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ときめきノベル大賞 プロローグ



【教官室】

加賀
上等じゃねぇか。その口、一生きけなくしてやるよ

石神
フッ、望むところだ
お前との会話ほど、人生において生産性の低いものはないからな

加賀
テメェ···

サトコ
「あ、あの···!」

必死にふたりをなだめるけど、こうなってしまったらもう私の声など耳に入るはずがない。
誰もいない教官室で、班長たちは至近距離で睨み合い、一触即発の雰囲気だ。

(最初は、穏やか···と言えなくもないけど、普通に会話していたのに)
(あの議題が、まさかこんな喧嘩に発展しちゃうなんて···!)



【廊下】

ある平日、講義が終わった後、後藤教官に呼び止められた。

後藤
氷川、今週末の休み、時間あるか?

サトコ
「え?」

後藤
実は、班長ふたりで今後の課外実習について検討することになった
お前に、書記を頼みたいらしい

サトコ
「書記ですか···それはいいんですけど」

(班長ふたりって···石神教官と加賀教官···?)
(それに、休みの日に会議って···)

サトコ
「あの···まさか、石神教官と加賀教官がふたりきりで···ですか?」

後藤
そのまさかだ

サトコ
「だっ、大丈夫なんでしょうか···!?」

後藤
···お前の言いたいことはよくわかる
だが、ふたりとも大人だ。···大丈夫だろ

サトコ
「めちゃくちゃ不安なんですけど···」
「何か起きたら、私はどうすれば」

後藤
···逃げろ

サトコ
「······!」

後藤
というのは冗談だ

(いや···今、後藤教官の目、ちょっと本気だったよね···!?)
(あのふたりが会議なんて恐ろしい···長引きそう···そして、荒れそう···)

教官室でたまに話しているのを見かけるけど、とにかく何かと意見が対立している。
お互いにお互いの主張を認めたくないらしく、最終的にはいつも言い合いで終わっていた。

(会議の難航は必死···何か対策を練らないと)
(そうだ!差し入れを持って行って、危なくなったらそれを出そう)

サトコ
「甘いものを食べてブレイクタイムにすれば、きっと落ち着くはず···」
「石神教官にはラルムのプリン、加賀教官には···大福ですよね」

後藤
···苦労かけるな

サトコ
「い、いえ···これも仕事ですから」

後藤教官には笑顔を浮かべたけど、内心、不安でいっぱいの私だった···

【教官室】

そして週末、今後の訓練生の課外演習の方針と内容について話し合いが始まった。
教官室には私、そして石神教官と加賀教官の3人しかいない。

石神
今の2年生には、もう少し高度なことをやらせてもいいだろう
実際、訓練生たちも似たような演習ばかりで中だるみしている

加賀
同感だな。今の訓練じゃ話にならねぇ
あれは、実践で使えるようなもんじゃねぇからな

(ん?意外と話が合ってる···?そんなに心配することもなかったかな)

ホッと胸を撫で下ろしつつ、書記の仕事を務める。
でも、平和だったのは最初だけで、次第に雲行きが怪しくなってきた。

加賀
その程度で、どこが “高度” だ
そんなヌルい訓練をさせるつもりはねぇ

石神
お前はいつもそうだ。なんでも力だけで押し通そうとする

加賀
当然だろ。最終的にものを言うのは力だ
テメェはそんなんだから、ガキどもに舐められるんだ

石神
そういう話をしているのではない
情報分析や戦略立案をしっかり行わせて、先手を取る訓練をさせるべきだと言っているんだ

加賀
先手取れなかったらどうする?
そういう不測の事態が起きるのが、現場ってやつだ
そういうときに瞬時の判断ができねぇ奴はいらねぇ

(お、恐れていたことが···)

