カテゴリー

聖夜 加賀2話

【スタジオ】

加賀

脱げ

そう言われて、加賀さんにワンピースのファスナーを下ろされた。

(鏡張りの部屋で、服を脱ぐ‥なんて、まさか加賀さん、そういうプレイを‥!?)

‥と、思ったものの。

サトコ

「‥なんで、ジャージなんですか?」

加賀

サイズはちょうどいいな

履け

加賀さんに渡されたジャージに着替えると、今度はさっき買ったヒールを差し出される。

(まさか‥)

サトコ

「ひょっとして‥ここって、ダンススタジオ?」

加賀

どこだと思ってた

サトコ

「いえ‥鏡張りで、不思議な部屋だなって」

「ダンススタジオなんて来たことないので、すぐにピンと来なかったんですけど」

ジャージにヒールというトンチンカンな格好をさせられ、鏡の前に立つ。

加賀

テメェの自主練だけでどうにかなるとは思えねぇ

時間もねぇ。今日一日でしっかり、動きを身体に叩き込め

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-013

サトコ

「たったの一日で!?」

加賀

テメェの腕前なんざ、どうせ高校の創作ダンスレベルだろ

サトコ

「ギクッ‥なぜそれを」

加賀

やらねぇよりは、少しでも鍛えた方がマシだ

(何事かと思ったら、ダンスのレッスンか‥)

(加賀さんのことだから、どんな鬼畜プレイするのかと)

加賀

ぼけっとすんじゃねぇ

サトコ

「す、すみません」

腰を抱き寄せられて、強引にダンスのレッスンが始まる。

鏡には、ちぐはぐな格好で加賀さんに抱きしめられている自分が映った。

(恥ずかしい‥なんて思ってる場合じゃない)

(あの加賀さんが特訓するってことは、きっとお偉いさんもたくさん来るんだ)

加賀

‥リズム感ゼロだな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-014

サトコ

「す、すみません‥こういうダンスはしたことがないので」

加賀

テンポはゆっくりだから、焦らなくていい

1,2,3‥このくらいのリズムだ

サトコ

「は、はい‥」

言葉はいつも通り乱暴なのに、その手つきや声音は優しい。

(加賀さんのダンス、完璧だ‥)

(何でもできるすごい人だと思ってたけど、まさかダンスまでできるとは‥)

必死に加賀さんについていこうとするけど、なかなかうまくいかない。

加賀

っ‥‥‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-015

サトコ

「あっ‥すみません!今、足踏みましたよね‥!?」

加賀

‥いいから、集中しろ

そうじゃねぇ。ターンがワンテンポ早ぇ

サトコ

「む、難しい‥」

(本当に大丈夫かな‥なんか、不安になってきた)

(‥いや!加賀さんの役に立つためには、ダンスくらい出来るようにならなきゃ!)

【寮 自室】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-016

ダンス訓練から、数日後。

加賀さんへのクリスマスプレゼントは、悩んだ末にネクタイに決めた。

(加賀さんに似合いそうなのも見つかったし、あとは手作りのお菓子だけど‥)

サトコ

「‥あっ、間違えた。今のところはターンじゃなくてステップだ」

「えーと‥1,2,3‥4でターン」

部屋の中でもヒールを履き、ダンスの自主練に勤しむ。

ステップを踏みながら、お菓子のレシピ本に目を通した。

(うん、やっぱりこのマシュマロチョコレートにしよう)

(この前の甘味処で食べた “至福だいふく”、邪道って言いながら喜んでたし)

加賀さんの喜ぶ顔を想像するとついステップがおろそかになりそうで、慌てて気を引き締めた。

【カフェテラス】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-001

学校では、休み時間に社交界のマナーの本を黙読した。

(なるほど‥挨拶からテーブルマナーまで、色々あるんだな)

(最近は立食パーティーが多いけど、今回はどんな感じなんだろう)

鳴子

「サトコ!マナー本なんて読んで、どうしたの?」

サトコ

「あ‥その、私もそろそろ、マナーを学んだ方がいいかと思って!」

「教官たちの手伝いで、レストランとかに行くこともあるし‥!」

鳴子

「なるほどね~。専属補佐官も大変だね」

「でも忙しそうだけど、最近はお肌の調子がいいんじゃない?」

サトコ

「わかる?実は、毎日しっかりスキンケアしてるんだ」

「‥潜入捜査のために!」

鳴子

「サトコ‥仕事と勉強熱心すぎるよ」

心配してくれる鳴子に申し訳ない気持ちになりながらも、意識はすでにクリスマスに向かっている。

(ガサガサの疲れた肌で、加賀さんのパートナーを務める訳にはいかない‥)

(いくら仕事とはいえ、加賀さんとクリスマスを過ごせるんだから!)

