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ふたりの絆 石神1話

【会議室】

教官と共に武器密輸組織を追うことになった私は···

サトコ
「石神教官、お願いします!」

石神
ああ。明日の夕方に男が働いている家電量販店に向かう
今日は捜査資料を読み込んでおくように

サトコ
「はい」

石神さんが資料を配り、会議は終了となった。

【教官室】

翌日、講義を終えた私を待っていたのは石神さんではなく後藤教官だった。

サトコ
「あの、石神教官は···」

後藤
別件の呼び出しで今日は戻れなくなった

サトコ
「では、ターゲットの男への接触は···」

(婚約中のカップルって設定で、新居の家電を見に行く予定だったんだけど)

後藤
···俺が代わりに行く

サトコ
「え!それってつまり、後藤教官と···」

後藤
俺をアンタの恋人にしてくれ

サトコ
「!」

真顔のまま告げられると、不覚にも心臓が飛び跳ねた。

(捜査のためとはいえ、後藤教官と恋人同士に···)

<選択してください>

A: 捜査のためですからね

(でも、後藤教官がこう言うってことは石神さんも了承してるんだよね)
(石神さん相手よりは、やりづらさもあると思うけど···)

サトコ
「捜査のためですもんね。よろしくお願いします!」

後藤
こちらこそ頼む

B: ちょっとやりづらいです···

(石神さん相手だから、恋人って設定でも大丈夫かなと思ってたんだけど···)

サトコ
「ちょっとやりにくいです···」

後藤
その気持ちは分かる。俺も同じだ

サトコ
「そうですよね」

(やりづらいのはお互い様。それでも後藤教官は躊躇いなく捜査に出ようとしてる)
(私も後藤教官を見習おう!)

サトコ
「至らないところも多いと思いますが、よろしくお願いします!」

後藤
俺の方こそ···可能な限り尽力する。よろしく頼む

C: そういう告白はちょっと···

(何かこう、気恥ずかしい感じが···ここは気分を変えるために冗談のひとつでも···!)

サトコ
「あの、そういう告白はちょっと···」

後藤
いや、俺は捜査の話をしてるんだが···

真剣に困った顔をする後藤教官に私は慌てて手を振る。

サトコ
「今のは冗談です!」

後藤
あ、ああ···そうか、そうだよな

サトコ
「いきなりの話だったので、ちょっと恥ずかしくて、つい···」
「でも、捜査のためですもんね。よろしくお願いします!」

後藤
こちらこそ、よろしく頼む

手を差し出し、後藤教官と握手を交わす。
触れた手に視線を落とすと、どちらともなくソワソワした気分になり
···ぎこちなく手を離した。

後藤
行こう

サトコ
「はい!」

(恋人役って意識すると、難しい!)

捜査のため···と心の中で何度も唱えながら、
私と後藤教官はターゲットのいる家電量販店に向かった。

【家電量販店】

サトコ
「初めて東京の電気屋さんに来た時は、かなり驚きました」
「デパート並みに商品が揃ってて···」

後藤
わかる。俺も同じだ

サトコ
「後藤教···いえ、せ、誠二さんのご実家って···」

(後藤教官を名前で呼ぶの照れる···!)

家電量販店のフロアを歩きながら、練習も兼ねて雑談を交わす。

後藤
俺の実家は山口だ

サトコ
「そうだったんですね。でも、誠二さんって訛り全然ないですよね」

後藤
そうでもないっちゃ

サトコ
「!?···それって山口弁ですか?」

後藤
ああ。山口弁は癖があるのも多いからな···直さざるを得なかったところが多い

サトコ
「なるほど···」

(後藤教官のイメージもあるし···さっきは私も驚いた···)
(だけど、少し肩の力が抜けた気がする。後藤教官は、そこまで考えてくれたのかな)

さり気ないフォローを有り難く思いながら、私も気持ちを整えていく。

(余計なことは考えず、犯人に怪しまれずに接触することに集中して···)

小さく深呼吸すると、不意に後藤教官が足を止めた。

サトコ
「どうしましたか?」

後藤
···ひとつ伝え忘れてることがあった。今回の任務、黒澤も同行している

サトコ
「え、黒澤さんが?」

どこかに視線を投げるような後藤教官に、私もそちらに顔を向けると···

黒澤
······

(ニッコリ笑顔の黒澤さん!)

