【学校 廊下】
その日の仕事を終わらせて、大きく伸びをしながら廊下を歩く。
(明日は非番か···どっかで一杯ひっかけていくか)
玄関に向かっていると、教官室から加賀が出てくるのが見えた。
加賀
「お疲れさまです」
難波
「おー、お疲れさん。今終わりか?」
加賀
「ええ」
相変わらず、口数が少ない。
だが無駄にベラベラ喋る奴よりは、信頼できる。
(ん···いや、無駄にベラベラ喋る奴が、身近にいるな)
思い浮かんだのは、黒澤の笑顔だ。
(···まあ、あいつは特殊だな。いろんな意味で)
(さてと···)
難波
「これから、酒でもひっかけて帰ろうと思ってたんだ」
「お前もどうだ?無理にとは言わんが」
加賀
「······」
少し考えた様子を見せた加賀が、黙ってついてくる。
難波
「いいのか?無理強いはしねぇぞ?」
加賀
「明日は、非番ですから」
難波
「お前もか。実は俺もだ」
「まあ、非番でも容赦なく連絡来ることもあるけどなあ」
「最近の奴は、すぐ泣きついてくるから」
加賀
「自分たちでやらせりゃいいんです」
難波
「お前はほんと、容赦ないな」
笑いながら、加賀と並んで歩く。
(ま、たまには部下と過ごすのも悪くねぇか)
さっきよりも楽しい気持ちになりながら、学校を出た。
【居酒屋】
いつもの居酒屋で奥の席に通されると、とりあえずビールを注文した。
難波
「お前は好きなのを頼んでいいぞ」
加賀
「同じもので」
店員
「かしこまりました」
確か加賀は、たまに黒澤が主催する飲み会では、日本酒や焼酎を頼んでいたはずだ。
(生意気に、気ぃ遣いやがって)
(普段はそんなとこ、絶対見せねぇくせに)
ふたりきりのときは、こうしてしっかり俺を上司として立てる。
他のヤツらがいる前では、俺にしかわからないように気を遣うのが加賀だった。
難波
「それがお前らしさかもな」
加賀
「なんの話です」
難波
「なんでもねぇよ。んじゃ、乾杯」
運ばれてきたビールで乾杯して、そのあとは各々、好きな酒を煽った。
それなりに腹を満たしつつ、日本酒やら焼酎やら、果てはウイスキーまで色々と頼む。
加賀も負けじと一緒になって飲むから、久しぶりに楽しい酒の席だった。
難波
「いやあ~、もうちゃんぽんするような歳でもねぇなあ」
加賀
「···そうですね」
難波
「次の日に残るもんな、深酒すると」
「しかし、お前はまだ大丈夫だろ?」
加賀
「まあ···次の日に残るようなことはないですが」
難波
「だよなあ。俺にもお前くらいの頃があったよ」
加賀
「室長はまだ今でも若い奴より飲めますよね」
難波
「酒なんて水みたいなもんだからな」
「そういやお前、聞いたか?この前、颯馬が···」
しばらくは楽しく飲んでいたが、そのうち加賀の反応が鈍くなってきた。
やがてテーブルに突っ伏すようにして目を閉じ、静かに眠り始める。
難波
「おいおい、もうつぶれたのか?」
「こんな姿、石神や歩には見せらんねぇよなあ」
先に勘定を済ませて、加賀を肩に担いだ。
難波
「普段はでかい口叩いてても、俺にとってはまだまだ、手のかかるひよっこだよ」
「···ま、お前は嫌がるかもしれんがな」
起きる様子のないかわいい部下を連れて、居酒屋をあとにした。
End