そう自分を奮い立たせている間に、時間は流れ‥

【駅前】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-017

パーティー当日のクリスマスイブ、少し早めに待ち合わせをした。

(パーティーの前にデート‥なんて、加賀さん、やっぱり優しいな)

(クリスマス用のマシュマロチョコレートも無事に完成したし、ネクタイもバッグの中‥)

(よし、完璧!)

待ち合わせ場所に行くと、いつものように加賀さんが先に待っていた。

私に気付いたらしく、煙草を消してじっとこちらを見ている。

サトコ

「‥加賀さん?」

加賀

まあ、いいんじゃねぇか

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-018

サトコ

「え?」

加賀

その格好にその靴なら、悪くねぇ

<選択してください>

A: 褒めてくれてる?

サトコ

「‥もしかして、褒めてくれてるんですか?」

加賀

そう聞こえたんなら、そうなんだろ

(‥否定しない!?加賀さんが!?)

驚愕のあまり、睨まれるのも構わず加賀さんを凝視した。

B: 今日は頑張ります

サトコ

「今日は頑張りますから!よろしくお願いします」

加賀

‥ああ

テメェはつくづく、変わってる女だな

サトコ

「え?」

加賀

普通は、イブに仕事で連れ回されたら面白くねぇだろ

サトコ

「でも、加賀さんと一緒にいられますから」

C: どういう風の吹き回し?

サトコ

「どどど、どういう風の吹き回しですか‥!?」

加賀

二度と言わねぇ

サトコ

「あっ、冗談です!だからまた言ってください!」

加賀

気が向いたらな

(一生、気が向かないかもしれない‥!)

(それにしても、加賀さんが褒めてくれるなんて‥クリスマス効果かな)

(嬉しすぎる‥今日のパーティー、今の言葉だけで頑張れそう)

サトコ

「パーティーは5時からですよね。まだ余裕ありますね」

加賀

ああ‥

返事をしながら、加賀さんが何かに気付いた様子で向こうの通りに視線を向ける。

何やらプラカードを持った人たちが、こちらに近付いてきた。

サトコ

「“クリスマス撲滅運動” “クリスマスなんて必要ない!” ‥」

「‥クリスマス反対派の、デモ活動みたいですね」

加賀

ひとり身の僻みか

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-019

サトコ

「加賀さん‥それ、全世界の恋人がいない人を敵に回しますよ」

人混みを避けようとしたものの、デモ隊はどんどんこちらに歩いてくる。

人の間を縫って加賀さんについていくと、前を歩いていた人が突然方向転換をした。

サトコ

「わっ」

加賀

おい

前の人にぶつかった私を見て、加賀さんが立ち止まる。

咄嗟に受け身を取って事なきを得た‥と思った瞬間、目の前に子どもが走ってきた。

(‥ぶつかる!)

身をよじって子どもを回避したーーーとホッとする間もなく、がくんっと踵に軽い衝撃を覚えた。

サトコ

「えっ‥」

加賀

何やってる

サトコ

「す、すみません‥ヒールが‥」

足元を見てみると、片方の靴のヒールが折れてしまっている。

(毎日、これを履いてダンスの練習してたから‥)

(せっかく、加賀さんが選んでくれた靴なのに)

