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これが俺の愛し方 加賀2話

※カレ目線

【街】

久しぶりの休日、うちの犬を散歩に連れ出してやった。

最近は捜査でオフが潰れることが多かったせいか、尻尾を振って俺についてくる。

サトコ
「新しくできたショッピングモールに、例の甘味屋さんが出店してるそうですよ」
「今回のお店は、お団子が評判良いらしいです。すごく柔らかいって」

加賀

ほう

でかい事件もなく、張り合いがねぇと言えばその通りだ。

(だが、たまにはこういう平和な休みも悪くねぇ)

(久々にこうやって遊んでりゃ、こいつも満足するだろ)

隣を歩くサトコは、今にもスキップしそうな雰囲気だ。

(···バカが)

そう思いながらも、口元が緩むのが自分でもわかる。

サトコを眺めていると、コンビニの前に一匹の犬がつながれているのが見えた。

サトコ
「かわいいですね。ご主人に必死にアピールしてますよ」

加賀
テメェにそっくりだな

サトコ
「私、あんな顔して加賀さんを待ってるんですか?」

加賀
自覚ねぇのか

サトコ
「ないです···というか、犬とそっくりだなんて、信じたくない···」

サトコとくだらない話をしていると、突き刺さるような視線を感じた。

辺りを見回し、ひとりの男が路地の方からこちらを見ていることに気付く。

男性
「······」

加賀
······

こちらに気付かれたとわかったのか、男はすぐに目を逸らして路地の向こうへ消えた。

(あの男···どこかで見たか?)

顔は覚えているような気がするのに、どこで会ったのか思い出せない。

サトコ
「加賀さん?何かあったんですか?」

加賀
···なんでもねぇ

(気にするほどのことでもねぇか···)

もしかして向こうも同じように、思い出せなくて見ていたのかもしれない。

そう思い、ひとまずその場を後にした。

【ショッピングモール】

サトコが行きたいと前から言っていたショッピングモールで、タバコから戻る。

すると、男に絡まれているあいつがそこにいた。

男性
「ちょっとくらいいいじゃん。向こうにいい店があるんだって」

サトコ
「離してください!命が惜しくないんですか···!?」

男性
「大丈夫だって。怖いことなんて何もないから」

サトコ
「いや、怖いのはそっちじゃなくて、私の恋人···っ」

サトコの腕をつかんでいるのは、間違いなくさっきのあの男だ。

(俺じゃなくて、サトコを見てたのか···)

(何の目的で···?まさか本当にナンパじゃねぇだろう)

知り合いがわざわざあいつをナンパするとは考えにくい。

ということは、何か別の理由があるはずだ。

加賀
何やってやがる

声を掛けると、男がそそくさとサトコから手を離していなくなった。

その後ろ姿に、見覚えのあるものを見つける。

(あの男の、首のタトゥー···)

(そうか···あいつ、あのときの···)

捜査のため、よく情報収集をする店がある。

以前、サトコとも行ったことのあるキャバクラだ。

【キャバクラ】

加賀
で?

マイ
「大丈夫だってばぁ。ちゃんと手に入れておいたから」
「でも加賀さん、この情報、タダでもらおうなんて思ってないよね?」

この店には、マイという、特によく情報を入手する女がいた。

しなだれかかってくるマイの手から情報が書かれた紙を奪い、タバコに火を点ける。

加賀

好きな酒、なんでも飲め

マイ
「もう、そうじゃないんだってばぁ」
「いつも言ってるでしょ?私を加賀さんの女にして欲しいの」

加賀
寝言は寝てから言え

マイ
「本気なのに···この前一緒に来たあの女、加賀さんの恋人でしょ」
「あんな女より、私の方が加賀さんの役に立てるよ?」

加賀
役に立つ女と、抱きてぇ女は別だ

煙を吐き出しながら答えると、マイが大きく目を見張る。

マイ
「···加賀さんが、そんなこと言うなんて」

加賀
······

マイ
「あの女のこと···本気なのね」
「だったら、私···今度あの女に会ったら、刺しちゃうかも」

加賀
···やってみろ
テメェなんざ、返り討ちに逢うだろうがな

マイの話のくだらなさに、思わず笑いが込み上げる。

すると、近くを通りかかった黒服がマイに耳打ちした。

黒服
「マイさん、指名です」

マイ
「わかった。ありがとー」

黒服
「なあ、マイ···いつまでこの仕事続けるんだ?」
「こんな店、早く辞めたほうが···」

マイ
「竜司、そんな話、店でしないでよ」

ひそひそと話し始めるふたりを一瞥して、立ち上がる。

(欲しいもんは手に入った。さっさと帰るか)

