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教官たちの贈り物 難波



【警視庁】

今日も仕事を終え、喫煙所で一服。

難波
ふぅ···

至福の時間を満喫していると、廊下の奥から若い女性刑事が歩いてきた。
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いているその姿は、いかにも初々しい。

女性刑事
「あ、お疲れ様です···」

難波
お疲れさん
どうした、道にでも迷ったか?

女性刑事
「はい···い、いえ、大丈夫です」

女性刑事は相変わらずキョロキョロしながら行ってしまう。
その姿に、俺は思わず苦笑をこぼした。

(若いねぇ···というより、まだまだ子どもって感じだな)
(この歳になると、新入りの刑事ってのはもう、息子とか娘みたいな気分だよな···)

妙に老成した気分になりながら、俺はしみじみとタバコを揉み消した。

(でも新人刑事って言ったって、実はサトコと歳はたいして変わらねぇんだよな)
(だけど、あいつと初めて会ったときは···)

サトコ
「公安学校の氷川サトコです。よろしくお願いします」

難波
ああ、学校のか···

あのときの俺はなぜか、サトコの真っ直ぐな瞳から目が離せなかった。
10歳以上も歳の離れた相手にこんな風になったのは、
後にも先にもあれが初めてだ。

難波
こんな若い子が入ったんなら、俺もたまには顔出すかなぁ

後藤
···はい。みんな待ってます

難波
またまた。嬉しいこと言ってくれるね
じゃあ、はい、これ


(あの時)
(突然パチンコ景品のお菓子を取り出した俺を、あいつは驚いたように見つめてたっけな···)
(まるであれだ···そう、豆鉄砲食らったハトみてぇな顔だった)

難波
ははっ

思わず一人で笑ってしまい、俺は顔をしかめて口元を手で覆った。
そのまま、もっともらしい顔で新しいタバコに火を点ける。

(あんな風だったサトコが、いつの間にか···)

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【室長室】

サトコ
「···私じゃ、ダメですか?」
「私じゃ、室長の支えになれませんか?」
「私は一人の女として、室長のことが好きなんです」
「誰よりも一番近くにいて、室長の気持ちに寄り添いたいって思っています」
「室長のためなら、どんなことでもしたいんです」



(一丁前にあんなことを言うようになるなんてな···)

初めて会ったときの真っ直ぐな瞳はそのままに、想いまで真っ直ぐにぶつけてきたサトコ。
その時の情景は、今でもまぶたの裏に焼き付いている。

(若さ故って笑っちまえばそれまでだったが···)

あの時の俺は、どうにも笑って済ませられるような心境ではなかった。

(本当は嬉しかったし、眩しくてたまらなかった···)
(でもそんな風に思ったのは、相手がサトコだったからだ)

気付かぬうちに、サトコは俺の中で特別な存在になってしまっていた。

(さっきの新人刑事とサトコと、何が違うのかなんて俺にもわからねぇ。だが···)
(間違いなくひよっこは俺を変えた。公安刑事としても、一人の男としても)

俺は、もう指輪の跡すら無くなった左手をチラリと見た。

(いろいろ変わったよな、あの時から···)

難波
あちっ

感慨にふけっていたら、いつの間にかタバコの灰が指先に届くほどに伸びていた。

難波
いけねぇ、いけねぇ···

サトコとの出会いから思い出を噛みしめるように、
ギュッとタバコを灰皿に押し付ける。

難波
さてと、この後は···

(公安学校にでも顔出して帰るか···)

ふとそんなことを思った自分に苦笑する。

(いつの間にか『屋台にでも寄って帰るか』じゃなくなったあたり、俺もまだ初々しいねぇ···)

ずっと、この歳になって自分が変わるのは恥ずかしいと思っていた。
でもサトコと出会ってからの俺は違う。
サトコに変えられるのなら、それこそ本望。
そう思えることが、一番の幸せだ。

Happy End



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