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石神 ヒミツの恋敵編 Happy End

【屋上】

加賀

クズが

サトコ

「いたっ!!」

加賀

いちいち真に受けてんじゃねぇ

(またデコピンされたっ‥!)

加賀

それとも‥仕置きを期待していたのか

サトコ

「ま、まさかっ‥してないです!」

加賀

これ以上生意気な口利きやがったら、ただじゃおかねぇからな

サトコ

「は、はい‥」

(あれ、さっきは寂しそうかと思っちゃったけど、気のせいかな‥)

石神

そろそろ返してもらうぞ

サトコ

「!」

突然腕を引かれると、私の前に大きな背中が現れた。

サトコ

「石神、教官‥?」

石神

‥‥‥

石神さんは私を背中に隠すように割って入り、加賀教官の前に立つ。

加賀

飼い主に似て、よくキャンキャン吠える犬だな

少しは使えるクズにしてやったんだ。感謝しやがれ

石神

教官としての職務を全うしただけだろう。偉そうな口を叩くな

加賀

頭の固てぇ真面目なクソ眼鏡に、このクズを飼い慣らせるとは思えねぇ

石神

お前より遥かにマシだ

加賀

‥‥‥

石神

‥‥‥

(何か2人の間に、火花が飛び散ってる気が‥!?)

石神

‥行くぞ

石神さんは私の手を引き、加賀教官に背を向ける。

サトコ

「あ、あの!石神教官!」

加賀

おい、クズ

テメェにはクソ眼鏡班がお似合いだ‥

サトコ

「え‥?」

石神

‥‥‥

加賀教官の言葉を背に受け、石神さんに手を引かれたまま屋上を立ち去った。

【個別教官室】

サトコ

「‥‥‥」

訳も分からず個別教官室に連れられ、戸惑いを覚える。

私はじっと石神さんの言葉を待った。

石神

‥今日付けで、お前は加賀の補佐官を外れてもらう

サトコ

「えっ!?」

突然の辞令に、瞳を瞬かせる。

サトコ

「な、何故ですか!?」

「もしかして、指示を無視して勝手に動いたりしたから‥」

(加賀教官に呆れられちゃったかも)

(そう考えると、さっきの態度も納得できるような‥)

サトコ

「次は誰の補佐官になるんでしょうか‥?」

「‥ハッ!もしかして、そのまま補佐官の任を解かれるなんてことも‥」

石神

落ち着け

お前には加賀の補佐官を外れ、俺の補佐官に戻ってもらう

サトコ

「へ‥?」

(石神さんの補佐官って‥)

サトコ

「えええっ!?」

石神

予想通りの反応だな

サトコ

「だ、だって、加賀教官の元で頑張っていこうって決意していたのに‥」

石神

お前が加賀の補佐官になったのは、期間限定だ

その理由は、加賀の元で動いていたお前が一番分かるんじゃないか?

サトコ

「‥‥‥」

加賀教官の補佐官になってからのことを思い返す。

(石神さんと違う事ばかりで、最初は戸惑っていたけど‥)

加賀教官の元でしか学べないことも、数多くあった。

躓いたときでも、石神さんが距離を置いてくれたおかげで、

自分だけで問題に向き合うことができた。

サトコ

「心が折れそうなことばかりでしたが‥」

「加賀教官の補佐官になれて、良かったと思っています」

「だけど‥」

私は石神さんの瞳を、真っ直ぐ見つめる。

サトコ

「‥石神さんの補佐官に戻れて、嬉しいです」

石神

そうか‥

石神さんはふっと笑みを浮かべると、私を腕の中に閉じ込めた。

石神

おかえり、サトコ

サトコ

「‥ただいま、です」

久しぶりの温もりを感じあい、どちらからともなく唇が近づいて‥

あと数センチで触れるというところで、ピタリと止まった。

サトコ

「‥前にもこんなことがありましたよね?」

石神

ああ‥そんなこともあったな

あの時は、室長が部屋に入ってきたんだったな

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

私たちは顔を見合わせ、笑いあう。

石神

また今度、‥だな

サトコ

「はい!」

離れていく温もりが少しだけ寂しかったけど‥

それ以上に、石神さんの補佐官に戻れた喜びで、心はずっと温かかった。

時間解決から数日が過ぎたある日‥

日々慌ただしく働きまわっていた教官たちの仕事が落ち着き、学校も来週から再開が決まった。

(一時はどうなるかと思ったけど‥)

全てが元の日々へ向けて、動いている。

【公園】

その週末。

石神さんから電話で呼び出された私は、指定された待ち合わせ場所で彼を待っていた。

(急にデートのお誘いなんて、どうしたんだろう?)