(今頃あいつが待ってるだろうからな)

俺の姿を見て目を輝かせ、小型犬のように走ってくるサトコが目に浮かぶ。

立ち上がった拍子に、マイと話していた黒服の首筋に目線が向いた。

(あれは···)

そこには、龍のタトゥーが彫られていた···

【ショッピングモール】

マイ
『私···今度あの女に会ったら、刺しちゃうかも』

あの言葉が蘇り、男が逃げていった方を睨みつけるように見つめる。

追いかけようにも、もうその姿は人混みの中に消えてしまった。

(あの男···まさか、あの女と何か企んでるのか···?)

(だとしたら···)

サトコを振り向くと、こちらの様子を窺いながらビクついている。

(いつもなら、テメェのその怯えた表情を愉しむんだがな···)

どうやら今は、そんな余裕もないらしい。

腕を掴むと、サトコがキャンキャン喚き始めた。

サトコ
「痛いです!加賀さん、ちょっと待っ···」

加賀
黙れ
大人しく “待て” もできねぇ駄犬には、躾が必要らしいな

それは、ただの口実だ。

とりあえずマイとあの男の目的がわかるまで、こいつをどうにかしなければならない。

(面倒だから、部屋に閉じ込めておくか)

考えすぎかもしれないが、用心に越したことはない。

それに、今回のことは偶然とも思えなかった。

(ったく···人がせっかく、久しぶりの休みを満喫してりゃ)

あの竜司とかいう男は、必ずまたサトコに接触してくるだろう。

サトコに全てを話せば、もしかして簡単に終わることかもしれない。

(こいつは、マイにどうにかされるようなタマじゃねぇしな···)

(竜司ってのを捻り潰しゃ、あの女も静かになる)

だが、そうわかっていても、女絡みのトラブルにこいつを巻き込むのは面倒だ。

サトコのことだから、『受けて立ちます!』くらい言うだろう。

(こいつに心配されるなんざ、冗談じゃねぇ)

(犬は大人しく、主人の帰りを待ってりゃいいんだ)

【キャバクラ】

サトコを閉じ込めたあと、その足でマイのいる店に向かった。

あいつが余計なことに勘付いて部屋から脱走を試みる前に、片付けた方がいい。

ホステス
「あら加賀さん、お久しぶりじゃない」

加賀
マイはいるか

マイ
「加賀さーん!やっと会いに来てくれた!」

席に通されそうになるのを断り、マイに詰め寄った。

加賀
テメェ、何企んでやがる

マイ
「な、なんのこと···?」
「加賀さん、怖いよ···一体、何があったの?」

加賀
首に龍のタトゥーがある黒服はどこだ

マイ
「首に龍のタトゥー···?それって、竜司のこと?」

あいつのことを尋ねても、マイは戸惑いの表情を浮かべるばかりだ。

マイ
「なんで竜司が出てくるの?加賀さん、もしかして事件?」
「私、何も情報持ってないけど···」

加賀
竜司を使って、うちの奴にちょっかいかけるとは、いい度胸じゃねぇか

マイ
「え?」

マイの表情に、さらに困惑の色がにじむ。

(···本当に知らねぇのか)

これまで数えきれないほど被害者を見てきた勘が、そう告げている。

マイ
「竜司が何かしたの?うちの奴って、この前加賀さんと一緒に来たあの女?」

加賀
竜司は?

