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聖夜 加賀カレ目線

【ショップ】

サトコをパーティーに同伴させることが決まり、靴を買いに店までやってきた。

(普段なら適当なもん履いときゃいいが、今回は仕方ねぇ)

(あいつひとりに選ばせるのも、不安が残る‥)

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サトコ

「どんなのがいいでしょう?あんまり幼く見えるのはダメですよね」

「でも、変に派手なのもよくないし」

目移りしているサトコから離れて、適当に店内を見て回る。

それなりに好みのものを見つけて、手に取った。

(結婚式用のドレスって言ってたな)

(これなら、たいていのもんには合うだろ)

サトコの所へ戻り、ソファに座らせて履かせてみる。

どこか背伸びをしているようにも見えたが、サトコは気に入ったらしく、すぐ店員に声をかけた。

サトコ

「すみません、これください」

店員

「ありがとうございます」

サトコ

「加賀さん、選んでくれてありがとうございます!」

加賀

‥ああ

嬉しそうに会計に向かう背中を眺めていると、ふと、傍らに置いてあるピンクの靴が目に付いた。

(こっちの方が、あいつらしいな)

(‥まあ、今回はあくまで外面用だ)

サトコが戻ってくると、“至福だいふく” とやらを味わうため、店を出た。

【ダンススタジオ】

甘味処に寄った後、貸し切ったスタジオでダンスの練習をさせる。

ジャージにヒールという妙な格好をさせられているというのに、サトコは文句も言わない。

サトコ

「加賀さん、今の所のステップって、私の方が早かったですか?」

加賀

テメェは焦りすぎだ

サトコ

「すみません、さっきはワンテンポ遅いって言われたから」

「じゃあ今度は、もうちょっと意識して早目に‥」

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加賀

ターンした瞬間、サトコのヒールが足を踏む。

サトコ

「あっ!?すみません。また踏みました‥!?」

加賀

‥んなことはいい。それより、集中しろ

あまりのセンスのなさにため息をこぼしながらも、腰を支えてターンさせる。

(こいつ‥わざとやってんじゃねぇだろうな)

(これで、さっきから何度目だ)

一瞬そう思ったものの、サトコの真剣な目を見てすぐに思い直した。

(わざと足を踏む‥なんて、器用なことが出来る女じゃねぇ)

(いつだってバカみてぇに一生懸命で、くだらねぇくらい、必死で)

サトコ

「あっ、またターン間違えた‥!」

加賀

焦りすぎだって言ってんだろ

どうしようもなくなったら、俺に合わせろ

サトコ

「は、はい‥」

(‥時間がねぇから、こうして特訓してるが)

(パーティーなんざ、こっちの都合だってのに‥)

弱音を吐かず文句も言わず、必死に食らいついてくる。

今さらながら、その姿を見直した。

(‥根性だけはあるんだったな)

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サトコ

「加賀さん、今のところって‥」

サトコがこちらを振り向いた瞬間、不意打ちでキスをする。

一瞬驚いた様子を見せたサトコが、ようやく状況を理解して真っ赤になった。

サトコ

「な、な‥!」

加賀

なんだ

サトコ

「なんで、れれれ、練習中ですよ‥!?」

加賀

したくなっただけだ。ぐだぐだ言うんじゃねぇ

‥見ろ

サトコの身体を支えながら、鏡の方を向かせてやる。

自分の顔が赤いことに気付いて、サトコが慌てたように目を伏せた。

サトコ

「ドキドキしてステップを忘れちゃうので、キスしないでください‥」

(バカが‥逆効果だ)

(やめろと言われちゃ、したくなるのが人間ってもんだろ)

良くやってる褒美に、息ができないほどのキスをくれてやった。

【ショップ】

クリスマス反対デモとやらに巻き込まれ、転んだサトコのヒールが折れた。

(‥簡単に折れるほど、練習してたってことか)

(ガキをかばって転ぶのも、こいつらしいが)

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サトコ

「すみません。せっかく加賀さんが選んでくれたのに」

加賀

んなことはどうでもいい

サトコをソファに座らせて、この間見かけた靴を探す。

ちょうどサトコのサイズもあり、手に取ると店員がやってきた。

サトコ

「そちら、お連れのお客様にぴったりですよね」

加賀

‥履いていきます

店員

「かしこまりました。かわいらしいデザインですから、きっと良くお似合いになりますよ」

サトコのところへ戻ると、靴を見て驚いた表情になった。

サトコ

「それ‥」

加賀

履け

サトコ

「は、はい‥」

思った通り、ピンクのヒールはサトコの雰囲気によく合っていた。

(テメェのイメージで選んだ‥とは、口が裂けても言えねぇな)

