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誘惑ランジェリー 東雲 カレ目線

【東雲マンション リビング】

仕事を終えて帰宅した夜、テレビの前に陣取った。
ちょっとした時間を使って、HDDに録りだめた番組を整理する。

(こういうのっていつの間にか一杯になってるんだよね)
(このドラマ、まだ見てなかったな···)
(こっちはあの子も好きそうだし、今度の週末にでも一緒に···ん?)

東雲
『新選組が愛した女 地上波ノーカット初放送』···なにこれ

(キーワード録画···じゃなくて、わざわざ予約してある)
(ということは、あの子の仕業か)
(でも放送日から結構経ってるし、本人も忘れてるんじゃないの?)
(あの子のことだし、あり得るよな)
(もし必要なら、またDVDで借りてきてあげればいいし)

···と、深く考えずに消す。
···それが間違いの元だった。

(···理解できない)
(何であんなに怒るの?たかが映画じゃん)
(それに新撰組、新撰組って。どんだけイケメン好きなの)

つくづく理不尽だと思うけれども···
洗面所に向かうあの子の肩は、いつもよりちょっと上がっていた。

東雲
······

東雲
オレはキミから何も聞いてなかった
だから、別に楽しみにしてない

そう言った時のあの子は、はっきりと傷ついた顔をしていた。

(さすがに言いすぎた、かも)

とはいえ自分から謝るのも何か違う。
けれども、このままスルーするのはもっと落ち着かない。

(···コーヒーでも淹れよ)

何か飲んでいれば多少話さなくても不自然じゃないし、リラックス効果も期待できる。

(うまくいけば、あの子の機嫌も直るかも···)

【洗面所】

コーヒーを一緒に飲んで、何となく雰囲気を取り繕って。
けれども安心できたのは、たったの一瞬だった。

(なんか肌がベタベタする···。気温のせいかな)

さっぱりしたくて洗面所に行く。
顔を洗ってタオルに触れた時、小さな違和感があった。

(···ん?)
(濡れてる···さては使ったな)
(別々のタオルを使えって言ってあるのに···自分の分を忘れたとか?)

あの子がオレのタオルを使ったことは別に構わない。
問題はその後、オレにひと言の報告もなかったことだ。

(すぐに言えばいいのに、報告も何もなく放置···あの子らしいけど)

【リビング】

黙っていたことへのあの子の言い訳は、『言おうとしたけど』『つい忘れた』だった。

(やっぱり···)
(予想通りすぎて、もはや何の感慨も湧かない···)

東雲
キミってそういうところ、ほんっとガサツだよね
誰かが気にすることでも、自分がそうじゃないと、すぐ忘れる

そう言ったのは、いつもの軽口の延長くらいの気持ちだったのに···
それまで殊勝に俯いていたあの子が、キッと顔を上げる。

サトコ
「···教官だって私が見たがってた映画、黙って消したじゃないですか」

東雲
は?それとこれと何の関係が···

(あの話、まだ引きずってたわけ?)

サトコ
「関係、ありますよ」
「私が大事にしてるものを、教官も大事にしてくれない時、あるじゃないですか」

(って、何でオレの方が責められてるんだろ)
(そんなに新撰組見たかったの?それにしたって、そんなに怒ること···)

正直、かなり面食らう。
オレを見つめるあの子の眉がぎゅっと寄った。

サトコ
「それを···私だけ無神経みたいに言わないでください!」

それまで黙って聞いてたけど、さすがにカチンと来た。

東雲
···無神経、ね

サトコ
「···っ」

苛立ちはしっかり伝わったらしく、今度は『帰って頭を冷やす』と言い出した。

(まあ···確かにインターバルを置いた方がいい)
(この子だけじゃなくて、オレも頭に血が上ってるし)

そう思ったから、敢えて止めなかった。
けれどもそれも、後から思えば逆効果だったのかもしれない。

サトコ
「私はうっかりしてるから、またタオルとか忘れちゃいそうだし···」
「しばらくこの部屋に泊まるの、遠慮します」

東雲
!ちょっと待って

サトコ
「失礼します!」

バタン!