アイコンタクトだけで近くに居ることを知らせてくる。

後藤
黒澤は隠しカメラで俺たちがターゲットと接触する映像を撮影する
映像を残すことで、接触中は気付かなかった犯人の癖などを確認することが出来るからな

サトコ
「あとで確認できるのは有り難いですね」

(これだけ人がいる中で隠れて撮るっていうのは至難の業だろうけど)
(黒澤さんならできるんだろうな)

普段は弄られることが多いけれど、石神班が黒澤さんに大きな信頼を置いているのは知っている。

後藤
···あの男だな

サトコ
「最近流行のオートクック家電のコーナーにいますね」

後藤
任務開始だ

後藤教官と視線を合わせ頷くと、ターゲット近くへと向かった。

(最初の声をかけるのは、私の役目··· “三田村” の名札もついてるし、この男で間違いない)

サトコ
「あの、すみません」

三田村
「はい。何でしょうか?」

サトコ
「このあたりのオートクック機能がついているお鍋について教えてもらえますか?」

三田村
「かしこまりました。最近、この手の調理家電はグッと増えましたからね」
「オートクックの商品は大体価格帯も似たものが多い状況でして···」

男はサッとパンフレットを取り出しながら、笑顔で説明を始める。

(ごく普通の店員と変わりない。むしろ人の好さそうな感じがするくらいで···)
(一般人と大差ないって石神さんも言ってたよね)

この男が犯人ならば、なかなか手ごわい。

後藤
男でも簡単に使えますか?

三田村
「もちろんです!材料を切って入れておくだけですからね。ご主人でも簡単にできますよ」

後藤
あ、いえ···結婚はまだで···

サトコ
「先日婚約して、これから一緒に住むんです。それで電気製品も新しくと思って···」

(個人的な話まですれば、相手の警戒心が緩むケースも多い···)

三田村
「それはおめでとうございます!いや~、美男美女のカップルですね!」

サトコ
「そんなことは···」

後藤
俺にはもったいない相手だと思っています

後藤教官の手がさりげなく私の肩に手を置く。

(ここは仲良さそうな感じを見せておいた方がいいってことかな)

後藤教官の意図をくみ取り、半歩、教官との距離を縮めた。

サトコ
「彼のために、できるだけ美味しいご飯を作りたくて···」

三田村
「帰宅時間に合わせ、お二人のように熱々の料理ができあがる機能もあるんですよ」

婚約中のカップルという情報が功を奏したのか···男はかなり饒舌に話を続けてくれた。

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【会議室】

その日の夜。

戻って来た石神さんを含む石神班全員が会議室に集められた。

黒澤
では、オレが撮影してきた映像流しますね~
後藤さんとサトコさん、なかなかの名カップルぶりでしたよ

石神
そうか

サトコ
「······」

チラッと前方に座る石神さんを見て、内心緊張を覚える。

(黒澤さんが撮ってるって言われたときには気づかなかったけど···)
(後藤教官と恋人になってるところを石神さんに見られるってことでもあるんだ!)

石神さんの表情に変化はなく、前のスクリーンに映像が映し出される。

後藤
俺の実家は山口だ

サトコ
『そうだったんですね。でも、誠二さんって訛り全然ないですよね』

後藤
そうでもないっちゃ

サトコ
『!?···それって山口弁ですか?』

(こ、ここから撮ってたの!?いったい、どこから···)

石神
······

颯馬
誠二さん

黒澤
誠二さん

サトコ
「な、何ですか?婚約者なら、名前で呼ぶかと思って···っ」

颯馬
正解だと思いますよ。いいですね、名前呼び

黒澤
オレも『透さん♪』って呼ばれたかったな~

後藤
···ここは必要ないだろう

黒澤
お二人が頑張ってる姿もしっかり映しておこうと思いまして

サトコ
「こ、ここはいいですから、三田村と話してるところまで送ってください!」

黒澤
そうですか?それじゃ···

黒澤さんが早送りしてくれる。

(ただでさえあまり見られたくないのに‥肝心なところ以外は映さないで欲しい···)

サトコ
『あの、すみません』

三田村
『はい、何でしょうか?』

映像は流れ続け、その間も石神さんは眉ひとつ動かさない。

(後藤教官が私の肩に手を置いても···そうだよね、これは任務なんだから)
(変に意識し過ぎた自分が恥ずかしい!)

映像が終わると、皆さんが視線を戻す。

颯馬
この映像を観る限りでは、武器密輸なんて犯罪に手を染めているようには見えませんね

サトコ
「話してる時も、人の好さそうな店員さんという感じで···」
「今回の接触で怪しい点は見つけられませんでした」

石神
この男は武器を売り捌くことで金儲けを企んでいる男だ
国家転覆などの思想があるわけではない。だから、その手の危険性は感じられないんだろう

黒澤
オレたちが担当する事件では、あまりいないタイプですね

後藤
どちらかというと、刑事課の分野···か

颯馬
実際、どんな人間が犯人か···なんて、逮捕するまで分からないことも多いですからね
公安が追う犯人だから···と、色眼鏡で見ないのは正解です

教官方の話に私は深く頷く。

(実際の捜査は講義や演習以上に学ぶことが多い···)

石神
別の筋から上がっている情報によれば···
男はより多くの武器を捌くために運び手となる仲間を探しているらしい

サトコ
「その仲間候補に入り込めたら···」

石神
それが一番効率的な捜査につながるな

後藤
先ほどの接触時に、あらかじめわかっていた男の家の近くに越すという話をしました
その話の流れで、男が通うバーを突き止めています

石神
次は、そこで接触だ。男が武器を密輸し、売り捌いているという決定的な証拠が得られていない
証拠を押さえることと、密輸ルートを探ることを第一に進めていく

全員
「はい」

石神
次は俺も同行する

黒澤
でも、急に婚約者変えるってわけにはいきませんよ?

