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加賀 Season2 カレ目線6話

【新幹線】

新幹線に揺られながら、窓の外を流れる景色を眺める。

だが実際には、その景色はまったく頭に入ってこなかった。

(まずは‥なんだ?名前と職業‥)

(‥職業は、今さらか)

頭の中で、シミュレーションしてみる。

だがなんといっても経験がないので、シミュレーションも何もあったものではない。

(はじめまして‥でいいのか‥)

(電話では話したが、実際に会うのは初めてだしな)

長野行きの新幹線の中で、考えるのは向こうに着いたあとのことだ。

サトコの親に挨拶に行くと宣言してから、何かあるたびに考えるのは、どう挨拶すべきか。

(バカ正直に、全部話すことはできねぇ‥職業柄、伏せなきゃなんねぇことも当然出てくる)

(‥だが、あいつの親を不安にさせるのは本意じゃねぇ)

一番の問題は、恋人の親と対面するのが初めて、という事実だった。

こんな状況は想定たこともなく、自分でも戸惑ているのが正直なところだ。

(しかも、まさか自分から『挨拶に行く』と言い出すとはな‥)

(人間、どう変化するかわかんねぇもんだ)

再び挨拶のことで頭を悩ませていると、サトコからメールが来た。

(『もう新幹線に乗りましたか?翔真が “いつ来るの?” ってうるさいです‥』)

普段通りの様子に、思わず口の端が持ち上がる。

もうすぐつくこと、両親への挨拶の話などを送ると、すぐに返信が来た。

(『うちの家族ですから、そんなに構えなくても大丈夫ですよ!』‥)

(‥テメェの家族だから、構えるんだろうが)

どうせ今頃、そわそわしながら俺の到着を待っているのだろう。

そんなサトコを想像すると、呆れると同時に表情が緩む。

(‥まさか、こんなことで悩む日が来るとはな)

(家族とのつながりなんて、くだらねぇと思ってたが)

サトコとなら、悪くない。

そう思う自分に少し驚いていると、再びサトコからメールが届く。

『こっちはいいお天気です!気を付けて来てくださいね』

メールには、青空の写メがついていた。

(‥能天気な犬だな)

まだ、自分の表情は硬いだろう。

だが少しだけ、緊張がほぐれた気がした。

【公園】

サトコの母親への挨拶を済ませると、食事までの間、近所を散策することになった。

サトコが案内したのは、近くの公園だ。

サトコ

「加賀さん、仕事帰りで疲れてるのに連れ回してすみません」

加賀

‥別に、問題ねぇ

(だいたい、疲れてんのは仕事のせいじゃねぇ)

(‥柄にもなく、悩んだせいだな)

それに、緊張のせいもあるかもしれない。

サトコの手を取り公園内を歩いていると、すぐ近くにいた店員が声を掛けてきた。

友だち

「サトコ‥!?もしかして、彼氏と一緒?」

つながれた俺たちの手を見て、サトコの友人らしき女が目を輝かせる。

(‥見りゃわかんだろうが)

普段なら舌打ちしているところだが、今はそうもいかない。

サトコはチラリと俺を見ると、もじもじしながら答えに窮しているようだった。

(言いふらすようなことでもねぇが‥)

かと言って、否定する必要もない。

好きに言え、と告げると、サトコの目が友人以上に輝いた。

サトコ

「こ、こちら‥お付き合いしてる、加賀兵吾さん」

友だち

「初めまして」

「サトコも、いい人に出逢えたんだね。おめでとう!」

サトコ

「ありがとう‥!」

(‥ニヤけやがって)

その笑顔は、ここ最近で一番のもののように見えた。

(‥こいつは、佐々木や千葉にも言いたがってたな)

(こんなことで、ここまで喜ぶのか‥)

思い起こしてみれば、サトコには我慢ばかりさせてきた。

立場上、大っぴらに宣言もできず、結局この2年間、誰にも言えない関係を強いてきた。

(‥悪くねぇもんだな)

(そうやって‥周りから祝福されて、喜んでるテメェの顔も)

