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勘違いBABY 加賀3話

【加賀マンション】

サトコ
「私、妊娠なんてしてません···!」

加賀さんの誤解を解こうと、必死に訴える。
でも加賀さんは、特に驚いた様子もなかった。

加賀
なに血迷ったこと言ってんだ、クズが

サトコ
「え?」

加賀
んなことはわかってる

(わかってる···?じゃあ、この料理は?)
(どう見ても、妊婦さんを労わるような優しい手料理の数々···)

加賀
冷める前にさっさと食え

まだ温かい料理を勧められて、空腹もあり、ありがたくいただく。
ふーっと息を吹きかけて冷ます私を眺めながら、加賀さんが尋ねてきた。

加賀
で?

サトコ
「はい?」

加賀
不調の原因はわかったのか

サトコ
「あ···はい」
「検査の結果、特に異状なしで···」

加賀
はぁ···心配ばっかかけやがって

(もしかして···加賀さん、全部知ってた?)
(だから強引に、ここまで連れてきてくれたんだ···)

加賀さんに妊娠してると思われているかも、と勘違いしたことが、妙に恥ずかしい。
食欲のある私に安心したのか、加賀さんが手を伸ばして頬に触れた。

加賀
顔色も戻ってきたな
で、なんでこんなことになった

サトコ
「え···」

加賀
最近は、体調を崩すほどの訓練もなかっただろ

サトコ
「そ、それはですね···」

(結局白状しなきゃいけないハメになるのか···)
(それなら、最初から正直に言っておけばよかった···)

卒業アルバムの写真のために、ダイエットを始めたこと、
それが原因で体調を崩したことを離すと、加賀さんの呆れたような溜息が聞こえた。

加賀
たかが写真のために、くだらねぇ

サトコ
「ごもっともです···」

加賀
倍に写るわけねぇだろうが

サトコ
「でも、ちょっと太って見えるのは事実なんですよ」

加賀
あのガキの言うことなんざ、まともに聞くな
それで体調崩しちゃ、世話ねぇな

サトコ
「そうなんですけど···」

食事の手を止めて、つい “あのとき” のことを思い出してしまう。

サトコ
「私も、写真写りだけであんなに必死にダイエットしたわけじゃないんです」
「そもそも、加賀さんの言葉で···」

加賀
あ?

サトコ
「加賀さん、寝てたか覚えてないかもしれませんけど」
「この前···わ、私のおなかを揉んで、『柔らかい』って」

加賀
······

怪訝そうな表情のまま、加賀さんが私を見つめる。
いたたまれず、思わずうつむいた。

サトコ
「気にしすぎなのは、わかってるんですけど」
「好きな人にそう言われたら、おなかのお肉をどうにかしたいのが女心でしてね···」

加賀
······

(うう···せめて何か言ってほしい!)
(この沈黙、つらい···いつもならすかさず罵られるのに!)

加賀
···悪かった

サトコ
「······」
「···え!?」

加賀
覚えてねぇが···悪いことしたな

<選択してください>

A: 熱でもあるの?

サトコ
「どどど、どうしたんですか!?まさか、加賀さんのほうが熱でも···」

加賀
覚えてなくても、お前を傷つけたことは事実だろうが
なら、謝るのが道理だ

サトコ
「そ、そ、そうですけど···」

(でも加賀さんが私に謝るなんて、天変地異の前触れ···!?)

B: 気にしないで

サトコ
「き、気にしないでください。加賀さんが寝惚けてたのも、わかってますから」

平静を保ってそう伝えたけど、加賀さんは納得していないらしい。

(普段なら『くだらねぇこと気にしやがって』って言うのに···いったい何が)

サトコ
「あの···私ひとりで、空回ってただけなので」

加賀
確かに空回りだな

サトコ
「うぐっ···」

加賀
テメェの取り柄は、その柔らかさだろうが

サトコ
「他の取り柄も欲しい···」

C: 罵ってください

サトコ
「や、やめてください、謝るなんて···いつもみたいに罵ってください!」

加賀
······

サトコ
「謝るなんて加賀さんらしくないですよ···!」
「加賀さんはどんなときでも、私を蔑んだり蹴ったりアイアンクローしたり脅したり···」
「それが、私の好きな加賀さんです!」

加賀
テメェは正真正銘のマゾだな

サトコ
「だって、いつもと違うとなんだか恐ろしくて」

加賀
とにかく、今後は俺の許可なく痩せようとすんじゃねぇ
今の抱き心地をなくしたら、ただじゃおかねぇぞ

サトコ
「ダイエットも自由にできない···」
「じゃあ、この体型を維持するためにも、せめて太らないように頑張ります」

加賀
···まあ、それでいい

少し不満げではあったけど、加賀さんがうなずく。

(もしかして、もうちょっとふくよかなほうがお好み···?)
(でもさすがに、それだけは妥協できない···)