東雲
···はぁ?

(『うっかりしてるから』?『タオルとか忘れちゃうから』?)
(『この部屋に泊まるのは遠慮します』!?)

東雲
何だよそれ···

(あの言い方···全部オレのせいだとでも言いたいわけ?)

苛立ちをぶつけるように、タオルを洗濯機に投げる。

(今朝はあんなに楽しかったのに、何でこう···)

悪いのは勝手に録画を消してしまった自分か、タオルを使ったことを言わなかったあの子なのか。
ケンカの理由としては、呆れるほどくだらないけれど。

(くだらなすぎて、こっちから謝るのは癪だな···)
(まぁ、どうせまた次も普通に来るでしょ)

【デパート】

···しかし、その見込みは甘かった。

【東雲マンション】

サトコ
『お邪魔します』

東雲
いらっしゃい

(···あれ?)
(今日はあの大荷物じゃないんだ···)

その日あの子は、終電のアラームが鳴るとさっさと帰って行った。

(まあ、あれからまだ日も浅いしね)

サトコ
『お邪魔します。キッチンお借りしますね』

東雲
へえ、ブラックタイガー作ってくれるの?

サトコ
『ブラックタイガーじゃなくてエビフライです』
『最近、あまり作ってなかったなと思って···』

(ふーん···)
(ま、作ってくれるなら食べるけど···)

またしても黒く焦げたエビフライを食べ終え、片づけを終えたあと。

サトコ
『じゃあ私、帰りますね。お邪魔しました』

(えっ)

バタン!

(早っ···)

ピンポーン

ガチャッ

東雲
···どうしたの?

サトコ
『急に来ちゃってすみません』
『この間来た時、忘れ物をしちゃったみたいで···』
『···あ!あった』

(忘れ物って···何かと思えば、ただのペン1本?)

サトコ
『じゃ、お邪魔しました!』

東雲
え?ちょっと···

バタン!

(···ペンなんてコンビニでも買えるじゃん)

(それを忘れたからって、わざわざ部屋に来る意味ある?ないよね!?)

【デパート】

まだ怒ってるというより、言いだした手前引けないのだろうけど。
仮にも恋人同士が過ごす時間としては正直、かなり物足りない。

(言いだしっぺとかどっちが悪いとか、もうどうでもいいから)
(子どもっぽい意地張ってないで、早く『お泊りセット』を持って来い···!)

···と素直に言えない自分も、負けず劣らず意地を張ってるのだけれど。
こうして仕事終わりに買い物に来ても、考えるのはあの子のことばかりだ。

(さて、どうするかな···)
(···ん?)

見覚えのあるものに足が止まる。
柔らかい色のルームウェアが、ショーケースにいくつも並べられていた。

(あの子もこのブランドのルームウェア、憧れてるとか言ってたっけ)

こういう物でも買って渡せば、またウチに泊まるようになるかもしれない。

【ランジェリーショップ】

上下セットを1つ買った後、下着売り場の前を通りかかった。

(あの子が前に着けてたのは薄紫だっけ)
(でも絶対、あの子にはこっちの方が似合う···)
(色は···さっき買ったルームウェアに合せればいいか)

ぼーっと考え、下着を手に取ったところで我に返った。

店員
「いらっしゃいませ。プレゼントですか?」

東雲
···はい、まあ

店員
「まあ、素敵ですね。ちなみにサイズは···」

東雲
サイズ···は、確か···

(···なにこれ、恥ずかしすぎるんだけど)

けれども、下着なしでは不十分な気もする。
恥ずかしさに耐え、ああでもないこうでもないと悩んで購入して、
ケンカの引き金になったタオルも添える。
その勢いのまま、家へ誘うメールも送った。

(買ったはいいけど···)
(···どんな顔して渡せばいいわけ?コレ)

あの子の新しい『お泊りセット』をぶら下げて帰る。

パステルカラーの袋を持ったオレは、街中で明らかに浮いていた。

【東雲マンション 寝室】

悩み抜いた割には『あの子が帰ろうとしたタイミングで渡す』という、
何のひねりもない作戦だったけれども。
ふわふわルームウェアの力を借りて、ようやく仲直りできたのだった。

東雲
髪、ちゃんと乾かした?

