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誘惑ランジェリー 石神1話

【ホテル】

サトコ
「ん···」

重い瞼を開けると、目の前に石神さんの寝顔があった。

石神
······

石神さんは、規則正しい寝息を立てている。

(気持ちよさそうに眠っているなぁ)

そんな彼を見ながら、私は昨日のことを思い出す。

【水族館】

サトコ
「石神さん、見てください!エンゼルフィッシュですよ」
「あっ、こっちにはコリドラスがいます」

石神さんの連休に合わせて、私たちは泊りがけでデートにやってきた。

石神
お前もずいぶん魚に詳しくなったな

サトコ
「それは間違いなく、石神さんの影響ですね」
「テレビで水族館や魚の特集をしていると、つい見ちゃいますし」

石神
そうか···

石神さんは口元に笑みを浮かべると、そっと私の腰を抱き寄せる。

サトコ
「い、石神さん···?」

石神
···せっかくの遠出だ

石神さんの言葉に、鼓動が逸る。
私たちは周りに付き合っていることを隠しているので、
人の目があるところで恋人らしい振る舞いをすることはあまりない。

石神
嫌ならやめるが···

サトコ
「嫌じゃないです!···むしろ、大歓迎といいますか···!」

石神
なんだそれは

石神さんは呆れたように言いながらも、優しい瞳を私に向けた。

【ホテル】

(いつもはどうしても人目を気にしちゃうから、嬉しかったなぁ···)

くすくすと笑みを漏らしながら、石神さんの顔をじっと見る。

(不規則な生活なはずなのに、美肌だなぁ)
(私なんて、毎日お手入れを頑張っているのに···羨ましい!)

そんなことを思いながら見つめてくると、石神さんの頬に触れてみたい衝動に駆られる。

(少しだけだったら、いいよね···)

起こさないように、そっと頬に触れる。

(い、意外に柔らかい···!)
(癖になるかも···)

これ以上触ったら、石神さんが起きてしまうかもしれない。
だけど欲望には勝てず、ついむにむにと石神さんの頬を触っているとーー

石神
···やめろ

サトコ
「!」

石神さんは薄らと瞼を開け、私の手を払いのけた。

(ヤバい、起きちゃった···!)

サトコ
「す、すみません、つい出来心で···」

石神
お前な···

サトコ
「むぐっ」

軽く頬を摘ままれ、変な声が出てしまう。

サトコ
「むぐぐ···」

石神
仕返しだ

サトコ
「わっ···」

石神さんはフッと笑みを浮かべ、今度は私をすっぽりと腕の中に収めた。
突然のことに驚き、思わず固まってしまう。

(でも、こうしていると落ち着くな···)

背中を優しく撫でられながら、彼の温もりを全身で感じる。
瞼を閉じて身を寄せると、額にキスが落とされる感触がした。

石神
サトコ

サトコ
「んっ···」

石神さんは服の隙間から私の肌を撫で、唇を塞ぐ。
与えられる刺激に声が漏れそうになるも、深くなっていくキスに阻まれた。

サトコ
「っ···」

キスは激しさを増していき、目眩を起こしそうになる。

サトコ
「はぁ···」

一度唇が離れ、肩で大きく息をする。
石神さんは薄い笑みを浮かべると、私を組み敷いた。

サトコ
「んっ···」

石神さんが私の胸元に顔を埋め、小さな痛みが走る。

サトコ
「石神、さん···」

石神
たまには、いいだろう?

薄っすらとついた赤い痕を、優しく撫でられる。
そんな何気ない仕草に鼓動が跳ね、頬に熱が上がった。

石神
···そんな可愛い顔をするな

サトコ
「ん···」

身体に石神さんの重みを感じ、再び唇が重なり合う。
それから私たちは時間の許す限り、お互いの愛情を確かめ合ったーー

サトコ
「···ん?」

出掛ける支度をしていると、テレビから占いが流れる。

テレビ
『あなたはどの色を選ぶ?』

赤、白、黄、桃、緑、青の五色が画面に映し出される。

(う~ん、桃色かな···?)

直感的に色を選び、洗面所にいる石神さんに声を掛ける。

サトコ
「石神さん、赤白黄桃緑青どれがいいですか~?」

石神

石神さんから即答されると、テレビはちょうど結果画面に切り替わる。

サトコ
「私は···うわっ、最下位だ···」

結果欄には、『鳥に注意』と書かれていた。

(鳥に注意って···ありきたりだけど、頭にフンを落とされるとか?)
(でも、それはそれで地味にショックだよね···)

テレビ
『そして、第一位は···白を選んだあなた!』

(あっ、石神さんが一位だ!えっと···『思わぬ幸運につながるかも』?)
(私は最下位だったけど、今日一日一緒の石神さんは一位だし···きっと大丈夫だよね···!)