石神
わかっている。そこは···

颯馬
石神さんは後藤の兄ということで潜入すればいいんじゃないですか?

(石神さんと後藤教官が兄弟に!?)

石神
そうだな···

後藤
······

二人が顔を見合わせる。

石神
他人を連れて行くよりは警戒が薄れるだろう。それでいこう

後藤
わかりました

石神
次回の潜入については、明日改めて打ち合わせをする
今日はここまでだ

会議終了の声に場の緊張が解けるのがわかった。

石神
氷川、お前はこのあと教官室に来い

サトコ
「は、はい」

(何だろう?潜入の打ち合わせは明日するって言ってたし···)

解けた緊張がさっそく戻ってくるのを感じた。

【個別教官室】

サトコ
「失礼します」

石神
そこに座れ

サトコ
「はい」

石神さんの向かいに座ると、彼は厳しい顔を私に向けてきた。

石神
先ほどの後藤とのカップルとしての潜入捜査の件だ

サトコ
「は、はい···」

その言葉に口から心臓が出そうになる。

(何を言われるのか、全然想像がつかない···)

石神
あの件について、お前はどう思っている

(どう···と言われても···)

<選択してください>

A: 石神さんがよかったです

(二人の時に聞かれてるってことは、本音を言ってもいいのかな···)

サトコ
「感想を言うなら、石神さんがよかったかなと···」

石神
俺は感想を聞いているわけじゃない

(ハズレだった···!)

サトコ
「あ、その···感想じゃないなら、何というか···ちょっと硬かったかもしれません」

石神
その自覚はあるのか

B: 緊張しました

サトコ
「一言で言うなら、緊張しました」

石神
それが顔に出ていた

サトコ
「本当ですか?後半はかなり自然に振る舞えていたかなと思ったんですけど···」

石神
お前がやっているのは潜入捜査だ。 “かなり自然” ではなく、“自然” に振る舞え

サトコ
「は、はい」

C: もっと頑張るべきでした

(こう聞いてくるってことは、石神さんは問題があるって思ってるのかも)

サトコ
「もっと頑張るべきでした」

石神
その自覚はあるのか

サトコ
「はい。あれくらいで何とかなるかも···という甘さがあったのは、本当です」

石神
今回は一般人に近いターゲットだったからよかったようなものの
あれがプロレベルの組織だったら簡単に見破られている

サトコ
「···はい」

(確かに相手が後藤教官だったから、ためらいが最後まで抜けなかった)
(プロ相手に通用するものではなかったかもしれない···)

石神
後藤にも同じことを言っておく。次はもっと上手くやれ

サトコ
「はい!」

(次は石神さんも一緒の潜入捜査···つい石神さんの目が気になっちゃいそうだけど)
(気持ちを切り替えて、ちゃんと後藤教官とカップルになろう!)

サトコ
「では、私はこれで···」

石神
待て

サトコ
「まだ何か?」

石神
お茶を一杯淹れてくれないか

石神さんのテーブルには未開封のお茶のペットボトルがある。
それでも私にお茶を淹れてくれというのは···

(もうちょっと一緒にいたいって思ってくれてるってことなのかな···)

そう考えると、現金なもので急に気持ちが浮き立ってくる。

サトコ
「私もご一緒していいですか?」

石神
ああ

サトコ
「そういえば、教官室の電気ケトル新しくなったんですよね」
「私、使うのは初めてで。説明書は···」

石神
俺もまだ使ってないから、段ボールに入ったままだ

サトコ
「探しますね。さっきの捜査の時に三田村に言われたんです」
「どんな家電でも、新しいものを使う時は必ず説明書に目を通して欲しいって」

石神
容疑者に教えられることもある···か?

サトコ
「そうですね。私結構、説明書読まないタイプで···」
「でもあの男、家電のことは本当に詳しかったです。説明も丁寧でした」

石神
そのようだな

電気ケトルの箱を見つけ、その中を覗く。

サトコ
「男が家電量販店で働いていることは、事件に関係あるんでしょうか?」

石神
どうだろうな···それも捜査中だ

(家電と武器の密輸って、あんまり結びつかないけど···)

サトコ
「あ、説明書見つかりました。家電の箱の中ってスペース結構ありますよね」
「この詰まってる発泡スチロールも分別して処分しないと···」

みっしりと詰まった発泡スチロールを箱から引き上げた時。

(ん?この発砲スチロール···)

私の頭に、あるひらめきが浮かんだ。

to  be  continued

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