サトコ
「はい!」

(どうだか···)

東雲
全然まだじゃん

サトコ
「えっ、でも十分サラサラに···」

東雲
もういいから。ここ座って

ゴーッ

(ちゃんと乾かさないと傷むって何度言えば···)
(···にしても、今日まで本当に長かった···)

これでようやく元通りだ。
何気なく後ろの髪を前に流すと、あまり焼けてないうなじが目に入った。

(···あれ)

心の準備ゼロで見たそれに、ざわっと何かが騒ぐ。

(白···)

服の下の肌を想像してしまい、一瞬、色んなことが頭から飛び···
気づいた時には、あの子を後ろから抱きしめていた。

東雲
···!

(何これ···)
(この子、こんなに柔らかかったっけ···?)

サトコ
「···っ」

東雲
······

腕の中で、戸惑ったあの子が身じろぎする。
いつもなら、そこで止めるところだけれど。

(···ふわふわ)
(ここも···ここも)
(···なんか···ずっと触ってたい···)

名残惜しく腕やお腹に手を置いていたら、あの子が恥ずかしそうに振り返った。

サトコ
「あ、あの···」

(その顔···自覚、ないんだろうけど)

東雲

サトコ
「?」

東雲
中のも、見たいんだけど

催促するように、ルームウェアの胸元をつまんでみる。
あの子が小さく震えたのを、オレは見逃さなかった。

サトコ
「ええと···ど、どうぞ···?」

焦らすように、ファスナーをゆっくりと下げていく。
中から現れたのは、あのペールピンクの下着だった。

(···こっちも、ちゃんと着てたんだ)
(何か···全部、オレのものになったみたい)

サトコ
「に、似合うでしょうか···」

東雲
まあ···普通?

サトコ
「えっ」

(オレが選んだんだから、似合うに決まってるでしょ)

なのに大真面目で感想を訊いてくるなんて。

(···ほんと、バカ)

そんなバカなこの子に欲情してる自分も、大概バカだ。
自嘲しつつ、つい視線が下着に向く。

東雲
······

(知らなかった。白い肌にピンクって、結構···)

サトコ
「あ、あの···」

戸惑った声に目を上げる。

(···しまった)

淡い色の下着をじっと見ているところを、見られた。
よりによって、この子に。

東雲
···何?キモ

サトコ
「えっ。いえ、別に」
「っていうか、この状況で『キモ』って言います?普通···」

しょんぼりとこぼす唇を塞ぐ。
驚いて跳ねる身体は、やっぱりいつもより柔らかい。

(髪もサラサラだし、ピンクだし···)

あの子はオレの腕の中で、何度も苦しい息を零す。

サトコ
「きょうか···ん···」

身じろぎするたび、ふわふわの生地からピンクの下着が覗く。
その動きに誘われるまま、ストラップの下に手を這わせた。

サトコ
「···っ、きょう···教官···」

あの子の声に頭から飲み込まれ、
ちょっとした手の動きや息遣いに、また煽られる。

(とろけそうな顔しちゃって···)

それを言い訳にして、ずっと腕の中に閉じ込め続けるけれども···

(オレの方こそ、キミに捕まって)
(こうしてズブズブに溺れてる···)

心地よすぎて、もう抜け出せない。
その悔しさを誤魔化すために、抱きしめる腕に力を込めた。

Happy  End

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