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誘惑ランジェリー 加賀 カレ目線

【寝室】

ベッドの隅で何かが動く気配に、ふと目が覚めた。
さっきまで大人しく腕の中に収まっていたサトコの温もりが消えている。

(···チッ)

勝手に離れたことに内心舌打ちしつつ、首だけ動かして横を見る。
するとそこに、サトコの背中と赤い下着が見えた。

(···無防備な格好しやがって)

微かに見える横顔が妙に幼く感じて、不意に悪戯心が沸き起こる。
こういうことは珍しいが、寝起きのせいかその衝動を抗うのも面倒くさい。

加賀
······

手を伸ばし、サトコの背中のひもを解く。
着けたと思った下着を外されたサトコが、驚いた様子で振り返った。

サトコ
「な、なんなんですか···!?」

加賀
黙れ

サトコ
「だって···やめてください!」

加賀
偉そうな口きくようになったじゃねぇか

やめてというサトコの言葉を無視して、さらに下着を脱がせる。
肩ひもをずらしたとき、あることに気付いた。

(この下着···)

見慣れたそれは、いつかのクリスマスに買ってやった赤い下着だった。
そういえば、ここへ来るときには高い割合でこの下着であることに気付く。

(···どんだけ喜んでんだ)

思わず苦笑がこぼれそうになりながらも、まんざらではないと思っている自分がいる。
たかが1組の下着のプレゼントで尻尾を振って喜ぶのが、こいつらしい。

サトコ
「もう!とにかく、脱がせるのやめてくださ···」

加賀
またそれか

言葉を遮ってつぶやくと、サトコの動きが止まる。
聞き返した声を無視して背中を向け、あの下着を見た時のサトコの顔を思い出した。

(···買ってやるか)
(この程度で喜ぶとは、安い犬だな)

だが、その従順さを気に入っているのも事実だ。

(まるで、餌付けみてぇだが···)

さっきの言葉をどう解釈したのか、後ろでサトコが呆然としているのがわかる。
呆れつつ、すごすごとサトコが横になる気配に目を閉じた。

【ランジェリーショップ】

(···またここに来ることになるとはな)

女物の下着を扱った店のドアをくぐると、店員や客の視線がこちらに向いた。

(仕方ねぇ···とはいえ、女ばっかりで鬱陶しいな)
(さっさと目的のもんを買って帰るか)

一瞬、店内を把握するために辺りを見回す。
サトコに似合いそうなデザインを見つけて、ためらうことなく奥へ向かった。

(あいつに、あの黒い下着が似合うようになるのは···あと10年くらいか)
(今はこのくらいの、多少可愛げのあるもんのほうがいいだろ)

色白だから、黒も悪くない。だが、今のあいつにはまだ不釣り合いだ。
自分の好みとサトコのイメージにしっくりくる、少し透けた生地の下着を見つけた。

女性客1
「あの人、もしかしてひとり···!?堂々としてて、むしろかっこいい···」

女性客2
「っていうか、イケメン···!彼女へのプレゼントかな」

煩わしい視線を感じながら、目当ての下着に手を伸ばす。
それを身につけるサトコを想像して、心の中でうなずいた。

(悪くねぇな)

多少大人びてる気もしたが、似合わないわけではない。

店員
「お客様、何かお探しですか」

加賀
ああ···これを

肌が透けるデザインの下着を、店員に渡す。

店員
「サイズなどは···」

加賀
間違いねぇ

店員
「そ、そうですか···!」

慌てた様子で、顔を赤くした店員が下着をレジへと持っていく。

(あのデザインなら、あいつの好みにも合うだろ)
(ったく···世話焼かせやがって)

女性客1
「選ぶの早い···!お店に入って来て、1分くらいしか経ってないよ!」

女性客2
「しかも、相手のサイズを知り尽くしてる···って、そういうことだよね!?」

(チッ···これだから女は、ギャーギャーめんどくせぇ)

会計を済ませて商品を受け取ると、さっさと出口へ向かう。

鬱陶しい女どもの視線は、店を出るまで続いた。

【マンション 寝室】

数日後、サトコと出かけた帰り、部屋に戻ってくるとすぐにサトコの温もりを求める。
ベッドへ押し倒し服を脱がせながら、見慣れない下着に手が止まった。

(···なんだこれ)

思わず見下ろすと、サトコは俺の反応を窺うように黙り込んでいる。
どうやら、この間の『またか』の言葉を受けて新調したらしい。

(似合ってねぇな)
(だからテメェは、グズだって言ってんだ)

加賀
···行け

サトコ
「え···!?」

加賀
上がってもそれ着けてたら、ただじゃおかねぇ

サトコ
「そ、そんな···!」

身体を離し、風呂へと促す。
サトコはショックを受けた様子で、肩を落としながらバスルームへ向かった。

(あんのもん選びやがって···どうせ、俺の好みだとでも思ったんだろうが)
(クズが···テメェに似合わねぇもんを選んで、俺が喜ぶと思うか)

加賀
······

呆れる反面、自分のために必死に下着を選ぶサトコの姿を思い浮かべる。
それを、まんざらでもないと思っている自分もいた。

加賀
くだらねぇ···

似合っていないのに、それが妙にそそる。
首を振り、バカな考えを振り払って、あいつのために買ってきた下着を取り出した。

サトコがバスルームに消えたのを確認して、脱衣所のドアを開ける。
そして、置いてあった黒い下着を持って戻って来た。

(テメェにゃ、まだこの下着は早ぇだろ)
(そんなこともわからねぇとはな···だからテメェは駄犬だってんだ)

