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逆転バレンタイン カレ目線 難波1話

【公安課】

上司

「難波、いいところに来た。お前に辞令だ」

それは、ある重大案件の処理が終わってすぐのことだった。

難波

辞令?

上司

「次は公安学校の教官だそうだ。と言っても、サポートだけどな」

難波

ちょっと待ってくださいよ

俺は教官ってタイプじゃ‥

上司

「そんなことは上も百も承知だ。それでも行けって言うんだから、何か考えでもあるんだろう」

「ちなみにお前がサポートする教官、お前の好きそうなヤツらしいぞ」

難波

俺の‥?

【学校 屋上】

成田

「難波さんについてもらうのは、アイツです」

ひとしきり校内を案内された後で、成田はグラウンドを指差した。

難波

あの端っこのヤツですかね?

成田

「いえ、真ん中の女性ですよ。氷川サトコ」

難波

は‥?

(おいおい、一体どこが俺のタイプなんだ?)

(まだケツの青いガキじゃねぇか‥)

難波

これまたずいぶんと若い‥

成田

「だからこそ、難波さんのサポートが必要なんです。よろしくお願いしますよ」

慌ただしく去っていく成田を見送って、俺は再びグラウンドに目を戻した。

(捜査の基本その1‥まずは対象者を観察するか‥)

サトコ

「ちょっと、加賀くん!勝手なことしないで!」

氷川教官は必死に叫ぶが、訓練生たちはちっとも聞いている様子がない。

石神

氷川教官、そこにいられると邪魔なのですが

サトコ

「あ、ごめんなさい‥」

(これじゃ、どっちが教官だかわかったもんじゃねぇな)

(あれをサポートすんのは結構な大仕事だぞ‥)

難波

あ~現場に戻りてぇ

ぼやきながら、タバコに火を点けた。

いつにも増して、煙が目に沁みる。

【個別教官室】

サトコ

「難波さん‥今までどこに行ってたんですか?」

「いい加減サボり過ぎですよ?」

教官室に顔を出した瞬間、今日も怒られた。

難波

あくまでも俺はサポートなので、氷川教官の邪魔にならないようにと‥

本当はやる気が起きないだけなのだが、もっともらしく言ってみる。

サトコ

「邪魔かどうかは私が決めます」

難波

じゃあ、邪魔じゃない仕事を指示してもらえますかね?

サトコ

「それじゃ、今日の課題の提出状況をチェックしてください!」

「そのあとは、これもお願いします!」

難波

はいはい‥

(まったく‥ピヨピヨピヨピヨ、ひよこみたいにうるせぇな)

次々降ってくる氷川教官からの指示に従順に従いながら、そっと笑みを堪えた。

【屋上】

難波

あ~やっぱりデスクワークは疲れるな

屋上に出て伸びをするなり、思わず本音がこぼれた。

少し先で、一人でタバコをふかしていた訓練生が振り返る。

難波

君‥加賀くんだっけ?

加賀

はあ、どうも

加賀はチラリと俺に視線を投げただけで、またタバコを吸い始める。

(うるさいから構ってくれるなって感じだな)

(一匹狼気取りか‥若いねぇ‥)

逆に構ってみたくなり、隣に立ってタバコをくわえた。

難波

訓練はどうだ?

加賀

別に、どうという程でも

難波

こんなんじゃ物足りないって顔だな

加賀

物足りないというか‥

難波教官もココ出身ですか?

難波

まさか。俺らの頃はなかったよ、こんなご親切なもん

いきなり現場に放り込まれて、身体で覚えろって時代だった

加賀

今もそれでいい気がしますが

難波

なんだ、なんだ?公安学校否定論者か?

加賀

そうではないですが、現場では教科書通りのことなんてまず起きないでしょう?

こんな座学、一体何の役に立つんだか‥

(へえ‥コイツがいつもマニュアルから微妙に外れるのは、そういう考えがあるからか‥)

難波

お前の気持ちは分からんでもない

まあ、今は体幹を鍛えてる時期だと思うことだ

加賀

体幹ですか‥

加賀は軽くお辞儀して去って行った。

(納得したのか?さすがエリート、察しはいいみたいだな)

【教場】

(それに引きかえ‥)

通りすがりにのぞいた教場では、氷川教官が顔を真っ赤にして何やら怒っている。

サトコ

「ちょ、ちょっと、東雲くん!?」

東雲

やだなあ、氷川教官。公安刑事は表情を簡単に表に出さないんじゃなかったでしたっけ?

サトコ

「そ、それは捜査での話です!」

「そんなことより東雲くん」

「これが情報を聞き出すアクティブ・フェーズの実践だとしたら、完全に失敗ですからね?」

(おっと、珍しく反撃成功か?)

(頑張れ、頑張れ、ひよっこ先生)

【個別教官室】

サトコ

「はあ‥」

命じられた仕事をさっさとこなしてタバコを吸いに行こうとした瞬間、

氷川教官が盛大なため息をついた。

なんとなく構って欲しい空気を感じ、思わず声を掛ける。

難波

何か、悩み事でも?