マイ
「何日か前から、休んでるけど···」
「ねえ加賀さん、お願いだから教えて」

(こいつが関わってねぇとしたら、男が単独でやってんのか···)

(なんでサトコに···?あの駄犬、またなんかやらかしたのか)

だが、記憶の限りサトコと竜司に接点はない。

さっき竜司がサトコに接触してきた様子を思い出しても、

サトコは何も知らないようだった。

加賀
···邪魔したな

マイ
「もう!加賀さん、いつも何も言ってくれないんだから!」
「どうせ、あの女には色々話してるんでしょ!」

加賀
···クズが

舌打ちしてやると、マイがあとずさりながら怯えた表情を見せる。

この程度で怯む女に、用はない。

加賀
仕事とプライベートの区別もつかねぇような奴が、あれをバカにするんじゃねぇ
少なくとも、テメェよりは使える

マイ
「わ、私だって···情報を···」

加賀
あいつは、仕事中に色恋の話をするほどゴミじゃねぇ
仕事を放り出して男ばっかり見てるカスと一緒にするな

マイ
「ゴミ···カス!?」

(弱ぇ犬ほどよく吠えるな)

言葉を失うマイに背を向け、店を出た。

【街】

そのあと、歩に連絡を取った。

東雲
あの店の黒服の竜司、ですか

加賀
ああ、面倒なことになる前にさっさとカタをつける
氷川を利用しようと、何か企んでるのかもしれねぇ

東雲
ちょっと待ってくださいね···ああ、これか
兵吾さん、ビンゴですよ
そいつ、ある麻薬組織の運び屋として最近名前があがってきてるみたいですね

加賀
何?

東雲
しかもその麻薬組織、テロ集団とつながりがありますよ
この竜司って男が集めた金がそこに流れてる可能性もありますね

話を聞くと、そのテロ組織は前々から公安が追っていた組織だった。

つい最近、ようやく麻薬組織とつながりがあることを突き止めたばかりだ。

加賀
なるほどな

東雲
どうします?室長に報告して竜司って男を追いますか?

加賀
いや

東雲
ですよね。だと思いました

俺が単独で動くとわかっていたのか、歩があっさり引き下がる。

東雲
彼女、また何かやらかしたんですか?

加賀
どうだかな

東雲
補佐官のフォローも大変ですね

電話越しに、歩がニヤニヤしているのが手に取るようにわかった。

(···相変わらず、クソ生意気なガキだな)

(クスリの運び屋か···)

竜司を確保すれば、芋づる式にテロリストや麻薬組織を検挙できる。

電話を切ると、歩に調べさせた竜司の番号に電話を掛けた。

(取引先を装って呼び出しゃ、ノコノコ来るだろ)

(あとは···)

竜司の呼び出しに成功した後、もうひとつ、別の番号にかける。

加賀
俺だ。···喚くんじゃねぇ
黙って、今からいうところに来い。いいか···

【倉庫】

呼び出したところへ向かうと、先に竜司が来ていた。

俺を見て、驚きに後ずさる。

竜司
「なんでお前が···」

加賀
取引相手の声も覚えてねぇとは、空っぽの頭だな

竜司
「うるせぇ!騙しやがったな!」
「まさか、警察の連中が···」

俺の姿に一瞬うろたえたが竜司が、すぐに気を取り直したように懐に手を入れた。

竜司
「いや···むしろ、好都合だ」
「あの女を拉致る手間が省けたぜ」

竜司の手に握られているのは、サバイバルナイフだ。

加賀
物騒なもん持ってんじゃねぇか

竜司
「この世界じゃ、いつ何があるかわかんねぇからな」
「今ここで、テメェを始末してやる!」

言うが早いか、竜司がナイフを素早くこちらに投げた。

間一髪のところで避けたが、不意を突かれたせいでナイフは手の甲をかすめていった。

加賀
チッ···

竜司
「よく避けたな。だが、次はそうはいかねぇ」

ポケットから別のナイフを取り出し、それを振りかざして襲いかかってくる。

だが一瞬のタイミングを逃さず、振り下ろされた腕をギリギリのところでつかんだ。

竜司
「くそっ···離しやがれ!」

加賀
なんであいつを狙う
拉致る手間が省けたってのは、どういうことだ?

