【お祭り会場】
ある夜、潜入捜査の演習で、お祭りに潜入することになった。
サトコ
「すみません、黒澤さん···演習にお付き合いしていただいて」
黒澤
「いえいえ。石神さんはお忙しいそうですから、オレでよければいくらでも♪」
「それにしても、祭りに来るのなんて久しぶりですよ」
サトコ
「実は、私もです」
黒澤
「いいですね~サトコさんの浴衣姿!似合ってますよ」
サトコ
「あ、ありがとうございます」
(演習とはいえ、潜入捜査···その場に溶け込むのが何よりも大事)
(···なのは、わかるけど)
普段見慣れない黒澤さんの浴衣姿に、少しドキドキしてしまう。
演習中なのだからと自分を叱咤しても、胸の高鳴りは抑えられなかった。
(いやいや!今は気を引き締めないと···!)
(せっかく黒澤さんが、石神教官のかわりに面倒を見てくれるんだから!)
サトコ
「それにしても···いませんね。ターゲット」
黒澤
「そうですねえ。この人混みですからね」
「見つけること自体、至難の業だと思いますよ」
サトコ
「うう···よりにもよって、なんでこんなに人が多い場所が演習に選ばれたんでしょう···」
黒澤
「教えてあげましょうか?」
サトコ
「やっぱり、そのほうが勉強になるから、とかですかね?」
黒澤
「ブッブー★」
黒澤さんが笑った瞬間、手を強く引かれた。
肩を抱き寄せられて、緊張に身体が硬直する。
黒澤
「実はこの演習場所、オレが決めたんです」
耳元で、黒澤さんがささやく。
どうやら誰かにぶつかりそうになった私を、助けてくれたようだった。
(けどっ···ち、近い···!)
サトコ
「黒澤、さんっ···」
黒澤
「···わざとです」
サトコ
「···え?」
黒澤
「わざとこの場所を選んだんです···って言ったら?」
視線を上げると、すぐ目の前に黒澤さんの顔があった。
吸い込まれそうなその瞳から、目を逸らすことができない···
黒澤
「人が多くないと、こういうこと、できないですからね」
サトコ
「······!」
息を呑んだ直後、黒澤さんが私から身体を離した。
黒澤
「なーんて★」
サトコ
「!」
黒澤
「冗談ですってば~。本気にしちゃいました?」
サトコ
「じょ、冗談···」
(そう、だよね···び、びっくりした···!)
黒澤
「実際の現場では、こんな人混みは序の口ですからね」
「それに浴衣と下駄も、普段とは違って歩きにくいでしょ?」
サトコ
「は、はい···」
黒澤
「早いとこ慣れちゃいましょう。大丈夫ですよ、サトコさんなら」
いつものように明るく励ましてくれると、黒澤さんが私の手を引いて歩き出す。
(あんな顔見せた後に、こんなの···ずるい)
頬の火照りを気付かれないように、必死に熱を冷まして黒澤さんについて行った。
Happy End