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黒澤 出逢い編 9話



【廊下】

切羽詰まったようなその一言に、私は思わずスマホを握り直した。

サトコ
「もしもし、どうしたんですか!?」
「『助けて』っていったい···」

森沼
『グチャグチャです』

サトコ
「!?」

森沼
『家、グチャグチャで···』
『手帳とか、郵便物とか、あとICカードもなくなって···っ」

サトコ
「すみません。ちょっと落ち着いて···」

森沼
『犯人はナミカです!』
『わたしが「協力者」だってバレて、それできっとナミカがうちに来て···』

サトコ
「森沼さん!」

森沼
『···っ』

サトコ
「少し落ち着いて···まずは深呼吸しましょう」
「気を吸って···吐いて···吸って」

受話口から、ひゅっ、ひゅっと短い音が聞こえてくる。
深呼吸とは言えなさそうさけど、とりあえず試みているようだ。

サトコ
「どうです、落ち着きましたか?」

森沼
『······はい』
『あの、実は···』

森沼さんの話によるとーー
まずは数時間前、スマホと交通ICカードを盗まれたらしい。

サトコ
「えっ、じゃあ、今電話をかけているのは···」

森沼
『黒澤さんから渡されたスマホです』
『こっちは、たまたま持ち歩いてたから無事だったんですけど』
『普段使っているスマホが、ICカードと一緒盗まれて···』

サトコ
「それって『病院で』ってことですか?」

森沼
『そうです。更衣室のロッカーからです』

それで不安に思いながら帰宅したところ、さらに自宅が荒らされていたらしい。

森沼
『ただの空き巣にしては、偶然過ぎて···』
『怖くなって、黒澤さんに電話したのに、連絡つかなくて···』

サトコ
「······」

森沼
『きっと、私が「協力者」だってバレたんです!』
『じゃないと、こんなこと···っ』

サトコ
「落ち着いてください、森沼さん」
「まだ、そうと決まったわけじゃないですから」

森沼
『···っ』

サトコ
「今は、自宅ですか?」

森沼
『駅前のカフェです』
『家に帰るの、なんだか怖くて···』
『でも、病院はもっと怖くて···』

サトコ
「······」

森沼
『助けてください、氷川さん···』
『お願いです。どうか···』

震える声で訴えられて、胸が痛くなった。
もし、本当に彼女が狙われているのなら、何とかして力になりたい。
でも、私ひとりの判断ではどうにもできないのだ。

(まずは、黒澤さんに報告しないと)
(時刻は···)
(···うん、ギリギリ面会時間に間に合うはず)

サトコ
「森沼さん、私、今から病院に行ってきます」
「黒澤さんに直接会ってきます」

森沼
『本当ですか?』

サトコ
「はい。なので待っていてください」
「必ず連絡しますから」

森沼
『わかりました』
『どうか···どうかよろしくお願いします』

通話を切るなり、私は廊下を駆けだした。

(急がなくちゃ)
(1分でも1秒でも早く、黒澤さんに会わなくちゃ)

(黒澤さんなら、必ずなんとかしてくれる)
(森沼さんを助けてくれるはず!)
(だから、どうか···)



【病室】

サトコ
「はぁ···はぁ···」

黒澤
あれ、サトコさん?

(よかった、いた···)

実はここに来る途中、何度か黒澤さんと連絡をとろうと試みた。
けれども、電話はつながらず、メールの返信もなかったから不安だったのだ。

黒澤
なんだか久しぶりですねー
最近全然サトコさんに会えなかったから、透、寂しくて···

サトコ
「森沼さんがピンチです」

黒澤
えっ?

サトコ
「彼女、怯えていて···家にも帰れなくて···」
「今でもカフェで、連絡を待っている状態で···」

黒澤
待ってください
彼女に何がったんですか?

私は、森沼さんから聞いた話をそのまま伝えた。
今日、職場で交通ICカードとスマホを盗まれたこと。
帰宅すると、自宅が荒らされていたこと。
彼女自身は「協力者であることが首藤にバレたせいだ」と考えていること。

黒澤
···なるほど。おそらくそれで『正解』ですね

サトコ
「じゃあ···」

黒澤
十中八九、アチラさんにバレたんでしょう
こっちの捜査も、昨日大きく動いたらしいですから
それでスパイ探しをした結果、彼女がヒットしたんでしょうね

(そんな···)

サトコ
「じゃあ、このままだと森沼さんは···」

黒澤
例の組織に捕まるかもしれませんね。で、捕まったら、おそらく···
バーンッ!