加賀
それと、もうひとつ

サトコ
「まだ何か···?」

加賀
さっきの話だ
···もし本当にガキができたとしても、今回みたいに隠すなよ

思いがけない言葉に、息を呑む。

サトコ
「え···」

加賀
そういうのは、俺たちの問題だ
テメェひとりで頭を悩ませても、なんの解決にもならねぇ

サトコ
「そ、それはそうですけど」

加賀
黙ってられんのも癪に障る
テメェと、いい加減な付き合いをしてるつもりはねぇからな

サトコ
「······!」

(それって···私との将来を考えてくれてるってことだよね)
(加賀さんに、そんなふうに言ってもらえるなんて···)

サトコ
「加賀さんは、きっといいパパになりますね···」

加賀
ガキだろうが、関係なく鍛えてやる

サトコ
「でも、もし花ちゃんみたいな女の子が生まれたらどうするんですか?」

加賀
······

(悩んでる···加賀さんと言えども、やっぱり花ちゃんには弱いのか···)
(でも、嬉しい···さっきの言葉、本当に嬉しい···)

加賀
くだらねぇこと言ってねぇで、もう寝ろ

サトコ
「ふふ···そうですね」

食べ終えた食器を持って、加賀さんが寝室を出ていく。
その背中を、幸せな気持ちで眺めていた。

加賀
テメェと、いい加減な付き合いをしてるつもりはねぇからな

(あの言葉だけで、疲れとか全部吹き飛んじゃった···)
(加賀さんがそう思ってくれるなら、もう絶対隠したりしない)

加賀さんが戻ってくるまで、枕に顔を押し付けて喜びをかみしめていた。

加賀さんが持ってきてくれた部屋着に着替えて、一緒にベッドに潜り込む。
私の身体を労わるように、加賀さんは布団の中で優しく抱きしめてくれた。

サトコ
「触っちゃダメですよ」

加賀
あ?

サトコ
「特に、おなかはダメです」

加賀
···チッ

いつもは恐ろしい加賀さんの舌打ちも、今日はなんだか嬉しい。
私の頭を抱え込むようにして、加賀さんが紙に顔をうずめた。

加賀
体調不良野郎は黙ってろ

サトコ
「もう大丈夫ですから」

加賀
テメェの “大丈夫” は信用ならねぇ

腕が離れて、加賀さんが両手で私の顔を包み込む。
顔を近付き、瞳の中を覗き込まれるように唇が触れ合った。

サトコ
「ダメ、です」

加賀
アホか。期待したツラしやがって

サトコ
「期待なんて···」

加賀
してねぇのか?

サトコ
「んっ」

いつもなら、とっくに深いキスに変わっている頃だ。
でも今日の加賀さんは、いつまで経っても甘く食むようなキスを繰り返すばかりだ。

加賀
キスくらいさせろ

サトコ
「加賀さん···」

何度も角度を変えて戻ってくる唇が気持ち良くて、うっとりと目を閉じる。
吐息をこぼしても、加賀さんはそれ以上、綿Sの身体に触れようとしない。

(すごく大切にされてる···それが伝わってくる)
(いつも言葉も態度も乱暴だけど···加賀さんはちゃんと、私を大事に想ってくれてる)