加賀

‥チッ

舌打ちが聞こえたと同時に、煙草の香りに包まれた。

私を抱き上げると、加賀さんがそのまま歩き出す。

サトコ

「か、加賀さん!自分で歩けますから!」

加賀

ちんたらやってる暇はねぇ

‥シケた面見せんな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-020

サトコ

「だって、加賀さんが選んでくれた靴が‥」

「‥っていうか、どこに行くんですか?」

加賀

黙ってろ

周りの視線など気にせず、加賀さんが連れて行ってくれたのは‥

【ショップ】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-008

そこは以前、ヒールを買ったお店だった。

加賀

ここで待ってろ

サトコ

「はい‥」

私をソファに座らせると、加賀さんがいなくなる。

でもすぐに、今履いているものよりも履きやすい靴を持ってきてくれた。

サトコ

「わあ‥かわいいです」

加賀

履いてみろ

(今のと、ヒールの高さは同じくらいだけど‥でも、履きやすい)

(それに、あまり疲れない‥でもこんな素敵な靴、よくすぐ見つかったな‥)

サトコ

「ありがとうございます。これにします」

加賀

行くぞ

サトコ

「え?でもまだ、お会計が‥」

加賀

いらねぇなら、素足で来い

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-021

どうやら、私が履き替えている間に、支払いを済ませてくれたらしい。

サトコ

「あ、ありがとうございます‥!」

加賀

今度は、別の道から行くか

またあのデモに出くわしたら、面倒だからな

(面倒‥って言ってるけど、きっと私のためだよね)

(加賀さんの優しさはわかりにくいけど‥でもいつも、ちゃんと私のこと考えてくれてるんだ)

【パーティー会場】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-022

パーティーでは、加賀さんと一緒に挨拶をして回った。

招待客1

「加賀くんの補佐官?なるほど、しっかりした女性のようだね」

加賀

まだまだ半人前です

招待客2

「加賀くんは厳しいから、大変だろう?」

サトコ

「いえ、とても勉強になります」

ひと通り挨拶が済むと、加賀さんがふとその場を離れた。

戻ってきたその手には、ドリンクがふたつ。

加賀

飲んどけ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-023

サトコ

「え?」

加賀

飲まず食わずで、疲れただろ

<選択してください>

A: まだまだ平気です

サトコ

「ありがとうございます。でも、まだまだ平気ですよ」

加賀

緊張していると、疲れを自覚できねぇからな

ぶっ倒れられても面倒だ

サトコ

「すみません。ありがとうございます」

B: どうしちゃったんですか?

サトコ

「加賀さん‥どうしちゃったんですか?」

加賀

なんの話だ

(ドレス姿と靴を褒めてくれたり、飲み物を持ってきてくれたり)

(クリスマスだから‥?加賀さんが紳士だ‥)

C: 加賀さんは大丈夫?

サトコ

「加賀さんは大丈夫ですか?疲れてないですか?」

加賀

慣れてるからな

これも仕事のうちだ。しょうがねぇ

(なんか、加賀さんらしい割り切り方だな)

サトコ

「私、何か食べ物取ってきますね」

加賀

ああ‥

招待客3

「やあ加賀くん!君も来てたんだね」

私が離れると、加賀さんがまた別の人に話しかけられる。

食べ物を取りに向かい、ふと振り返ると、今度は女性たちに囲まれていた。

女性1

「加賀さん、最近全然本庁に顔出さないんですね」

女性2

「私、寂しくて‥学校もいいですけど、たまにはこっちにも来てください」

加賀

そんな暇はねぇ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-024

(うっ‥さすが加賀さん、モテる‥)

(普段は怖がられてるみたいだけど、でもやっぱり、女性にとっては魅力的な人だよね)

女性に囲まれる姿を見ているのがなんだかつらくて、少しもやもやしてしまう。

サトコ

「‥今日は、ふたりで過ごせると思ったのにな」

小さく呟いてから、慌てて首を振った。

(いや‥ダメだダメだ、これも仕事なんだから)

(‥今戻っても、邪魔しちゃいそうだし、食べ物はあとにしよう)

気持ちを落ち着かせるため、外で風に当たろうとバルコニーに向かう。

【バルコニー】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-025

(はあ‥仕事中なのに、他の人にヤキモチ妬くなんて)

(だから加賀さんに、半人前って言われるんだ)

サトコ

「こんなんじゃダメだ‥ちょっと頭冷やしてから戻ろう」

すると、後ろから誰かが負ってくる気配がした。

(もしかして‥加賀さん?)

to  be  continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする