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聖夜 難波2話

クリスマスイブの朝。

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難波

参った。道も電車も全部不通だ

電話越しに聞こえて来た室長の声は心なしか暗かった。

難波

車も電車も使えないとなると、横浜行きは無理だな‥

(そんな‥)

ガッカリしながらも、あまりそれを表に出さないように答える。

サトコ

「ですよね‥」

でも室長は、そんな私の気持ちなど見通しているようだった。

難波

代わりにはならないかもしれんが、何か美味いものでも食いに行くか?

サトコ

「そうですね‥」

(そうするしか、ないよね‥)

難波

調べてみたら、いくつかキャンセル待ちなら行けそうなところは見つかった

確実に行けるところは、これからまた当たってみるよ

サトコはどこか行きたい店、あるか?

サトコ

「私は‥そうですね‥」

私が横浜デートと聞いてはしゃぎ過ぎたために、室長に無理をさせているのかもしれない。

なんだか室長に申し訳なくて、思わずそのまま黙り込んだ。

難波

本当は俺も、特別なことをしてやりたかったんだが‥

サトコ

「!」

室長の何気ない呟きが、たまらなく嬉しく心に響いた。

(そんな風に思ってくれてたなんて、それだけで嬉しいな‥)

(今日は、そんな室長とずっと2人でいたい‥2人でいられさえすれば、私は‥)

<選択してください>

A: いつもの居酒屋を提案

サトコ

「そういう室長の気持ちだけで十分です。私は別に、いつもの居酒屋でも‥」

難波

いやいや、さすがにそれはないだろ

リクエストがないなら、こっちでどうにか探してみるよ

(でもこれ以上、室長に面倒をかけるのも‥)

サトコ

「だったら、室長の家でホームパーティーをしませんか?」

B: ホームパーティーを提案

サトコ

「よければ、室長の家でホームパーティーをしませんか?」

難波

ウチで?

サトコ

「一緒に準備してご飯食べて‥それなら、ホワイトクリスマスを満喫できますし」

C: なんでもいいと言う

サトコ

「なんでもいいんです。私は」

「室長と一緒に過ごせるなら、特別なんかじゃなくても」

難波

サトコ‥

サトコ

「そうだ!よければ室長の家でホームパーティーをしませんか?」

難波

俺は構わないが‥いいのか?お前はそれで

結局、いつもと同じになっちまうぞ

サトコ

「同じがいいんです!」

私の言葉に驚く室長の様子が、電話越しに伝わってきた。

難波

そうか‥それじゃ、どうすりゃいい?

サトコ

「ドソキホーラに行きましょう!」

難波

ドソキホーラって、あの安売りの殿堂か?

サトコ

「はい。まずはそこで、パーティーグッズとかいろいろ買い出しを」

難波

‥わかった。あそこなら近場だから車で行けると思う

すぐに迎えに行くから、待っててくれ

サトコ

「はい!」

電話を切った時には、もうさっき感じた落胆はどこかにいなくなっていた。

(室長と2人きりのホームパーティー!どんな風にしようかな)

【待ち合わせ場所】

難波

すっかり待たせちまったな。あっちもこっちも渋滞で参ったよ

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あの後すぐに家を出たという室長が待ち合わせ場所に着いたのは、もうお昼を過ぎてからだった。

サトコ

「無事に着いてくれて何よりです」

(ずいぶん待ちわびちゃったけど、それだけにこうして会えて嬉しいな)

雪という思いがけない障害が、小さな喜びを大きくしてくれるようで不思議だった。

難波

それじゃ、行くか

サトコ

「はい!」

【ドソキホーラ】

難波

すげぇな。こんなに色々売ってるのか‥

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店内には初めて入ったという室長は、

カートを押して店内を歩きながら、あちこちを興味深そうに見回した。

サトコ

「クリスマスの飾りから食べ物まで、何でも揃いますよ」

難波

しかも安いな

サトコ

「なにしろ安売りの殿堂ですからねー。あ、これなんかどうですか?」

リースとモールを選んでいると、

室長はどこからか “MERRY CHRISTMAS!” のガーランドを持ってきた。

難波

こういうのも分かりやすくあった方がよくねぇか?

サトコ

「いいですね。あとは、クリスマスっぽいテーブルクロスなんかもあるといいかも‥」

難波

じゃあ、そっちは任せた。俺はちょっと酒を見てくるよ

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サトコ

「了解です」

2人で敬礼し合って、二手に分かれる。

店内をしばらくグルグル回ってからレジに行くと、

なんとそこには巨大クリスマスツリーを抱いた室長が待っていた。

サトコ

「し、室長‥それは?」

難波

折角だからこいつも買うことにした

サトコ

「でも、3万円とか書いてありますよ?」

たまたま目に入った値札に驚く私に、室長は当然のように言った。

難波

どうせ、これからもずっと使うだろ?

サトコ

「え‥」

(それって、これからもずっと2人でいるってことだよね‥?)

何気ない室長の言葉に、思わず顔が赤くなる。

サトコ

「だからって、いくらなんでも張り切り過ぎですよ!」

難波

しょうがねぇだろ、コイツと目が合っちまったんだから

内心のドキドキを隠しながら言うが、室長は全然気付いていないようだ。

(本当に、罪なくドキッとするようなことを言う人だよね‥)

サトコ

「もう‥これじゃ、しまう場所がなくて1年中出しっぱなしですよ?」

難波

あ、しまう場所か‥そこまで考えてなかった‥

サトコ

「え、本当に?」

顔を見合わせ、2人で同時に笑い出す。

(室長と2人なら、どこで何してても幸せだな)

楽しい買い物の時間はあっという間に過ぎて行った。

【難波 マンション】

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結局帰りも渋滞に巻き込まれ、室長のマンションに着いたのは夕方になってからだった。

難波

さてと、それじゃ早速、この巨大ツリーをやっつけるか

サトコ

「いっぱい買ったつもりですけど、オーナメント足りますかねぇ?」

難波

まあ、何とかなるだろ

室長はご機嫌にジングルベルの鼻歌を歌いながら、次々にツリーを飾りつけていく。

サトコ

「ちょっと待ってください」

「ここは赤い飾りばっかりで、こっちは青い飾りばっかりな気がしません?」

難波

ん?そうか?