サトコ

「い、いえ!その‥教官として、私、このままで大丈夫かなって」

難波

ああ、そういうことなら‥

(変に声なんかかけるんじゃなかったな‥)

(だいたい、あのクラスの生教官はコイツなんだから)

(サポートの俺がどうこう言う筋合いじゃないだろ)

(俺はあくまでも、氷川教官の指示に従うのみだ。何気にそれが一番楽だしな)

難波

いいんじゃないですかね

サトコ

「え‥?」

ポカンとなる氷川教官を置いて席を立つ。

ドアを閉めながらふと視線を投げると、氷川教官は引出しからチョコを取出し、

何かをぶつけるように食べ始めた。

(またチョコか‥‥ストレス溜まってんだな)

【屋上】

難波

よう、お前ら。最近どうだ?

今日は、屋上で昼飯を食っていた訓練生たちに声を掛けた。

加賀と話をして以来、訓練生に対する興味が湧いた俺は、

なんとなくこっちから話しかけるようになった。

(確かコイツらは、石神に東雲だったな‥)

(石神は分析力がなかなか。東雲は抜群のハッキング能力を持ってる)

(それぞれに能力があるがゆえに好き勝手する嫌いはあるが‥)

【訓練所】

東雲

対象に付けたGPSが動き出しました

逮捕術の実践訓練の日。

俺は氷川教官と共に、訓練生たちの動きを片隅から見守った。

黒澤

すぐに追いかけますか?

石神

いや、待て。GPSの動きとNシステムで追跡した車両の動きが合わない

加賀

GPSに細工でもされたんじゃねぇか

東雲

そういうことなら、オレに任せてくださいよ

訓練生たちは学校側が仕掛けたトラップを冷静に処理し、見事に犯人逮捕にこぎつけた。

サトコ

「みなさん、お見事でした!」

(お、やるじゃねぇか)

(コイツら好き勝手してるようで、互いの特性をよく分かって絶妙に連携してる)

訓練生A

「座学で教わったことは役に立たなかったけどな」

加賀

‥‥

千葉

「そんなことないよ。日頃の講義が基本としてあるからこそ‥」

サトコ

「別にいいよ。私の講義が役に立とうと立つまいと」

「みんなが立派な公安刑事になってさえくれれば」

(徹底した放任主義か?それとも、コイツらを持て余しちまってるだけか?)

氷川教官の真意はいまいちよく分からないが、

おもしろい人材が育っているのだけは確かのようだった。

【廊下】

それから数日後。

すれ違いざま、廊下で成田に呼び止められた。

成田

「難波さん、これを氷川教官に渡してもらえますか」

難波

これは?

成田

「私が考えた、今後の講義の指導案です。氷川教官の指導では、いささか不安でしてね」

難波

はあ‥

パラパラと目を通してみるが、これと言って何の面白味もない内容だ。

(頭の固い成田らしいな。悪くはないが、画一的で退屈だ‥)

【個別教官室】

その夜。

忘れ物を取りに教官室に戻ると、氷川教官が一人で残っていた。

難波

あ‥お疲れ様です

サトコ

「あれ?どうしたんですか、こんな時間に」

難波

氷川教官こそ

チラリと手元を覗き込むと、成田の指導案を修正しているようだった。

難波

ああ、それ

預かったの俺なんですが、いなかったので机に置いておきました

サトコ

「ありがとうございます。私なりに少し変えてみたんですが、どうでしょう?」

どう修正したのか少し興味もあり、指導案を受け取った。

(へえ‥うまく個々の実力に合わせて工夫してあるじゃねぇか)

(これならそれぞれの強みを発揮しやすいし)

(実践訓練もチームワークを育てる効果が高いもんになってる)

難波

いいんじゃないですかね

いつも通りの返事をすると、氷川教官はちょっと物足りなそうな顔になった。

(言うことなんかねぇよ。あんたはアイツらのことをよく見て理解して、自由にやらせてるんだな)

(成田の干渉にもめげずに信念を貫くとは‥なかなか見どころあるじゃねぇか)

難波

一生懸命はいいですが、ほどほどに頼みますよ

ポケットに入っていた缶コーヒーのDOSSを手渡し、教官室を出る。

(あの真っ直ぐな感じ、昔の俺に似てるかもしれねぇな‥)

氷川教官が訪ねてきたのは、その数日後。

サトコ

「私‥自分の教育方針にいまいち自信が持てなくて‥」

「もちろん、自分ではいいと思ってやってるつもりなんですが」

「本当にそれが訓練生のためになっているのかどうか‥」

難波

いいんじゃないですかね、細かいことは

サトコ

「は、はあ‥」

(あんたがしてることは間違ってないんだから、もっと自信持てばいいのにな)

そう言う代わりに、腰に湿布を貼ってもらうことにした。

半裸でゴロリとソファに横たわった俺を見て、氷川教官は恥ずかしそうに頬を赤らめている。

(うぶなヤツ‥女としてもひよっこってことか)

【教官室】

氷川教官が成田にこっぴどくやられているのを見かけたのは、翌日の帰りがけだった。

成田

「統率力も指導力もケジメもない。お前のような奴には、今日限り教官を辞めてもらう!」

(おいおい、ちょっと待てよ‥コイツだって今、訓練生と一緒に成長してる最中なんだよ‥)

(それを邪魔する権利なんて、誰にもないだろ)

基本的に、面倒事は避けるタイプだ。

それにもかかわらず、気付けば俺は行っていた。

難波

成田教官、監督不行き届きは、あなたの方だ

to  be  continued

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