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癒しのおうちデート 東雲

【教場】

東雲教官は、にっこり笑って教場中を見回した。

東雲

じゃあ、今から先日の試験の答案用紙を返すけど‥

30点未満は、土曜日返上で補習だから

該当者は覚悟するように

赤坂‥

男子訓練生A

「はい」

東雲

上島‥

(どうしよう‥今回のテスト、いろいろまずいんだよね)

(提出した時点で半分も埋めてなかったし‥)

東雲

‥次、女子。佐々木

鳴子

「はい」

東雲

おつかれさま。今回、クラストップだったよ

鳴子

「ほんとですか?やったぁ!」

東雲

氷川‥

サトコ

「はい‥」

東雲

おつかれさま

‥いろんな意味で

(こ、この顔は‥)

恐る恐る見た答案用紙には、目にしたくない点数が記されていて‥

(やっぱり‥)

(わかってた‥わかってたけど‥!)

【カフェテラス】

鳴子

「えっ、サトコ、赤点だったの?」

サトコ

「うん‥」

鳴子

「どうしちゃったの?最近ずっと調子よかったのに‥」

千葉

「病み上がりのせいだよな」

「ほら、この間まで扁桃腺炎で入院してたし」

鳴子

「そっか‥退院してすぐの試験だったもんね」

サトコ

「うん、まぁ‥」

(確かにその通りではあるんだけど‥)

???

「優しいなぁ、鳴子ちゃんは」

(うっ、この声は‥)

東雲

でも、ダメだよ。仲間を甘やかし過ぎたら

テストの日程なんて、前もって告知してるんだから

万が一のトラブルを想定して勉強スケジュールを組めないなんて、社会人として失格じゃない

鳴子

「はぁ‥」

(うう‥やっぱりそうなるよね)

(確かにもっと早くから勉強していたら、赤点くらいは免れたはずなのに‥)

東雲

ところで、氷川さん

今回の補習、寮監室で行うから

サトコ

「えっ、学校じゃないんですか?」

東雲

校内は空調調整で終日入館禁止だって

ま、ちょうどいいんじゃない。今回の補習対象者、キミだけだから

(げ‥)

鳴子

「あ、じゃあ、マンツーマンで補習ですね」

東雲

そうだよ。1対1で付きっきり

おかげでデートをキャンセルする羽目になったけどね

鳴子

「ええっ‥もったいない!」

「どこに行く予定だったんですか?」

東雲

幕張で行われてる『TOKYO恐竜ショー』だよ

特設パネルの前での記念撮影とかー

『恐竜による足ドン』とかー

すっごく楽しみだったんだけどねー

(だ、ダメだ‥また熱が‥)

鳴子

「大丈夫ですよ!」

「東雲教官くらいハイスペックだったら」

「デートをキャンセルしても、女性側は許してくれますって!」

東雲

ハハ‥そうだといいんだけどねー

(鳴子‥ほんとにもうやめて‥)

(私、また病院に逆戻りしそうだから‥)

東雲

それじゃ、氷川さん。土曜日朝9時に寮監室で

鳴子

「頑張れ、サトコ!」

千葉

「ええと、まぁ‥」

「氷川なら追試では高得点を取れると思うよ、きっと」

サトコ

「う、うん、ありがとう‥」

(そうだよ。今度こそいい点数を取らないと‥)

【寮監室】

(本当に私、いろいろとまずい‥)

東雲

おはよう

サトコ

「‥おはようございます」

東雲

補習の前に、いちおう確認

追試の目標点数は?

サトコ

「え、ええと‥」

「95点‥」

東雲

え、なに?

サトコ

「95‥‥」

東雲

なに?

サトコ

「100点です!」

「氷川サトコ、追試では100点満点を取ります!」

東雲

当然

それくらいの価値があるからね。このチケットは

(うう‥それって「TOKYO恐竜ショー」の‥)

東雲

確かに、今日はキミと2人で過ごす予定だったけど

オレが過ごしたかったのは『教え子』でも『補佐官』でもないから

『恋人』としてのキミだから

サトコ

「すみません!」

「本っっっ当にすみません!」

東雲

いいよ。分かれば

ところで‥

教官はふいに立ち上がると、なぜかテーブル越しに顔を近づけてきた。

(なっ‥)

(こ、今度はなにを‥)

東雲

動くな

サトコ

「‥っ」

こつん、とぶつかったのは、私のおでこと教官のおでこだ。

東雲

‥大丈夫そうだね

サトコ

「え‥」

東雲

少し怠そうにしてたじゃん。昨日も一昨日も

サトコ

「‥気付いてたんですか?」

東雲

いちおうね

これでもキミの担当教官で、恋人だから

サトコ

「教官‥」

(どうしよう‥ちょっと嬉しい‥)

(ていうか、今ので熱上がりそうな気がするんですけど‥)

東雲

ま、今日は大丈夫ってことで

それじゃ、本気出していこうか

サトコ

「は、はい‥」

東雲

まずはこのテキストね。今から1時間以内に覚えて

ドサッ!

