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東雲 恋の行方編 3話



【リビング】

突然ぶつけられた質問に、頭の中が真っ白になる。

サトコ
「な···す、好きとか···」

東雲
違うの?

(違わないけど!でも、なんで今ここで···)

東雲
······

(まさか、これもいつものテスト?)
(だとしたら···ど、動揺してる場合じゃなくて···)
(私が、教官を動揺させないとダメで···っ)

サトコ
「すすす好きです!」

東雲
······

サトコ
「好きです、大好きです!」

東雲
あっそう

サトコ
「!?」

(なんていうか···すっごいあっさり!?)
(全く動揺してないし···!つまり失敗?失敗ってこと!?)

サトコ
「や···やっぱり嫌いです!」

東雲
······

サトコ
「嫌い···大嫌い···」

東雲
ふーん···
じゃあ、こんなことしたら、ひっぱたく?

教官の指が、私のブラウスのボタンにかかる。

サトコ
「や···っ」

東雲
ほんとに?

サトコ
「!」

東雲
本当にイヤ?

(イヤに決まってる···!)
(だって、教官は私のことなんか好きじゃなくて···)
(本当に好きな人は、たった1人しかいなくて···)

東雲
···!

(さちさん以外の人のことは、どうでもよくて···)

そこまで考えたところで、視界が一気にぶわっと歪んだ。

(···もう、ダメだ)

盛り上がった水の膜が、頬を伝い落ちる。
歪んだ視界に、戸惑った様子の教官の顔が見えた。

サトコ
「す···すみませ···っ」

<選択してください>

A: こんなつもりじゃ

サトコ
「こんなつもりじゃ···」

東雲
······

サトコ
「わかってます···これ、テスト···」
「いつものテスト···わかって···」

東雲
······

サトコ
「う···っ、うう···っ」

東雲
···バカ

B: 目から汗が···

サトコ
「目から汗が···」

東雲
······

サトコ
「な···なんでしょうね···これ···」
「こんないっぱい···」

東雲
バカ

教官の唇が、私の目尻に寄せられる。

東雲
···しょっぱい

サトコ
「······」

東雲
汗の味じゃないけど

サトコ
「す···すみませ···」
「うう···っ、う···っ」

C: ティッシュを1枚···

サトコ
「ティ···ティッシュを1枚···」

東雲
······

サトコ
「へ···へんですね、私···花粉症かも···」
「ブタクサかな···」

東雲
······

サトコ
「あ···でもヨモギ···」

東雲
···バカ

(え···)

東雲
ごめん、からかいすぎた

サトコ
「······」

東雲
ごめん···

サトコ
「知ってます···」

東雲
······

サトコ
「こんなの冗談だって、知って···」
「うっ···うう···っ」

東雲
うん、悪かった···

サトコ
「······」

東雲
悪かった······

ポンポンとあやすように頭を叩く教官の手は、なんだかひどく優しくて···
私はますます涙が止まらなくなってしまったのだった。



【寝室】

翌日。

ジリリリリ···

サトコ
「う···ん···」

(なんで目覚まし···)

サトコ
「!?」

見覚えのない天井に、私は驚いて飛び起きる。

(ど、どうしてここに···しかもベッドの上!?)
(···そうだ。私、昨日教官の部屋に来て、それで泣いちゃって···)

サトコ
「そのあと···」

(···ダメだ、思い出せない)
(まさか、あのまま寝落ちたってこと?)
(じゃあ、そのあと教官は···)

【リビング】

バタン!

サトコ
「すみません教官!こんなつもりじゃ···っ」

(って、誰もいない?)
(あ、メモが···)

サトコ
「『先に行く。鍵は教官室に持って来て』···」



【学校 廊下】

サトコ
「はぁぁ···」

(どうしよう···気まずすぎるってば)

結局『ひったくり犯』絡みのことはなにも聞き出せなかった。
それどころか···

(泣いて寝落ちた上に、ベッドまで運んでもらったなんて···)

サトコ
「はぁぁ···」

2度目のため息をついたところで、私はいったん立ち止まる。

(どうしよう···)
(いつもながら、一度教官室に寄ってから教場に行くんだけど···)

<選択してください>

A: 教官室に行こう

(いつもどおり教官室に行こう)
(鍵も返さないといけないし、それに···)

東雲
あ、氷川さん

サトコ
「!」

(って、まだ心の準備が···)

東雲
夕方までにDOSSのプレミアム缶コーヒー3本買っといて
微糖じゃないやつ
じゃ、よろしく

(···あれ?)

B: 今日はやめておこう

(とりあえず夕方まで待って···)

プルル···

(教官からメール!)

サトコ
「『DOSSのプレミアム缶コーヒー3本、夕方までに』···」

(なんだ、おつかいメール···)

プルル···

(また!?)

サトコ
「えっと『微糖じゃないやつ』···」
「······」

C: ひとまずメールで

プルル···

(早っ!もう返信が···)

サトコ
「『DOSSプレミアム缶コーヒー3本、夕方までに』···」

プルル···

(またメール?)

サトコ
「『DOSSジャンパーの応募シールのついてるやつ』···」
「······」

あまりにもいつもどおりの教官に、つい首を傾げてしまう。

サトコ
「もしかして···意識してるのって私だけ?」

(教官にしてみれば、昨日のことなんて大したことなくて···)

サトコ
「······」

(···とりあえず缶コーヒーを買って来よう、うん)



【個別教官室】

夕方。

サトコ
「失礼します」
「教官、頼まれてた缶コーヒー持ってきました」

東雲
ああ···うん、ありがと···
ふわぁ···

サトコ
「···寝不足ですか?」

東雲
誰かさんのせいでね

(うっ···)

サトコ
「その···昨日はすみませんでした」

東雲
本当だよ。キミ、重たいし

サトコ
「!」

東雲
オレのシャツによだれつけるし

サトコ
「!!」

東雲
てことで迷惑料

教官は大量の資料をドサリと置く。

東雲
これ、全部PDF化しておいて
それと···

教官は缶コーヒーのシールを剥がすと、なぜか1枚ずつ私のおでこに貼る。

東雲
それ、DOSSジャンパーの応募シールだから
室長に渡しておいて

サトコ
「······」

東雲
それじゃ

サトコ
「···おつかれさまです」

(なんで応募シールをおでこに···)
(ていうか、やっぱり教官は『いつもどおり』なんだ···)
(結局、意識してるのって私だけで···)

サトコ
「ああ、もう!」

(はいはい、気にしない気にしない)
(今はさっさと仕事を終わらせなくちゃ)

サトコ
「うーんっ、やっと終わったぁ···」

気が付けば、とっくに8時をまわっている。

(マズい、早く帰らないと夕飯が···)

コンコン!

サトコ
「はいっ」

難波
おお、いたいた
歩からDOSSジャンパーの応募シールのことを聞いてね

サトコ
「シール···」
「あ、これですね。どうぞ」

難波
悪いね。助かったよ
···ん?もしかして今まで仕事?

サトコ
「はい。東雲教官に頼まれてスキャニングを···」

難波
やれやれ···アイツも人使いが荒いな
で、まだ居残るつもり?

サトコ
「いえ、もう帰ります」

難波
じゃあ、またついてくる?

(えっ、まさか···)

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【ラーメン屋台】

難波
それじゃあ、いただきますってことで

サトコ
「いた···だきます···」

(なんでまた室長とラーメンを···)

石神
······

(しかも今日は石神教官が一緒だし)

難波
で、最近はどう?

石神
『懸案1』については黒澤が進めています
『懸案2』については近いうちに警備部と詰めようかと

難波
松永?桂木?

石神
桂木班です

難波
ふーん···そう···
歩はどう?

石神
氷川

サトコ
「は、はいっ!えっと···」

(まさか『人妻に片思い中です』なんて言えないし)
(そんな教官に私も片思い中···)
(って、月8のあらすじ紹介じゃないってば!)

石神
···氷川?

サトコ
「あ、その···」
「いろいろ教えてもらってます」
「情報収集で大事なこととか、あと私の特技とか」

難波
特技?

サトコ
「実は、自分ではいまいちよく分からないんですけど···」
「私、画像を覚えるのが得意みたいで···」

難波
ああ、それ···誰かも言ってたな
加賀か颯馬か···

石神
颯馬でしょう
先日のミーティングで話題になりましたが、加賀はその場にいませんでしたから

難波
なに···あいつまた一人勝手なことしてんの?

石神
そのようですね

難波
ほんと、組織に向いてないねー、あいつ

石神
そうでもありませんよ
あれで仲間思いですから

難波
あーそうだったねー
むしろ、そういう意味では歩の方が問題か

(え?)

難波
そう言えば先日颯馬から···
っと、ここから氷川は『聞かざる』だな

難波室長が、私の耳を両手で塞ぐ。

(えっ、なんで···)
(東雲教官のことなら知りたいんですけど···!)

難波
···はい、もう聞いてもいいよ

サトコ
「······」

難波
んー?ずいぶん不満そうだなー
もしかして氷川も聞きたかった?

サトコ
「えっ、その···いちおうは···」

難波
だったら早く一人前になれって
そしたら、いくらでも教えてやるよ

サトコ
「···はい」

難波
あとさー。加賀んとこで手伝いが必要になるかもしれないんだけど
お前んとこから誰か出せそう?
すでに颯馬を借りてんのに悪いんだけどさ

石神
必要でしたら検討します

難波
んー、お願い。できれば後藤か黒澤ね

石神
もう1人面白いのがいますが···

難波
あー、ロンドンがえりとかいうやつ?
それは別件にあたらせたいなー

石神
わかりました

2人の会話を聞きながら、私はおとなしくラーメンをすする。

(結局、室長はなにを石神教官に言ったんだろう···)
(話の流れから、あまりいいことじゃない気がするんだけど)

難波
よーし、今日も美味かった
じゃあ、ごちそうさん

石神
お疲れさまです

サトコ
「お疲れさまです」

(ん、『ごちそうさん』···?)

サトコ
「ああっ、また···!」

石神
いい、氷川

石神教官は封筒を取り出すと、カウンターの上に置いた。

石神
2人分。1728円入っています

おじさん
「はいよ」

石神
それからこちらが彼女の分···

サトコ
「いえ、自分の分は自分で···」

石神
気にすることはない。私のかつて上司の世話になった
君もいつか自分の部下に返せばいい

(石神教官···)

サトコ
「···ありがとうございます。ごちそうになります」

石神
ああ。ところで···
この機会に、君に聞いておきたいことがある

サトコ
「なんでしょうか」

石神
君は東雲と付き合っているのか?

サトコ
「えっ?」

石神
もちろん男女交際という意味でだ

(い、石神教官でもそういうこと考えるんだ···)
(って、違う!!私が?東雲教官と!?)

サトコ
「めめめ滅相もない···!」

石神
······

サトコ
「本当です!本当にそんなこと!」

石神
···なるほど。だいたいのことはわかった

(えっ)
(えっ···ええっ?)
(なに、今の···なにが分かったんですかー!!)


【カフェテラス】

3人
「はぁぁぁぁ···」

鳴子
「なに2人ともため息ついてるの」

サトコ
「それを言うなら鳴子もでしょ」

千葉
「佐々木のため息が一番大きかった気がするけど」

鳴子
「私のは恋の悩みだよ」
「この間。後藤教官のところに昴様が来てたらしいんだけど···」
「私が行ったときにはもう帰った後だったらしくてさ」

サトコ
「タイミング悪いね」

鳴子
「そうなの···そうなのよ!」
「Tシャツの彼にもあれきり会えないし」
「もういっそ颯馬教官に乗り換えちゃおうかな」

千葉
「!?」

鳴子
「えっ···なんで千葉くん、今ビクッてしたの?」

千葉
「い、いや···その···別に···」
「というか颯馬教官はやめておいたほうが···」

鳴子
「なんで?」

千葉
「そ、それは···」

鳴子
「なんで、千葉くん」

千葉
「あ、いや、その···」
「それより氷川!氷川こそ、なにかあったんじゃ···」

サトコ
「えっ、私は、その···」
「い、石神教官のことが気になって···」

2人
「ええっ」

千葉
「氷川、いつの間に···」

鳴子
「知らなかった。さとこって石神教官のことが好き···」

サトコ
「違っ!そういう意味じゃなくて!」
「ちょっと気になることを言われて···」

鳴子
「え···もしかして石神教官に告られたってこと?」

サトコ
「な···っ!?」

東雲
へぇ、初耳

(ぎゃっ!)

東雲
キミ、石神さんに乗り換えたんだ

(やっぱり東雲教官···?)

千葉
「乗り換えたってどういうことですか?」

鳴子
「まさかサトコ、他にも好きな人が···」

東雲
いるよね、氷川さん

サトコ
「!」

千葉
「えっ、誰?」

東雲
知りたい?

千葉
「はい、ぜひ!」

東雲
実はー

サトコ
「やめてください、教官!」

止めようとした私をするりとかわして、教官は私のスマホを手に取る。
さらに素早く操作して···

東雲
はい、この写真の人

千葉
「えっ、これって警護課の···」

鳴子
「藤咲瑞貴!?」

(な···っ)

サトコ
「返してください!」

(ていうか、いつの間に私のスマホの暗証番号を···)

鳴子
「そっか···私たち、お互い警護課の人が好きなんだね」

サトコ
「違···」

鳴子
「がんばろう、サトコ」

サトコ
「違うから。···いや、ちょっとは違わないけど···」
「ほんと、違うから!」

千葉
「じゃあ、やっぱり石神教官のことが···」

サトコ
「そっちも違うってば!」

東雲
ふーん···
本当に乗り換えたわけじゃないんだ

サトコ
「···っ」

東雲
まだ好きなんだ?

(な、なんでそんな顔···)

サトコ
「···失礼します!」

千葉
「えっ、おい···」

鳴子
「どうしたの、サトコ!」

【廊下】

(なんか、よくわからなくなってきた···)
(私の気持ちってどこまで教官にバレてるの?)
(『うすうす』?それとも『ガッツリ』?)
(だとしても、なんで教官はあんなことを···)

ドンッ!

サトコ
「あ、すみま···」

(ひっ!)

加賀
いいところにいたな、クズ

サトコ
「す、すみませんすみません···」

(よりによって機嫌悪そうな加賀教官に···)

加賀
詫びはいらねぇ
それより、てめぇの身体を貸せ

サトコ
「!?」

(ちょ···なんで引きずられて···っ)

サトコ
「誰か···!誰か助けてーっ!」

to be contineud



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