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雨音は愛のMelody 後藤3話

~カレ目線~

【学校 廊下】

成田
「ふざけるな!」

(···ん?)

怒声が聞こえて、足を止める。
視線を向けた先にいたのは、サトコと成田教官だった。

(何があったんだ?)

近くにいる訓練生たちも、何事かとふたりを見ている。
耳を澄ませると、ふたりの会話が聞こえてきた。

成田
「お前は頼まれたことすらまともに出来ないのか!?」

サトコ
「そ、それは、他の教官から緊急の呼び出しがあって···」

成田
「言い訳をするな!」
「お前がさっさと頼まれていたことを終わらせていれば、済む話だろう!?」

後藤
······

サトコの悔しそうな顔に、小さなため息を漏らす。
緊急の呼び出しというのは、俺がしたものだった。

(まさか、あの時成田の頼まれごとがあったとは···)
(捜査の件で緊急だったとはいえ、ここはフォローしなければ)

サトコをフォローするため、踏み出そうとしたその時。

成田
「こんな使えない奴が補佐官だとは、後藤も災難だな」
「···いや、そもそも後藤の教育がいけないのか」
「まったく···あいつはどういう教育をしているんだ?」

サトコ
「!」

成田の言葉に、俺はその場で立ち止まる。

(俺の補佐官を務めていることで、サトコの負担も増えているよな···)

実際、最近もサトコと動くことが多かった。

(サトコは頼まれごとをしても、嫌な顔ひとつしないし···)
(むしろ、そんなサトコに甘えているのは俺の方、か)

そんな考えが過り、再びため息をつく。

サトコ
「本当に、申し訳ありませんでした!」

成田
「フンッ」

深々と頭を下げるサトコに、成田教官は踵を返してその場を後にする。
サトコは頭を上げ、真っ直ぐな瞳で成田教官の背中を見送っていた。

(あの様子だと、自分の中できちんと折り合いをつけたんだろう)
(サトコは強いな)

いつも真っ直ぐ前を見つめ、どんなことがあってもめげないサトコを眩しく思う。

(とはいえ、俺の知らないところで色々我慢させてしまっているかもしれない)
(せめて、ふたりの時は甘えさせてやりたいが···)

【後藤マンション】

誰もいない家に帰り、明かりをつける。
ネクタイを緩めながらソファに座り、テレビを点けた。

キャスター
『先ほど入った情報によると···』

後藤
······

ニュースに耳を傾けながら、昼間のことを思い返す。

成田
『こんな使えない奴が補佐官だとは、後藤も災難だな』
『···いや、そもそも後藤の教育がいけないのか』
『まったく···あいつはどういう教育をしているんだ?』

サトコ
『!』

あの時のサトコの表情が、頭から離れなかった。

(そういえば、最近サトコと出かけてなかったな)

何かしてやりたいという気持ちが芽生え、スケジュールを確認する。

(オフが重なっているのは···今週末か)

俺は携帯に手を伸ばし、サトコに電話を掛けた。

サトコ
『もしもし?』

後藤
俺だ。今、大丈夫か?

サトコ
『はい、どうかしましたか?』

不思議そうに尋ねてくるサトコに、デートに行かないかと誘う。

サトコ
『っ、はい!』

嬉しそうなサトコの声に、俺は笑みを漏らした。

(翌日は学校もあるし、あまり遠くには行かない方がいいだろう)

それからいくつか候補を挙げ、サトコの意見を聞きつつ行き先を決める。
鎌倉に行くことが決まり、待ち合わせ時間や場所の確認をして電話を切った。

【鎌倉】
後藤
···もう少し、こっちにこい

サトコ
「はい···」

デートの最中、突然雨が降り出す。
店の軒先で雨宿りをしていると、ふと会話が途切れた。

後藤
······

サトコ
「······」

肌に張り付く服に少しだけ不快感を覚えながら、ぼんやりと雨を眺める。

(まさか雨に降られるとは思わなかったが···)
(こうしてサトコと過ごす時間も、悪くない)


「にゃあ」

(···ん?)

鳴き声が聞こえて視線を向けると、見覚えのある猫がいた。

サトコ
「後藤さん、ビラに載ってた猫です!」

後藤
ああ、あの模様は間違いない


「にゃっ」

サトコ
「あっーー」

猫は可愛らしい鳴き声を上げ、駆け出した。

サトコ
「後藤さん」

後藤
ああ、追いかけるぞ!

サトコ
「はい!」

俺たちは頷き合い、猫を追いかけた。

【住宅街】

あれから俺たちは横断歩道を渡り、二手に分かれる。

(こっちにはいない、か···)
(サトコの方に行ったのか?)

