カテゴリー

石神 ヒミツの恋敵編 4話

【寮監室】

サトコ

「う、ん‥」

薄っすらと目を開けると、窓から光が差し込んでいた。

(私、いつの間に寝ちゃったんだろう‥)

(頭が重くて、ハッキリしない‥)

もぞもぞと寝返りを打つと、目の前には瞼を閉じている加賀教官の顔が。

(加賀教官だ‥。教官も寝ちゃったんだ)

‥って

サトコ

「加賀教官!?」

一気に覚醒し、勢いよく起き上る。

(な、なんで加賀教官と一緒に寝てるの!?)

(服は‥うん、ちゃんと着てる‥!でも、一体どうして?)

加賀

うるせぇ

朝から喚くな‥

混乱していると、加賀教官はあくびをしながら身体を起こした。

サトコ

「お、おはようございます‥」

「っ‥!加賀教官、ふ、服は‥!」

上半身何も纏っていない加賀教官を見て、状況が理解できず、ベッドの上で後ずさる。

サトコ

「あ、あの!この状況は‥」

加賀

なに、一丁前に警戒してやがる

貧血で倒れたテメェを看病してやったのは、誰だ

サトコ

「貧血‥?」

加賀

覚えてねぇのか

サトコ

「そうだったんですね。ありがとうございます」

(そういえば、寮監室に来てからの記憶があやふやかも‥)

(でも、だからって一緒に寝てる理由にはならないんじゃ‥)

加賀

俺に床で寝ろとは、随分偉くなったもんだな

サトコ

「と、とんでもないです!そんな恐れ多いこと‥」

心を読まれてドキッとしつつ、何もなかったことに安堵する。

加賀

‥何、安心してんだ

サトコ

「え‥?」

加賀

誰も何もなかったとは言ってねぇ

加賀教官はニヤリと笑みを浮かべ、迫ってくる。

サトコ

「あの、加賀教官‥?」

ベッドの上でじりじりと距離を詰め寄られ後退りすると、背中が壁についた。

(こ、これ以上逃げられない‥!)

加賀

‥どんなにグズだって、女にはかわりねぇ

顔の横に手をつかれ、距離が縮まる。

私の毛先を指先ですくって加賀教官がニヤリと意味深に笑う。

加賀

人のモノほど欲しくなるって言うしな

<選択してください>

A: まさか、私たち‥

サトコ

「まさか、私たち‥」

嫌な汗が、背中を伝う。

サトコ

「ウソ、ですよね?服だって着てますし‥」

加賀

服なんざ、着てたってやることはできる

サトコ

「っ!」

加賀

俺に手間を掛けさせたんだ。それ相当のことをしてもらわねぇと、割に合わねぇからな

B: 加賀教官はそんなことしません

サトコ

「加賀教官はそんなことしません」

加賀

ああ゛?

(加賀教官は横柄で横暴で、誰からも恐れられてるけど‥)

優しい‥かもしれないのは、知っている。

加賀

テメェ‥

サトコ

「ひぃっ!」

(至近距離で睨まれると、更に迫力が‥)

(っていうか、また心読まれた!?)

加賀

その分かりやすさ、何とかしろ

それで公安になりたいなんざ、よく言えたもんだな

C: 止めてください!

サトコ

「止めてください!」

加賀

フッ

咄嗟に押し返そうとするも、手を掴まれる。

加賀

威勢のいい女を服従させんのも悪くねぇ

サトコ

「っ‥」

「わ、私は‥」

(石神さん以外、考えられな‥‥)

加賀

テメェはほんと、バカだな

サトコ

「へ‥?」

あっさりと解放され、ポカンとする。

加賀

とって喰われたのかとでも、思ったか?