サトコ
「!!」

黒澤
···とは、さすがにいかないでしょうけど
どちらかといえば『薬』かなー
病院を舞台にした『連続不審死事件』との関わりのある組織ですし

サトコ
「だったら、どうすればいいですか」

黒澤
えっ?

サトコ
「彼女を助ける方法です!」
「向こうに捕まる前に、なんとか手を打たないと···」

黒澤
手なんて打ちませんよ

(·········えっ?)

黒澤
バレたってことは、今後『協力者』として使えないってことでしょ?
だったら切り捨てないと
助けるのは『リスク』が大きすぎますし

(リスク···え···?)
(さっきから、なにを言って···)

黒澤
あー、もしかして引いちゃってますね
『黒澤さん、ひどいっ』とか思っちゃってますね
でも、これも『公安あるある』ですから
サトコさんも、早くこういうことに慣れないと

(なにそれ···)
(嘘だよね···ただの冗談だよね?)

サトコ
「だって、森沼さん···『助けて』って言って···」

黒澤
うーん···そこはルール違反ですよね
リスクを承知の上で『協力者』になったはずなのに

サトコ
「でも···っ」

黒澤
ハイハイ、そんな顔しないで
サトコさんの辛い気持ちは、よーくわかりますけど
こういうときこそ、『笑顔』にならないと

サトコ
「!」

黒澤
ハーイ、それじゃ···
笑顔、笑顔···

サトコ
「ふざけないでください!」

ついに、堪えていたものが爆発してしまった。

サトコ
「こんなの笑えません!」
「絶対に受け入れられません!」

黒澤
それは困りましたねー
これが、公安刑事の『常識』なのに

(常識?)

サトコ
「だったら私は···」

<選択してください>

A: 刑事をやめる

サトコ
「刑事をやめます」
「こんなのが常識だって言うなら、刑事になんかなりたくありません」

黒澤
···そうですか
じゃあ、夢はあきらめるってことですねー

サトコ
「···っ」

黒澤
アナタがそれでいいなら、オレは口出ししません
そのかわり···

B: 非常識な刑事になる

サトコ
「非常識な刑事になります」

黒澤
······

サトコ
「そんな常識なんて蹴っ飛ばすような···」
「非常識な刑事になってみせます!」

黒澤
···アハハッ
やっぱり面白いですねー、サトコさんは
でも···

C: 公安を嫌いになる

サトコ
「公安を嫌いになります」

黒澤
···そうですか
それでいいと思いますよ
公安なんて、警察組織内でも『嫌われ者』のポジションですし
そもそも、アナタがどう思おうがオレには関係ないですし
ただ···

黒澤
今回の件については、余計なことをしないでくださいねー
森沼さんは、『オレの』協力者ですから

サトコ
「···っ、でも···」

(このままじゃ、森沼さんは···)

なおも反論しようとしたとき、「おー」と間延びした声が背中にぶつかった。

難波
なんだ、若いふたりが痴話げんかか?

黒澤
そうなんですよー
昨日、ちょっと激しくしすぎたみたいで

難波
なんだ、入院中なのに元気だなー

笑い合うふたりを横目に、私は床に置いていたバッグに手を伸ばした。

サトコ
「···すみません。帰ります」

難波
ん?どうした、急に···

サトコ
「用事を思い出しましたので。お先に失礼します」

黒澤
おつかれさまでーす。気を付けて帰ってくださいねー


【病院出入口】

(バカだ、私···)
(黒澤さんに、何を期待していたんだろう)

思えば、最初から黒澤さんは「協力者」に対してドライだった。

(そうだ、初めて仕事に同行したときだって···)

黒澤
『脅し』が効く人間には、弱みを握って揺さぶりをかける
『お金』が効く人間には、報酬を最大限に活用する
彼みたいな『義理堅い』人間には、好意を武器にする
大事なのは、こちらがイニシアチブを取ること
相手を『駒』以上に受け止めないこと
自分は、絶対相手の『駒』にならないこと
そうじゃなければ、協力者を活かすことはできません