私は心の中で、そう言い聞かせた。

【公園】

サトコ
「暖かくなってきましたね」

石神
ああ

天気がいいこともあり、外で昼食を食べることにした私たちは、
テイクアウトしたベーグルやサンドイッチを持って、海浜公園にやってきた。

噴水近くに空いているベンチを見つけ、腰を掛ける。

サトコ
「石神さんはどれにしますか?」

石神
じゃあ、サンドイッチをもらう

サトコ
「はい、どうぞ」

(私は、ベーグルにしようかな)

ふたりでいただきますと言って、それぞれパクリと食べ始める。

サトコ
「ん~、美味しいです!何を買うか吟味した甲斐がありました」

石神
そういえば、パン屋で長いこと悩んでいたな

サトコ
「どれも美味しそうだったので、迷っちゃいました」
「石神さんのはどうですか?」

石神
なかなか、美味い。サトコも食べるか?

石神さんがパンを一かけらちぎって、スッと差し出してくる。

サトコ
「ありがとうございます」

私はお礼を言って、サンドイッチを頬張った。

サトコ
「このサンドイッチも美味しいですね」

石神
ああ

私たちは微笑み合いながら、食事を進める。

(こうして、ただご飯を食べているだけだけど···)

穏やかに流れる時間に、幸せを感じた。

子ども
「ママ、ハトさんがいるよ!」

ふいにそんな声が聞こえ、視線を向ける。
子どもやお年寄りなど、様々な人がハトにエサをあげていた。

(楽しそうだなぁ)

サトコ
「石神さんも一緒にあげてみませんか?」

石神
断る

(即答!?)
(まあ、石神さんらしいけど···)

サトコ
「後でやりたいって言っても遅いんですからね」

石神
いいから、行くなら行って来い

私は立ち上がると、パンをちぎってハトにあげる。
ハトは私があげたパンを、美味しそうに食べていた。

(ふふっ、可愛いな)

それから何度かパンをちぎってあげていると、段々とハトが集まってくる。

(あ、あれ···?)

女性
「ねぇ、あの子すごくない?」

子ども
「ハトさんがいっぱいいる~!」

あまりにもハトが集まり、遠巻きにちらちらと注目され始めてしまう。

(どうして私の周りにばかり集まるの!?)

サトコ
「い、石神さん、これ···動けないのですが···」

石神
···戻って来い

サトコ
「はい···」

石神さんの元へ戻ろうとした、その瞬間。

サトコ
「わっ!?」

突然、ハトが一斉に私の方へ向かって飛び上がり、バランスを崩してしまう。
すると運悪く噴水の方へよろけてしまい···

サトコ
「きゃっ!」

バッシャーン!

サトコ
「いたた···」

石神
まったく···何をしているんだ。怪我はないか?

サトコ
「は、はい、大丈夫です···」

石神さんから腕を引かれ、噴水から引っ張り出される。
全身ずぶ濡れのせいか、ぶるっと身体を震わせた。

(暖かいって思ったけど、これはさすがに寒い···!)

石神
······

石神さんは小さくため息をつくと、着ていたコートを私にかけてくれる。
彼の温もりが残るそれに、ドキドキしてしまう。

サトコ
「あの、ありがとうござーー」

石神
ホテルに帰るぞ

石神さんは私の手を取ると、足早に歩き始めた。

(石神さん···?)

その横顔からは、何を思っているのか感情が読み取り難い。
派手に失敗してしまった手前、少しだけ後ろ向きに考えてしまう。

(やっぱり、呆れられちゃったかな···)

石神さんの様子に、私は小さく肩を落とした。

【バスルーム】

サトコ
「はぁ···」

ホテルに戻った私は、シャワーを浴びながら先程のことを思い返す。

(まさか、あんなことになるなんて···)

【部屋】

石神
お前がシャワーを浴びている間に、買ってくる

替えの下着がないことを伝えると、石神さんはそう言った。

(ありがたいけど、さすがに申し訳なさすぎる···!)

