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石神 ヒミツの恋敵編 5話

【教場】

鳴子

「次は石神教官の講義か。サトコは課題終わってる?」

サトコ

「うん。夜遅くまでかかっちゃった」

鳴子

「私も。おかげさまで、ちょっと寝不足かも‥ふわぁ‥」

サトコ

「ふふ、大きなあくびだね」

教材や課題の準備をしていると、教場のドアが開かれた。

サトコ

「あれ?颯馬教官だ」

鳴子

「本当だ!相変わらずかっこいいなぁ」

(鳴子、さっきまで大きなあくびしてたのに‥)

颯馬教官を捉えた鳴子の瞳は、キラキラと輝いている。

颯馬

石神さんに急な予定が入ったため、私が代講を行います

(まただ‥)

ここ最近、教官たちの休講や代講が相次いでいる。

颯馬

また、午後の講義は都合により休講になります

男子訓練生A

「マジかよ‥」

男子訓練生B

「やっぱり、週刊誌の件が長引いてるのか?」

サトコ

「‥‥‥」

週刊誌の報道が世間に広まり、公安に対するバッシングは日々強くなっていた。

この流れに乗って、愉快犯による公安に関するトラブルやテロ予告も増えているらしい。

(そのせいか、教官たちが代わる代わる本庁へ行っているんだよね‥)

石神さんの姿を、学校で見る機会も少なくなっていた。

(最後にまともに話したのって、デートの約束をした時だ)

(デートもお互いに仕事が入って、ダメになっちゃったけど‥)

颯馬

静かに

休講が多くなり不安もあるかと思います。ですが、己の本分を全うするように

訓練生たち

「はい!」

颯馬

いい返事です

颯馬教官はニッコリ微笑んでいたけど‥私の心は不安が渦巻いていた。

【教官室】

サトコ

「えっ、休校!?」

難波

ああ

午前の講義が終わり教官室へ行くと、難波室長から告げられた。

東雲

オレたち、最近本庁に出向くことが多くなったでしょ?

それで色々と手が回らなくなってきたからね

サトコ

「それで休校、ですか‥」

難波

本当、余計なことをしてくれる奴が現れたもんだ

サトコ

「週刊誌にリークした人ですか?」

難波

まあな。おかげで色々と弊害が出てるんだ

室長は面倒臭そうに頭を掻きながら、ため息をつく。

難波

ってことで、他の奴らにも通達が行ってるから

もし何か聞かれたら、適当に答えといてくれ

サトコ

「あっ」

軽く手を上げ、室長は教官室を後にした。

(相変わらず、呑気だな。室長は‥)

東雲

呑気なオジサンだな‥って思ったでしょ?

サトコ

「えっ‥!」

東雲

あれで室長もいろいろ動き回っているんだよ

東雲教官は書類を鞄に入れると、立ち上がる。

東雲

じゃ、オレも行くから

東雲教官がいなくなり、何もできない自分ひとりだけが教官室に残る。

サトコ

「これからどうなっちゃうんだろう‥」

【寮 談話室】

鳴子

「あっ、サトコ!」

寮の談話室に行くと、鳴子と千葉さんが駆け寄ってきた。

千葉

「休校の話、聞いたか?」

サトコ

「うん。室長と東雲教官から聞いたよ」

鳴子

「教官たちの様子、どうだった?」

サトコ

「分からない。2人とも、話をしてすぐ出て行っちゃったし‥」

鳴子

「そっか‥」

男子訓練生A

「なあ、週刊誌の報道、かなり広まってるんだろ?」

男子訓練生B

「この前会った友だちも、公安のことありえないって言ってたな」

男子訓練生C

「捜査にも影響出てるって話だし、もしこのまま休校が続いたら‥」

<選択してください>

A: 怖いこと言わないで

サトコ

「ちょ、ちょっと、怖いこと言わないでよ‥」

鳴子

「そうよ。憶測でものを言うのはよくないんじゃない?」

男子訓練生B

「だけど、このままだと学校の存続にかかわるのも事実だろ?」

全員

「‥‥‥」

みんなは顔を見合わせ、黙り込む。

(教官たちが色々動いているみたいだけど‥)

サトコ

「‥私たちにも、何か出来ることがあると思う」

千葉

「氷川‥」

サトコ

「私はそれを探したい」

B: どうなっちゃうんだろう‥

サトコ

「どうなっちゃうんだろう‥」

男子訓練生C

「そりゃあ、な‥」

男子訓練生B

「学校が無くなったり、とか」

サトコ

「えっ!?」

男子訓練生B

「あくまでも、仮定の話だって」

(せっかくここまで来たのに、学校が無くなっちゃうなんて‥)

(そんなの、絶対に嫌!)