(黒澤さんにとって、協力者はただの「駒」だった)
(最初からそう言っていたのに)

いつの間にか、私のなかに勝手な「黒澤さん像」ができあがっていた。
憧れて、尊敬するあまり「理想の黒澤さん」を押し付けていた。

(ほんと、バカだ、私···)
(勝手に期待して、勝手に失望して···)

それでも、気持ちは重かった。
このあと、森沼さんに「連絡する」と約束していたからだ。

(絶対、恨まれるだろうな)
(こうなったら、いっそ、嘘をついて···)

サトコ
「···ダメだ、それだけは」

(彼女の「助かるかもしれない可能性」を奪うことになるんだから)
(ちゃんと伝えて、なんとしてでも自力で逃げてもらわないと···)

スマホを取り出して、着信履歴から番号をタップした。
コールが2回も鳴らないうちに「はい」と切羽詰まった声が聞こえてきた。

サトコ
「···氷川です」

森沼
『わかってます!それで黒澤さんとは···』

サトコ
「会えました」
「森沼さんの、今の状況も伝えました」

森沼
『それで!?』

(言え、ちゃんと言うんだ)
(「あなたのことは、助けられない」--)
(黒澤さんは「あなたを見捨てる」って···)

そのときだった。
白っぽい光が、目の前で弾けたのは。

サトコ
「···っ」

すれ違った対向車のハイビームのせいだった。
けれども、それが私の脳裏に「別のもの」をよみがえらせた。

ーー『本音は嬉しかったですよ。オレを見捨てないでくれて』

(あ······)

黒澤
だってそんなものでしょう、人間って

(···そうだ、この発言も黒澤さんだ)
(一度は、自分を置いて尾行を続けるように指示した人なのに)

あのとき、黒澤さんは「本音は嬉しかった」と言った。

(だったら···)

サトコ
「···森沼さん、まだカフェにいますか?」

森沼
『い、いえ···今日はホテルをとりました』
『やっぱり家に戻るのは怖くて···』

サトコ
「わかりました。今日はそこに泊まってください」
「明日中に何とかしますから」

森沼
『···っ、本当ですか!?』

サトコ
「はい。明日改めて連絡します」

森沼
『ありがとうございます!よろしくお願いします!』

通話を切ったとたん、冷や汗が背中を流れ落ちた。
案の定、スマホを持つ手がブルブル震えていた。

(大変なことしてるよね、私)

こんなことが教官たちにバレたら、確実に処分をくらう。
下手すれば、3か月後の考査を待たずに「退学」だ。

(でも、見捨てない···見捨てたくない···)
(今の私に、何かできることがあるなら)

震える手のまま、再びスマホを握り直した。
それから、実家の電話番号を呼び出した。

サトコ
「もしもし···お母さん?」
「ごめん、急に。ちょっとお願いがあって···」

翌日···
私は、長野行きのバスチケットを手配した。

(出発時刻は18時40分···)
(だったら18時にバスターミナルで待ち合わせすればいいよね)

メールを送ると、すぐに「了解」との返信が来た。

(···森沼さんはこれでよし)
(あとは···)


【病院】

迷いに迷った末、私は黒澤さんのもとを訪れた。

けれども···

(···いない)

がっかりしたような、ホッとしたような、複雑な気分だった。
森沼さんは、あくまで「黒澤さん」の協力者だ。
だから、できれば事前にスジを通しておきたかったのだ。

(探している時間はない)
(だったら···)

ふと、先日借りたデジカメが目に入った。
充電は100%···十分使えそうだ。

(黒澤さん、ごめんなさい)

メモには「デジカメ借りました」とだけ書いた。
これがただの「メッセージ」で終わることを祈って、私は病院をあとにした。




【駅】

待ち合わせ5分前。
私は、周囲の気配を探りながら森沼さんを待った。

(大丈夫···今のところ怪しい人はいない)
(あとは、森沼さんが来たときに確認しないと)