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心の中で苦笑して、会計を済ませるとサトコを連れてパーティーへ向かった。

【パーティー会場】

サトコが食べ物を取りに行っている間に、いつの間にか女どもに囲まれた。

女性1

「加賀さん、お久しぶりです!今日はいらっしゃってたんですね」

女性2

「学校もいいですけど、たまには本庁にも来てください」

(チッ‥鬱陶しい)

(ただでさえ、こんな面倒なパーティーなんざ来るつもりじゃなかったってのに)

女性3

「ねえ加賀さん、一緒に来てた子って、訓練生なんですよね?」

女性4

「あんな子を同伴させるなら、私に声をかけてくれればよかったのに」

加賀

黙れ。失せろ

その一言で、女どもが怯んだ表情を浮かべて離れる。

(この程度で引き下がる奴が、偉そうにあいつを批判しやがって)

(根性だけなら、あいつに敵う女はいねぇだろ)

会場を見渡すと、いつの間にかサトコがいない。

バルコニーへ向かう姿が見えて、そのあとを見知らぬ男が追いかけようとしている。

(‥目を離すと、すぐこれか)

(他の男に褒めさせるために選んだんじゃねぇ)

若干苛立ちを覚えながら、心の中で舌打ちをして男を追いかける。

くだらない嫉妬心だとわかっているのに、自分の行動を止められないなど、どうかしている。

(それなりの恰好をすりゃ、男の目を引く‥って自覚がねぇから、始末が悪ぃ)

(こればっかりは、いくら躾けようがどうしようもねぇ‥)

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ため息をつき、バルコニーへ出た。

【バルコニー】

男に話しかけられ、サトコは困った様子で必死に断ろうとしていた。

(男に声をかけられても絶対になびかねぇ。いい気にすらならねぇ)

(あいつの自分への自信のなさは、天才的だな)

改めて、サトコのドレス姿を眺める。

よく似合っているピンクのヒールを履いたその姿は、すべてが自分のものなのだと実感させた。

(見てくれのいい女も、媚びる女もこの世には履いて捨てるほどいる)

(だが‥自分のものだと思って満足できる女は、この世でこいつだけだ)

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加賀

おい

男の横を通り過ぎて、サトコの前に立った。

サトコ

「か、加賀さん‥これには、深いわけが」

加賀

こんなところで何やってやがる

(勝手にふらふらしやがって‥無断でいなくなんじゃねぇ)

加賀

俺のパートナーは、テメェだろ

【ホテル】

クリスマスイブが過ぎ、翌朝。

目を覚ますと、サトコは昨日の夜の疲れが抜けないのか、ぐっすり眠っていた。

(‥こいつのことだから、意味なんざ考えねぇんだろうな)

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サトコの左足首につけてやったアンクレットを眺めながら、昨日のことを思い出す。

(‥これでもう、他の男に声をかけられたりしねぇだろ)

(虫よけ程度にしかならねぇかもしれねぇが)

左の足首のアンクレットは、“恋人や婚約者がいる” という意味だ。

アンクレットを眺めていると、

サトコのつま先が少し赤くなり、両足にマメができていることに気付いた。

(‥どんだけ練習しやがった?)

(お前がそこまでやる必要なんざ、ねぇのに)

スタジオで練習している姿は無様だったが、昨日のパーティーではしっかり踊れていた。

それだけ、家でも自主練していたのだろう。

サトコ

『手紙が欲しいです!』

『加賀さんからの、心のこもった手紙が』

(‥めんどくせぇ女だな)

頬を撫でて柔らかさを楽しみ、口元を緩ませる。

(頑張った褒美に、今回は飴を与えてやってもいいか)

ベッドから降りると、テーブルに置いてあるホテルのレターセットを取った。

何を書こうかと迷い、ベッドで眠っているサトコを振り返る。

(愛の言葉なんざ、冗談じゃねぇ)

(そんなもんは、いつか直接言ってやる)

それでも、こうして気持ちを文字に残してサトコが喜ぶのなら。

たまには、それに乗ってやるのも悪くないと思えた。

(‥クリスマスってのは、くだらねぇな)

(まあ‥たまには、そういう日があってもいい)

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珍しくそんなことを思いながら、便箋にペンを走らせた。

Happy  End

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