手を止めて、必死にふたりの間に割って入る。

サトコ
「あ、あの···両方まんべんなく、というのは難しいでしょうか」
「たとえば、ふたつの班に分かれて···」

加賀
どっちに重点を置くかって話だろ

石神
当然両方やらなければならないが、どちらに重きを置くかで方針が違ってくる

ふたりに同じようなことを言われて、すごすごと引き下がった。

石神
お前がやりたいのは、現場での動き方だろう
俺が必要だと言っているのは···

加賀
いかにフォローしながら戦局を有利にす進めるか、だろ。昔から変わらねぇ
テメェは、矢面に立たねぇような捜査が得意だからな

石神
お前は、猪突猛進すぎる
こういうことは、事前にあらゆる可能性を想定して動くものだ

加賀
時間がねぇときはどうする

石神
現状でも問題なく動けているだろう。お前の班こそ、それが得意なはずだ
どんなときでも確実な情報を手に入れられる部下に、感謝するんだな

加賀
テメェこそ、矢面に立ってくれる部下がいて幸せじゃねぇか

(部下って、東雲教官や後藤教官のことかな···相手のことは褒めないのに、その部下は褒める···)
(それに教官たちって、意外にちゃんと相手のことわかってるみたい···)

気が合いそうなのに、なぜか合わない複雑な関係らしい。
でもお互いに間違ったことは言ってないので、会議は平行線をたどった。

加賀
テメェじゃ話にならねぇな

石神
だから、なぜそんなに頭が固いんだ。もう少し相手の理解に努めろ

加賀
テメェなんざ理解しても、百害あって一利なしだ

バチバチと見えない火花が散り、もはや話し合いどころではない。

(ダメだ···こうなる予感はしてたけど、やっぱり恐れていたことが···)
(···あ!こういうときにこそ、アレが役に立つかも!)

急いで、小さなクーラーボックスを教官たちの前に置いた。

サトコ
「お、おふたりとも···そろそろ休憩しませんか!?」
「疲れたときには、甘いものですよ!」

クーラーボックスから、冷えたプリンと大福を取り出す。
一瞬、ふたりの間の空気が和らいだような気がした。

(よ、よかった···!いったん冷静になってくれれば、きっとまた···)

加賀
バカのひとつ覚えみてぇに、またプリンか
噛む必要もねぇもん食いやがって、ガキかジジイかよ

石神
ふん。粉にまみれた餅を素手でつかんで食べるなど···
ああ、仕方ないな。貴様は野蛮人だったか

加賀
何···?

サトコ
「······!」

(しまった···2ラウンド目が始まってしまった!)
(このふたりの前で、お互いの好物を見せるのは火に油だ···!うっかりしてた···!)

加賀
そんなにプリンが好きなら、幼稚園からやり直して来い
給食でも出るだろ、プリン

石神
お前こそ、刑事を辞めて和菓子職人にでもなったらどうだ?
わびさびも理解できない人間に、繊細な和菓子は無理だろうがな

加賀
テメェのめでてぇ甘い脳みそ、プリンまみれにしてやろうか

石神
貴様の固い頭には、柔らかい大福じゃなくて煎餅がお似合いだな

サトコ
「お、おふたりとも···!」

(ど、どうしよう···!?まさかこんなになるなんて···!)

···というわけで、今に至る。

加賀
上等じゃねぇか。その口、一生きけなくしてやるよ

石神
フッ、望むところだ
お前との会話ほど、人生において生産性の低いものはないからな

加賀
テメェ···

サトコ
「あ、あの···!」

いくら止めても、ふたりの怒りは収まらない。
苛立ちが頂点に達したのか、ふたりは自分の好物をつかみ、相手の口にねじ込み始めた!

サトコ
「ちょ、ちょっ···落ち着いてください!」

加賀
テメェにゃもったいねぇが、仕方ねぇから食わせてやる

石神
お前にプリンのよさはわからないだろうが、ひと口だけなら食べさせてやろう

サトコ
「ぼ、暴力はダメです!冷静になってください···!」
「プリンも大福も、どっちも美味しいじゃないですか!」
「みんな違ってみんないい、ですよ!」

間に立って止めようとする私を、ふたりがじろりとにらむ。

加賀
さっきから、使えもしねぇ折衷案ばっかり出しやがって

サトコ
「へ···?」

石神
お前は、どっちの意見が正しいと思うんだ?

サトコ
「ど、どっちの···?」

石神
プリンか!

加賀
大福か!

サトコ
「えええ!?」

<選択してください>

大福

プリン

to be continued



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