サトコ

「っ!」

ニヤリと微笑む加賀教官に、頬が熱くなる。

サトコ

「ば、バカにしないでください!」

加賀

バカをバカにして何が悪い

加賀教官は興味を失ったかのように、立ち上がる。

加賀

おら

サトコ

「きゃっ!」

そして私の襟首を掴み、ズルズルと引きずっていく。

加賀

テメェの体調管理ぐらいテメェでしやがれ

サトコ

「いたた‥」

寮監室からほっぽり出され、尻餅をつく。

(仮にも倒れたんだから、もう少し優しくしてくれてもいいのに‥)

(だけど、わざわざ看病してくれたのも事実なんだよね)

加賀

テメェの体調管理ぐらいテメェでしやがれ

(あれはあれで、きっと心配してくれたんだよね‥)

(補佐官になってから、加賀教官のいろんな一面を見てる気がする)

(意外に優しいところか‥は、不器用すぎて分かりにくいけど)

ため息をつきながら、立ち上がる。

自室へ戻りながら思い浮かべるのは、石神さんのことだった。

(何もなかったとはいえ、他の男の人とひと晩過ごすなんて‥)

申し訳なさでいっぱいになり、気持ちも重くなる。

(石神さんが知ったら、どんな顔するんだろう‥)

【教場】

石神

今日は次の実習に向けて、基本を復習する

まず、尾行術に関してだが‥

サトコ

「‥‥‥」

前に立つ石神さんの言葉が、右から左へと流れる。

(昨日のこと、石神さんに伝えた方がいいのかな)

(もし逆の立場だったら、聞きたいような聞きたくないような‥)

サトコ

「はぁ‥」

石神

ため息が出るほど、俺の講義は退屈か?

サトコ

「え‥」

教壇を見ると、石神さんが厳しい視線を私に向けていた。

石神さんの眼鏡がキラリと光り、ドキッと心臓が鳴る。

石神

‥‥‥

全てを見透かすような視線に、息が止まった。

【廊下】

サトコ

「うぅ、重い‥」

(集中してなかった私が悪いんだけど‥)

講義が終わると、石神さんから雑用を言い渡された。

放課後は、罰として与えられた雑用で埋め尽くされている。

(教官室に資料を運んだら、レポートを‥)

加賀

おい、クズ

威圧感のある声に、背筋が凍る。

加賀

クソ眼鏡の講義で叱られたらしいな

サトコ

「か、加賀教官‥!」

加賀

俺に迷惑をかけた罰だ

サトコ

「うぐっ」

資料の山に、更に書類が追加される。

加賀

ついでにこれも運んどけ

ああ、今朝言った資料の件、今日中に終わらせておけよ

サトコ

「えっ!?急ぎではないはずじゃ‥」

加賀

クズの分際で逆らう気か?

サトコ

「謹んでやらせていただきます!」

(更に仕事が増えた‥)

(仕方なく、効率よく終わらせていこう)

資料の重みに耐えながら、教官室へ急いだ。

【資料室】

石神さんから指示された雑用をなんとか終えると、加賀教官の雑用に取り掛かっていた。

(後は年号順に整理して‥)

石神

サトコ

サトコ

「あ、石神教官‥お疲れ様です」

石神さんは私の隣に座ると、手元の書類を一枚取る。

石神

これで終わりか?

サトコ

「はい。もう少しかかりますが」

石神

そうか‥

更に何枚か書類を取り、ペンを走らせた。

サトコ

「あの‥」

石神

2人でやった方が早く終わる

サトコ

「そ、そんな、悪いです!」

「これは私の仕事ですし‥」

石神

というのは口実で、俺がお前といたいだけだ

‥今はこんな理由でもないと、一緒にいることすら出来ないからな

サトコ

「石神さん‥」

照れ臭そうに眼鏡を押し上げる石神さんに、笑みがこぼれる。

それと同時に、昨日の出来事が脳裏を過った。

(話した方がいいのかな‥)

何度も繰り返した問いかけを、もう一度自分の心に問いかける。

石神

‥どうかしたか?

