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これが俺の愛し方 加賀3話

【寝室】

サトコ
「はあ···」

『待て』状態で放置されてから、少し経った。

なすすべもなく、部屋で待機するしかない。

(加賀さんは、勝手に出歩いたらただじゃおかない、って言ったけど)

(服、持っていかれちゃったし···この格好じゃ、出歩きたくてもどうしようもないよね···)

サトコ
「万が一服が見つかったとしても、勝手に出歩いたりしないけど···」
「つくづく私、加賀さんに従順だな···」

(加賀さん、何時頃帰ってくるんだろう)

(することないし、ごはん作って待ってようかな)

ゴロンともう一度ベッドに寝転がり、スマホでレシピを検索しながらふと、今の状況を顧みる。

さっきまでは混乱していたけど、時間が経って少し落ち着いてきた。

( “待て” ができない駄犬には、躾が必要、か···)

(今でも、言葉ではそうやって脅かされたことは何度かあった···でも)

実際にこうして何かされたことはなかったし、加賀さんらしくない気もする。

(だってこれ、ある意味監禁でしょ···)

(···いや、だからこそ加賀さんらしいのか···)

サトコ
「でも、いくら加賀さんでも、あれくらいでここまでするほど怒るかな」
「不機嫌になったのは、ナンパされたあとからだったよね···」

(でも、そういえば···その前に、加賀さんの様子がおかしい気がしたことがあったっけ)

(コンビニの前辺りで、なんだか一瞬、表情が険しくなって)

考えてみれば、加賀さんが意味もなくあんな顔をするはずがない。

(もしかして、何かあったのかな···事件とか···?)

(でもそれなら、どうして私は連れて行ってくれなかったんだろう···?)

サトコ
「事件だとしたら、教官たちに連絡したほうがいいんじゃ」
「でもこの格好じゃ、電話も掛けられない···」

(加賀さん···大丈夫かな)

(···いや、本当に躾の道具を買いに行った可能性もあるんだけど)

不安と焦りの中で、どうすることもできない自分がもどかしい···

なにも出来ることもなく黙っていると、睡魔に襲われた。

うとうとした中で玄関のドアが開く音がした気がして、目を覚ます。

(加賀さん、帰ってきた···!?)

(あ、危なかった···!寝てたなんて知られたら、新たなお仕置きをされるところだった!)

加賀さんが部屋に入ってくる前に、ベッドに正座をして待つ。

寝室に現れた加賀さんは、私の姿にどこか満足そうだ。

加賀
今回は、大人しく “待て” ができたらしいな

サトコ
「も、もちろんです···!」

(この状況で、何かできるほうがすごいでしょ···)

(···っていうのは、黙っておこう‥命が惜しい···)

加賀さんの姿に、特に変わった様子はない。

でも時計は深夜を指していて、躾の道具を買いに行ったわけではないことが窺えた。

サトコ
「加賀さん、今まで一体···」

加賀
ほら

加賀さんがベッド脇のサイドテーブルに置いたのは、見覚えのある箱だった。

サトコ
「これは···あのパティスリーのケーキ!」

加賀
食え

サトコ
「えっ···い、いいんですか!?」

(う、嬉しい···!そういえばものすごくお腹空いた!)

(···あれ?でも)

サトコ
「加賀さん、躾の道具を買ってくるって···」

加賀
そのほうがよかったか

サトコ
「と、とんでもございません!」

必死に首を振り、ありがたくケーキをいただこうとする。

一緒に買ってきてくれたらしい飲み物が目の前に置かれたとき、大事なことに気付いた。

サトコ
「フォークがない···」
「加賀さん、すみません。キッチンから持って来てもいいですか?」

加賀
······

ベッドから下りようとする私を、加賀さんは返事もくれずに見つめている。

その視線が妙に恐ろしくて、身動きが取れなくなった。

(まさか、この場から動くなと···?)

(ちょっとはしたないけど、手づかみで食べるしか···!?)

焦っている間に、加賀さんがキッチンからフォークを持ってきた。

箱を開けると、フォークにケーキを刺して、私の顔の前に差し出す。

(まさか···食べさせてくれるの?)

加賀
口開けろ

サトコ
「そこは、『あーん』って言うところじゃ···」

加賀
まとめて全部突っ込まれてぇのか

サトコ
「い、いただきます···」

おずおずと口を開けると、加賀さんが思いのほか優しく、ケーキを口に入れてくれる。

優しい甘さが広がり、顔がほころんだ。

サトコ
「美味しいです···!」

加賀
大人しく待ってた褒美だ
少しは利口になったじゃねぇか

サトコ
「この状況じゃ、待つしかないですよ···」

(それにしても、加賀さんに『あーん』してもらえるとは思ってなかった···)

(大人しく待ってて、本当によかったな)

サトコ
「加賀さんは、食べないんですか?」

加賀
こんな甘ったるいもんが食えるか

サトコ
「今日食べたお団子も甘かったですけど···」
「それにシフォンケーキとかなら加賀さん好みの柔らかさだと思いますよ」

(でも加賀さんが洋菓子関係をあまり好まないのって)

(やっぱり石神教官がプリン好きだからかな···)

(プリン以外は食べてるの見たことあるし···)

(ふたりとも甘いものは好きなはずなのに、決してお互いのテリトリーを荒らさない感じが···)

食べさせてもらっている間、なんとなく加賀さんを眺める。

すると、手が切れているのが見えた。

サトコ
「それ···どうしたんですか?」

加賀
あ?