サトコ

「もう少し色を散らした方が‥室長、意外とセンスないですねえ‥」

私が飾りつけをいじると、今度は室長がその手を止めた。

難波

いやいや、待て。これだと今度、ここに菓子ばっかりでここは動物ばっかりだろ

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サトコ

「そう言われてみれば‥」

難波

結構難しいもんだな

サトコ

「2人ともセンスないだけかもしれませんけど‥」

難波

それは確かに

2人で顔を見合わせて苦笑してしまった。

難波

まあ、いいじゃねぇか。好きなところに好きなもんを飾っちまえば

サトコ

「そうですよね!どうせ私たちだけのパーティーですし」

お互いに好き勝手に飾りつけを終え、最後にツリーの巻きつけたライトのスイッチを入れた。

【キッチン】

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難波

本当にこれからケーキ作るのか?

サトコ

「お料理はお惣菜を買っちゃいましたし、せめてこれくらいは」

私が買ってきた材料を広げ始めると、室長も腕まくりして隣に並んだ。

難波

それじゃ、2人でさっさとやっちまうか

俺は、何をすればいい?

<選択してください>

A: クリームの泡立て

サトコ

「それじゃ、生クリームのホイップをしてもらえますか?」

難波

よし、任せとけ

カシャカシャカシャ‥

サトコ

「ちょ、ちょっと室長?」

難波

ん?何だ?

サトコ

「すごい飛んでくるんですけど‥」

難波

おお。悪い、悪い

室長は笑って言いながら、私の顔についた生クリームをペロッと舐めた。

サトコ

「!」

難波

うん、うまい

サトコ

「もう、室長ったら‥」

B: イチゴの下ごしらえ

サトコ

「それじゃ、イチゴを洗って、ヘタを取っておいてもらえますか?」

難波

よし、任せとけ

豪快にイチゴを水洗いしたと思ったら、室長はおもむろにその一つを頬張った。

難波

うん、甘い

サトコ

「あ、今、食べましたよね?」

難波

役得ってヤツだな

サトコ

「ズルい‥!」

難波

ほら、あーん

頬を膨らませた私の口元に室長がイチゴを近づけた。

甘い香りにつられるように、私も思わず口を開く。

サトコ

「本当だ、甘い!」

難波

だろ?これでお前も同罪な

サトコ

「あ‥」

「もう、室長ったら‥」

C: 材料の計量

サトコ

「それじゃ、それぞれの材料を、この本の通りに計量しておいてもらえますか?」

難波

よし、任せとけ

バフッ

難波

うっ‥

サトコ

「ごほっごほっ、ちょっと、室長‥!」

いきなりまき散らされた小麦粉に、2人でしばらく咳き込んだ。

ようやく落ち着いて室長を見ると、ヒゲが真白くなっている。

サトコ

「ふふっ、サンタクロースみたい」

難波

あのな‥笑ってないで、拭いてくれよ~

私は尚も笑いながら、室長の顔をナプキンで丁寧に拭いてあげた。

難波

サンキュな

お返しに、室長は私の額に軽くキスを落とした。

サトコ

「もう、室長ったら‥」

嬉しかったり、恥ずかしかったり。

何度もハプニングを乗り越えつつ、ようやくケーキも完成した。

【リビング】

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難波

それじゃ、メリークリスマス

サトコ

「メリークリスマス!」

室長がセレクトしてくれたワインで乾杯し、2人のパーティーが始まった。

テーブルには、きれいに並べられたオードブルやローストチキン、そして手作りのケーキ。

少し照明を落とした部屋の中はクリスマスのオーナメントで飾られ、

時々点滅するライトが窓の外の雪を温かく映し出す。

(やっぱりホームパーティーにして正解だったかも)

(結局一番寛げるし、2人きりの時間を満喫できるよね)

サトコ

「なんかいいですよね、こういうの」

「お家でのんびりクリスマスなんて、子どもの時以来な気がします」

難波

へぇ‥子どもの頃は、いつもこんな風にパーティーしてたってことか?

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サトコ

「お母さんが結構イベント好きだったので、かなり気合が入ってましたよ」

「私が中学の時だったかな‥今年こそ本格的にチキンを丸焼きするんだって言いだして」

「小さなオーブンに無理やり丸ごと買ってきたチキンを押し込んだんですけど」

「中は全然焼けないし、でも上はどんどん焦げるし」

「そのうち、弟が『腹減った』って騒ぎ出すし、もう大変でした‥」

難波

若干無謀なところはお母さん譲りってことか?

サトコ

「かもしれません‥」

「室長は何かありますか?子どもの頃のクリスマスの思い出」

難波

思い出なぁ‥

それだけ言うと、室長は黙り込んだ。

サトコ

「?」

(そういえば室長、前に言ってたっけ‥)

サトコ

「室長のご家族は、今どうしてるんですか?」

難波

俺の家族か‥

さぁ、どうしてるかな‥

まだどこかで生きてるとは思うが‥

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わずかなはずの沈黙が、やけに長く感じられた。

(いけない‥つい踏み込み過ぎたかも‥)

to  be  continued

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