サトコ

「例えそうだとしても‥今は自分たちに出来ることをしなきゃだよね」

C: 絶対に大丈夫

サトコ

「絶対に大丈夫だよ」

男子訓練生A

「なんで言い切れるんだよ?」

サトコ

「そうならない為に、教官たちが動いてくれていると思うの」

「本庁に行くのだって、その為もあるんじゃないかな?」

千葉

「氷川‥」

サトコ

「それに、教官たちは中途半端な形で私たちを見放したりはしないって‥そう思う」

鳴子

「ふふ、サトコは前向きだね」

サトコ

「それに教官たちが戻った時、ただ落ち込んでるだけの私たちを見たら呆れるんじゃない?」

「休校より、そっちの方が大変だと思うよ」

男子訓練生B

「ああ、確かに氷川の言う通りだな」

男子訓練生A

「特に加賀教官なんて、考えるだけでも震えが‥」

鳴子

「結局のところ、なるようにしかならないってことか~」

鳴子は盛大にため息をついたかと思うと、パッと笑顔になる。

鳴子

「‥そうだ!」

「ねぇ、サトコ。気晴らしにショッピングに行こうよ!」

サトコ

「これから?」

鳴子

「もっちろん!」

「みんなも落ち込んでばかりいないで、気分転換するのもいいんじゃない?」

鳴子の明るい声に、みんなの表情も少しだけ柔らかくなる。

(こんなときでも周りのことを考えられるなんて、さすが鳴子だな)

(ここは話に乗った方がいいよね)

サトコ

「‥そうだね。行こっか!」

【街】

サトコ

「あ~、さっきのパンプス可愛かったな」

鳴子

「買っちゃえばよかったのに」

ショッピングモールを回った私たちは、交差点で信号が変わるのを待っていた。

サトコ

「思ったより値段が高くて‥」

「もうちょっと安ければ、即決だったんだけどなぁ」

鳴子

「また今度行ってみる?もしかしたら、安くなってるかもしれないし」

サトコ

「あっ、それ名案だね!また今度行って‥」

ドンッ!

サトコ

「きゃっ!」

突然、後ろから衝撃を受ける。

鳴子

「サトコ!危ないっ!!」

鳴子の焦った声と、急ブレーキの音が重なった。

こちらに向かってくる車が、スローモーションのように見える。

(轢かれる‥‥‥っ)

鳴子

「サトコっ!!」

サトコ

「っ‥!」

間一髪で鳴子に腕を引かれ、車が目の前を通り過ぎて行った。

鳴子

「ちょっと、危ないじゃない!」

男性の後ろ姿に向かって、鳴子が叫ぶ。

(あの人どこかで‥)

(‥藤田さん!?)

鳴子

「もう!今の本当に危なかったのに‥」

「サトコ、大丈夫?」

サトコ

「う、うん‥鳴子のおかげで助かったよ。ありがとう」

(似ているように見えたけど‥見間違いかな)

私は男が去っていった方向を見ながら、その場に立ち尽くした。

【教官室】

数日後。

サトコ

「失礼します」

颯馬

おや、サトコさん。今日はどうしましたか?

後藤

しばらくの間、休校のはずだろう

サトコ

「何か仕事があるんじゃないかと思って、来ちゃいました」

見たところ、教官室には颯馬教官と後藤教官しかいない。

サトコ

「加賀教官はどちらにいますか?」

後藤

本庁に行ってる。今日はこっちに戻ってこないだろう

颯馬

石神さんはオフですが、予定があるそうですよ

サトコ

「な、なんで石神教官の予定まで‥」

颯馬

フフ、何故でしょうね?

楽しそうに笑う颯馬教官に、顔が熱くなる。

後藤

石神さんなら‥

サトコ

「だから、石神教官は関係な‥」

後藤

今日はある人の、命日なんだ

サトコ

「えっ‥それって、もしかして‥」

颯馬

石神さんの元協力者の方です

(やっぱり‥!)

サトコ

「藤田さんですか‥?」

颯馬

おや?藤田をご存じだったんですね

サトコ

「はい。この前偶然お会いして、石神さんから少しだけ話を聞きました」

颯馬

そうだったんですか

(鳴子と出かけた時のことも、話した方がいいかな)

(でも、それで違ってたら藤田さんに申し訳ないし‥)

後藤

どうした?

サトコ

「あ、いえ‥教官たちも、藤田さんのことご存じだったんですね」

颯馬

ええ。と言っても、実際にはお会いしたことありませんが

サトコ

「そう、ですか‥」

(コンビニの前で会った時は普通だったけど‥)

お寺で会った時の藤田さんは、別人のように冷たかった。

そして何よりも、石神さんのことが気になる。

サトコ

「あの‥藤田さんのことについて、聞いてもいいですか?」

後藤・颯馬

「‥‥‥」

教官たちは顔を見合わせると、フッと笑みを浮かべる。

颯馬

そうですね。サトコさんは知っていた方がいいかもしれません

‥10年前、石神さんが公安になりたての頃の話です

石神さんは、ある暴力団組織の麻薬密売や闇取引を追ってました

その暴力団組織にいたのが‥

サトコ

「藤田さん、ですか?」

後藤

ああ。他の組の奴らに絡まれているところを、石神さんが助けたそうだ

石神さんは自分のことを恩人だと思っている藤田に接近し、協力者として利用した

結果、藤田から麻薬の情報を引き出すことに成功」

しかしある日、石神さんの元に藤田の訃報が入った

颯馬

石神さんが現場に駆けつけましたが、目の前にはおびただしい血の海が広がっていたそうです

酷い拷問を受けて死に追いやられたってことでしょう‥

サトコ

「そんなっ‥」

颯馬

私たちが知っているのは、ここまでです

サトコ

「‥‥‥」

颯馬

そして、ここから石神さんらしいところなんですが‥

石神さんは今でも、協力者としての報酬分を振り込み続けているんですよ

今日がその日です

サトコ

「えっ‥」

後藤

石神さんも若かった。協力者とかなり近い存在になっていてな

幼い子どもを養うために身を粉にして働く協力者を、男として尊敬していたらしい

颯馬

普段は厳しいことを言っておきながら、誰よりも情が深いのが石神さんなんです

‥なんて、サトコさんは知っていると思いますけど

サトコ

「はい‥」

(石神さんの過去に、そんなことがあったなんて‥)

藤田

『お久しぶり、ですね』

『‥ここに何しに?』

石神

き、君は藤田の‥

藤田

『‥‥‥』

藤田さんも石神さんを恨んでいるとなると、あの態度も納得できた。

(尊敬する人が亡くなって、その息子さんに恨まれて‥)

それはどれほど辛いことだろうか‥

公私混同しないとは言っても、きっと石神さんは今までずっと自分を責め続けていたに違いない。

サトコ

「っ‥」

石神さんのことを思うだけで、胸が苦しくなる。

颯馬

今でも時折、お墓参りに行っているみたいですが‥

サトコ

「責任を感じているんでしょうか?」

後藤

石神さんの真意は、誰にもわからない

そう言いながらも、後藤教官は石神さんの心根に触れているんだろう。

(協力者の死があって、今の石神さんがいる)

(石神さんは全てひとりで乗り越えようと、必死だったんだ)

颯馬

そのぐらいからでしょうか‥?石神さんがサイボーグと呼ばれるようになったのは

後藤

その件もあったせいか、石神さんはより人にも自分にも厳しくなった

颯馬

ですが‥今はサトコさんのおかげで、だいぶ雰囲気が柔らかくなりましたけどね

<選択してください>

A: 私のおかげ、ですか?

サトコ

「私のおかげ、ですか?」

颯馬

ええ

(どういう意味だろう‥?)

不思議がっていると、後藤教官がフッと笑みを浮かべる。

後藤

氷川と出会って、石神さんは変わった

今はその事実だけで充分だろう

B: 変わってないと思います

サトコ

「確かに、厳しいところもありますが‥」

「石神教官の優しいところは、昔から変わっていないと思います」

颯馬

フフ、なるほど

颯馬教官は、感心したように声を漏らす。

颯馬

石神さんがサトコさんを気に掛ける理由が分かる気がします

C: それよりも、私に出来ることはないのかな

サトコ

「そう言ってくれるのはありがたいんですが‥」

「それよりも、私に出来ることはないんでしょうか?」

颯馬

それはご自分で考えてください

貴女が答えを出さなければ、意味がないことですから

サトコ

「‥‥‥」

颯馬

大丈夫です。サトコさんならきっと、答えを出すことが出来ますよ

教官たちの言葉を、ひとつひとつ反芻する。

(石神さんを支えたい‥)

今はその想いで、いっぱいだった。

【寮 談話室】

数日後。

休校が続き、不安の現れかほとんどの訓練生が談話室に集まっていた。

鳴子

「週刊誌の件もようやく落ち着いてきたね」

宮山

「まあ、ニュースとか噂ってすぐに飽きられますからね」

サトコ

「宮山くん、いつの間にっ‥!」

千葉

「教官たちも学校で見かけるようになったし」

サトコ

「だね。そろそろ学校も再開されるといいんだけど‥」

「あ、携帯が鳴ってる。ちょっとごめんね」

携帯のバイブが鳴って、ディスプレイを見ると『難波室長』と表示されていた。

サトコ

「はい、氷川です」

難波

急に悪い。補佐官全員を教官室に呼んでもらえないか?

大至急で頼む。じゃあな

サトコ

「あっ‥室長!」

(切れちゃった‥)

(大至急だなんて‥何かあったのかな?)

【教官室】

難波

よし、全員揃ったな

室長は一同を見回し、口を開いた。

難波

警察庁の佐野長官に誘拐予告が出た

サトコ

「!」

一瞬にして場が緊張するも、室長は顔色を変えずに続ける。

難波

そこで、SPが長官の警護につくことになった

石神班は予告班の捜査に当たってもらう

加賀

俺らはどうしますか?

難波

加賀班は待機だ。だが、いつでも動けるように準備をしておけ

加賀

わかりました

難波

補佐官たちはそれぞれ教官たちの指示を仰げ

犯行が行われる前に、一気にカタを付けるぞ

全員

「はい!」

その場は解散となり、私は加賀教官から指示を受ける。

加賀

準備をしておけと言われたが、その時になってみなけりゃ分からねぇ

何かあったら臨機応変に動けるよう、覚悟しておけ

サトコ

「はい!」

加賀

それと‥

クソ眼鏡が捜査班だからって、勝手な動きはするな

わかったな

サトコ

「は、はい!」

(私って、そんなに信用ないのかな?)

過去のことを思い返してみる。

(確かに勢いで行動することが多かったかも‥)

石神

いつでもみんながお前を見守ってくれているとおもうな

サトコ

「‥‥‥」

石神さんの言葉を、しっかりと胸に刻み込む。

(自分の立場と出来ることをちゃんと見極めよう)

捜査体制が敷かれて、数日後。

難波

‥‥‥

教官室は、以前よりも重い空気に包まれていた。

(まさか、本当の目的は前長官だったなんて‥!)

犯行声明は確かに『佐野長官の誘拐』だった。

しかし、捜査体制も完璧に敷かれている中、実際に誘拐されたのは『石川前長官』だった。

難波

やられたな

東雲

犯人は最初から、石川前長官を狙っていた‥ってことですか

難波

ああ

室長は捜査状況がまとめられた書類を、デスクに置く。

難波

なんだってこんなもんが落ちてたんだろうな

室長は、不思議そうに犯行現場に落ちていた証拠品の写真を見る。

石神

‥‥‥

(石神さん‥?)

複雑そうな表情で書類を見る石神さんに、不安を覚える。

石神

我々は、引き続き調査を進めます

難波

ああ。石川さんに繋がる情報を、必ず掴め

石神

はい

石神さんは後藤教官たちを連れ、教官室を後にした。

(苦戦しているのに、ただ待機しているだけしか出来ないなんて‥)

何かしたいと強く思うも、なにも出来ない自分が酷く歯痒かった。

to  be  continued

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