サトコ
「怪我してますよ」

加賀
······

(それに、よく見たら服が少し汚れてる)

(帰ってくるのも遅かったし···買い物に行っただけで、こんなふうにはならないよね)

サトコ
「加賀さん···やっぱり、何かあったんですか?」

加賀
なんの話だ

サトコ
「コンビニの前で、何かを睨んでましたよね」
「ショッピングモールでも、私がナンパされたとき、様子がおかしかったし」

加賀
······
···駄犬のくせに鼻が利くじゃねぇか

サトコ
「じゃあ、やっぱり···!」

加賀
黙れ

サトコ
「もがっ」

口の中に残りのケーキを押し込まれて、本当に黙るしかない。

私が飲み込むのを待ってから、加賀さんが小さくため息をついた。

加賀
キャンキャンうるせえ野良犬に咬まれた

サトコ
「野良犬···?」

加賀
ああ

じっと見つめられて、慌てて首を振った。

サトコ
「わ、私は咬んでないですよ···!」
「それに、の、野良犬じゃないです!」

加賀
······

サトコ
「···じゃない、ですよね?」

加賀
······

(まさか、捨てられた···!?)

加賀
···飼い主を持たねぇ犬は、厄介だな

サトコ
「···私のことじゃないですよね?」

加賀
まあ、これから躾けてやりゃいいか···

(答えてくれない···!)

不安を覚えながら、加賀さんを見つめる。

でもその表情は、怒っているようには見えない。

(だけど、あまり話したくなさそう···)

(だったら、もう聞かないほうがいいのかな)

サトコ
「あの···ひとつだけ教えてください」

加賀
なんだ

サトコ
「···もう、解決したんですか?」

加賀
······

サトコ
「それとも、まだ加賀さんに危険が及ぶ可能性があるんですか?」
「それなら···少しでも、お手伝いがしたいです」

加賀
···テメェは、俺のことばっかりだな

サトコ
「え?」

加賀
なんでもねぇ
もともと、テメェが心配するようなことは何もねぇ

サトコ
「そうですか···」

(加賀さんがこう言ってるんだから、もう詮索するのはやめよう)

(もしかしたら、私に心配かけたくないような何かがあったのかも)

だから、こうして自由を奪って部屋から出られなくしたのかもしれない。

傲慢で言葉足らずで···傍から見たらひどい男に見えるのだろうけど、

それが加賀さんなりの最大級の優しさだと、私は知っていた。

サトコ
「ところで、そろそろ服を持って来ていただけないでしょうか···」

加賀
あ?

サトコ
「家のなかとはいえ、さすがにキャミソールと下着っていうのは落ち着かなくて」

なんとなく両手で身体を隠すと、加賀さんが怪訝そうな顔になる。

加賀
気に入ってるんじゃねぇのか

サトコ
「そんな、真顔で···!」
「こんなことされなくても、加賀さんのそばを離れたりしませんから!」

加賀
んなことはわかってる

(って、今はそんなこと言ってる場合じゃなかった)

結局服は返してもらえないまま、部屋に置いてある救急箱を拝借した。

サトコ
「手、出してください」

加賀
たいした怪我じゃねぇ。かすり傷だ

サトコ
「ダメですよ。化膿したら大変ですから」

キャミソールを脱がされると、そのままベッドに押し倒した。

サトコ
「わっ、加賀さっ···」

加賀
肌、熱いな
お預けが効いたか

サトコ
「え···」

私を見下ろす加賀さんは、まるで獲物を狙う獣のようだ。

(お預けって···も、もしかして)

確かに加賀さんが部屋を出て行く前、身体のあちこちに触れられて熱を灯された。

でもキスすらしてもらえないまま放置されたことを思い出して、急に恥ずかしくなる。

サトコ
「そ、そんなことはっ···」

加賀
······

(ダメだ···この目で見られたら、嘘なんてつけない···)

サトコ
「ひどいですよ···あんな状態で出て行くなんて」
「焦らしプレイと放置プレイの、地獄のコンボ···」

加賀
好きだろうが

サトコ
「好きじゃないですよ!!」
「私は加賀さんが好きなんであって、別にそういう、アブノーマルな趣味は···」

言い終わらないうちに、加賀さんの唇が目許や頬に優しく降りてくる。

サトコ
「···あの」

加賀

サトコ
「聞いてます···?」

加賀
聞いてねぇ

サトコ
「···っ」

おでこにキスをくれたかと思うと、加賀さんの手が下着を乱すように私の身体をまさぐる。

でもいつもならすぐ肌を攻めるその指が、今はなかなかキャミソールの中に入ってこない。

サトコ
「か、加賀さん···」

加賀
なんだ?