渾身の力で、竜司が俺の腕を振り払う。

竜司の意識が俺の腕に向いた瞬間、脚を薙ぎ払って転ばせた。

加賀
武器持ってるわりには、弱ぇじゃねぇか

竜司
「バカにしやがって···!」

加賀
テメェとあいつに、接点はねぇはずだ

竜司
「あるだろうが!テメェっていう接点がな!」

立ち上がり、再び竜司がナイフを握りしめる。

なかなかのスピードだったが、構える余裕があれば負ける相手ではない。

加賀
遅ぇ

竜司
「!」

向かってくる竜司の手から、ナイフを蹴り飛ばした。

(さっさとカタつけるか)

念のために銃は携帯しているが、できるだけ使いたくはない。

(非番の日にこんなことろで発砲したってバレりゃ、あのサイボーグがうるせぇだろうからな···)

(それにしても、コイツの狙いは本当にサトコだったのか···?)

竜司
「テメェだけは、絶対に許さねぇ!」
「ここで死ね!加賀兵吾!」

丸腰になった竜司が、闇雲に殴りかかってくる。

だが武器をなくしたせいか、さっきまでの勢いはない。

加賀
めんどくせぇ。さっさと終わらせるぞ

竜司
「うるせぇ!くそっ···なんでマイは、こんな奴に」

加賀
マイ···?

竜司
「ずっとテメェを狙ってたんだよ、加賀兵吾!」
「マイを弄びやがって···!女がいるくせに、情報のためならなんでもするクズ野郎が!」

(···弄ぶ?)

竜司
「マイは、本気でテメェが好きなんだ!」
「なのにテメェは、情報が入ったらさっさとマイを捨てやがって···!」

加賀
あいにくだが、俺は最初から情報しか求めてねぇ
あの女が何を言ったか知らねぇが、勝手に勘違いしてんのはあいつだ

竜司
「テメェが、思わせぶりな態度するからだろうが!」

どうやら、何を言っても無駄らしい。

コイツの目的は、最初から俺だったようだ。

(俺をおびき寄せるために、サトコを拉致しようとしたってことか)

くだらない思い込みに巻き込まれたのだとわかり、苛立ちが募る。

マイの名前が出たせいか、竜司のスピードが増した。

(このままじゃ、消耗戦になるな···)

チラリと、さっき蹴り飛ばしたナイフに視線を向ける。

俺の視線をたどってナイフがそこにあることに気付いた竜司が、形勢逆転を狙って飛びついた。

加賀
クズが

竜司
「な···」

ためらいなく、竜司の頭に一発くれてやる。

俺の蹴りを食らった竜司は、思い切り吹き飛んだ。

竜司
「ぐっ···」

加賀
どうした、終わりか

竜司
「フザけんじゃねぇ···!」
「お前さえいなければ、マイは···!」

マイ
「加賀さん!竜司!」

その声に、自分に突っ伏していた竜司が起き上った。

竜司
「マイ···!?何でお前がここに···!」

(···やっと来たか)

(多少、予定とは違ったが···仕方ねぇ)

さっき竜司に連絡した後、マイも呼び出しておいた。

ふたりがつながっている可能性もゼロではなかったので、まとめて片付けようと思ったからだ。

マイ
「ナイフを渡して!加賀さんを傷つけないで!」

竜司
「この男のどこがいいんだよ!俺の方がお前を愛してるのに!」

竜司の言葉に、マイが驚きに目を見開く。

マイ
「竜司···」

竜司
「お前がキャバ嬢を引退するなら、いくらでも借金の肩代わりくらいしてやる」
「だから···あんな店辞めて、俺を見てくれよ!」

マイ
「そんな···でもお店を辞めるなんて、そう簡単には···」

竜司
「今、準備してるんだ。でかい組織がバックについてるから、絶対に追われねぇ」

加賀
なるほどな。そのために、麻薬組織とつながったのか

マイ
「え···?」

(組織に金を流して、マイを辞めさせる手助けをしてもらう···)

(おおかた、そんなとこだろ)