サトコ

「いえ‥」

言葉が続かず、気まずい空気が流れた。

石神

‥お前は本当に、分かりやすいな

サトコ

「え?」

石神

顔に出ている

石神さんは、私の頬に伸ばしかけた手をスッと引いて言った。

石神

嘘の1つも覚えろ。お前の素直さは、いつか命取りになる

サトコ

「石神さん‥」

(何かあったと気づいたうえで、私の気持ちを尊重してくれてるんだ)

(‥もし昨日のことを話したら、石神さんはどう思うんだろう)

(石神さんの反応が怖い。でも‥)

これ以上黙っていることなど、できなかった。

サトコ

「‥石神さんに話そうか、ずっと迷っていたことがあります」

「昨日、寮監室に言った時のことですが‥」

おずおずと口を開いて、昨日の出来事を話した。

石神

‥‥‥

話し終わると、石神さんは腕を組んで難しい顔をする。

(呆れられちゃったかな‥)

不甲斐ない自分を情けなく思う。

サトコ

「軽率でした‥すみません」

石神

‥いや、怒っているわけではない。仕方のない状況だったからな

しかし‥

サトコ

「?」

石神

‥いや、なんでもない

石神さんは苦笑しながら、続ける。

石神

加賀の行動には辟易させられることばかりだが‥あんな奴でも、学べることはたくさんある

何が自分にとってプラスになるのか、お前なら見極められるはずだ

サトコ

「石神さん‥」

背筋が伸びるような言葉に、ハッと息を呑む。

石神

お前には、どこに出しても恥ずかしくない公安刑事になって欲しい

‥お前には期待しているということだ

サトコ

「っ、はい!ありがとうございます!」

深々と頭を下げると、頭上で微かに笑う気配がした。

石神

‥お前の前向きさには、いつも助けられている

サトコ

「え‥?」

石神さんは咳払いすると、目つきが鋭くなる。

石神

だが‥お前は俺の彼女でもあることには変わりない

あまり無理をしすぎるな

お前が倒れたと知って、平然としていられると思うか?

<選択してください>

A: すみませんでした

サトコ

「すみませんでした‥」

(私、さっきから謝ってばかりだな‥)

石神

謝ってほしいわけではない。気を付けてほしいだけだ

自分の頭で考えるよう示唆したが、倒れるまで無理をしろとは言っていない

B: 石神さんも無理しないでください

サトコ

「石神さんも無理しないでください」

石神

お前ほど無理はしていない

サトコ

「そう言って、遅くまで残ることも多いじゃないですか」

「いくらサイボーグって呼ばれてても、石神さんだって‥」

石神

サイボーグ‥?

眉がピクリと跳ねたかと思うと、黒いオーラが流れる。

石神

黒澤の奴か‥

サトコ

「あ、あの‥石神さん?」

石神

‥‥‥

石神さんは息をついて気を落ち着かせると、私を見据える。

サトコ

「とにかく、倒れるような無理はするな。いいな?」

サトコ

「は、はい‥」

C: もう無理はしません

サトコ

「もう無理はしません」

石神

絶対、だな?

サトコ

「はい」

石神

そうか‥

石神さんは安堵のため息を漏らし、私を抱き寄せる。

石神

お前に何かあったらと思うと、気が気じゃないんだ

サトコ

「石神さん‥」

(こんなにも心配かけていたんだ‥)

サトコ

「ごめんなさい‥」

石神

‥謝らなくていい

表情を緩めると、優しく髪を撫でてくれる。

ほんの一瞬の出来事だが、愛おしそうに触れる石神さんの手の温もりは確かに私の中に刻まれた。

そして石神さんは、私の顔を覗き込む。

石神

お前が倒れる前に、気付いてやれなくてすまなかった‥

サトコ

「そんな!石神さんのせいじゃないです」

石神

体調が治ったら、週末出掛けよう

サトコ

「え、いいんですか?」

石神

ああ

もちろんお前の体調が悪いままならお預けになるが‥

サトコ

「治します!週末までに、必ず!!」

石神

そうか‥

石神さんはフッと微笑むと、私の頭にポンッと手を置く。

石神

楽しみにしている

サトコ

「っ、はい!」

【廊下】

数日後。

(体調は万全だし、頼まれていた仕事も何とか週末までに終わりそう)

