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加賀さん密着24時 2話



~カレ目線~

【教場】

翌朝、サトコたちの後輩である1年生の講義を行った。

加賀
この問いに、誰か答えられる奴は

わざと、教科書にも参考書にも載っていない質問をしてみる。
一瞬、訓練生同士で視線を合わせたが、すぐに全員が下を向いた。

(目を合わせなきゃ当てられねぇとでも思ってんのか)
(考えることは、今の2年のクズどもと同じだな)

この学校に集まっているのは、いわゆる “優秀” な人材のはずだ。
だがその欠片も感じられないガキどもに、舌打ちするしかない。

(···どこが “優秀” だ)

教壇の後ろのホワイトボードから、マーカーを手に取る。
それを、最初に俺から目を逸らした奴に命中させた。

訓練生
「痛ぇ!」

加賀
この程度の問題すら答えられねぇとはな
テメェら全員、幼稚園からやり直して来い

全員
「······!!!」

静まり返った教場を後にすると、背中を訓練生の声が追い掛けてきた。

訓練生1
「加賀教官、怖ぇ···」

訓練生2
「殺されるかと思った···」

訓練生3
「2年の先輩で、奴隷扱いされてる人がいるらしいぜ···」

ざわつく教場を後にする前、訓練生たちを振り返る。

加賀
さっきの答えは、明日までに全員が提出しろ
ひとりでも答えられなかったら、全員、ひと晩森の中で野戦演習だ

訓練生4
「ひと晩!?」

訓練生5
「な、なんで全員なんですか···!?答えられなかった奴だけでいいんじゃ」

加賀
連帯責任だろ。せいぜい、ねぇ知恵絞り出すことだな

泣き声が聞こえる中、教場のドアを閉めた。



【教官室】

あれ以来、サトコから連絡はない。
イヤリングを失くしたことに、どうやらまだ気付いていないらしかった。

(それとも、気付いてて、あえて俺には聞いてこねぇのか···)
(潜入捜査中に失くしたかもしれねぇ可能性を考えて、真っ青になってんのかもな)

そのツラを拝んでやるのも面白そうだが、何よりまず上官に報告して来ないことに苛立ちを覚える。
説教してやろうとサトコを探したが、校舎内には見当たらなかった。

(連絡もよこさねぇでいなくなるとは、偉くなったもんだな)

デスクで資料の整理をしている歩は、さっきから俺と目を合わせない。
こっちの苛立ちを、敏感に察知しているのだろう。

加賀
おい、クズはどこ行った

東雲
サトコちゃんのことですか?今日は課外訓練ですよ

加賀
······

カレンダーを見て、ようやく思い出す。
今日は課外訓練のあと、直帰する予定だった。

加賀
···チッ

東雲
はぁ···この資料の整理、適当な2年生にやらせようと思ったのに
いないってことは、自分でやらなきゃダメか···めんど···

『怠···』といつもの口癖をつぶやいたあと、歩がなぜかニヤニヤ笑い出す。

東雲
ああ、そうか。だから兵吾さん、朝から機嫌悪いんですね

加賀
あ?

東雲
兵吾さんお気に入りの補佐官、今日は見てないと思ったんですよ

加賀
なんの話かわかんねぇな

東雲
まあ、それならそれでいいですけど

加賀
······

(相変わらず、かわいくねぇガキだ)
(チッ···ウチにはめんどくせぇクソガキが多いな)

ため息をついたと同時に、教官室のドアが開く。
顔を出したのは、室長だった。

難波
おー、いいところにいたな

東雲
嫌な予感···

難波
そういうこと言うヤツは、焼き肉に連れてってやんねぇぞ~

加賀
焼肉?

難波
近くに、美味い焼肉屋ができたらしいんだよ
ランチもイケるって話だから、行かねぇか?