昔話に花を咲かせるサトコを、穏やかな気持ちで眺めていた。

【バー】

サトコが公安学校を卒業した数日後、映画を観たあと、行きつけのバーにやってきた。

加賀

甘ったりぃ映画だったな

サトコ

「だって、この前観たのは加賀さんが気になってた映画だったじゃないですか」

「なんかものすごく難しい内容で、アクションありサスペンスありの‥」

加賀

あれもくだらなかったな。開始3分でラストが見えた

飲みながら話していると、店のドアが開いて見知った顔が入ってくる。

向こうもこちらに気付き、その瞬間、獲物を見つけたような笑顔になった。

莉子

「あらー、サトコちゃんに兵吾ちゃん!」

サトコ

「莉子さん!こんばんは」

莉子

「偶然ね~。デート?」

手を振りながら歩いてくる莉子は、心の底から楽しそうだ。

(‥めんどくせぇ奴に会っちまったな)

(こいつと歩と黒澤が、一番厄介だ)

サトコ

「は、はい‥あの、ででで、デートです‥!」

莉子

「なんでそんなに動揺してるの?」

「もうみんなに言っちゃったんだから、堂々としてたらいいのに」

サトコ

「いえ‥あの、緊張と嬉しさで」

莉子

「ああ、あんまり顔がニヤけると、この鬼畜にあとで何されるかわからない‥と」

加賀

うるせぇ

莉子

「ねえサトコちゃん、今からでも遅くないのよ?」

「こんな男でいいの?サトコちゃんなら、もっといい人がいるのに」

サトコ

「い、いえ‥あの、加賀さんがいいんです」

消え入りそうな声で答えるサトコに、莉子が目を細めた。

莉子

「そう‥兵吾ちゃんのこと、よろしくね」

サトコ

「はい!」

冷やかしながらも、どうやら俺たちを祝福する気持ちはあるらしい。

それに、嬉しそうなサトコを見ていると、莉子に舌打ちする気持ちも失せた。

(まあ‥たまにはこういうのも悪くねぇ)

(‥たまには、だがな)

黙っている俺を見て、莉子が満足そうに笑った。

莉子

「ね?この間、私が言ったこと‥その通りだったでしょ?」

加賀

この間‥?

莉子

『この2年で、ずいぶん成長したんじゃない?強くなったし』

『兵吾ちゃんだって、前とは少し違うと思うけど』

確かに、サトコは俺が思っていたほど弱くなかった。

それに‥俺も、きっと今までの俺を見てきた連中から見れば、『変わった』のだろう。

(認めるのは、癪だが‥)

加賀

‥かもな

莉子

「ふふ。それじゃあね、サトコちゃん」

サトコ

「えっ?あ‥お疲れさまでした」

莉子が立ち去ると、サトコが首を傾げる。

サトコ

「なんの話ですか?」

加賀

さあな‥女は強ぇってことだろ

サトコ

「はい?」

まだ何か尋ねようとしてくるサトコの肩を引き寄せて、口をふさぐ。

甘いカクテルの味がする唇は、ここな部屋ならそのまま貪ってるところだ。

サトコ

「かっ、加賀さん‥!」

加賀

もうみんなに言っちまったんだから、いいんだろ?

サトコ

「それ、さっきの莉子さんの言葉‥!」

慌てるサトコを笑いながら、ふと思い立って口を開く。

加賀

テメェなら‥仕事と恋愛、どっちを取る?

サトコ

「え?」

難波

お前だったら仕事と恋愛、どっちを取る?

それは、いつか難波さんに聞かれた言葉だった。

サトコは少し考えて、真剣な顔で答える。

サトコ

「そうですね‥本音は、どっちも取りたいですけど」

加賀

それが無理な時の話だ

サトコ

「それなら‥加賀さんが仕事を取るときは、私が恋愛」

「加賀さんが恋愛のときは、私が仕事!‥っていうのはどうですか?」

予想外の言葉に、思わずサトコを見つめた。

サトコは『しまった!』という顔で口に手を当てる。

サトコ

「ダメだ‥!加賀さんが恋愛を取ることなんて、絶対にない!」

加賀

‥‥‥

サトコ

「じゃあ、やっぱり両方‥いや、でもせっかくふたりでいるんだし」

「だ、妥協案を考えませんか?真ん中を取って、お互いに両方選ぶとか」

加賀

どこが真ん中取ってんだ

苦笑して、サトコの唇を舐める。

真っ赤になるサトコは、いつまで見ていても飽きない。

(テメェのことになると、柄にもねぇ感情が渦巻く)

(厄介で面倒だが‥手離すつもりはねぇ)

加賀

‥覚悟しとけ

サトコ

「な、何をですか‥!?」

ビクつくサトコに秘密の誓いを込めてもう一度キスを落とすと、

穏やかな安らぎが胸の中に満たされていった。

Happy  End

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