待ち合わせ1分前。
大きめなボストンバッグを持った森沼さんがやってきた。

森沼
「氷川さん···!」

サトコ
「おつかれさまです」

(尾行は···今のところなさそうだな)

なのに、なぜかイヤな感じがした。
二度・三度と、私は周囲を見回した。

(なんだろう、この感じ···怪しい人はいないのに)

森沼
「···氷川さん?」

サトコ
「···っ、すみません、チケットでしたよね」
「ひとまずこれで、長野に向かってください」

森沼
「えっ、長野ですか?」

サトコ
「はい、私の実家があるんです」
「『友だちが泊まりに行く』って伝えているので、ひとまずそれで···」

森沼
「ま、待ってください。『名古屋』じゃないんですか?」

サトコ
「えっ」

森沼
「だって、黒澤さんからそういうメールが···」

(黒澤さん?)
(それって、どういう···)

そのときだった。
目の前に黒塗りの車が停まったのは。

サトコ
「···っ」

すぐさま、森沼さんを背中に庇った。
車から出てきた男たちは、迷うことなく、私たちに向かってやって来た。

(逃げる?でも、どこに···)
(相手は5人···つまり「2対5」···)

森沼
「きゃあっ」

(···違う、実質「1対5」だ!)

森沼さんを庇いながら、なんとか逃げ道を探そうとする。
けれども、周囲に人が多くて、思うように動けない。
それどころか···

女性1
「え、テレビ?ロケ?」

女性2
「カメラは···」

サトコ
「違います!誰か警察を···」

黒服の男1
「邪魔だ、どけっ!」

サトコ
「ぐっ」

森沼
「氷川さん!」

男の蹴りがみぞおちに入り、一瞬息ができなくなった。
その隙を狙われて、森沼さんと引き離されそうになった。

(ダメだ!ここで離れたら···)

黒服の男2
「てめぇっ、邪魔だって言ってんだろうが」

サトコ
「うっ···」

(イヤだ、絶対に離れない!)

黒服の男3
「なんだ、この女!スッポンか!?」

黒服の男1
「もういい!そいつも一緒に連れて行け!」

私たちは、まるで荷物のように黒塗りのバンに放り込まれた。
さらに、両手を後ろ手に拘束され、逃げ道を塞がれて···

【倉庫】

黒服の男1
「入れ」

森沼
「···っ」

サトコ
「痛っ」

黒服の男1
「携帯は?」

黒服の男2
「奪いました。このとおり」

黒服の男1
「まぁ、あったところで使えないだろうけどな」
「念のためだ。悪く思うなよ」

ドアが閉まり、カギのかかる音がした。
案の定、体当たりしてもビクともしなかった。

(ここはダメか。他にドアは···)
(···あった!)

しかも、造りがかなり安っぽい。
実際、体当たりしてみたらガタガタと揺れるありさまだ。

(これなら壊せるかもしれない)
(問題は、この先出口につながっているかどうかだけど···)

森沼
「ごめんなさい、私のせいで」

サトコ
「えっ」

森沼
「私が『助けて』ってお願いしたせいで、氷川さんまでこんなことに···」

サトコ
「そんな···むしろ、謝るのは私のほうです!」
「ごめんなさい、私が未熟なせいで、こんなことになってしまって」

正直、悔やんでも悔やみきれない。
これが。黒澤さんや教官たちなら、きっとうまく立ち回れたはずなのだ。

(なのに、私の実力が足りなかったから···)

森沼
「優しいんですね」

サトコ
「えっ」

森沼
「氷川さんも黒澤さんも···本当に優しいですよね」

(森沼さん?)

森沼
「『協力者』になる前に言われたんです、私」
「場合によっては『見捨てることもある』って」

サトコ
「!」

森沼
「でも、氷川さんはどんなに蹴られても私を庇ってくれて···」
「黒澤さんだって、私が逃げる手配をしてくれて···」

(そうだ、その話!)

