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加賀さん密着24時 3話



【寮 自室】

無事に課外演習が終わり、家に帰って来た。
ソファに座ってひと息つくと、加賀さんのことを考える。

(昨日は加賀さんが休みで、今日は私が課外演習···)
(もう二日も会ってない···こんなに会わないの、久しぶりだな)

いつもは、毎日学校で顔を合わせている。
休みの日も雑用に呼び出されたりデートしたりと、実はほぼ毎日会っていた。

(会いたい···なんて甘いこと言ったら、アイアンクロー食らいそうだな···)
(なぜ私の恋人は、あんなにも自分にも他人にも厳しいのだろう···)

サトコ
「いや、そこがいいんだけど···」

(なんてひとりで惚気てる場合じゃない。とりあえず着替えよう)

ソファに置いたバッグの中身を確認しながら着替えていると、あることに気付いた。
昨日外してバッグに入れたはずのイヤリングが、ひとつしかない。

(失くした···?いつ?どこで?)
(最後につけたのは、確か···)

思い出して、血の気が引く。
潜入捜査のときにつけたのが、最後だったはずだ。

(万が一捜査のときに落としたとしても、私の特定にはつながらないだろうけど···)

問題は、失くしたことに気付いたのが “今” ということだ。

(これが、加賀さんに知られたら···!)
(···ん?加賀さん?)

サトコ
「そういえば、捜査のあと加賀さんの部屋に行った···」
「そうだ···!加賀さんの家を出るときに、外してバッグに入れたんだ!」

急いでスマホを手に取り、加賀さんの番号を呼び出す。
通話ボタンを押すと、呼び出し音数回で加賀さんが出た。

加賀
···なんだ

(うっ···ご機嫌がすこぶる悪い···!)
(ということはやっぱり、加賀さんの部屋に落とした···?)

サトコ
「あの···イヤリングを、加賀さんの部屋に忘れちゃったみたいで」

加賀
今すぐ取りに来い

それは、加賀さんの部屋にあると言われたのも一緒だ。
ホッとしたのも束の間、すぐに加賀さんの言葉を思い出す。

サトコ
「い、今すぐですか?」

加賀
待たせんなよ

返事をする前に、電話が切れてしまう。
一瞬呆けそうになったけど、我に返るとすぐに出かける用意をした。

(いくら忙しかったからって、言い訳にならない···!)
(絶対お仕置きされる!···殺されるかもしれない!)

着替える暇もなくバッグを手に取ると、加賀さんの家へと走った。



【加賀マンション】

加賀さんの部屋を訪ね、戦々恐々としながらリビングへ向かう。
そのテーブルに、片方だけのイヤリングが置いてあった。

サトコ
「す、すみません···!」

加賀
······

サトコ
「気付くのが遅くなりまして···それに、あの···潜入捜査の日だったので」

加賀
もう片方は?

サトコ
「あ、家にあります···」

納得したようにうなずくと、加賀さんはそれ以上何も言わなかった。
アイアンクローを覚悟していただけに、肩少しを食ったような気持ちだ。

(お、お咎めなし···?まさか、あの加賀さんが···!?)

サトコ
「あの···もしかして、お疲れですか?」
「それとも、体調が悪いとか」

加賀
あ゛?

サトコ
「いえ!なんでもないです!」

(体調はよさそうだ···『あ゛?』にいつも以上の迫力があった)
(じゃあ、今回は見逃してもらえた···?でも、それじゃどうして呼ばれたんだろう?)

不思議に思っていると、部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
カメラを確認して、加賀さんが玄関を顎で指す。

加賀
テメェが行け

サトコ
「へ?」

加賀
いいから、さっさと出ろ

サトコ
「は、はい···」

(なんで私が···?加賀さんの家なのに、いいのかな···)

心の中で首を傾げながら、玄関へ向かった。



【玄関】

不思議に思いながら、玄関のドアを開ける。
すると、目の前に薔薇の花束を差し出された。

サトコ
「!?」

店員
「氷川サトコ様ですね。加賀様よりお預かりした花をお届けにあがりました」

サトコ
「は···え···はい···?」

店員
「ここに受け取りのサインお願いします」

サトコ
「は···え···?」

言われるまま、ペンで伝票にサインする。
私に花束を渡すと、店員さんは爽やかな笑顔を残して去っていった。

(な、何事···?)
(加賀さんから、私に···?な、なぜ···?)

呆然としたまま花束を抱えて、リビングへ戻った。

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【リビング】

リビングに戻ると、加賀さんは何事もなかったかのようにソファに座り、テレビを見ていた。

サトコ
「加賀さん···あの、これ···」

加賀
いらねぇなら捨てろ

(あれ?今の言葉、前にもどこかで聞いたような)

サトコ
『これ、私に···?』
『もしかして、ホワイトデーだからですか!?』

加賀
いらねぇなら捨てろ

(そうだ···ホワイトデーにも、かわいい花束もらったっけ)

でも、今日はホワイトデーでも誕生日でもなんでもない。
それどころか、部屋にイヤリングを落とすという失態を犯してしまった。

加賀
···ただの気まぐれだ

立ち尽くす私に答えるように、加賀さんがこちらに背を向けたままつぶやく。
そのとき、両手に抱えた薔薇の花束の中に、カードが入っていることに気付いた。

(何か書いてある··· “花言葉” ?)