(どこか行きたい所でもあるのかな‥?)

石神

待たせたな

サトコ

「あ、石神さん!」

石神

急に呼び出して悪い

サトコ

「いえ、石神さんと出かけるのは久しぶりなので‥」

「誘ってくれて、嬉しいです。ありがとうございます!」

石神

そうか‥

石神さんは目を細めると、私の手を取り、エスコートしてくれる。

石神

「向こうに車を停めてある。行くぞ

【車内】

車に乗りシートベルトを締めると、石神さんがステアリングを握る。

茜色に染まる景色が、ゆっくりと動き出した。

サトコ

「これからどこに行くんですか?」

石神

秘密だ

サトコ

「ええ‥それじゃあ、ヒントだけでも!」

石神

ヒントか‥

誰にでも1度は行ったことがある場所だ

サトコ

「‥ざっくりすぎません?」

石神

ヒントはヒントだ

サトコ

「そうですけど‥」

「‥ちなみに、私と石神さんが一緒に行ったことがある場所とか?」

石神

それは‥ノーコメントだ

サトコ

「‥‥‥」

(石神さんの反応からすると、一緒に行ったことがあるっぽいな)

(やっぱり水族館とか‥?)

しばらく車を走らせて、私たちが行き着いた先は‥

【遊園地】

サトコ

「わぁ‥!」

まさか遊園地に連れて来てくれるとは思わず、感嘆の声が漏れる。

(でも、なんでこんな時間に‥?)

そんな疑問が過るも、久しぶりの遊園地に胸を弾ませた。

サトコ

「あっ、あのアトラクション楽しそう!」

「ジェットコースターも乗りたいし、巨大観覧者も‥」

石神

フッ‥

サトコ

「‥あっ!すみません。子どもみたいにはしゃいじゃって‥」

石神

いや、喜んでもらえて何よりだ

石神さんは口元に笑みを浮かべながら、私の手を握る。

石神

‥はぐれたら困るからな

サトコ

「ふふっ、そうですね」

石神さんから手を繋いでくれたのが嬉しくて、ギュッと握り返す。

石神

乗りたいものや行きたい所があったら言ってくれ

サトコ

「ふふっ、ありがとうございます」

石神

ああ。だが‥

サトコ

「?」

石神

‥今日は、キャラ耳はナシだからな

耳を赤らめながら視線を逸らす石神さんに、前に教官たちと遊園地に来た時のことを思い出す。

【遊園地】

サトコ

「石神教官には『ヒツジ』を‥」

石神

‥暑そうだな

サトコ

「すみません。でも、その‥」

「今年の干支ですし」

石神

‥あまり気が進まないが

‥‥‥

サトコ

「‥確かに暑そうですね」

石神

ウールだからな

サトコ

「似合ってたのに‥残念」

石神

‥からかうな

サトコ

「ふふっ」

石神

‥‥‥

サトコ

「わわっ、石神さん!?」

石神さんは無言のまま私の手を引き、園内に入って行く。

そして、ジェットコースターにフリーホール、お化け屋敷と色々なアトラクションを回り‥

気付いたら日が落ち、辺りは綺麗なイルミネーションに照らされていた。

サトコ

「夕方からでも、結構回れるものですね」

石神

そうだな‥

石神さんは時計を確認すると、「そろそろか‥」と呟く。

石神

サトコ‥行きたいところがある

石神さんは私の手を握り直すと、どこかへ向かって歩き始めた。

【メリーゴーランド】

サトコ

「わぁ、キレイ‥!」

ライトアップされたメリーゴーランドはキラキラ輝き、まるで別空間のようだった。

目を輝かせる私を見て、石神さんの口元が緩む。

石神

子どもの頃、両親に遊園地に連れて来てもらったことがあるんだ

ライトアップされたメリーゴーランドを見て、まだ幼かった俺はお前みたいに感動していたな

サトコ

「小さい頃の石神さん、とても可愛かったんでしょうね」

石神

‥‥‥

サトコ

「って、そこで眉間にシワを寄せないでください!」

石神

お前、黒澤のような突っ込みをするようになったな

サトコ

「へ‥?」

石神

図々しくなったということだ

サトコ

「ええっ!?」

(そうかな‥?)