室長の誘いに、一瞬、歩が面倒そうな顔になる。

(こういうのからは、一番に回避するタイプだからな···)

だが、上司の誘いを断るわけにはいかないことは、歩でも分かっているらしい。
歩とともに席を立ち、室長に付いていった。



【焼肉店】

男3人で、焼き肉屋にやってきた。
肉が運ばれてくると、室長も分も焼き始める。

難波
どうだ?今年の訓練生は

加賀
全員腑抜けですね

難波
厳しいなー、加賀は

加賀
今年の2年より使えねぇのが多いです

東雲
今の2年は、なんだかんだ言って根性ありますからね

難波
ああ、千葉とは佐々木とかな
佐々木はすぐ辞めると思ったけど、氷川がいるからなぁ

加賀
あいつらがマシだと思えるくらいですから
相当しごかないと使えないと思います

東雲
兵吾さんにしごかれたら、全員辞めるでしょ···

睨むと、歩が肩をすくめた。
室長の分まで肉を焼く俺を眺めながら、塩キャベツを頬張っている。

難波
いやあ、悪いな。全部加賀にやらせちゃって

加賀
いえ

東雲
さっき訓練生にマーカーを投げてた人とは思えませんよね

もう一度睨んだが、歩は涼しい顔だ。

加賀
こういうのは、年少者がやるもんだろうが

東雲
すみません。だって兵吾さん、トング離さないから

難波
加賀はアレか?鍋奉行ならぬ肉奉行か?

加賀
···違います

ため息をつく俺に、歩が室長に分からないように笑う。

(いちいち癪に障るガキだな···)
(そういや、こういうとき、最近は···)

サトコ
『加賀さん!そっちのお肉が焼けてます!』
『これはダメです···!私が生肉から丹精込めて育てた、大事なカルビですから!』

(···何も言わなくても、あいつが勝手に焼いたり取り分けたりするんだがな)

結局その店は、室長の奢りとなった。

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【校門】

自分の担当講義が終わった放課後。
仕事を済ませて、学校を出た。

(あいつがいないせいで、報告書まで自分で書かなきゃならなかったが···)
(久しぶりに、今日は早く帰れそうだな)

が、学校を出たところでスマホが着信を告げる。
サトコかと思いポケットから取り出すと、画面には “姉貴” の文字が表示されていた。

(···無視するか)

一度はそう思いかけたものの、結局通話ボタンを押す。

(無視したって、しつこくかけてくるだろうかなら···)

加賀
なんだ


『ひょーご、こわーい』

加賀
···花か

声の主が誰なのかがわかり、気が緩む。
電話の向こうから、花がキャッキャと笑う声が聞こえてきた。

(俺の声を聞いて笑う奴なんざ、花とサトコくらいだな)

加賀
どうした?


『あのねー、はな、きょうはひとりなの、だから、ひょーごにきてほしいー』

加賀
···ひとり?


【花 宅】

姉貴の家に行くと、花に出迎えられた。


「ひょーご!ささ、なかへどうぞ」

加賀
お前はすぐ、そういうの覚えてくんな···

美優紀
「いやあ、悪いわね。まさか急な仕事が入るなんて思ってもみなくて」
「いつも利用しているキッズルーム、今日は臨時閉園なのよ」

加賀
別にいいが···


「ひょーごがいれば、はなはひとりでへいき!」

加賀
···俺がいる時点で、ひとりじゃねぇだろ

美優紀
「それじゃ、行ってくるわね。花、いい子でね」


「うん!おかーさん、いってらっしゃい!」

加賀
旦那は?

美優紀
「先に行ってるって。じゃあ、よろしくね」

加賀
ああ

花と一緒に玄関で姉貴を見送ると、ふと気付いて花を見下ろした。

加賀
花、いつから『お母さん』って言うようになった?


「んー、ないしょ!」

加賀
前は『ママ』だったろ


「『ママ』は、もうそつぎょうした···」

(···保育園でなんかあったのか)

ガキはガキで、いろいろと大変らしい。
花を抱き上げて、リビングへ向かった。

【リビング】

花の相手をしながら、それとなく保育園の話を聞く。

加賀
最近、仲が良いのは誰だ?アイちゃんか?ユカちゃんか?


「んーん、アイちゃんとは、あんまりしゃべってない···」

加賀
なんでだ。あんなに仲良かっただろ


「だってアイちゃんも、リョウくんのことすきっていうから」

加賀
···何?

花にせがまれて折り紙を折っていたが、思わず止まる。
いつかこの手の話を聞く日が来ると覚悟はしていたが、こんなに早いとは思わなかった。

加賀
アイちゃん『も』···?


