【後藤マンション】
(腹減った···)
深夜の帰宅となり、ふらふらとキッチンへ直行した。
(そういえば、昼メシ食い損ねたままだった···)
レンジで温めればすぐに食べられるご飯のパックに手を伸ばす。
だが、寸前でその手を冷蔵庫の方へ方向転換させた。
(もはやレンジで温めることすら面倒だ···)
空腹より面倒臭さが勝ってしまい、夕食はエナジーゼリーで済ませることにした。
(何より、チンした飯だけじゃ味気ない)
買いだめしているのはご飯のパックだけで、おかずになるものなど何もない。
(自分で調理するのは自殺行為だしな···)
(その点、エナジーゼリーは手軽で有難い。食わないよりはマシだろう)
そんな理屈で自分を納得させ、冷蔵庫を開けた。
後藤
「あ···」
「これがあったか」
呟くと同時に、自然と頬が緩んだ。
目に留まったプラスチック容器を手に取り、中から小さな玉状のものをひとつ取り出す。
一見たこ焼きのようなそれは、先日サトコが作ってくれた味噌玉だ。
サトコ
「お味噌汁一回分になっているので、その味噌汁玉をお椀に入れて熱湯を注いでください」
「すぐにひとり分のお味噌汁ができますよ」
後藤
「アンタ···すごいな。プロの料理人みたいだ」
サトコ
「ふふ、ネットでレシピを見て作っただけですよ」
優しく微笑んだサトコの顔が浮かび、緩んだ頬がさらに緩みそうになる。
あれ以来、彼女はこの味噌玉をよく作ってくれている。
(なくなりそうになると、いつの間にか補充されていて···)
(いつも、不摂生な生活をしている俺の身体を心配してくれている)
彼女と出会うまでは、食事に気を遣うことなど皆無だった。
(とりあえず腹が満たせれればそれでいいと思ってたからな···)
ちらりと冷蔵庫の中のエナジーゼリーに目をやる。
(ふっ、それですますのは、サトコの気持ちを踏みにじる事になるな···)
苦笑いを浮かべると、そのまま冷蔵庫の扉を閉めた。
手にはもちろん、よく冷えたゼリーではなく、サトコお手製の味噌玉を持って。
後藤
「これがあれば温めたご飯もご馳走になる」
満足げに独り言を呟くと、俺は重い腰を上げ、やかんに水を汲んで火にかける。
お湯が沸く間に、ご飯のパックをレンジにセットし、味噌玉をお椀に落とす。
そこへ湧いたばかりの熱湯を注ぐ。
サトコの笑顔を思い浮かべながら。
後藤
「···いい香りだ」
柔らかな味噌汁の香りが漂う中、レンジがチン!と軽やかな音を立てた。
Happy End