(確かに、初めの頃に比べたら距離が近づいたと思うけど‥)

石神さんは懐かしそうな眼差しを、メリーゴーランドに向ける。

石神

‥お前にも見せたかったんだ

サトコ

「石神さん‥」

石神さんにとって大切な思い出に触れ、胸が詰まった。

サトコ

「‥ありがとうございます」

満面の笑みを石神さんに向けると‥

サトコ

「あっ‥」

石神

‥‥‥

背中から、石神さんに抱きしめられた。

サトコ

「えっ!?い、石神さん‥?」

石神

お前の笑顔を見ると‥なんだか安心するな

回された腕に、力が込められる。

石神

お前の成長のためと思っていたが‥

サトコがいない間、静かすぎて物足りなかったのも事実だ

サトコ

「‥これからは、騒がしい毎日が戻ってきますよ?」

石神

そうだな‥

耳元を温かい吐息が掠める。

石神

お前と出会ってから‥俺自身も成長させられているのかもしれないな

サトコ

「‥‥‥」

(お互いの存在が、お互いを成長させ合う‥)

それはどんなに素晴らしいことだろうか。

(‥ん?)

視線を感じて辺りを見ると、周りの家族連れと視線が合った。

サトコ

「あ、あの‥石神さん、周りの視線が‥」

石神

‥‥‥

慌てて離れようとするも、石神さんの腕がそれを拒む。

サトコ

「石神さん‥?」

(いつもなら、人が多いところでこんなことしないのに‥)

石神

‥あと少しだけ

ここ最近分の充電だ‥

耳元で微かに笑う気配がした。

(石神さんも寂しいって思ってくれてたんだ‥)

(‥たまには、こういうのもいいかな)

それから私たちはしばらくの間、お互いの存在を感じ合った。

身体が離れると、私は石神さんを見上げる。

サトコ

「あの‥メリーゴーランドに乗りませんか?」

石神

何‥?

私の提案に、石神さんの眉がピクリと跳ねる。

石神

本気で言ってるのか?

<選択してください>

A: ひとりで乗ってくる

(石神さんの思い出が詰まってるからと思ったけど‥さすがに恥ずかしいよね)

サトコ

「‥分かりました。ひとりで乗ってきます」

(一緒に乗りたかったけど‥無理強いは良くないもんね)

サトコ

「それじゃあ行ってくるので、石神さんはここで‥」

石神

‥待て。俺も行く

サトコ

「え?でも‥」

石神

彼女の些細な願いくらい、叶えてやりたいからな

B: ‥冗談です

(うっ、本当に嫌そう‥)

サトコ

「じょ、冗談です!」

「あっ、じゃあ、あれなんかどうですか?」

私は巨大観覧者を指差す。

サトコ

「遊園地デートの鉄板と言えば、観覧車ですし‥」

石神

‥‥‥

石神さんは私をじっと見て、小さく息をつく。

石神

‥お前がどうしても乗りたいと言うなら、いい

サトコ

「え?」

石神

メリーゴーランド。乗りたいんだろう?

サトコ

「っ、はい!」

C: 一緒に乗りたい

サトコ

「石神さんと一緒に乗りたいんです」

「嫌じゃなかったら、乗りたいなー?‥なんて」

石神

‥‥‥

石神さんは眉間にシワを寄せたまま、考え込む。

石神

‥仕方ない

サトコ

「えっ、いいんですか!?」

石神

ああ‥今日だけだからな

サトコ

「どれにしようかな‥」

白馬に黒馬、愛嬌のある顔つきの馬に、凛々しい顔つきの馬‥

いろいろな馬がいて、目移りしてしまう。

石神

決まったか?

サトコ

「はい!この馬にします」

石神

‥‥‥

石神さんは私が選んだ馬の隣に立つと、手を差し出す。

石神

どうぞ、お姫様

サトコ

「!」

フッといたずらっぽく微笑む石神さんの姿は、様になっていて‥

石神

顔が赤くなってるぞ?

サトコ

「い、石神さんのせいです!」

反論しながらも石神さんの手を借りて、馬に乗った。

【ホテル】

遊園地を楽しんだ後ホテルに泊まることになり、私はすぐにお風呂に入った。

サトコ

「‥あれ?」

石神

‥‥‥

お風呂から上がりベッドに行くと、すでに石神さんが横になっていた。

(寝てる‥)

(布団も掛けずに寝ちゃうなんて、よっぽど疲れてるんだな‥)

(‥捜査続きで疲れてるだろうし、しょうがないか)

布団を掛けるため、ベッドに近づくと‥

サトコ

「きゃっ!」

腕を引かれ、視界が反転する。

石神

寝ていると思ったか?