“赤い薔薇の花言葉:あなたを愛しています”

カードを見て、加賀さんを二度見する。
加賀さんはわざとこちらを見ないようにしているのか、決して振り返ろうとしない。

サトコ
「まさかこのカード、加賀さんが···!?」

加賀
カード?

その返事で、やはり加賀さんが用意したものではないことがわかる。
どうやら、お店の人が気を利かせて入れてくれたらしい。

(だよね···まかり間違っても、加賀さんが『愛してる』なんて···)
(···そういえば普段から、加賀さんに好きとか愛してるとか、言われたことなかったな)

私からたまに言うことはあっても、それを聞いた加賀さんからは『ああ』という返事ばかりだ。
でも加賀さんの性格からして、どうでもいい人間と一緒に過ごすなどという無駄をするはずがない。

(だからあの『ああ』の中には、ほんのちょっとでも『俺も』っていう気持ちがある···はず···)
(···って信じてきたけど、まさか加賀さんがこんなに綺麗な花束をくれるなんて···)

サトコ
「ありがとうございます···!嬉しいです」

加賀
気まぐれだって言ってんだろ

サトコ
「それでも、加賀さんがプレゼントしてくれたことが嬉しいんです」
「薔薇の花言葉、知ってたんですか?」

加賀
······

その沈黙に、ギクリとなる。

(ダメだ···これ以上はツッコんじゃいけないって、私の勘が告げている···)
(調子に乗ってぐいぐい行くと、絶対怒られる···とにかく、ありがたく受け取っておこう)

加賀さんの隣に座ると、花束を眺める。
カードを取り出して、もう一度その文字を目で追うと、頬がニヤけてしまった。

加賀
やめろ

サトコ
「止まりません···」

加賀
その程度で上機嫌になるとは、安い女だな
···たまには、うちの駄犬に褒美をくれてやってもバチは当たらねぇだろ

サトコ
「ふふ···ありがとうございます」

ぎゅっと花束を抱きしめた直後、目の前からその花が消えた。
加賀さんが、私の手から花束を持って行ってしまう。

サトコ
「えっ」

加賀
···で

サトコ
「はい?」

加賀
何、重要な証拠になるもんを落としてんだ

サトコ
「······!」

加賀
うちだったからよかったものの···現場に落としたらどうなると思う

サトコ
「あれ···!?その件は、お咎めなしだったはずじゃ」

加賀
誰がそんなこと言った

花束をテーブルに置くと、加賀さんが強引に私をソファに押し倒す。
もちろん待ってくれるはずもなく、荒々しいキスが降ってきた。

加賀
今度仕事でやらかしたら、どうしてやろうか

サトコ
「や、やらかしません···絶対に!」
「だから、どうかお仕置きだけは···!」

加賀
駄犬には仕置きが必要だろ

サトコ
「さっきは、ご褒美だって···」

加賀
喚くな

再びキスで口を塞ぎ、加賀さんが濡れた舌で私の言葉を絡め取ってしまう。
ブラウスのボタンをすべて外されると、服を着たまま身体を乱された。

加賀
落とし前はきっちりつけてもらう
二度と、気を抜かねぇようにな

サトコ
「---」

するりと服の中に入ってきた加賀さんの手に、あっという間に身体の熱を高められた。
いつものように私の肌の柔らかさを堪能するように、全身を、余すところなく加賀さんに愛される。

(言葉はないけど、加賀さんはいつだって、こうして態度で気持ちを伝えてくれる)
(愛してるって言ってくれなくても···加賀さんの想いは、ちゃんと聞こえてくる)

腕を伸ばすと、ソファの上で加賀さんが抱きしめてくれる。
緩く激しい刺激に翻弄されながら、加賀さんの逞しい身体を抱きしめ返した。


【寝室】

翌朝、目が覚めると加賀さんは私を腕枕したまま眠っていた。
昨日の激しさを思い出して少し恥ずかしくなり、加賀さんの腕に額をくっつける。

(あれは、お仕置きだったのか···それとも、加賀さんなりの『愛してる』だったのか)
(···加賀さん、最近は私が動いても起きなくなったな)

付き合い始めの頃は少しの気配でも目を覚ましていたし、たいてい、私よりも先に起きていた。
でも最近は、加賀さんの寝顔を眺める機会も多くなった。

加賀
···ん

私の気配を感じたのか、加賀さんが少しだけ身じろぎする。
でもすぐに、また眠ってしまった。

(あんなに怖い加賀さんでも、寝てるときは天使···)
(···とまではいかないけど、ちょっと柔らかい表情になるな···)

そっと指を絡ませて、加賀さんの腕を眺める。
男らしいごつごつとした手や鍛え抜かれた身体を見ていると、脇腹辺りの小さなほくろに気付いた。

(こんなところにほくろなんてあったんだ···気付かなかった)
(またひとつ、今まで知らなかった加賀さんを見つけたな···)

花束で『愛してる』と伝えてくれたこともそうだ。
今まで、あんな加賀さんがいるなんて知らなかった。

(これからも、たくさん知っていけるかな···ううん、知っていきたい)
(素の加賀さんを見せてもらえるように、私ももっと成長しよう)

加賀さんの身体に腕を絡みつかせ、再び眠りにつくのだった···

Happy End



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