「うん···はな、リョウくんのことすきだから···」
「でね、アイちゃんが、ママのこと『おかーさん』ってよんでるの」

(···だから、自分も『お母さん』か)

まだガキのくせに、確実に『女』になっている花に、少し複雑な気持ちになる。
でもすぐに、いつもの顔になって俺を振り向いた。


「あ!いまの、だれにもないしょね!ママにも!」

(···『ママ』に戻ってるじゃねぇか)

だが、今はそれどころではない。

“リョウくん” のことを詳しく聞こうとすると、花が何かに気付いた。


「ねー、きょうはサトコいないの?」

加賀
ああ、どっかで演習してんだろ
それより、さっきの “リョウくん” ってのは···


「なんでいないの?サトコ、もう来ないの?」

加賀
んなわけねぇだろ
あいつは今頃、勉強中だ


「べんきょー?ひょーごはべんきょーしないの?」
「はな、ひょーごとサトコはいつもいっしょだとおもってた!」

加賀
そうはいかねぇときもある


「じゃあ、ひょーごはサトコのことすきじゃないの?」

加賀
···なんでそうなる


「だってはな、リョウくんとずーっといっしょにいたいもん」
「すきだったらいっしょにいたいでしょ?ひょーご、はなといっしょにいたいでしょ?」

加賀
···そうだな


「ねー。ひょーご、はなにゾッコンだもんねー」

(···また余計な言葉覚えてきやがった)


「ひょーご、はなのことすきだよね?」

加賀
嫌いなわけねぇだろ


「だめ!ちゃんと『すき』っていって!」
「じゃないと、すきかどうかわかんないでしょ!」

加賀
······


「せんせいもいってたもん。ちゃんとことばにしないとわかりませんよーって」

(言葉にしなきゃわかんねぇ、か···)

確かに、花の言う通りかもしれない。

(今さら、わざわざ言わなきゃなんねぇ仲でもねぇと思ってたが)
(たまには、ちゃんと言葉にして伝えるのも大事なのかもな···)

とはいえ、その類のことはサトコから一方的に言われてきたが、自分から口にしたことはない。
そのせいか、愛だの恋だのと口にするのは抵抗があった。

加賀
···花先生はすげぇな


「そうだよ!はなはすごい!」
「···でも、リョウくんはアイちゃんがすきだって」

加賀
···リョウくんは、見る目がねぇ


「どういういみ~?ひょーごは、みるめあるの?」

加賀
ああ


「そっかー。つぎはサトコもいっしょにきてほしいー」

わかっているのかいないのか、花は思い出したようにサトコの名前を出す。


「ひょーごだって、さとこといっしょにいたいでしょ?」

加賀
···そうだな


「ひょーごはすなおじゃないから~」
「···って、ママがよくいってる!」

加賀
······

(花に余計なこと吹き込みやがって···)

ため息をつきながら、今度は花に本を読んでやる。
それは、花言葉をテーマにした絵本だった。


「カーネーションはー、ね、つ、あ、い!」

加賀
······


「ベゴニアは、あいのこくはく!」
「アイビーは、えいえんのあい!」

加賀
···ずいぶんませたもん持ってんな


「ママがかってくれたー」

(あの女···)

呆れながらも、花と一緒に読んでいる絵本を改めて眺める。

(花言葉、か···)
(柄じゃねぇが、これくらいなら···)


【帰り道】

姉貴たちが返ってくるのを待って、家を出てきた。
帰る途中、今度こそサトコから着信が来る。

(ようやくか···待たせやがって)
(飼い主に『待て』なんざ、偉くなったもんだな)

加賀
なんだ

通話ボタンを押して一言告げると、電話越しにサトコが息を呑むのがわかった。

サトコ
『すみません···昨日、加賀さんの部屋にイヤリングを忘れちゃったみたいで』
『あ、ありました···か···?』

震えながら俺の返事を待っているサトコを焦らすのも、悪くはない。
だが昨日から待たされたせいで、苛立ちは限界に達していた。

加賀
今からすぐ取りに来い

サトコ
『あ、やっぱり加賀さんの部屋だったんですね!よかった···』
『って、え!?今から!?』

加賀
文句あんのか

サトコ
『と、とんでもない···!すぐ行きます!』

加賀
今度は待たせんなよ

サトコ
『 “今度は” ···?』

サトコの言葉には返事をせず、電話を切る。
駅に向かって歩いていると、ちょうど花屋の前を通りかかった。

加賀
······

店員
「いらっしゃいませー。どれも綺麗ですよ~」

加賀
···すみません

店員
「はい。女性への贈り物ですか?」

(···なんでそう思う)
(まあ···間違いじゃねぇが)

店の奥で、ひと際堂々と咲き誇っている花を指した。

加賀
あれを、花束にしてください

to be contineud



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