不敵に微笑む石神さんに、あっという間に押し倒されていた。

サトコ

「‥起きていたんですね」

石神

お前が戻ってきて、すぐに目が覚めた

石神さんは私の頬を撫でると、触れるだけのキスを落とす。

石神

せっかく一緒にいられるのに、先に寝るわけないだろう?

頬や瞼、頬に首筋と、唇が下へ下へと落ちていく。

唇が触れる度、肌がじんわりと熱を持っていった。

<選択してください>

A: くすぐったいです

サトコ

「くすぐったいです‥」

久しぶりの感覚に、頬が熱くなる。

石神

そうか‥

サトコ

「っ‥」

石神さんの指が肌を滑り、ピクリと身体が反応する。

石神

‥お前はここが弱かったな

サトコ

「い、意地悪しないでください‥」

石神

フッ‥

石神さんは薄く微笑み、確実に私の弱いところをついてくる。

B: 石神にキスをする

石神さんが顔を上げると、私は両手で彼の頬を包み込む。

サトコ

「ん‥」

唇が触れ合うと、石神さんは目を丸くした。

サトコ

「私だって‥石神さんと触れ合いたいってずっと思っていました」

石神

サトコ‥

石神さんは柔らかく微笑み、私の頭をそっと撫でる。

石神

寂しい思いをさせて悪かった

そしてもう一度、唇にキスをする。

C: ‥少しショックだったんですよ?

サトコ

「‥少しショックだったんですよ?」

「石神さんが先に寝ちゃってたから‥」

つい、そんな本音が口をついた。

石神

悪い、お前を待っているうちに‥な

吐息が肌を滑り、身をよじる。

石神

だが‥もう目が覚めたと言っただろう?

私の服を器用にはだけさせると、額をくっつけた。

石神

今夜は、寝かせるつもりはない‥

サトコ

「っ‥」

全身に、石神さんの重みを感じる。

石神

‥覚悟してくれ

サトコ

「んっ‥」

言葉と共に、唇が塞がれた。

翻弄されるような熱いキスに、くらくらと眩暈がする。

そして私たちは離れていた自慢を埋めるように、夢中で互いの想いを交わした。

【学校 校門】

数日後。

学校が再開し、すっかり教官も訓練生たちも日常を取り戻していた。

(今日は石神さんの講義があるから、早めに準備を‥)

サトコ

「あ、石神教官!」

1日の段取りを考えていると、石神さんが寮監室から出てきた。

サトコ

「おはようございます」

石神

ああ

サトコ

「今日の講義で使う資料ですが‥」

鳴子

「サトコ~!」

そこに、鳴子が私の元へやってきた。

鳴子

「石神教官も一緒だったんですね。おはようございます」

石神

ああ

サトコ

「どうしたの?」

鳴子

「サトコ宛てに手紙が来てたよ」

鳴子から渡された封筒には、一部に厚みがあった。

(何が入ってるんだろう?)

鳴子

「差出人がないけど‥ラブレターかな?」

サトコ

「そ、そんなわけないでしょ」

鳴子

「開けてみないと分からないじゃない」

「ほら、早く早く♪」

(もう、鳴子ったら)

苦笑しながら、封を切る。

サトコ

「え‥?」

鳴子

「手紙は?入ってないの?」

サトコ

「う、うん‥これしか入ってないみたい」

鳴子

「何それ?どんぐり?」

「せっかくサトコにモテ期が来た!って思ってたのにイタズラか。残念‥」

「それにしても、なんでどんぐりなんだろう?」

(どんぐりと言えば、この前の事件に深く関わっていたけど‥)

(何かの偶然だよね‥?)

藤田は逮捕され、すでに事件は解決しているはずだ。

サトコ

「うん‥」

石神

‥‥‥

首を傾げる私の横で、石神さんが顔をしかめていた。

サトコ

「とりあえず、部屋に置いてくるね」

私は踵を返すと、自分の部屋へ戻る。

それから講義に追われるうちに、差出人不明の手紙のことは忘れていった。

‥この時はまだ、気付いていなかったのだ。

どんぐりに込められた意味にも、その場に立ち尽くしていた石神さんの想いにも‥

Happy  End

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