「初体験の年齢」
講義が終わり、教官室へ戻る。
ドアに手をかけたとき、中から声が聞こえてきた。
【教官室】
加賀
「あ?初めてヤッた歳?」
【廊下】
後藤
「!?」
【教官室】
加賀
「なんでそんなこと、テメェらに言わなきゃならねぇ」
黒澤
「いいじゃないですか~ここは男同士の秘密の会話ってことで!」
「ちなみにオレの初体験は、高校1年の夏です★」
【廊下】
後藤
「······!」
何やらただならぬ話をしているのがわかり、思わずドアを開けかけた手を止める。
【教官室】
加賀
「チッ···」
「···初めてヤッたのは、小学生の頃だ」
黒澤
「小学生!?いくらなんでも早過ぎません!?」
「危ないでしょ、色々と···!」
難波
「加賀ならあり得るだろ」
東雲
「早熟っぽいですもんね」
颯馬
「さすがに小学生は負けましたね···私は中学生でしたよ」
黒澤
「え~?周介さん、意外と遅いんですね」
【廊下】
(そういうお前は高校1年の夏って言っただろう···!)
(というか、遅いのか···!?中学生で!?)
難波
「ちなみに、俺も中学生だ」
後藤
「!!!」
室長まで加わっていることに驚き、思わずドアから手を離した。
(こんな話を、昼間から···しかも、教官室でしてるのか···!?)
このドアを開ければ、間違いなく話に巻き込まれてしまうだろう。
(冗談じゃない···一度教場に戻って、時間を潰してくるか···)
そう決めて踵を返した時、無情にも背後でドアが開く音がした。
難波
「おっ、後藤。いいところに来たな」
「面白い話をしてたんだ。お前も混ざれ」
後藤
「······!」
(自分の経験を、黒澤たちに語れと···!?)
後藤
「お、俺は···卑猥な話をしに来たわけじゃないんです···!」
難波
「何のことだ?」
黒澤
「そういえば、後藤さんとこういう話したことなかったですよね~」
「オレと後藤さんの仲なのに!失敗失敗★」
後藤
「俺は、誰にも言うつもりはないぞ···」
加賀
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
さっきは自分も答えるのを渋っていた加賀さんが、ニヤニヤしながら腕組みしている。
どうやら、自分だけが言わされるのは割に合わないと思っているようだ。
(とんだとばっちりだ···!なぜ俺が、こんな···)
石神
「ちなみに俺は、幼稚園くらいの頃だがな」
後藤
「!!!???」
黒澤
「ええっ、幼稚園!?」
加賀
「ふん。ませたガキだな」
東雲
「幼稚園の頃にそういう知識と行動力があったことに驚きですけどね」
難波
「いやあ、石神ならあり得るだろ。耳年増っぽいもんな」
石神
「なんでも興味を持って行動する子どもだっただけです」
(興味の対象がおかしいだろ···!)
いくら上官でも、さすがにツッコまざるを得ない。
目を逸らす俺に、室長が不思議そうに首を傾げた。
難波
「さっきからどうした、後藤」
後藤
「俺は···俺は···」
黒澤
「ねーねー、いつですか?後藤さんが初めて···」
「料理を作ったのって!」
後藤
「······」
「···何?」
黒澤
「みなさん早いですよね~。高校生のオレが一番遅いなんて」
東雲
「透は3歳くらいの時に爆発騒ぎとか起こしてそうだけどね」
黒澤
「さすがにそれはないですよ~」
「母親の手伝いをした結果、危うくボヤになりかけたことはありますけど★」
後藤
「料理···」
(なんてことだ···まさか、料理のことを卑猥な話だと勘違いするなんて···)
(くっ···俺って奴は···)
石神
「後藤、何かあったのか」
後藤
「いえ···」
「···ちなみに俺は、料理できません」
難波
「···だよな。知ってる」
盛大な勘違いをしたことは、自分の胸の中だけにとどめておこう。
強くそう誓った、ある日の午後のことだった···
Happy End