マイ
「竜司は、ずっと私を見てくれてたんだね···」

竜司
「俺なら、お前を幸せにしてやれる···だから、こんな奴のことなんてもう忘れろよ」

マイ
「ああ、竜司···!」

竜司からは、もう戦意は感じられない。

ふたりは勝手に、いい雰囲気で見つめ合っていた。

(···とんだ茶番だな)

加賀
おい

マイ
「加賀さん···私、竜司と一緒に行くわ」

加賀
好きにしろ

竜司
「ああ、俺はマイが来てくれるなら、それだけでいい」

あまりにもあっさりカタがつきそうで、脱力しそうになる。

(···だが、俺の手をここまで煩わせた覚悟はできてんだろうな)

加賀
テメェらのことはどうでもいい。だが、落とし前はきっちりつけてもらう

竜司
「落とし前···!?な、何させる気だよ」

加賀
テメェはこれからも、組織とのつながりを絶つことはできねぇ
なら、そこで得た情報を残らず俺に流せ。包み隠さずな

マイ
「つまり、竜司も加賀さんの情報屋になるってこと?」

竜司
「冗談だろ。そんなことしたら、向こうから狙われるじゃねぇか」

加賀
どっちにしろ、俺に知られた時点でテメェは選択しなきゃならねぇ
奴らに海に沈められるか、俺にしょっ引かれるか

組織との関係を公安に知られたと分かったが最後、竜司の命はないだろう。

助かるには、むしろ捕まった方が得策だ。

加賀
まあ、捕まりゃマイと一緒になるどころじゃねぇがな

マイ
「そんな···!」

竜司
「くそっ···どうしたら」

加賀
わからねぇのか?

ナイフを拾い上げると、その切っ先を竜司の喉元に突き付けてやった。

マイ
「加賀さん!やめて!」

加賀
選ばせてやるって言ってんだ。殺されるか、檻の中か
それとも···俺の手足になって動くか
そうすりゃ、見逃してやる

竜司
「······!」

加賀
組織からも追われず、情報屋として警察に守ってもらえる
これ以上、いい待遇はねぇよな

竜司
「お前っ···それでも刑事かよ!」

加賀
知ったことか

竜司が観念したのを見て、ナイフを下した。

加賀
駒は、いくら持っておいても損はねぇ
雑魚は黙って言うこと聞いてろ

竜司
「くっ···」

結局竜司は、マイとの生活のために俺の手駒になることを選んだ。

加賀
裏切ったら、明日には東京湾に浮かぶと思っとけよ

竜司
「誰だよ、こんな奴を刑事にしたの···」

(テメェの一番の罪は、俺のもんに手を出そうとしたことだ)

(人の女に、勝手に近づいてんじゃねぇ)

ふと、サトコの顔を思い浮かべる。

家で情けない顔で待っているだろうあいつを想像して、ふたりを残して立ち去った。

【加賀マンション 寝室】

全てを終えて家に帰る前に、ある店に寄った。

サトコが以前から『食べたい』と騒いでいた店のケーキだ。

(プリンよりはマシだが、こんな甘ったるいだけのもんの、どこがいい···)

(···まあ、今回は仕方ねぇ)

躾の道具を買ってくると告げた手前、手ぶらというわけにもいかない。

(あいつは変なところで鼻が利くからな···)

寝室のドアを開けると、ベッドに座り込んで肩を落としていたサトコが顔を上げる。

サトコ
「加賀さん···!おかえりなさい!」

加賀
······

一瞬にして華やいだその顔を見て、何かを思い出した。

(···ああ、あのコンビニの犬か)

(やっぱり、同じ顔してんじゃねぇか)

これで自分は犬ではないと、どの口が言うのだろう。

サトコの背中に、尻尾が見えるようだ。

サトコ
「もう···!本当に放置されたのかと思いましたよ!」

加賀
この程度の放置プレイじゃ足りなかったか

サトコ
「え!?ま、まだ続くんですか···!?」

加賀
テメェが望むならな

サトコ
「も、もう充分です!」

想像通り、情けない顔のサトコが俺を心配そうに見上げる。

その顔を見た瞬間、今までの疲れが消えて、癒され、満たされていくのを感じた。

to  be  continued

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