今にも唇が触れそうな距離で口を開く。

石神

こんなにも穏やかな時間を過ごせているのは、サトコがいてくれるからだ

柔らかい笑みを浮かべながら、もう一度キスが贈られた。

(私ばかりこんなにドキドキさせられるなんて‥)

サトコ

「石神さん‥」

石神

私は隙を突いて、石神さんの唇にキスをする。

サトコ

「私も石神さんと同じ気持ちです」

「‥これからもずっとそんな存在でいられるように頑張りますね」

石神

お前ってやつは‥

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すると同時に、私の腰に回された腕に力が込められる。

私は全てを受け入れるように、石神さんの背中に腕を回した。

サトコ

「ん‥」

月明かりの下で、誓い合うようにキスを交わす。

唇が触れる度、石神さんへの想いが溢れ出しそうになって‥

私たちは時間を忘れるように、何度も何度も唇を重ね合った。

Happy  End

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