俺は注意深く辺りを見回しながら、足を進める。


「にゃあ~」

それからしばらく先へ進むと、猫の鳴き声が聞こえた。
猫のさらに奥には、サトコがいる。

後藤
サトコ!

サトコ
「っ、後藤さん!?」


「にゃっ!」

猫は突然現れた俺に驚き、身体を反転させる。


「にゃ~」

しかし俺が気になるのか、チラチラ振り返っては様子をうかがっていた。

サトコ
「つっーー」

サトコはその隙をついて猫を捕まえようとするも、その動きはいつもより鈍い。

(どうしたんだ···?)


「にゃあ~!」

後藤
っ、と

そして俺は、するりとサトコをかわした猫の動きを予測し、捕まえることに成功した。

女の子
「おねーちゃん、おにーちゃん、ありがとう!」


「にゃ!」

サトコ
「ふふっ、どういたしまして」

飼い主へ連絡して、猫を受け渡す。
喜ぶ女の子につられて、サトコも嬉しそうな表情をしていた。

(やはり、サトコには笑顔が一番似合う)

そんなサトコを見ているだけで、口元が緩んだ。
飼い主の親子と別れ、いつの間にか雨が止んでいることに気付く。

後藤
俺たちも行くか

サトコ
「そうですね」
「っーー」

一歩踏み出したその時、サトコの顔がわずかに歪んだ。
サトコは何でもないと言うものの、その額には冷や汗が流れている。

(やはり何か隠している···?)

先ほど、猫を捕まえようとした時のことを思い返す。

(あの様子からすると、足でも怪我したか···?)

サトコ
「ほら、早く行かないと回る時間がーー、っ!」

(嫌な予感は、当たったみたいだな)

後藤
足、怪我してるんだろ?

その言葉に、サトコは観念して事情を説明する。

後藤
お前の気持ちは分からなくもないが、無理をするな

サトコ
「すみません···」

サトコは肩を落とし、シュンッと小さくなった。

(やっぱり俺に気を使ってたのか···)
(サトコらしいと言えばそうなんだが、こういう時ぐらい甘えて欲しい)
(それなら···)

俺はサトコに背を向け、その場にしゃがみ込む。
背中に乗るように促すと、案の定サトコは遠慮してきた。

後藤
別に気を使ってるんじゃない
俺がしたいだけだ

気持ちを吐露すると、想いが通じたのかサトコは俺の背中に乗る。
背中に愛おしい人の重みを感じながら、俺はゆっくりと歩き出した。

サトコ
「······」

サトコは俺の肩口に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめてくる。

(···そうだ、それでいい)

少しだけ素直になったサトコに、口元が緩むのを感じた。

サトコ
「綺麗···」

しばらく歩いた先で、紫陽花が咲いている先に虹が架かっているのを見つけた。
色とりどりの紫陽花には水滴がついており、陽の光を反射している。

後藤
雨もたまには悪くないな

サトコ
「そうですね」

(足を挫いて、落ち込んでいるかと思っていたが···)

サトコの柔らかい声音に、胸を撫で下ろす。
それから俺たちは紫陽花と虹を眺め、穏やかな時間を過ごした。

暮らしをおトクにかえていく|ポイントインカム

【後藤マンション】
後藤
これでいいだろ。もう無茶はするなよ?

サトコの足の手当てをして、ソファに座る。

サトコ
「はい、これからは気を付けますね」

サトコは隣に座った俺の肩に、そっと頭を預けた。
そしてほうっと息を漏らし、口を開く。

サトコ
「今日はとても楽しかったです」

後藤
俺もだ

帰る間際に見た光景を思い出すだけで、顔がほころぶ。
サトコも同じなのか、柔らかい表情をしていた。
俺たちは見つめ合い、口づけを交し合う。

サトコ
「ん···」

唇が触れるたび、胸の高鳴りを感じた。

サトコ
「···はぁ」

キスの合間に漏れる声に、心が揺さぶられる。
更にキスを深くし、お互いの熱が灯っていくのを感じた。
しかし、不意にサトコの足のことが頭の片隅を過る。

(こうして、もっとサトコと触れ合っていたい)
(だが、これ以上は···)

高まる熱を抑え、最後に音を立てるようにキスをして顔を離す。

後藤
···この続きは、足が治ったらな

サトコ
「え···?」

潤む瞳で物足りなそうに見つめてくるサトコの頭に、ポンッと手を乗せる。

後藤
今は治すことが優先だ

サトコ
「はい···」

サトコは残念そうに、再び俺に寄り添ってくる。
いつもより少しだけ素直なサトコに、なんだか胸がくすぐったい。

(本当、アンタには敵わないな)

サトコに気付かれないよう、そっと息を吐き出す。
俺はサトコの肩を抱き寄せ、愛しい彼女の額にキスをひとつ落とした。

Happy  End

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