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刑事が浴衣に着替えたら 後藤

【お祭り会場】

ある暑い日の夜、後藤さんと一緒に夏祭りにやってきた。

(ちょっと早目についちゃった···後藤さん、まだかな)

そわそわしながら待つ間、同じように浴衣を着た女性たちが通り過ぎていく。

女性1
「その髪、かわいいね!」

女性2
「久しぶりの浴衣だから、張り切ってまとめちゃった!」

(まとめ髪かあ···浴衣にはやっぱり、ああいう髪が似合うな)

私の髪は肩くらいまでしかないので、長い髪をまとめよるのに憧れてしまう。

後藤
おい

サトコ
「えっ?」

いつの間にか後藤さんが背後に立っていて、慌てて髪を直す。
後藤さんは怪訝そうにしながら、私の行動を眺めていた。

後藤
どうした?

サトコ
「ど、どうもしないです···!」
「それより、早く行きましょう!私、楽しみにしてたんです!」

後藤
ああ、そうだな

危うく挙動不審になりそうだったのを回避して、後藤さんとともに露店を回る。
お化け屋敷に入ったりリンゴ飴を食べたりと、お祭り独特の雰囲気を楽しんだ。

後藤
祭りに来るのは、久しぶりだな

サトコ
「私もです。大人になるとなかなかチャンスがないですよね」
「でも後藤さんは、黒澤さんとかに誘われてるイメージですけど」

後藤
毎年断ってるけどな

サトコ
「要するに、毎年誘われてるんですね」

複雑そうな表情の後藤さんを笑っていると、前から歩いてきたカップルの会話が耳に届いた。

彼氏
「今日の髪、いいじゃん。浴衣に合ってる」

彼女
「ほんと?頑張ってよかった!」

サトコ
「······」

(やっぱり、いいなあ、上の方でまとめる髪···)

(でも私の髪の長さじゃ、どう頑張ってもアップにするのは無理だし···)

後藤
やっぱり何かあったのか?

カップルを眺めてぼんやりする私の顔を、後藤さんが覗き込んでくる。
心配そうな後藤さんに申し訳ないような、
大好きなその顔が迫ってドキドキするような、複雑な気持ちだ。

サトコ
「その···浴衣には、アップにした髪が似合うなって」

後藤
髪?

サトコ
「私も、ああいう髪型にできたらいいんですけど···」

短い髪をいじりながら、周りの女性を振り向く。
やはり普段あまり着ない浴衣とあって、髪型に力の入っている人が多かった。

後藤
······

サトコ
「すみません。変なこと言って」
「あ!後藤さん、あれやってみましょう!」

わざと話を変えて、輪投げの露店へ向かう。
後藤さんは何も言わず、うなずいてついてきてくれた。

お祭りを楽しんだ帰り、人混みから少し外れて歩いていると、不意に後藤さんが立ち止まった。

サトコ
「後藤さん?」

後藤
振り向かないで、止まっててくれ

振り返ろうとした私を制して、後藤さんが後ろに立つ。
言われるまま黙って待っていると、大きな手が私の髪に触れた。

サトコ
「っ······」

後藤
···もうちょっと、だ
あと、少し···

サトコ
「ご、後藤さん···何してるんですか?」

微かに引っ張られている感覚があるので、どうやら後藤さんは私の髪を結ぼうとしているらしい。
苦戦したあと、ようやく手が離れた。

後藤
これなら、短くても使えるだろ

その声に、巾着から鏡を取り出す。
私の髪をまとめているのは、和柄のヘアゴムだった。

サトコ
「かわいい···!」
「もしかして、買ってきてくれたんですか···?」

後藤
アンタがかき氷で並んでる間にな
···俺は、この髪が好きだ

ぽつりとこぼして、後藤さんが私の髪を優しく撫でる。

後藤
だから、アンタはそのままでいい

サトコ
「後藤さん···」

私の頭を抱き寄せた後藤さんが、顔を傾けて唇を寄せた。

(後藤さんがそう言ってくれるなら···私ももっと、この髪が好きになれる)

重なった唇から、後藤さんの優しさが伝わってくる。
祭りも終わって、人通りもなくなった静かな夜ー
私たちを、美しい音を奏でる虫の声が包み込んでくれたのだった···

Happy End

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