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教官たちの贈り物 加賀



【教官室】

卒業式を間近に控えた、ある日。

加賀
チッ

自分の舌打ちが、石頭サイボーグ野郎とふたりきりの教官室に響く。
目の前には、書類が山積みになっていた。

(書類仕事が一番面倒だな···)
(こんなもんを見てるくらいなら、現場に出た方がマシだ)

サトコ
「失礼します。加賀教官はいらっしゃいますか?」

教官室のドアから、サトコが顔を出す。
さっき言い付けてあった書類を持ってきたらしい。

サトコ
「これ、全部そろっているか確認をお願いします」

加賀
ああ

ようやく目を通し終えた書類を、石神のデスクに投げた。

加賀
この書類、本庁のあの女に渡しとけ

石神
あの女とは誰だ、自分で渡せ

加賀
用事がねぇ

石神
書類を渡すのが用事だろう
交流がない相手だからと言って、楽をしようとするな

そう言い捨てると、石神はサトコが入ってきたドアから教官室を出て行った。
ふたりきりになり、さっきよりも大きく舌打ちする。

加賀
あのクソ眼鏡、使えねぇ

サトコ
「またそんな呼び方して···ちゃんと名前で呼ばないとダメですよ」

加賀
眼鏡は眼鏡だろ。脳内カスタードのくせしやがって

サトコ
「いや、プリンが好きっていうだけじゃないですか」
「そういえば加賀さんに初めて会ったとき、 “女” って呼ばれてましたよね、私」

加賀
あ?

サトコ
「今は、ちゃんと名前で呼んでくれますけど」
「あと、“駄犬” とか···」

複雑そうな笑みを浮かべて、サトコがこぼす。

(··· “女” か)

確かに、そんなこともあった。
思い出すのは、初めてサトコにあった日のことーー

加賀
その女に渡しておけ

石神
これは教官用の資料だ

加賀
そうかよ

石神から書類を受け取り、当時まだ “女” 程度の認識だったサトコに投げつける。

加賀
女、中は見るなよ

(···興味のねぇ女の名前なんざ、いちいち覚えていられねぇ)
(利用価値がありゃ、別だが···)

あの頃のサトコは、自分にとってどんな存在でもなかった。
強いて言うなら、その辺に転がっている石ころと同じだ。

(それが、なんでこうなっちまったんだかな···)

内心苦笑する俺に、サトコが笑う。

サトコ
「ようやく “女” 呼びじゃなくなったと思ったら、今度は “奴隷” だし」
「本当に、あのときはどうしようかと」

加賀
そのわりには嬉しそうじゃねぇか

サトコ
「えっ」

加賀
 “奴隷” がそんなに気に入ったか

サトコ
「いや!そんなことはないですよ!」
「でも今思えば、あれはあれで特別扱いだったなって···」

加賀
テメェはどこまでマゾだ

サトコ
「べ、別に喜んでないですから!」

加賀
どうだかな

サトコ
「もう···!」

怒っているのか照れているのか、サトコは頬を膨らませて俺を睨んでいる。

(それで反抗してるつもりか)
(そういう顔が男を煽るってことは、何度も教えたつもりだが)

石神のデスクからさっきの書類を取り、サトコに押し付ける。

サトコ
「なんですか?」

加賀
本庁の渡辺って女に渡しとけ

サトコ
「だ、誰ですかそれ!情報が少なすぎますよ!」
「本庁に渡辺さんが一体何人いると···」

加賀
自力で探せ

サトコ
「そんな無茶な···!」

加賀
喚くな

軽く触れ合うだけのキスをしてやると、サトコは一瞬で黙った。
真っ赤になり、書類を落としそうになっている。

加賀
テメェを黙らすには、これが一番だな

サトコ
「ハッ···こ、こんなところで、ダメですよ···!」
「もうすぐ卒業なのに、その前に、こここ、こんな···」

加賀
黙れ

サトコ
「だって···いくら私が、加賀さんの奴隷だと名高いからと言って!」

(テメェが心配しなくても、他のヤツらだって察しはついてる)
(だいたい、テメェはもう、 “俺の女” だろうが)

奴隷でも駄犬でも、ましてやただの “女” でもない。
業務外で俺に名前を覚えさせた、数少ない貴重な存在だ。

(···この時間も、あと少しか)

卒業までそう時間もないことを思い、柄にもなくそう考える。
ギャーギャー喚くサトコに、残り少なくなった平和な時間を噛み締めた。

Happy End



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