ベッドに、この間買ってきた下着を適当に投げる。
少しすると、案の定サトコがバスルームから走ってくる音が聞こえてきた。

(騒がしい奴だな···)

サトコ
「加賀さん、脱衣所に私の下着がないんですが···」

加賀
なくても困らねぇだろ

サトコ
「困りますよ!なんてこと言うんですか···!?」

色気の欠片もないサトコを呼び寄せて、膝の上に座らせる。
邪魔なバスタオルをはぎ取ると、サトコが軽い抵抗を見せた。

加賀
テメェ···なんのつもりだ

サトコ
「いや、これが普通の反応ですよ···!」

加賀
いいから、黙って脱げ

サトコ
「追いはぎ···!」

加賀
腕上げろ

シャワーで火照ったサトコの身体に手を這わせて、買ってきた下着を着けてやる。
触れた途端に抵抗を見せなくなり、サトコは言いなりになった。

(相変わらず、簡単な女だな)

だが、それも自分にしか見せないことは分かっていた。

(まあ、他の男に少しでも尻尾振りやがったら、ただじゃおかねぇが)

サトコ
「あの···加賀さん、この下着って」

加賀
手間かけさせんな

サトコの疑問を一蹴して、下着を脚に通す。
恥ずかしそうなサトコは、緊張のせいかどこかぎこちない。

(···まあ、こんなもんだろ)

俺が選んだ下着は、サトコの柔らかく白い肌似合っていた。

満たされた気持ちで眺めながら、あの黒い下着と比べる。

(あれよりはマシだな)
(俺に黙って、勝手なことしやがって)

そう思う一方で、たかが下着くらいで、と心の中で自分自身に悪態をつく。
それでも、自分の女が似合わない下着をつけていることを、面白くないと思うのも事実だ。

(···バカか)
(下着なんざ、好きなもんを着けりゃいいってのに)

加賀
チッ···

サトコ
「ヒッ」

加賀
何ビクビクしてやがる

サトコ
「だって、いきなり舌打ちするから···」

(テメェにじゃねぇ。俺自身にだ)

サトコを、まるで所有物のように思う自分がいる。
だからこそ、見慣れない下着を身に着けているのが許せないのかもしれない。

サトコ
「あの···か、加賀さん」

加賀
なんだ

サトコ
「そんなに、じっと見られると···」

腕の中で、サトコが恥ずかしそうに身を縮こまらせる。
下着一枚という状況に、照れているらしい。

(···そそる反応してんじゃねぇ)
(どうせ、あとから全部脱ぐんだろうが)

加賀

サトコ
「はい···」

下着も裸も、もう見慣れている。
なのに俺と目を合わせることすらできないサトコを振り向かせるため、肩にキスをした。

サトコ
「んっ···」

加賀
あの下着は没収だ

指先が肌に触れるたびに、サトコが身じろぎをする。
こうして快感に耐える姿を見るのは、ある意味こいつのとの夜の愉しみでもあった。

(これに懲りたら、もう勝手に似合わねぇもんを身に着けんじゃねぇ)
(テメェに何が似合うかは、俺が一番よくわかってる)

サトコ
「これ···加賀さんが選んでくれたんですよね?」

加賀
他に誰がいる

サトコ
「加賀さんは、大胆でセクシーな下着が好みだと思ってました」

予想通りの答えに、ため息がこぼれた。

(好みだからって、何でもいいわけじゃねぇだろうが)

サトコ
「ちなみに···加賀さんの好みって、具体的には」

尋ねられて、珍しく少し考え込む。
浮かんできた答えに、柄にもなく笑い出しそうになった。

(···くだらねぇ)
(いつの間に、こんな腑抜けになったんだかな)

サトコ
加賀さん···?

何も言わない俺を不思議に思ったのか、サトコが振り返る。
だが諦めたように、それ以上は何も聞いてこなかった。

(ヒントすらもらえねぇと気付いたか)
(俺の好みくらい、テメェで考えろ)

サトコを押し倒しながら、唇を塞ぐ。
下着を脱がせると、サトコがまた色気のない声を出した。

サトコ
「な、なんで脱がせるんですか!?」

加賀
あ゛?脱がせるために着せたんだろうが

サトコ
「どんな理屈···!?」
「加賀さん、もしかして女性の服を脱がせることに悦びを感じてるとか···」

加賀
······

(バカか、テメェは)

サトコ
「そんな、『テメェはバカか』みたいな目で···」

加賀
よくわかってるじゃねぇか
···服なんざ、着てねぇのが一番だ

サトコ
「問題発言···!」

加賀
だが···

(脱がせるのもめんどくせぇ。着てねぇのが一番なのは間違いねぇ)

そう思うのに、ふと言葉が止まる。

(···だが、俺に脱がされるときのテメェの顔は、裸以上に悪くねぇ)

サトコのことを考えながら選んだ下着を外すと、濡れた髪から雫が滴った。
それを追いかけるように、舌で肌をなぞる。

(覚えとけ。テメェのことを一番理解してるのは、俺だ)

サトコ
「加賀、さっ···」
「や、ぁっーーー」

(···その顔も、他の奴には見せんじゃねぇ)
(そうすりゃ···下着を選ぶくらい、いくらでもしてやる)

ベッドの上で、サトコが俺の動きに反応して身じろぎする。
満たされた気持ちを覚えながら、飽きることなく、サトコの身体を揺さぶった。

Happy  End

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