サトコ
『だ、大丈夫ですよ!ドライヤーで乾かせば、何とかなると思いますし』

石神
それだと効率が悪い
いいから、サトコはシャワーを浴びて来い

サトコ
『あっ···』

制止する間もなく、石神さんは部屋を後にした。

【バスルーム】

(あとでもう一度、ちゃんと謝ろう···)

冷えた身体を温めるように、熱いシャワーを頭から浴びた。

【部屋】

(石神さんは···)

石神
サトコ

バスタオルを身体に巻いて浴室から出ると、ちょうど石神さんが帰ってきたところだった。
石神さんは私を見るなり、ショップの袋を差し出してくる。

石神
風邪を引かないうちに、これに着替えろ

(あれ···?)

いつもの様子の石神さんに、首を傾げた。

(もう怒ってないのかな?)

サトコ
「ありがとうございます」

私は袋を受け取り、下着を取り出す。

(わっ、可愛い···!)

白色の下着はフリルがあしらわれ、それでいて落ち着いたデザイン。

(私が普段選ばないようなデザインだし···石神さんって、こういうのが好きなのかな)

そんなことを考えながら、着替え始める。
もしかしたら、石神さんが選んだ下着を着けるのはこれが初めてかもしれない。
そう思うと、ただ下着を着けるだけなのに妙に緊張してしまう。

(どんな感じだろう?)

実際に下着を着けた姿を見ようと、チラリと部屋にある鏡に目を向ける。

サトコ
「わぁ···」

予想していたよりもしっくりくるその姿に、思わず声が漏れた。

(私が選ぶのより、センスがある···!)

少しばかり情けなさを感じながらも、
石神さんが自分のために選んでくれたと思うだけで、恥ずかしさが込み上げる。

(彼氏が買ってくれた下着を着けるのって、こんな気持ちになるんだ···)

経緯が経緯なだけに申し訳なさがあるけど、嬉しくもある。

石神
どうした?

サトコ
「い、いえ!もう少し待っててくださいね」

私は様々な気持ちを抱えながら、手早く着替えを済ませた。

【車内】

あれからホテルを出た私たちは、近場を回って帰路に着く。

サトコ
「楽しかったですね」

石神
ああ

チラリと石神さんを見て様子を窺うも、普段と変わらない様子だった。

(あの後も、普通にデートを楽しんでいるように見えたし···)
(怒っているように見えたのは、気のせいだったのかな?)
(でも···)

思い返してみれば、まだきちんと石神さんに謝っていない。
私は一度目を閉じ、頭の中で言葉を整理してから口を開く。

サトコ
「あの···石神さん。今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした」

石神
迷惑?

石神さんは少し考えると、「ああ」と思い出したように続ける。

石神
お前がトラブルを起こすのはいつものことだ。今さら、改まって謝る必要はない

サトコ
「うっ···」

(そ、それはそれで問題があるような気がするけど···!)

事実なだけに、言い返せない。

サトコ
「でも、怒っていたんじゃないですか?」
「ホテルに戻るってなった時、なんだか様子がおかしかったですよね」

石神
あれは···怒っていたわけじゃない

サトコ
「え?」

石神
······

石神さんは、どこかバツが悪そうに口を閉ざした。
怒ってないことにホッとしつつも、今度は石神さんの様子が気になり始める。

サトコ
「じゃあ、なんでですか?」

石神
なんでもいいだろう

サトコ
「教えてくれてもいいじゃないですか」
「あっ、もしかして言えないようなことを···」

石神
······

(···さ、さすがにこんなことでは引っかからないか)

石神さんが口を閉ざしてしばらくすると、信号が赤になり停車した。

サトコ

「石神さーー」

再び口を開こうとすると、石神さんは私の後頭部に手を回して引き寄せる。
そしてーー。

サトコ
「んっ···」

唇を塞がれる。
それは一瞬のことだったけど、私の思考を停止させるには充分だった。

石神
···まだ知りたいか?

サトコ
「だ、大丈夫です···」

信号が青になると車が発車し、私はさり気なく窓に視線を向ける。
窓に映る私の頬は、ほのかに赤く染まっていた。

(石神さんが、あんなことするなんて···)

束の間の色気にあてられてしまい、頭がくらくらする。
逸る鼓動を感じて、そっと胸に手を当てた。

(今日は石神さんのいろんな一面が見えたかも)
(それに···)

一日のことを思い返していると、下着をつけたときのことが鮮明に蘇る。

(この下着を着けてるの、いつか石神さんに見せる日が来るのかな)
(···どんな反応をするのかな)

恥ずかしいけれど、どこか期待している自分がいる。
いつか訪れるであろうその日のことを考えながら、私は窓の外の景色を眺めるのであった。

Happy  End

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