加賀
冷やすなよ

サトコ
「加賀さんが抱きしめてくれてるから、あったかいです」

加賀
ならいい
···やっぱ、いつもより体温高ぇな

サトコ
「そうですか?自分じゃわからない···」

私の身体を心配してか、加賀さんはこちらに体重をかけないようにしてくれている。
私を抱き寄せて、自分が私の下になるようにしてくれた。

加賀
···クズは何度言ってもわからねぇらしいが
テメェの取り柄は、この抱き心地だ
太っただの痩せただの、いちいち気にしなくていい

サトコ
「じゃあ、痩せてもいいんですか?」

加賀
どうなってもいいなら好きにしろ

サトコ
「···捨て犬になりたくないので、痩せないようにします」

くしゃっと、加賀さんが私の髪を撫でた。
いつもはもっと乱暴なのに、今日の手は包み込むような優しさにあふれている。

加賀
テメェは、今のままでいい

サトコ
「それは、体型の話ですか?」

加賀
さあな

加賀さんの胸に顔を埋め、目を閉じた。

加賀
さっさと寝ろ

サトコ
「はい···今日はいい夢が見られそうです」

加賀
···そうかよ

ぶっきらぼうな声が、耳をくすぐる。
幸福感に包まれて、眠りについた。

【教官室】

翌週の講義後、今日提出のノートを全員分集めて教官室を訪れた。

サトコ
「失礼します。加賀教官はいらっしゃいますか?」

桂木
「ああ、氷川さん」

ドアを開けた瞬間、目の前にいた桂木さんにぶつかりそうになり、慌てて姿勢を正す。

サトコ
「桂木さん、お疲れさまです。この間はお話の途中で失礼しました」

桂木
「いや、まさかあんなところで合うとは」
「ん···?氷川さん、そんな重いもの持っちゃダメですよ」

サトコ
「え?」

私の手からノートの束を持っていくと、桂木さんが近くのデスクに置いてくれる。

サトコ
「ありがとうございます···あの」

桂木
「今が一番大事な時なんですから、いくら仕事でも無茶はしないほうがいい」

サトコ
「一番大事な時···?」

(卒業を控えてるから、ってことかな···?でも別に、ノートを運ぶのはいつものことなのに)

教官室に、加賀さんと東雲教官がいるのが見える。
ふたりとも桂木さんの態度に怪訝そうな顔をしながらも、口を出そうとしない。

サトコ
「えっと···桂木さん、もしかして室長にご用ですか?」

桂木
「ああ、でももうそっちの用事は済みました」
「こっちまで来たのは、氷川さんにこれを渡そうと思って」

桂木さんが、デスクに置いてあった花束を私に差し出した。

桂木
「会えないようなら、ここに置いて行こうかと思ったんですが···」
「ウチの課からのお祝いです。よかったら」

サトコ
「お祝い···?」

不思議に思いながらも、花束を受け取る。
ピンクを基調としたかわいらしい花に、心が和んだ。

サトコ
「ありがとうございます。でも、お祝いって···」

桂木
「花の香りで、つわりにならないといいんですが」

サトコ
「···つわり?」

桂木
「この間は急なことで、お祝いも言わずに申し訳ない」
「もう、おなかも出てくる頃合いだったんですね」

サトコ
「···はい?」

加賀
······

東雲
······

桂木
「それでは、失礼します。あまり無理しないようにしてくださいね」

私に優しく声をかけて、桂木さんが教官室を出ていく。
その瞬間、加賀さんがくるりと椅子を反転させて私に背を向けた。

(桂木さんまさか、私が妊娠してるって勘違いしてる!?)

サトコ
「あの···桂木さん、待ってください!違うんです!」
「···ん?おなかが出てくる頃合い!?」

東雲
ぷっ

加賀
······

東雲教官は飲んでいたコーヒーを吹き出し、加賀さんは小刻みに震わせている。

サトコ
「ちょっ···おふたりとも!」

<選択してください>

A: 笑いごとじゃない

サトコ
「笑いごとじゃないですよ!とんでもない誤解されたじゃないですか···!」

東雲
しょうがないんじゃない?だって、キミのおなかが···

加賀
······

サトコ
「もう!そんなに出てないですよ、たぶん···!」

B: 誰のせいだと

サトコ
「い、いったい誰のせいだと···!」

東雲
別にオレたちは関係ないですよね?

加賀
···そうだな

サトコ
「いや、そもそも東雲教官が、写真は倍に広がって写るって言うから···!」

C: 誤解解いてください

サトコ
「か、桂木さんの誤解を解いてください!」

東雲
別にいいんじゃない?誤解されたままでも
困ることなんてないでしょ。ねえ、兵吾さん

加賀
······

サトコ
「妊娠したなんて噂が広まったら、エライ騒ぎになりますよ···!」

東雲
あー面白かった。久しぶりにこんなに笑った

サトコ
「ひどすぎる···」

加賀
······

サトコ
「加賀教官!笑うならはっきり笑ってください!」

(まさか東雲教官じゃなくて、桂木さんに誤解されるなんて···)
(···ん?ってことは、本庁は私が妊娠したことになってる···?)

サトコ
「···まずい!」

東雲
何が

サトコ
「まずいですよ···!この流れだと、もうそろそろ来ますよ、あの人が!」

黒澤
サトコさーん!『オメデタ』って本当ですか~?

サトコ
「やっぱり···!」

東雲
なるほどね

加賀
······

必死に黒澤さんの誤解を解いているのを、加賀さんが呆れたように眺めている。
色々な勘違いに振り回された、ここ数日の出来事だった。

Happy End

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