東雲

次にこれ。こっちは30分で暗記

バサッ!

東雲

残りはこれ。こっちは1時間かな

ドサドサッ!

(な、なんかすごい量のテキストが‥)

東雲

‥以上、午前中の分

サトコ

「えっ‥じゃあ、午後は‥」

東雲

あるよ。もちろん

この3倍くらい

サトコ

「3倍!?」

東雲

ああ、3.5倍だったかも

(そ、そんな無茶苦茶な‥)

東雲

あれ、何その顔‥

追試の目標点数は?

サトコ

「ひゃ‥」

「100点満点です!」

東雲

そうだったね

じゃあ、スタート

(うう‥なんか‥)

(なんか、新たな熱が出そうなんですけどーっ!)

さて、その日の夜‥

東雲

じゃあ、解答見せて

サトコ

「は‥はい‥」

東雲

‥‥‥

‥‥‥

‥ま、いいか

東雲

補習はこれで終了

おつかれさま

サトコ

「お‥おつかれさま‥で‥す‥」

(た、魂が‥)

(魂が今にも口から飛び出しそう‥)

東雲

あーあ

まさか本当に寮監室で貴重な1日が終わるとはね

サトコ

「す‥すみませ‥」

(‥ん?1日が終わる?)

サトコ

「うそっ、消灯時間‥っ」

東雲

申請出しておいた

だから、あと1時間は平気

サトコ

「そ、そうですか‥」

(良かった‥危なかった‥)

東雲

というわけだからさ

戻ってよ、1時間だけ

サトコ

「??」

「何にですか?」

東雲

『恋人』としてのキミ

(え‥)

東雲

欠乏気味だから

『教え子』じゃないキミが

(あ‥)

(そう言えば、先週のデートも、私の体調不良のせいで潰れて‥)

サトコ

「ええと‥じゃあ、ご希望は‥」

東雲

来て。こっちに

伸ばされた手に従うように、私は教官に近づく。

教官は椅子に座ったまま、私の腰を緩く抱き寄せた。

(う‥わ‥)

布越しに伝わってくる体温。

腰に回された腕の感触。

そうしたものを意識するのは、確かに久しぶりな気がして‥

(どうしよう、なんか‥)

(すっごいドキドキする‥)

東雲

屈んで

サトコ

「え‥」

東雲

させて、キス‥

ためらっていると腕を引かれ、教官の太ももに座る形になった。

(あ、目線‥)

(この体勢だと、教官と同じくらい‥)

少し茶色っぽく見える瞳に見惚れているうちに‥

つ‥、と舌で唇をなぞられた。

(あ‥)

サトコ

「‥っ」

いつもよりもゆっくりと繰り返されるキス‥

そのせいか、唇そのものを溶かされているような錯覚に陥りそうになる。

(なん‥か‥)

(すごい‥焦らされ‥て‥)

こういうキスは正直恥ずかしい。

けど、決して嫌じゃない。

だって、教官とのキスはいつだって甘くて‥

一度口にしたら止まらなくなる、なめらかなチョコレートみたいで‥

東雲

‥熱い

サトコ

「え‥」

「あ‥部屋が‥ですか‥?」

東雲

違う。キミ‥

熱‥またぶりかえしてる‥?

サトコ

「そんなことは‥」

熱いとしたら、教官のせいだ。

教官が「恋人に戻って」って言ったから。

恋人ならではの、キスをしてくれるから。

(じゃないと、こんな‥)

(頭‥ぼんやりしてこない‥)

サトコ

「教官‥まずいです‥」

東雲

なにが‥?

サトコ

「なんか‥飛びそう‥」

「今日、いっぱい詰め込んだことが‥」

東雲

じゃあ、やめる?

(それは‥)

サトコ

「もう少し‥だけ‥」

東雲

そう‥

ま、飛んだら付き合うよ

補習、明日も‥

そしてもう一度、私たちは顔を近づけるのだ。

恋人同士でいられる時間を、とことん味わい尽くすために。

Happy  End

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