サトコ
「あの、捕まる前に言ってましたよね」
「『名古屋』がどうのって···」

森沼
「ああ···今日のお昼に、黒澤さんからメールが来たんです」
「『名古屋』あたりに隠れられるようにてはいしているから」
「『もう少し待ってほしい』って」

サトコ
「······」

森沼
「そのあと、氷川さんからメールが来たから」
「てっきり『名古屋行き』が決まったんだと思ってたんですけど」

目頭が熱くなった。
嬉しいのと、悔しいのと、よく分からない気持ちで胸がいっぱいだった。

(ズルいよ、黒澤さん)
(私には「助けない」って言ってたのに)

本当は、彼女を見捨ててなんかいなかった。
私の知らないところで、ちゃんと手を回してくれていた。

(なのに、こんなことになってしまった)
(私が、余計なことをしてしまったせいで···)

森沼
「···氷川さん?どうかしましたか?」

サトコ
「···っ、いえ、なんでもないです」

(ダメだ、森沼さんを不安にさせるな)
(こういうときこそ「明るく」「笑顔」で···)

サトコ
「大丈夫、私たち、必ずここから出られます」
「そうなるように、頑張りますし」
「たぶん、黒澤さんも助けに来てくれます」

森沼
「黒澤さんが?」

サトコ
「はい。だって、黒澤さんは···」

<選択してください>

A: 優しい人だから

サトコ
「優しい人ですから」
「私たちを見捨てたりしません」
「必ず、助けに来てくれます」

B: 仕事ができるから

サトコ
「仕事ができる人ですから」
「私たちが捕まったことに気付いて、この場所を見つけてくれます」
「必ず助け出してくれます!」

C: 怖いもの知らずだから

サトコ
「怖いもの知らずですから」

森沼
「えっ」

サトコ
「ここだけの話、黒澤さんの上司、めちゃくちゃ怖いんです」
「普段から能面みたいな人なんです!」

森沼
「は、はぁ···」

サトコ
「でも、黒澤さんってその上司の前でも全然動じないんです」
「いつも普段通りで、全然態度が変わらなくて!」

森沼
「!?」

サトコ
「だから大丈夫です」
「ここがどんな場所でも、絶対に助けに来てくれます!」

森沼
「そ、そうですか···」

サトコ
「あと、助けてもらうための仕込みもしてきましたから!」
「今頃、気付いてくれているはずです!···たぶん」

実際、そのための手をひとつだけ打っていた。

(そのことに、黒澤さんが気付いてくれれば···)

森沼
「···そうですよね」
「黒澤さんなら必ず来てくれますよね」

サトコ
「はい!」

とはいえ、このまま大人しく待っているのは時間の無駄だ。
私は私で、できることをしておきたい。

サトコ
「森沼さん、少し手伝ってもらえますか?」
「あの奥のドアを壊したいんです」

森沼
「えっ」

サトコ
「2人がかりで体当たりしたら、なんとかなりそうで···」
「お願いです、協力してもらえませんか?」

森沼
「···っ、もちろんです!」

(よし!)

サトコ
「じゃあ、いきますよ。せーの···っ」

何度も何度も、私たちはドアに体当たりした。
腕が熱を持ち、痛み始めたけれど、泣き言は言っていられなかった。

(連中が戻ってきたら終わりだ)
(誰もいないうちに···なんとかして道を開かないと···!)

バキッ···

2人
「「!!」」

森沼
「氷川さん!」

サトコ
「···せーのっ!」

ドアが、鈍い音を立てて壊れた。
私たちは勢い余って、その先の部屋に転がり込んだ!

サトコ
「痛···っ」

派手に転がった上に、肩を強打した。
けれども、今はそんなこと気にしている場合じゃない。

(次っ、出口は···)

サトコ
「!!」

森沼
「氷川さん、ここ···」

その先に、出口はなかった。
かわりに粉末状のものが入った袋が、山のように積まれていた。

サトコ
「なんでしょう、これ···小麦粉?」

森沼
「いえ、たぶん違うんじゃないかと···」

袋に近付いて、表示ラベルを確認する。
けれども、そこに記されていたのは見たことのない文字だ。

(ダメだ、読めない)
(他に、表示ラベルっぽいものは···)

???
「近づかないで」

2人
「「!!」」

(まさか···)

首藤
「その袋はアンタたちが触れていいものじゃない」
「大事な···大事な『薬』なんだから!」

(やっぱり···首藤ナミカ!)

私の隣で、森沼さんが息を呑んだのがわかった。

to be continued



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