鳴子

「なんだか、サトコいいことあった?」

「お肌の艶が違う‥」

サトコ

「えっ‥!」

千葉

「確かに、ここ最近の氷川は楽しそうだよね」

サトコ

「そ、そうかな‥?だいぶ、加賀教官にも慣れてきた余裕が出たのかも!」

千葉

「はは、そうだな。前よりも疲れ切っていないみたいだし」

鳴子

「‥ホントにそれだけ?」

サトコ

「うっ‥うん!何もあるわけないじゃん!」

(鳴子、鋭いな‥でも、なんとか誤魔化せたみたいでよかった)

その後も2人に悟られないよう平静を装っていたが、

本当は、石神さんと過ごせる週末が、待ち遠しくて仕方がなかった。

【個別教官室】

しかし、その放課後‥

サトコ

「えっ、週末ですか!?」

加賀

ああ。言っとくが、テメェに拒否権はねぇ

レポートを提出すると、さっそく加賀教官から仕事を振られた。

(久しぶりのデートだったんだけどなぁ‥)

(でも、捜査なら仕方がないよね!デートならまたできるだろうし)

残念に思いながらも、頭を仕事モードに切り替える。

サトコ

「‥分かりました!」

(週末に向けて、頭に資料を叩きこんでおかなきゃ!)

加賀

‥‥‥

【寮 自室】

量に戻ると、すぐに石神さんに仕事が入ってしまったことを連絡する。

サトコ

「次はいつデートできるかな‥?」

(いやいや、今は勉強に集中!)

(しっかり働いて、次のデートのときにいい報告しなくちゃね)

週末の捜査資料に目を通していると、携帯がメールの着信を告げる。

ディスプレイには『石神さん』の文字。

石神

『すまない‥俺も週末に仕事が入った』

『次はいつ予定が空くか分からない』

(そっか、石神さんも仕事なんだ‥)

先週の週刊誌の件は、未だに世間を賑わせていた。

そのせいで、教官たちが本庁に行くことも増え、自分の仕事もままならないと耳にしている。

(‥仕方ないよね)

(その分、次の楽しみが増えるって思えばいいし!)

『無理はしないで、休めるときは休んでくださいね』

とメールを送り、携帯を机の上に伏せた。

【廊下】

翌日の放課後。

加賀教官に用があって教官室を訪れる。

サトコ

「‥ん?」

ドアをノックしようとすると、中から声が聞こえてくる‥

(この声は‥石神さんと加賀教官?)

(何を話しているんだろう‥)

行けないと思いつつ、耳をそばだててしまう。

石神

最近‥調子はどうだ?

加賀

ああ゛?‥テメェが気にするなんざ、どういう風の吹き回しだ

石神

別に、聞いてみただけだ

加賀

テメェが言ってんのは、何の事だ‥

俺の調子を聞いてんのか、それとも‥

石神

‥補佐官交代になってからのことだ

加賀

チッ‥クソ眼鏡に話すことなんざ何もねぇ

石神

なんだと?

(これって、私の話‥だよね?)

(石神さん‥気にしてくれていたんだ)

石神さんが私を気にしてくれていることは、舞い上がりそうなほど嬉しい。

しかし自分の話をしている教官室には入りづらく、その場に立ち竦んでしまった。

颯馬

フフ、相変わらずお2人は仲が良いんだか、悪いんだか‥

サトコ

「!」

颯馬

おや、驚かせてしまいましたか

(颯馬教官、いつの間に‥)

ニッコリと微笑む颯馬教官に、ぎこちないながらも笑みを返す。

颯馬

加賀さんも素直に答えればいいのに、あんな言い方をされると余計に気になってしまいますよね

サトコ

「何の話しているのか、ご存じなんですか?」

颯馬

ええ。さしずめ2人は‥恋敵、って感じでしょうか?

サトコ

「???」

颯馬

サトコさんは、罪な女ですね

サトコ

「え‥?」

(颯馬教官は、何のことを言っているんだろう‥?)

楽しそうな颯馬教官の前に、私はただ首を傾げることしか出来なかった。

to  be  continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする