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教官たちの贈り物 東雲



それは、卒業式が無事に終わって数週間経ったある日のこと。

東雲
はぁぁ···

(···サイアク。汗くさ)

【廊下】

(あり得ないんだけど。武道訓練の臨時代行とか)

しかも、今回は「補助教官代行」···
つまり「アシスタント役」だ。

(手技も足技も、さんざんかけられたし)
(寝技で、髪の毛ぐちゃぐちゃだし)
(こうなったら、さっさとシャワーを浴びて···)

東雲
!!

あり得ない落し物が目に入って、思わず足を止めてしまった。
オレの行き先を遮るように廊下に落ちていたもの、それは···

(下着···しかも「紫」?)
(なに、この既視感···)

そう、この光景には見覚えがあった。
今から、約2年前。
うちの彼女が、まだ新人訓練生だったころ···

【寮 廊下】

(···なに、この落とし物)
(明らかに女性モノの下着なんだけど)

東雲
該当者2名
鳴子ちゃん···もしくは『ウラグチ』···
···ん?

(向こうにいるのって···)

東雲
ああ、ウラグチさん、いいところに

サトコ
「!」

東雲
この下着、すぐそこに落ちてたんだけど
キミか鳴子ちゃんのじゃない?

サトコ
「そ、それ···」

(ああ、やっぱり)

東雲
へぇ···これ、キミのなんだ
紫なんて、顔に似合わず派手だね

サトコ
「···っ」
「とにかくそれ、早く返してください」

東雲
はい、どーぞ

(で、あのときは、さっさと返したわけだけど···)

約2年前と「今」では、オレと彼女の関係性が違いすぎている。
それは、つまり「紫の下着」の意味合いも変わっているというわけで。

(ケース1「他人の下着だった場合」···)
(拾って、事務室に届ける。以上)

となると、問題は「ケース2『うちの彼女の下着だった場合』」だ。

(「ひとまず拾う」···「アリ」と言えば「アリ」···)
(じゃあ「拾った下着を事務室に届ける」···?)

東雲
絶対『ナシ』!

(ないでしょ、さすがに)
(彼女に下着を、第三者に見せるとか)

東雲
···となると『拾う』も絶対『アリ』?

(じゃないと、そのうちオレ以外のヤツに見られるし)
(場合によっては、触られることも···)

東雲
···っ

(···待て。ここは冷静に)
(うちの彼女は、すでに「卒業生」···)
(だとしたら、廊下で下着を落とす確率は極めて低いはず)

東雲
···いや

(もっと冷静に)
(たまに常識からフェイドアウトするのが、あの子の特徴だ)

改めて、オレは目の前の「紫の下着」を凝視する。
この上で、先日この手で触れた「紫の下着」の記憶と重ねようと試みた。

(まずは「色」···ほぼ同じ気がする···)
(「デザイン」···似ているような、似ていないような···)
(「装飾」···)

東雲
······

(···いや、さすがにそこまでは···)
(下着を覚えてる余裕なんて、全然なかったし···)
(ああ、でも指先にレースが触れた気が···)

東雲
···っ

(ダメだ、それ以上は思い出すな!)
(ここで思い出したら、絶対にマズい···)

頭に浮かびかけた光景を無理やり振り払って、オレは下着に手を伸ばした。

(結論、「これは他人の下着」!)
(あの子は卒業したし、女子訓練生は他にもいる)
(というわけで、さっさと拾って事務室へ···)

黒澤
5分29秒!『拾う派』最長記録更新~!

(·········は?)

黒澤
いやぁ、見てましたよ~、歩さん
この下着を拾うかどうか、めっちゃ悩んでましたね!
で、悩んだ末に、歩さんは『拾う派』だった···と

東雲
······

黒澤
それにしても興味深い展開でしたね
悩む時間だけなら、後藤さんのほうが長かったんですけど···
最終的に、後藤さんは『スルー派』、歩さんは『拾う派』なわけで
その決断の違いには興味あるなー

東雲
······

黒澤
あ、ちなみに『拾う派』は今のところ、室長と颯馬さんと、歩さ···

東雲
いい度胸だね、透
オレを引っかけるなんて

黒澤
そんな~、引っかけてなんかいないですよ~
これは、あくまで『透の春休み☆自由研究』···

東雲
うるさい、黙れ

ギュウッ!

黒澤
あっ···久しぶりにダメなとこ···っ

ギュウゥゥゥッ!

黒澤
ダメです、そこは···
あ···ああ···っ

悶える透を尻目に、オレは密かに誓った。
「次の夜」は、もう少し心に余裕を持とう、と。

Happy End



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