サトコ
「っ······」

優しく触れた唇と裏腹に、翻弄する手つき。

その指があまりにじれったくて、思わず本音が零れる。

サトコ
「大人しくしてたのに···」

加賀
······

サトコ
「言われた通り、どこにも行かず帰りを待ってたのに」

加賀
······

サトコ
「犬は絶対に飼い主を裏切らないのに、なんたる仕打ち···」

加賀
うるせぇ

恨み言を言い続ける私の唇を舐めて、加賀さんがやっとキャミソールの中に手を差し入れた。

指先に私の意識を集中させるように、ゆっくりと肌をなぞっていく。

(で、でも···)

もどかしさに、もぞもぞと身体を動かす。

加賀さんの手はいつまでも下着に触れることなく、じれったく私の肌に触れるばかりだ。

サトコ
「なん、で···っ」

加賀
何がだ

サトコ
「こんなの、ひ、ひどいですよ···」

さっき灯された熱が、再び身体の奥で疼き始める。

それがわかっているのに、加賀さんはさらに私を焦らそうとした。

(どこまでドS···!)

(でも、自分からなんて、そんなの···言えないし···)

吐息をこぼしながら、加賀さんを見上げる。

加賀さんはもどかしそうにする私を愉しそうに見下ろしていた。

サトコ
「か、加賀、さ···」

加賀
······

熱を我慢できなくなった私に、加賀さんが手を伸ばす。

その手がようやく、下着を押しのけて柔らかいところに触れた。

サトコ
「ん···っ」

加賀
これが欲しかったんだろ

サトコ
「い、意地悪すぎますっ···」

加賀
なら、いらねぇんだな

サトコ
「そ、そうじゃ、なっ···」

加賀
欲しいなら、うまくねだってみろ

呼吸を乱す私を、加賀さんがじっと見つめる。

身体の芯にもどかしい熱を感じながら、加賀さんの背中に手を回した。

サトコ
「ぁっーーー」

ぐっと身を寄せると、加賀さんは節くれ立った手で敏感な場所を暴いていく。

我慢できずに零れる嬌声を聞いて、さらに気をよくしたように口の端を持ち上げた。

加賀
ここか

サトコ
「っ······!」

加賀
それに···ここ

サトコ
「ひ、ぁっ···」

加賀さんは、快感を与えられて抵抗できない私の胸元に顔を埋める。

そして肌の柔らかさを楽しむように、指先でじっくりと弄び始めた。

サトコ
「っ······ーー、待っ···」

加賀
待ってほしいのか?

サトコ
「っ······!」

加賀さんの舌が、私の声を愉しむようにうごめく。

舌先で肌を濡らされると、耐え切れず加賀さんの頭を抱きしめた。

サトコ
「加賀、さ···っ」

加賀
······

加賀さんが荒っぽく来ていたシャツを脱ぎ捨てる。

加賀さんの手には、さっき私が巻いた包帯。そして···

(身体に、赤い···痣?)

露わになった身体には、他にも擦り傷などがいくつか見えた。

(私に何も言わずに、ひとりで行動したってことは)

(心配かけないように···って、きっと少しでも、私のことを想ってくれた証拠だ···)

加賀さんの愛はわかりにくくて、言葉もないから気づきにくい。

(でも、なんとなくこうして想いを感じられると、それだけで嬉しくなる···)

焦らされたことも、“待って” の言葉も忘れ、胸の奥から熱い気持ちが込み上げてきて

思わず、その逞しい身体にそっと触れた。

サトコ
「加賀さん···ありがとうございます···」

加賀
······
放置プレイされて礼を言うとは、さすがマゾだな

(そうじゃないんだけど···)

(でも、そういうことにしておこう···)

一瞬、そんな私の気持ちまで見透かしたように加賀さんがフッと笑う。

優しい表情はすぐに消えて、ゆっくりと、唇が近づいてきた。

(あ···やっと···)

(ずっと欲しかった、加賀さんからのキス···)

静かに、唇が重なる。

加賀さんの身体についた傷に触れないように、背中に腕を回した。

加賀
生意気に、気遣ってるつもりか

サトコ
「そうじゃ、ないんですけど···」

加賀
···お預けしたぶん、いつも以上にくれてやる

サトコ
「---ぁっ」

加賀さんに愛され、焦らされっぱなしだった身体は余計に従順に反応して······

言葉ではわからない加賀さんの想いを感じ、その愛に身体が満たされていくのを感じた。

Happy  End

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